S−P表分析                               戻る

 教育の充実には綿密な実践と緻密な分析が必要であることは誰でもが認識しているとこ
ろだろう。分析は講義時にも当然実行され、個々の反応を見ながら軌道修正される。

 しかし、そのような分析は、表に現れる反応だけを捕捉し、裏に隠れがちな消極的な反応
を見過ごしがちである。また、全体の中の個々の状況も詳しくは把握できない。

 全体の傾向を客観的に把握するための小テストは大切な分析のための手段と言える。

 以前は、小テストの得点の善し悪しだけで授業の分析をしてきた。それぞれの問題に対し
て、個々の解答状況や作問の善し悪しなどを顧みることは時間の関係もあって、なかなか
難しいことであった。

 最近、Pentel から「採点マジック」というソフトが発売された。(「airpen」付きで 19,999円)

 何でも、airpen を使って採点(○×△)すると、その採点結果がパソコンの表に自動入力
されるらしい。したがって、今までは採点した後、得点の合計や分析のための作業が別途、
必要であったが、このソフトを使うと、採点終了と同時に得点集計、正答率などが自動表示
され、分析も思いのままに出来るという。

 分析の一つの方法として、S-P表分析法(Student-Problem Score Table Analysis)
というものがあることを最近知った。

 1974年に佐藤隆博さんが、アメリカの学会で発表したもので、被験者個々の正答状況
をまとめた「S−P表」をもとに、学習状況や作問の善し悪し、指導の効果などを分析する
方法である。

 「S−P表」とは、

  縦軸−「Student Score(得点)」  、 横軸−「Problem Score(正答数)」

の表を、あるルールのもとに並べ替えて出来る表のことを言うらしい。

 「S−P表」では、得点状況からは把握できない被験者の個々の問題における成就度や
苦手意識などを把握することができ、きめ細かな個別指導の指針および指導の改善など
に役立つ。つまり、採点結果の分析から、注意を要する生徒を見つけ出すことができるわ
けである。

 このページでは、「S−P表」の作成方法や分析方法について、まとめようと思う。

 いま、5人の被験者 A、B、C、D、E が、問題数 5 題のテストを受験し、下表のような
採点の結果になったものとする。 ただし、○は、「1」とし、×は、「0」とする。

○×式以外の問題では、個々の問題の平均点を基準に、上回れば「1」、下回れば「0」とする方法もある。

     

 まず、得点順に並べかえ、次に正答数順に並べ替える。

ただし、同得点または同正答数がある場合は、次の並べかえのルールに従うものとする。

(ルール) 「1」になっている問題の正答数(得点)の合計の多い順に並べる

      ※ 「0」になっている問題の正答数(得点)の合計の少ない順に並べてもよい。

例 Aさん、Eさんはともに得点「3」で同点であるが、「1」になっている問題の正答数は

    Aさんは、 5+1+2=8  、 Eさんは、 3+5+2=10

 なので、Eさんの方が、Aさんより上位に並ぶことになる。

 このルールのもとに作成したものが、下表の「S−P表」である。

     

 この「S−P表」に対して、「S曲線」(赤い線)と「P曲線」(青い線)を引いたものが下表で
ある。

 ここで、S曲線の「S」は、Student の「S」で、P曲線の「P」は、Problem の「P」である。

     

「S曲線」は、表の左側から得点分だけ数えて区切り線を入れ、それらを結んで得られる。

「P曲線」は、表の上側から正答数分だけ数えて区切り線を入れ、それらを結んで得られる。

 2つの「S曲線」、「P曲線」の引き方から、次のような性質を持つことは明らかだろう。

 ○ 「S曲線」は、得点の度数分布を表し、曲線の左側に「1」、右側に「0」が理想型で、
   被験者の達成状況や学習状況などが把握される。

 ○ 「P曲線」は、正答数の度数分布を表し、曲線の上側に「1」、下側に「0」が理想型で、
   個々の問題の適切さ、指導の効果などが把握される。

 「S曲線」と「P曲線」は、基本的には「接近する」のが通常の姿であろう。もしも、接近して
いない場合は、次のような原因が考えられる。

 (1) 問題の出題レベルが不適切
 (2) 指導の効果が出ていない
 (3) 個々の被験者の学習が不十分で、学力のバラツキが大きい

 例えば、上記の「S−P表」において、被験者「A」は、特徴ある傾向を表している。

 被験者「A」は、大半の者が正解している問1を間違えている反面、ほとんどの者が間違
えている問4(または問5)を正解している。これは、被験者「A」の学力が他の者と異なり、
安定していないことを伺わせる。指導の成果が定着せず、個々の能力でテスト問題に対処
した結果なのだろう。学習上問題があることが予想される。

 また、問4は得点上位者が不正解で、他の者が正解していることから、問4は生徒の実
状にそぐわない不適切な問題であることが伺える。

 「S曲線」と「P曲線」の上側にある「0」は、単なる早合点のミスと思えなくもないが、下側
の「0」は、本当に出来なくての「0」だろう。今後の指導の重点項目の発見に繋がる。

 今まで、このような「S−P表」を用いた分析はやったことがないが、時間があれば、やっ
てみたい気もする...!