こてんこてん蔵庫5(その9)             戻る

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第41回・助詞の現代語訳(4)

 次の各文の赤文字の部分を、使われている助詞の意味に注意して現代語訳しなさい。

【初級】
 問01・いかでこのかぐや姫を得てしがな、見てしがなと、音に聞きめでて惑ふ。
 問02・行末にこの御堂の草木となりにしがなとこそ思ひ侍れ。
 問03・世の中に物語と言ふもののあんなるを、いかで見ばや
 問04・小倉山峰のもみぢ葉心あらば今ひとたびの行幸待たなむ
 問05・夏の蝉の春秋を知らぬもあるぞかし
 問06・少将の命婦などにも聞かすな
 問07・花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに
 問08・見苦しきわざかな
 問09・我が君や、いかにして方々をば捨ておはしましぬるぞ
 問10・少納言よ、香炉峰の雪いかならむ


【中級】
 問11・あつぱれ良からう敵がな
 問12・かくおびただしく振る事はしばしにて止みにしかども、その名残しばしは絶えず。
 問13・思ひつつ寝ればや人の見えつらむ夢と知りせば覚めざらましを
 問14・「潮満ちぬ。風吹きぬべし」と騒げば、船に乗りなむとす。
 問15・年ごろよくくらべつる人々なむ別れがたく思ひて、日しきりにとかくしつつののしる
    うちに夜更けぬ。
 問16・なほ飽かずやあらむ、またかくなむ
 問17・な射そ、な射そと制し給ひて、ことさめにけり。
 問18・いづれの御時にか、女御・更衣あまた候ひ給ひける中に、
 問19・閑かさや岩にしみ入る蝉の声
 問20・人の言ふらむことをまねぶらむよ


【上級】
 問21・男も女も、いかでとく京へもがなと思ふ心あれば
 問22・世の中は常にもがもな渚ひぐ海人の小舟のつなでかなしも
 問23・心あてに折らばや折らむ初霜のおきまどはせる白菊の花
 問24・なほ言ひ寄れ。尋ね知らではさうざうしかりなむ
 問25・かく世を離るるさまにものし給へば、いとあはれに口惜しうなん
 問26・これより深き山を求めてや跡絶えなまし
 問27・我も世にえあるまじきなめり
 問28・とく装束を着てかしこへを参れ
 問29・明日は物忌みなるを、門強く鎖させよ。
 問30・わりなくも寝ても覚めても恋しきか心をいづちやらば忘れん


【解答・解説】

 問01・かぐや姫を手に入れたいものだなぁ
    「てしが」は自己の希望を表す終助詞、「な」は詠嘆を表す終助詞である。なお、「て
   しが」は「てしか」と表記される場合もある。

 問02・草木となってしまいたいものだなぁ
    「にしが」は自己の希望を表す終助詞、「な」は詠嘆を表す終助詞である。なお、「に
   しが」は「にしか」と表記される場合もある。

 問03・(読んで)見たい
    問13・問23とともに「ばや」の判別に関する問題。「ばや」の直前の語が未然形、
   なおかつ「ばや」で文末になっている場合は終助詞である。終助詞「ばや」は自己の
   希望を表すので助動詞「まほし」「たし」と同様に訳せばよい。

 問04・待って欲しい
    「なむ」には問14以下、3種類があるのだが、未然形の後に使われた「なむ」は終
   助詞で他への願望を表す。ここでは直前の語が「待た」、つまり四段活用動詞の未
   然形なので、「なむ」が終助詞とすぐわかる。なお、上下の一段活用動詞・二段活用
   動詞の場合は未然形と連用形が同形なので、強意の助動詞「ぬ」の未然形+推量
   の助動詞「む」との組み合わせによる「なむ」との判別は外見上できなくなる。その際
   は文脈で判断して解釈する。

 問05・あるのだよ
    「ぞ」は係助詞だが、結びとなる文節が存在しない。「かし」は詠嘆を表す終助詞。
   「かし」がなければ「ぞ」で文末となるが、その場合は念を押す言い方で強調すること
   になるので「〜だ」と断定の助動詞のように訳す。これに「かし」を付加して「〜だよ」
   とすればよい。

 問06・聞かせるな
    問07・問24などとともに「な」の判別に関する問題。「な」の直前の語は使役の意
   味を表す助動詞「す」の終止形。また、「な」の後続の語はない。したがってこれは終
   助詞である。終助詞の「な」には詠嘆と禁止とがあるが、これは共に活用語の終止
   形の後に使われるため、外見上の区別はできないので文脈で判断する。ここでは禁
   止である。

 問07・すっかり色褪せてしまったなぁ
    「花の色はうつりにけりな」で事実上の一文、つまりこの和歌は二句切れである。し
   たがって「な」が終助詞であることがわかる。ここでは禁止ではなく詠嘆だ。

 問08・みっともないことだなぁ
    「かな」は詠嘆の意味を表す終助詞である。
 問09・私の主君よ
    「や」は係助詞にも存在するが、係り結びが成立していないこと、「や」の直後が読
   点で「我が君や」で独立した文節になっていることから、この「や」は間投助詞である
   ことがわかる。間投助詞には詠嘆と呼びかけとがあるが、直前の語が人物を指して
   いる語なので、これは「君」への呼びかけである。

 問10・少納言よ
    「よ」の直前に人物の肩書きを表す語(ここでは少納言)があるので、これは少納言
   への呼びかけであることがわかる。現代語で「おいおい、店長よ、しっかりしてくれ。」
   という場合の「よ」と同じである。

 問11・敵がほしい
    「がな」は自己の願望を表す終助詞である。
 問12・止んでしまったけれど
    「にしか」の判別に関する問題。終助詞に「にしか」があるが、その場合は「にしか」
   あるいは詠嘆を表す終助詞「な」で文が終る点に注目。問12は後続の語が接続助詞
   の「ど」で、その後もさらに文が続いている。したがって「に」は完了の意味を表す助動
   詞「ぬ」の連用形、「しか」が過去の意味を表す助動詞「き」の已然形である。

 問13・寝たので(私が思いを寄せている)あの人が(夢の中に)現れたのだろうか
    問03とともに「ばや」の判別に関する問題。直前の語は「寝れ」で、これはナ行下二
   段活用動詞の已然形。已然形の後に使われた「ばや」は接続助詞「ば」に係助詞「や」
   がついた形である。この場合、「ば」を順接の確定条件、「や」を疑問の意味になるよう
   に訳す。

 問14・船にぜひ乗ろう
    問04とともに「なむ」の判別に関する問題。直前の語は「乗り」で、これは四段活用
   動詞の連用形。連用形の後に使われた「なむ」は強意の意味を表す助動詞「ぬ」の未
   然形に推量(ここでは主語の関係で意志)の意味を表す助動詞「む」がついてできたも
   のであり、「なむ」で一語ではない。

 問15・ここ数年来親しくつきあってきた人々は
    「なむ」の直前の語が体言なので「なむ」は係助詞だが、結びとなるべき語である「思
   ふ」で文が終わっていないために、「なむ」の係結びが流失したものである。

 問16・このような(和歌を詠んだ)
    「かく」は副詞。当然副詞に修飾される用言が後にあるべきだが、これが省かれて「な
   む」で文末となったものである。「かくなむ詠みける」が本来の形だ。

 問17・(弓を)射るな
    「な」は禁止の意味を表す陳述の副詞で、これは終助詞「そ」とセットで使われる。「そ」
   も禁止の意味を表すが、こちらは終助詞。「な」+「動詞の連用形」+「そ」で、その動作
   を禁じる意味になるように訳す。

 問18・どの天皇の御時世(であっただろう)か
    「いづれの御時にか」は作者の推量表現で挿入句で事実上の一文となる。「いづれの
   御時にかありけむ」が本来の形で、「ありけむ」が省かれたために係助詞「か」で文末と
   なったものである。

 問19・静かなことだなぁ
    間投助詞の「や」には呼びかけと詠嘆の2種があるが、俳句の切れ字で使われてい
   る「や」は全て詠嘆である。この場合、五音・七音・五音のうち必ず初句で使われる。

 問20・真似をするということだよ
    「まねぶ」とは「真似をする」という意味の動詞。「らむ」は現在の婉曲で特に訳さない。
   「よ」は間投助詞。直前の語が人物名やその肩書きではないので、詠嘆を表す。

 問21・京の都に着きたい
    「もがな」は自己の願望を表す終助詞。願望となる動作を考えて訳す必要がある。こ
   こでは「着く」という動作を願っていると解釈する。

 問22・いつまでも変わらないものであるといいのになぁ
    「もがも」は「もがな」と同じく自己の願望、「な」は詠嘆を表す終助詞である。
 問23・折るならば(いっそのこと)折ってみようか
    問03とともに「ばや」の判別に関する問題。直前の語は「折ら」なので問03と同様に
   未然形であるが、この和歌が二句切れである点に注意したい。すなわち「折らむ」で一
   つの文が終止しているのと同じことである。したがって「ばや」は終助詞ではなく、接続
   助詞「ば」に係助詞「や」がついた形となる。「ば」を順接の仮定条件、「や」を疑問に訳
   す。

 問24・きっと物足りないことだろう
    「な」の判別に関する問題。「な」の直前の語は「さうざうしかり」で形容詞の補助活用
   の連用形である。補助活用の連用形の後に続いて使われる「な」は完了・強意の意味
   を表す助動詞「ぬ」の未然形である。ここでは「な」の後続の語が推量の意味を表す助
   動詞「む」なので、「な」は強意に訳す。

 問25・とても悲しく残念でございます
    「な」の直前の語が「口惜しう」だが、これは問24と違い、形容詞の本活用の連用形
   である。この場合は用言となるべき語があり、それで文末となるのが本来の形である。
   問25は係助詞「なむ」で文末となっているが、これは「侍る」が省かれた結果である。
   現代語訳の際は省かれた用言も補訳しなければならない。

 問26・行方をくらましてしまおうかしら
    「な」の直前の語は動詞の連用形。後続の語は躊躇する気持ちを含んだ意志「まし」
   なので、この「な」は完了の意味を表す助動詞「ぬ」の未然形と考える。

 問27・この世に生きていくことができそうにないようだ
    「な」の直前の語は不可能の意味を表す「まじき」で、しかも本活用である点に注意。
   同一の活用形で本活用と補助活用が存在する語の場合、助動詞は通常補助活用の
   後に使われるが、断定の助動詞だけは例外で本活用の連体形の後に使われる。この
   「な」は本来は「なる」で、後続の語が「めり」なので「る」が省かれたものである。

 問28・あちらへ参上しなさい
    「を」がなくても文が通じる点に注目したい。こういう「を」は間投助詞である。
 問29・物忌みなので
    「を」の直前の語が連体形であり、直後は読点を挟んで別の文につながっているの
   で、「を」は接続助詞である。「門強く鎖させよ」という結論に至った理由が「物忌み」に
   あるので、「を」を順接の確定条件と考えて訳す。

 問30・恋しいことよ
    「か」の判別に関する問題。「か」は係助詞の他に終助詞がある。どちらも活用語の
   連体形の後に続いて使われるが、 前者は疑問・反語のいずれかを表し、係結びの
   ため連体形で文末となるのが基本である。後者は詠嘆を表す。「か」で文末となるた
   め、係結びはもともと存在しない。和歌の場合は句切れとなる場所に使われる。問題
   文は和歌で三句切れである。したがって「か」は終助詞だ。


第42回・陳述の副詞

 次の各文の赤文字の部分を、使われている副詞の意味に注意して現代語訳しなさい。

【初級】
 問01・古京はすべて荒れて、新都はいまだならず
 問02・あたかも四条五条の橋のごとし
 問03・たとひ耳鼻こそ切れ失すとも、命ばかりはなどか生きざらん。
 問04・心肝惑はして求むるに、え見出でず
 問05・な射そ、な射そと言ひて、ことさめにけり。
 問06・いつしか梅咲かなむ
 問07・この児、さだめて驚かさむずらんと待ちゐたるに、
 問08・「よもあらじ」など言ふも詮なければ、
 問09・吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風を嵐といふらむ
 問10・世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし


【中級】
 問11・酒宴ことさめていかがはせんと惑ひけり。
 問12・物語といふもののあんなるをいかで見ばや
 問13・山々に人をやりて求めさすれど、さらになし
 問14・しばし奏でて抜かんとするに、大方抜かれず
 問15・などて行かざりつらん
 問16・いかにわびしからんと見給ふ。
 問17・もし出で給ひぬべくやと思ひて詣で来つれど、帰りては罪得べかめり。
 問18・さて、冬枯れのけしきこそ、秋にはをさをさ劣るまじけれ
 問19・ここは気色あるところなめり。ゆめ寝ぬな
 問20・こは、なでふ事のたまふぞ


【上級】
 問21・いかがはせむとて、内裏に参りて御鷹の失せたるよし奏し給ふに、帝ものものた
    まはず。
 問22・あとまで見る人ありとは、いかでか知らん
 問23・もとの住家に帰りてぞ、さらに悲しき事は多かるべき
 問24・大方のみな荒れにたれば、「あはれ」とぞ人々言ふ。
 問25・かかる急の事には、誦経などをこそはすなれ
 問26・下として上に逆ふること、あに人臣の礼たらむや
 問27・人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香ににほひける
 問28・徳をつかむと思はば、すべからくまづその心遣ひを修行すべし
 問29・年月経てもつゆ忘るるにはあらねど、去る者は日々に疎しといへる事なれば、
 問30・なんぞただ今の一念において、直ちにする事の甚だ難き


【解答・解説】

 問01・新しい都はいまだに完成していない
    「いまだ」は打消を表す語と呼応する陳述の副詞。ここでは「ず」が打消の意味を表
   す助動詞で「いまだ〜ない」と現代語訳する。「いまだ」の他に「いさ」「おほかた」「さら
   に」「つゆ」「たえて」「をさをさ」が打消の語と呼応する副詞である。

 問02・まるで四条五条の橋のようだ。
    「あたかも」は比況を表す語と呼応する陳述の副詞。ここでは「ごとし」が比況の意
   味を表す助動詞で「まるで〜ようだ」と現代語訳する。「あたかも」の他に「なほ」「さな
   がら」が比況を表す語と呼応する副詞である。

 問03・仮に耳や鼻が切れて失ったとしても
    「たとひ」は仮定を表す語と呼応する陳述の副詞。ここでは「とも」が逆接の仮定条
   件を表す接続助詞で「仮に〜しても」と現代語訳する。「たとひ」の他に「もし」「よし」
   「よしや」などが仮定を表す語と呼応する副詞である。

 問04・見つけ出すことができない
    「え」は打消の語と呼応する陳述の副詞。ここでは「ず」が打消の意味を表す助動詞
   だが、「え」が使われた場合は不可能を表し、「〜ことができない」と現代語訳する。

 問05・射るな
    「な」は禁止を表す語と呼応する陳述の副詞。ここでは「そ」が禁止の意味を表す終
   助詞で「〜するな」と現代語訳する。「な」の他に「ゆめ」「ゆめゆめ」が禁止を表す語と
   呼応する副詞である。

 問06・早く梅が咲いて欲しい
    「いつしか」は願望を表す語と呼応する陳述の副詞。ここでは「なむ」が願望の意味
   を表す助動詞で「早く〜てほしい」と現代語訳する。「いつしか」の他に「いかで」「なに
   とぞ」が願望を表す語と呼応する副詞である。

 問07・きっと(自分を)起こすだろう
    「さだめて」は推量を表す語と呼応する陳述の副詞。ここでは「むず」が推量の意味
   を表す助動詞で「きっと〜だろう」と現代語訳する。「さだめて」の他に「むべ」「いかば
   かり」「必ず」「おそらく」などが推量を表す語と呼応する副詞である。

 問08・まさか(そんなことは)ないだろう
    「よも」は打消推量を表す語と呼応する陳述の副詞。ここでは「じ」が打消推量の意
   味を表す助動詞で「まさか〜ないだろう」と現代語訳する。

 問09・なるほど山から吹く風を「嵐」と言うのだろう
    「むべ」は推量を表す語と呼応する陳述の副詞。ここでは「らむ」が現在の原因推量
   の意味を表す助動詞で「なるほど〜のだろう」と現代語訳する。

 問10・全く桜がなかったならば
    「たえて」は打消を表す語と呼応する陳述の副詞。ここでは形容詞「なかり」が打消
   の意味を表す語に相当し、「全く〜ない」と現代語訳する。

 問11・どうしようか
    「いかが」は係助詞の「や」「か」「やは」「かは」あるいは活用語の連体形と呼応し、疑
   問ないし反語の意味を表す陳述の副詞。ここでは「む」が助動詞の連体形で「どう〜か」
   と現代語訳する。「いかが」の他に「いかで」「いかに」「なぞ」「など」「なでふ」「あに」「い
   づくんぞ」が疑問・反語を表す語と呼応する副詞である。なお、疑問・反語のどちらにな
   るかはそのつど文脈ごとに判断する。「いかがはせむ」の場合、疑問なら「どうしようか」
   という現代語訳になるが、反語の場合は「仕方がない」という現代語訳になる。

 問12・なんとかして見たい
    「いかで」は問11に記したとおり、疑問・反語の意味を表す語でもあるが、これとは別
   に願望を表す語と呼応する陳述の副詞でもある。ここでは「ばや」が願望の意味を表す
   終助詞で「なんとかして〜たい」と現代語訳する。「いかで」が願望か疑問・反語のどちら
   の意味で使われているかは、後の呼応する語を見て判断する。

 問13・全く(見つから)ない
    「さらに」は打消を表す語と呼応する陳述の副詞。ここでは形容詞「なし」が打消の意
   味を表す語に相当し、「全く〜ない」と現代語訳する。なお、下に打消の語を伴わない場
   合の「さらに」は「改めて」「新たに」「そのうえ」「ますます」など、別の意味で使われるの
   で注意すべきである。

 問14・全然抜くことができない
    問13と同じく「おほかた」は打消を表す語と呼応する陳述の副詞。ここでは「ず」が打
   消の意味を表す助動詞で「全然〜ない」と現代語訳する。なお、下に打消の語を伴わな
   い場合の「おほかた」は「だいたい」「普通の」「総じて」など、別の意味で使われるので
   注意したい。

 問15・どうして行かなかったのだろうか
    「など」は問11と同じく係助詞の「や」「か」「やは」「かは」あるいは活用語の連体形と
   呼応し、疑問ないし反語の意味を表す陳述の副詞。ここでは「らむ」が助動詞の連体形
   で「どうして〜か」と現代語訳する。

 問16・どんなにつらいことだろうか
    「いかに」は問11と同じく係助詞の「や」「か」「やは」「かは」あるいは活用語の連体形
   と呼応し、疑問ないし反語の意味を表す陳述の副詞。ここでは「む」が助動詞の連体形
   で「どんなに〜か」と現代語訳する。

 問17・もしかしてお出になることができるのならばと
    「もし」は仮定を表す語と呼応する陳述の副詞。正しくは「もし出で給ひぬべくはや」と
   なる文で「は」が仮定条件を表す語になるのだが、ここでは呼応すべき語が省かれて
   いる。「もしかして〜ならば」と現代語訳する。

 問18・秋には少しも劣らないだろう
    「をさをさ」は打消を表す語と呼応する陳述の副詞。ここでは「まじ」が打消推量の意
   味を表す助動詞で「少しも〜ないだろう」と現代語訳する。

 問19・決して寝るな
    「ゆめ」は禁止を表す語と呼応する陳述の副詞。ここでは「な」が禁止の意味を表す
   終助詞で「決して〜な」と現代語訳する。

 問20・何ということをおっしゃるのか
    「なでふ」は係助詞の「や」「か」「やは」「かは」あるいは活用語の連体形と呼応し、疑
   問ないし反語の意味を表す陳述の副詞でもあるが、後続の語が体言の場合は連体詞
   となる点に注意。ここでは「こと」が体言になっていて、「なでふ」が「こと」を修飾している。
   なお、「なでふ」が副詞の場合は「どうして〜か」と訳す。

 問21・仕方がない
    問11と同じく「いかが」が使われているが、疑問ではなく反語になる用法である。直
   訳すると「どうしようか。いや、どうしようもない」となる。この「どうしようもない」の部分
   が結論となるので、「仕方がない」という現代語訳になる。

 問22・どうして知るだろうか。いや、知るはずがない。
    問12と同じく「いかで」が使われているが、呼応する語が活用語の連体形(ここでは
   助動詞の「む」)のため、疑問・反語の意味で使われている用法である。ここでは「(こ
   の家の主人は)客が辞去した後でも見ている人がいる(→作者を指す)ということを知
   るはずがない」という意味である。

 問23・さらに悲しいことは多いに違いない。
    問13と同じく「さらに」が使われているが、呼応する打消の語がない。したがって、こ
   れは陳述の副詞てはなく程度を表す副詞の用法である。

 問24・殆ど(の庭の木々)がみんな荒れてしまっているので
    問14と同じく「おほかた」が使われているが、呼応する打消の語がない。また、後続
   の語が主格を表す格助詞「の」であるので、「おほかた」が用言を修飾していない点に
   も注目したい。したがって、これは名詞で「大部分」「殆ど」という意味である。

 問25・読経などをするそうだ
    問15と同じく「など」が使われているが、呼応する語がなく文末が已然形になってい
   る。また「など」が文節の先頭ではなく体言「誦経」と同じ文節に含まれることにも注目
   したい。したがってこれは副助詞であり、そのまま「など」と現代語訳する。

 問26・どうして臣下の礼儀であろうか。いや礼儀ではない。
    「あに」は問11の「いかが」と同じく、係助詞の「や」「か」「やは」「かは」あるいは活用
   語の連体形と呼応し、疑問ないし反語の意味を表す陳述の副詞。ここでは「む」が助動
   詞の連体形で「どうして〜か」と現代語訳する。なお「礼」の後にある「たら」は断定の意
   味を表す助動詞、「や」は反語を表す係助詞である。

 問27・あなたは、さあ(心変わりしているかどうか)そのお心のほどは(私には)わかりません
    「いさ」は打消を表す語と呼応する陳述の副詞。ここでは二句目の末尾にある「ず」が
   打消の意味を表す助動詞で「さあ〜ない」と現代語訳する。したがってこの和歌は二句
   切れである。

 問28・当然まずその心遣いを修行しなければならない。
    「すべからく」は助動詞「べし」と呼応する陳述の副詞。この場合の「べし」はつねに義
   務・命令の意味で、「当然〜しなければならない」と現代語訳する。

 問29・少しも忘れるわけではないけれど
    「つゆ」は打消を表す語と呼応する陳述の副詞。ここでは「ず」が打消の意味を表す
   助動詞で「少しも〜ない」と現代語訳する。「忘るる」の後の「に」は断定、「あら」の後の
   「ね」は打消、「ど」は逆接の確定条件を表す。

 問30・どうしてこの今の一瞬にすぐに実行することがたいへん難しいのだろうか
    「なんぞ」は問11と同じく係助詞の「や」「か」「やは」「かは」あるいは活用語の連体形
   と呼応し、疑問ないし反語の意味を表す陳述の副詞。ここでは「難き」が形容詞の連体
   形で「どうして〜か」と現代語訳する。


第43回・敬語の現代語訳(1)

 次の各文の赤文字の部分を、使われている敬意に注意して現代語訳しなさい。

【初級】
 問01・かやうに御心を互ひに慰め給ふほどに、
 問02・母君、はじめよりおしなべての上宮仕へし給ふべき際にはあらざりき。
 問03・外より来たる者どもぞ、「殿は何にかならせ給ひたる」など問ふ。
 問04・上の御前の、柱に寄りかからせ給ひて少し眠らせ給ふを、
 問05・かぐや姫、いといたく泣き給ふ
 問06・恋しからむ折々、取り出でて見給へ
 問07・我をいかにせよとて捨てては昇り給ふぞ。具して出でおはせね
 問08・今さらにな大殿籠りおはしましそ
 問09・「これならむ」と思して、近く寄らせ給ふに、逃げて入る。
 問10・これを帝、御覧じて、「いかが帰り給はん」と、そらもなく思さる。


【中級】
 問11・唐土にある火鼠の皮衣を給へ
 問12・翁のあらむ限りはかうてもいますかりなむかし
 問13・歌詠み加えて、持ちていましたり
 問14・この人々、ある時には竹取を呼び出して「娘を我にたべ」と伏し拝み、
 問15・何仰す。今、金少しにこそあなれ。嬉しくしておこせたるかな。
 問16・こは、なでふ事のたまふぞ。
 問17・さる者ありとは鎌倉殿までも知ろしめされたるらんぞ
 問18・かの奉る不死の薬にまた壺具して、御使に賜はす
 問19・この君をば私物に思ほし、かしづき給ふこと限りなし。
 問20・大御酒参り、氷水召して、水飯などとりどりにさうどきつつ食ふ。


【上級】
 問21・この事を帝、聞こしめして、竹取が家に御使遣はさせ給ふ
 問22・いといたくあはれがらせ給ひて、物も聞こしめさず
 問23・御文を詠みて遣はす
 問24・六衛の司あはせて二千人の人を竹取が家に遣はす
 問25・ここにおはするかぐや姫は重き病をし給へば、え出でおはしますまじ。
 問26・おはしぬと見え給ひて、三日ばかりありて漕ぎて帰り給ひぬ。
 問27・さてはこの船には召さざりけり
 問28・大臣・上達部を召して、「いづれの山か天に近き」と問はせ給ふ。
 問29・壺なる御薬奉れ
 問30・いみじく静かに、公に御文奉り給ふ


【解答・解説】

 問01・お心を
    「御」は敬意を添える接頭辞。
 問02・御母様は
    「君」は敬意を添える接尾辞。現代語の「様」「殿」と同じく敬称である。
 問03・主人は
    「殿」とあってもお殿様とは限らない。主人に対する敬称としても使われる。
 問04・天皇様の
    「上」にはさまざまな意味があるが、その文で最高敬語が使われていれば天皇をさ
   す。ここでは「眠らせ給ふ」が尊敬を表す助動詞「す」の連用形に尊敬の補助動詞「給
   ふ」がついた形で最高敬語にあたる。

 問05・お泣きになる
    「給ふ」は動詞の連用形の後に使われ、直前の動詞に対して尊敬の意味を持たせ
   る。こういう動詞を補助動詞という。敬意を添える働きしかなく、動詞本来の動作・存
   在は表さない。尊敬の補助動詞がついた場合は「お〜になる」が基本の訳し方である。

 問06・御覧下さい
    問05と同じく尊敬の補助動詞「給ふ」が使われているが、命令形である点が問05
   とは異なる。この場合は「お〜ください」と訳すのが基本。

 問07・連れておいでになってください。
    「具し」は「連れる」、「おはせ」は「行く」の尊敬語で「おいでになる」と訳す。文末の
   「ね」は奈良時代に主に用いられた終助詞で相手に対する願望を表す。

 問08・お休みなさいますな
    「大殿籠り」は「寝」の尊敬語で「お休みになる」と訳す。その直前の「な」は陳述の
   副詞で「おはしまし」の後にある終助詞「そ」とセットで禁止を表す。「おはしまし」は尊
   敬の意味を表す補助動詞。「大殿籠り」「おはしまし」と共に尊敬になるので、このよ
   うな文を見たら非常に身分の高い人の動作であると判断しなければならない。

 問09・お思いになって
    「思し」は「思ふ」の尊敬語。補助動詞を使って「思ひ給ふ」と表現するよりも敬意が
   高い。

 問10・御覧になって
    「御覧じ」は「見る」の尊敬語。補助動詞を使って「見給ふ」と表現するよりも敬意が
   高い。

 問11・下さい
    問06と同じく「給ふ」の命令形であるが、直前の語が動詞の連用形ではない点に
   注目。これは補助動詞ではなく「給ふ」自体が動詞で具体的な動作を表す。単独で
   使われた「給ふ」は「与ふ」「授く」の尊敬語である。

 問12・きっと(独身のままで)いらっしゃる(ことができる)だろうよ
    「いますかり」はラ行変格活用動詞で、「あり」「居り」の尊敬語である。主語が生物
   の場合は「ある」とは訳せないので「いる」の尊敬表現で「いらっしゃる」と訳す。「な」
   は強意を表す助動詞「ぬ」の未然形、「む」は推量の意味を表す助動詞、「かし」は念
   を押す働きをもつ終助詞である。

 問13・いらっしゃった
    「います」は、「あり」「居り」「行く」「来」の尊敬語で、「いらっしゃる」と訳す。「たり」は
   完了の意味を表す助動詞。

 問14・娘を私に下さい
    「たべ」は「たぶ」の命令形で、問11の「給へ」と同じく「与ふ」「授く」の尊敬語である。
 問15・何をおっしゃるのか。
    「仰す」は「言ふ」の尊敬語。現代語で「お言いになる」とは言わないので「おっしゃる」
   と訳す。

 問16・おっしゃる
    問15と同じく「言ふ」の尊敬語だが「仰す」より敬意が低い。
 問17・ご存知でいらっしゃるであろうよ
    「知ろしめさ」は「知ろしめす」の未然形で「知る」の尊敬語。その直後の「れ」は尊敬、
   「たる」は存続、「らん」は現在推量の意味を表す助動詞。文末の「ぞ」は強意の係助
   詞だが、係結びとなる文節がない終助詞的用法。

 問18・お渡しになる
    「賜はす」は「給ふ」と同じく「与ふ」「授く」の尊敬語だが、「給ふ」よりも敬意が高い。
   ここでは「帝が御使の者に薬の入った壺を渡す」という動作に尊敬の意味を持たせて
   いる。

 問19・お思いになり
    「思ほす」は「思ふ」の尊敬語。平安中期からは「思ほす」に代わり「思す」が主に使
   われるようになった。補助動詞を使って「思ひ給ふ」と表現するよりも敬意が高い。

 問20・召し上がり
    「参る」は「高貴な人のいる場へ参上する」といった謙譲語としての用例が多いが、
   「飲む」「食ふ」の尊敬語として用いられることがあるので注意。

 問21・お聞きになって
    「聞こしめす」は「聞く」の尊敬語。補助動詞を使って「聞き給ふ」と表現するよりも敬
   意が高い。

 問22・お召し上がりにならない
    問21と同じ動詞だが「聞こしめす」は「聞く」の他に「飲む」「食ふ」の尊敬語にもなる
   ので、文脈を見てどの意味で使われているのかに注意が必要である。

 問23・お贈りになる
    「遣はす」は「贈る」「与ふ」の尊敬語である。この場合「お贈りになる」と訳す。
 問24・派遣なさる
    問23と同じ動詞だが「遣はす」には「贈る」の他に「遣る」の尊敬語にもなるので、文
   脈を見てどちらの意味で使われているのかに注意が必要である。人を遣るということ
   は、つまり派遣するということである。それに尊敬の敬意を持たせれば良い。

 問25・いらっしゃる
    「おはす」は「あり」「居り」の尊敬語である。この場合「いらっしゃる」と訳す。
 問26・お出かけになった
    問25と同じ動詞だが「おはす」は「あり」「居り」の他に「行く」「来」の尊敬語にもなる
   ので、文脈を見てどちらの意味で使われているのかに注意が必要である。

 問27・お乗りにならなかった
    「召す」には自動詞と他動詞の用法がある。自動詞の場合は「乗る」の尊敬語である。
 問28・お呼び寄せになって
    問28と同じ動詞だが、他動詞の場合は「呼び寄す」「取り寄す」「飲む」「食ふ」「着る」
   の尊敬語となるので、文脈を見てどの意味で使われているのかに注意が必要である。
   ここでは動作の対象が「大臣」「上達部」といった人物なので、「呼び寄す」の尊敬語と
   なる。

 問29・召し上がれ
    「奉る」は「高貴な人に対して物を差し上げる」といった謙譲の用法が多いが、他に
   「飲む」「食ふ」「着る」の尊敬語としての用法もあるので、文脈を見てどちらの意味で
   使われているのかに注意が必要である。

 問30・お手紙を差し出しなさる
    「奉り」は問29と異なり「与ふ」の謙譲語としての用法で「差し上げる」の意味。「給
   ふ」は尊敬の意味を添える補助動詞で「〜なさる」と訳す。このように敬意の種類が
   異なる敬語が同一の動作に対して用いられるものを二方向の敬語という。ここでは
   「奉り」が帝への謙譲、「給ふ」が「奉る」という動作をしている人物に対する尊敬とな
   る。


第44回・敬語の現代語訳(2)

 次の各文の赤文字の部分を、使われている敬意に注意して現代語訳しなさい。

【初級】
 問01・翁の申さむ事は聞きてむや。
 問02・かくなむ。聞こゆるやうに見せ給へ。
 問03・かぐや姫をえ戦ひ止めずなりぬること、こまごまと奏す
 問04・文を書き置きて罷らむ
 問05・この十五日は人々賜はりて、月の都の人詣で来ば、捕へさせむ。
 問06・昔、二条の后に仕うまつる男ありけり。
 問07・陸奥国磐手の郡より奉れる御鷹、御手鷹にし給ひけり。
 問08・「はや奉りなん」とて、やがて乗りて抱えて物しぬ。
 問09・この頃となりては、ただ事にも侍らざめり
 問10・世鎮まり候ひなば、勅撰の御沙汰候はんずらん


【中級】
 問11・その人、ほどなく失せ侍りし
 問12・最後の軍して見せ奉らん
 問13・一門の運命はや尽き候ひぬ
 問14・御粥などそそのかし聞こゆ
 問15・述べやらせ給ふ事こそ、真と思う給へられね
 問16・入り給へれば、火取りそむけて右近は屏風隔てて臥したり。
 問17・「ともかうも、良きやうに御はからひ候へ。」と申す。
 問18・言ふかひなき人の郎等に組み落とされさせ給ひて、討たれさせ給ふ。
 問19・甲斐の一条次郎殿の御手とこそ承り候へ
 問20・これを優れたるやうに申し侍るはいかに。


【上級】
 問21・汝が持ちて侍るかぐや姫奉れ
 問22・口惜しの花の契りや。一房折りて参れ
 問23・かれ、見奉らせ給へ。今は明けぬるに、かう大殿籠るべきかは>
 問24・内裏に参り給ひて御鷹の失せたるよし奏し給ふ。
 問25・心憎き限りの女房四五人候はせ給ひて、御物語せさせ給ふなりけり。
 問26・それをかの道に心ありて預かり仕うまつり給ひける大納言に預け給へり。
 問27・さらば、さる由をこそ奏し侍らめ
 問28・わらは病に煩ひ給ひて、よろづにまじなひ、加持など参らせ給へど
 問29・宮は内裏に参らせ給ひぬるも、知らず。
 問30・異なる御咎も渡らせ給はねども、御位を下ろし参らせ給ひけり


【解答・解説】

 問01・申し上げる
    「申す」は「言ふ」の謙譲語。普通に目上の相手にものを申し上げる場合に広く使わ
   れる。「む」は連体形で文中に使われている場合は婉曲になるので特に訳さない。

 問02・申し上げる(注文)どおりに
    「聞こゆ」も「申す」と同じく「言ふ」の謙譲語として使われる。
 問03・申し上げる
    「奏上する」とも訳す。「奏す」も「言ふ」の謙譲語だが、天皇・上皇・法皇など、非常
   に身分の高い人に対してものを申し上げる場合に限って使われる。ちなみに、上記
   より一ランク下の身分になる皇后・中宮・皇太子に対して、ものを申し上げる場合は
   「啓す」が使われる。

 問04・おいとましよう
    「罷る」は身分の高い人がいらっしゃる場所から退出する場合に使われる。「失礼
   する」「おいとまする」が直訳。最後の「む」は意志を表す助動詞。

 問05・いただいて
    「賜はる」は「受く」の謙譲語。現代語で言うと「もらう」の謙譲語になる。
 問06・お仕え申し上げる
    「仕うまつる」は「仕ふ」の謙譲語。身分の高い人の傍で身辺の雑事に従事すること
   を意味する。

 問07・献上した
    「奉る」は「与ふ」「授く」の謙譲語。「差し上げる」「献上する」と訳す。最後の「る」は
   完了の意味を表す助動詞。なお、この文は帝の立場になって「献上された」と受身形
   に意訳できる。

 問08・お乗りくださいませ
    「奉る」は謙譲語としての用法の他に「飲む」「食ふ」「着る」「乗る」の尊敬語としての
   用法があるので注意したい。そのうち、自動詞の場合はすべて「乗る」の尊敬語として
   使われる。「な」は強意、「む」は適当の意味を表す助動詞で直訳すると「お乗りになる
   のが良い」だが、これは柔らかく命令している意味と考えて上記のように訳す。

 問09・ただごとではないようです
    「侍り」は「あり」の丁寧語。敬語がなければ「ただ事にもあらざめり」となる。「に」は
   断定、「ざ」は打消(本来の形は「ざる」で連体形の短縮形)、「めり」は婉曲の意味を
   表す助動詞。語順どおりに訳すと「ただごとではございませんようだ」になるが、それ
   では日本語として不自然なので、「侍り」を最後に訳す。

 問10・御命令がございましょう。
    「候ふ」は「あり」の丁寧語。「んず」は推量、「らむ」は現在推量の意味を表す助動
   詞だが、「らむ」には実質的な意味が失われているので「今頃は〜しているだろう」と
   は訳さない。

 問11・亡くなりました
    問09の用法と異なり、直前の語が動詞なのでここでは補助動詞としての用法にな
   る。すなわち直前の動詞を丁寧に表現する言い方になる。普通は文末に「です」「ま
   す」「ございます」のいずれかを付加する。最後の「し」は過去の意味を表す助動詞。

 問12・お見せ申し上げよう
    問07の用法と異なり、直前の語が動詞なのでここでは補助動詞としての用法にな
   る。すなわち直前の動詞を謙譲の表現にする言い方になる。普通は「お〜する」「お
   〜申し上げる」「〜て差し上げる」のいずれかを選択して訳す。最後の「む」は意志の
   意味を表す助動詞。

 問13・尽きてしまいました
    問10の用法と異なり、直前の語が動詞なのでここでは補助動詞としての用法にな
   る。すなわち直前の動詞を丁寧に表現する言い方になる。問11の「侍り」と同様に、
   普通は文末に「です」「ます」「ございます」のいずれかを付加する。最後の「ぬ」は完
   了の意味を表す助動詞。

 問14・お勧め申し上げる
    問02の用法と異なり、直前の語が動詞なのでここでは補助動詞としての用法にな
   る。すなわち直前の動詞を謙譲の表現にする言い方になる。普通は「です」「ます」
   「ございます」のいずれかを付加する。「そそのかす」は人に物を勧めるという意味。

 問15・本当(の事だ)とお思いすることができない
    「給ふ」は大部分が尊敬の意味を添える補助動詞の用法だが、地の文以外で「思
   ふ」「見る」「聞く」「知る」の動詞の直後に使われている場合は、謙譲の意味を添える
   用法があるので注意。問15には「給ふ」が2度使われているが、最初の「述べやらせ
   給ふ」は尊敬、赤文字の「給へ」は謙譲である。ちなみに、尊敬の場合はハ行四段、
   謙譲の場合はハ行下二段活用となる。また、謙譲の場合は終止形・命令形の用法が
   ない。「られ」は後続の語が打消なので可能、「ね」は打消の意味を表す助動詞。問
   15は意訳すると「本当の事だと信じてさしあげることができない」となる。

 問16・(建物に)お入りになると
    問15と同じ補助動詞の「給ふ」が使われているが、これは直前の動詞から尊敬の
   意味を添える補助動詞と判断できる。したがって接続助詞「ば」は已然形の後に使わ
   れていることになり、順接の確定条件(その中の偶然条件)を表す。

 問17・ご取り計らいください
    名詞「はからひ」に「御」がついているため、尊敬語になっている点に注目。尊敬語
   と丁寧語とが重ねて用いられることは平安時代では稀だが、鎌倉時代以後は普通
   に見られる。その場合は必ず尊敬語の直後に丁寧語という語順になる。

 問18・組み落とされなさって
    「組み落とさ」までが動詞。「れ」が受身、「させ」が尊敬の意味を表す助動詞。「給
   ひ」が尊敬の意味を添える補助動詞になる。全文を現代語訳すると、「お話にならな
   いような身分の低い人の家臣に組み落とされなさって、討ち取られなさる」となる。
   「せ」「給ふ」とも尊敬なのでいわゆる最高敬語になるが、これは天皇でなくても、家
   臣が主君を非常に尊敬していることを表す場合にも使われる。

 問19・お聞きしています
    「承り」は「聞く」の謙譲語。「候へ」は直前の動詞に丁寧の意味を添える補助動詞。
   係助詞「こそ」の結びで已然形となったもので、これは問17の命令形とは異なる。こ
   の文は謙譲+丁寧という、敬意の異なる敬語が重ねて使われていることになる。これ
   を異種敬語という。謙譲語と丁寧語の場合は、必ず謙譲語の後に丁寧語という語順
   になる。

 問20・申し上げます(こと)は
    「侍り」は丁寧の意味を添える補助動詞。したがって謙譲+丁寧という、敬意の異な
   る敬語が重ねて使われていることになる。問19と同様に、謙譲と丁寧とが重なった異
   種敬語である。

 問21・(私に)献上しろ
    「奉る」は「与ふ」の謙譲語だが、謙譲語を命令形で用いる場合は、相手の動作に対
   して謙譲語を用い、その動作の受け手である自分自身に敬意を払ったものになる。こ
   れを自敬表現といい、相手との身分の格差が非常に大きい場合や敬意を払う対象の
   人物が著しく身分の高い人の場合に用いられる。問21の文では「お前(=竹取の翁)
   が持っているかぐや姫を私(=帝)に差し出せ」という意味になる。

 問22・折り取って(私に)差し上げろ
    問21と同じく自敬表現である。「参る」は「来」の謙譲語という用法もあるが、「与ふ」
   の謙譲語としても使われるので注意。

 問23・あれを見申し上げなさい
    「奉る」は「見」の対象となる人物への謙譲、「給へ」は「見」という動作をする人物に
   対する尊敬で、敬意の対象が異なる。 こういうのを2方向の異種敬語といい、謙譲語
   と尊敬語が重ねて用いられることが多い。その場合、基本的に謙譲語の後に尊敬語
   という語順になる。

 問24・参上なさって
    「参り」は「参る」という動作の受け手である帝に対する謙譲、「給ひ」は「参る」という
   動作を行なう人物に対する尊敬。問23と同様に謙譲と尊敬とが重なった2方向の異
   種敬語である。

 問25・お傍にお仕えさせなさって
    問17に記したとおり、丁寧語の後に尊敬語という語順はありえないので「候は」はこ
   こでは丁寧語ではなく「あり」「居り」の謙譲語としての用法。「せ」は尊敬ではなく帝か
   ら女房に対する使役。「給ひ」は帝に対する尊敬。問23と同様に謙譲と尊敬とが重な
   った2方向の異種敬語である。

 問26・お預かり差し上げなさった
    直前の語が動詞なので「仕うまつり」は謙譲の敬意を添える補助動詞としての用法。
   「預かる」の受け手である人物に対する謙譲となる。「給ひ」は「預かる」という動作を
   行なう人物、すなわち大納言に対する尊敬。問23と同様に謙譲と尊敬とが重なった
   2方向の異種敬語である。

 問27・その事情を申し上げましょう。
    「奏し」は帝に対する謙譲、「侍ら」は話し手から聞き手に対する丁寧で、問19と同
   様に謙譲と尊敬とが重なった2方向の異種敬語である。

 問28・おさせになるが、/して差し上げなさるが
    「参ら」は事実上「す」の謙譲語でこれは病人(ここでは光源氏)に対する敬意。「せ」
   は使役の場合と尊敬の場合とがありうるので文脈で判断する。ここでは病人である本
   人が加持祈祷をするのではなく、修験者に加持祈祷をさせることになるので使役。「給
   ふ」は病人に対する尊敬となる。問23と同様に謙譲と尊敬とが重なっているが、どちら
   も病人に対する敬意になるので同一方向の異種敬語となる。

 問29・ご参上なさったことも
    問28と同じく「参らせ給ふ」の形だが、「せ」が「宮」、すなわち中宮に対する尊敬であ
   る点に注意。したがって「参る」は帝に対する謙譲、「せ」「給ふ」は宮に対する尊敬とな
   り、問23と同様に謙譲と尊敬とが重なった2方向の異種敬語である。最後の「ぬる」は
   完了の意味を表す助動詞。体言を伴わない連体形なので準体用法なので、「こと」を
   補訳する。

 問30・お位からお下ろし申し上げなさった
    問28と同じく「参らせ給ふ」の形だが、「せ」は尊敬でも使役でもなく、「参らせ」で一
   語となる下二段活用動詞である点に注意。そして「参らせ」の直前の語が動詞なので
   「下ろし」という動作に謙譲の敬意を添える補助動詞としての用法である点が問28・
   問29と異なる。


第45回・感動詞/接続詞/連体詞の現代語訳

 次の各文の赤文字の部分を、使われている語句に注意して現代語訳しなさい。

【初級】
 問01・あな、恐ろし。いとかくは思はずこそありつれ。
 問02・あつぱれ、良からう敵がな。
 問03・「とは何物ぞ」と人の問ひければ、「さる物を我も知らず」とぞ言ひける。
 問04・わたうたちこそさせる能もおはせねば、物をも惜しみ給へ。
 問05・こは、なでふことのたふぞ
 問06・去んじ安元三年四月廿八日かとよ
 問07・無期の後に「えい」といらへたりければ、僧たち笑ふこと限りなし。
 問08・いな、さもあらず。御眼二つに杏のやうなる玉をぞ添へていましたる。
 問09・「や、な起こし奉りそ。幼き人は寝入り給ひにけり」と言ふ声のしければ、
 問10・我一人賢しき人にて、思しやる方ぞなきや


【中級】
 問11・大方のみな荒れにたれば、「あはれ」とぞ人々言ふ
 問12・若草の梢涼しげに茂りゆくほどこそ、世のあはれも人の恋しさもまされ。
 問13・折節の移り変るこそ、ものごとにあはれなれ
 問14・かぐや姫の、例も月をあはれがり給へども、この頃となりてはただ事にも侍らざめり。
 問15・ある人の堪へずして船の心やりに詠める。
 問16・ありとある人、さ思ひつることよと見給へど、
 問17・さるは、跡問ふわざも絶えぬれば、いづれの人と名をだに知らず。
 問18・ゆゆしくも尋ねおはしたり。さる事侍りき
 問19・また、野分の朝こそをかしけれ。
 問20・それなん、また、え生くまじく侍るめる


【上級】
 問21・さしたる事なくて人のがり行くは、良からぬことなり。
 問22・例よりはひき繕ひて書きて、移ろひたる菊にさしたり
 問23・いでや、この世に生まれては、願はしかるべき事こそ多かめれ。
 問24・「いで、君も書い給へ」とあれば、「まだ、ようは書かず。」とて見上げ給へり。
 問25・「いざ、かいもちひせむ」と言ひけるを、この児、心寄せに聞きけり。
 問26・とみにも言はず、「いさ」などこれかれ見合はせて
 問27・人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香に匂ひける
 問28・歌は古に変はらぬなど言ふ事あれど、いさや
 問29・あるいは、去年焼けて今年造れり。あるいは、大家滅びて小家となる。
 問30・枝の長さは七尺、あるいは、六尺、返し刀五分に切る。


【解答・解説】

 問01・まあ、恐ろしい。
    「あな」は感動詞。事物に対する感嘆を表し、「ああ」「まあ」と訳す。
 問02・ああ、(戦うに)ふさわしい敵が欲しい。
    「あつぱれ」も問01と同じ。現代語では「見事だ。素晴らしい」という意味にしか使わ
   れないが、古語ではその他にも「あな」と同様に感嘆を表現する用法がある。

 問03・そのような物は私も知らない。
    「さる」は元をただすと「さ」(副詞)+「あり」(動詞)に分けられる。この2語でできた
   複合動詞「然り」の連体形から転成した連体詞である。「そのような」と訳す。連体詞
   「さる」の後続の語句は必ず名詞となる。

 問04・たいした才能を持っていらっしゃらないので、
    「させる」は「たいして」「それほど」と訳し、打消を表す語句とセットで使われる連体
   詞。問04では「おはせね」の「ね」が打消の意味を表す助動詞「ず」の已然形である。
   この「打消を表す語句」は助動詞「ず」「じ」「まじ」、助詞「で」の他に形容詞「なし」も該
   当する。

 問05・なんということをおっしゃるのだ。
    「なでふ」は元をただすと「なにと言ふ」である。これが「なにてふ」→「なんでふ」→
   「なでふ」と短縮され音便化した形である。

 問06・去る安元3年4月28日のこと(であっただろう)か。
    「去んじ」は元をただすとナ行変格活用動詞「去ぬ」の連用形「去に」(「往に」と同義)
   に過去の意味を表す助動詞「き」の連体形「し」がついた形。この「去にし」が「去んし」
   と音便化され「去んじ」と連濁となったたものである。意味は「去る」。現代語でも「去る
   平成2年12月15日」などという。「か」は疑問を表す係助詞、「と」は引用を表す格助
   詞、「よ」は詠嘆を表す間投助詞。

 問07・はい!
    「えい」は現代語の「はい」に相当し、呼びかけに対する応答を表す感動詞。
 問08・いや、そうではない。
    「いな」は否定の応答を表す感動詞。「さ」は副詞で「そう」と訳す。「も」は強意を表す
   係助詞。断定の助動詞「なり」は使われていないが、現代語訳は「さにあらず」と同様
   に訳してよい。

 問09・これこれ、お起こし申し上げるな。
    文頭にある「や」は相手に呼びかけるときに使われる感動詞。「おい」「ちょっと」「も
   し」「これこれ」などと訳す。

 問10・不安を解消なさる方法がないなあ。
    「や」が文末にある場合は感動詞ではなく助詞である。その場合、係助詞の場合と
   間投助詞の場合とがある。前者は疑問・反語を、後者は詠嘆を表す。問10は活用語
   の連体形の後に使われているが、「思しやる方ぞなき」という係結びの成立した一文
   の後に使われているので間投助詞である。

 問11・「ああ、(ひどいことだなあ)」と人々が言う。
    「あはれ」という見出し語で古語辞典を引くと「名詞」「形容動詞」「感動詞」の3項目
   が出てくる。このうち、「あはれなれ」「あはれに」などと活用語尾を伴っていれば形容
   動詞である。残りの2者のうち、文頭にあって他の語を伴って文節を構成しないもの
   は感動詞となる。なお、問11では「ああ」の後に「ひどいことだなあ」と訳されているが、
   これは「大方のみな荒れにたれば」という内容から補訳したものである。「あはれ」は
   古語では良い場合でも悪い場合でも使われるので注意したい。必ずしも悲哀や憐憫
   の感情を表すわけではない。

 問12・世の中のしみじみとした情趣も
    「あはれ」が名詞の場合は「しみじみとした感動・情趣」という意味で使われる。名詞
   の場合は助詞を伴って一文節を構成し、文中で主語(提示語)や目的語になる。

 問13・何事にもしみじみとした趣がある。
    これは「あはれなれ」で一語となるのでこれは基本形「あはれなり」となる形容動詞。
   係助詞「こそ」の係結びのため、文末で已然形となっている。

 問14・しみじみと(御覧になって)嘆き悲しみなさるけれど、
    これは「あはれがる」で一語の動詞である。「あはれ」に接尾辞の「がる」がついて動
   詞化したもので、「同情する」「感心する」「悲嘆する」といった意味がある。

 問15・ある人が感情をこらえきれなくなって、
    「ある」はラ行変格活用動詞「あり」の連体形もあるが、その場合は存在・状態・動作
   のいずれかを表す。問15の場合は「者」の中身を特定せずに漠然と指す用法なので、
   連体詞である。

 問16・(その場に)居合わせる人は全員
    「と」に注目。「と」の前後が同一の語なので、これは強意を表す格助詞になる。その
   場合「と」の前後とも動詞になるので、「あり」「ある」いずれも動詞である。最後に「人」
   とあるので「あり」「ある」は生物の存在を表す。従って「ある」とはせずに「いる」と訳す。

 問17・そうであるから、
    「さるは」は問03で示した「然り」の連体形に係助詞「は」がついて一語となった接続
   詞。文頭に置かれ、付属語を伴わずに一文節を構成する点が特徴。問題文は「それ
   だから死後の弔いも途絶えてしまうと、(故人が)どこの人か名前さえもわからなくなる」
   と現代語訳できる。

 問18・そのようなことがございました。
    「さる」は直後に続く「事」を修飾するので連体詞。問03の「さる」と同じである。
 問19・また、
    「また」が文頭にあって独立しているので接続詞である。前に述べた事柄に別の事柄
   を追加するときに使う。

 問20・その人もまた生きることができそうにないようでございます。
    「また」が使われているが、問19と異なるのは用言「生く」を修飾している点である。し
   たがって、これは接続詞ではなく副詞と判断する。「なむ」は係助詞。「まじく」は不可能、
   「める」は推定の意味を表す助動詞。「侍る」は「あり」の丁寧語である。

 問21・これといった用事もなくて
    「さしたる」は問04の「させる」と同じく打消の語とセットで使われる連体詞。
 問22・色褪せた菊に挿して(あの人のもとへ手紙を届け)た。
    これはサ行四段活用動詞「挿す」の連用形と、完了の意味を表す助動詞「たり」であ
   る。

 問23・いやもう、この世に生まれたからには、
    「いでや」は感動詞「いで」に詠嘆を表す間投助詞「や」がついたもの。
 問24・さあ、あなたも書いてごらんなさい。
    「いで」は問23にも記した感動詞だが、用法がいくつかあるので注意したい。ここで
   は「君」に対して「書い給へ」と命じているから、相手に何らかの行為を勧める意味。英
   語で言うと”Let’s”にあたる。

 問25・さあ、(今から)ぼたもちを作ろう。
    「いざ」は感動詞。相手を勧誘する場合にも使われるが、自分が何かを思い立って
   物事を始めるときにも発せられる。ここでは後者。「かいもちひ」はぼたもち。「せ」は
   サ行変格活用動詞で、ここでは「作る」の意味。最後の「む」は意志を表す助動詞で
   ある。

 問26・「さあねえ」などと言って、それぞれ(顔を)見合わせて、
    「いさ」には感動詞と副詞がある。前者の場合は文頭に使われ、主語にも述語にも
   修飾語にもならない。下に打消の語がない場合は相手の質問に即答できない場合に
   使われ、「さあ?」と訳す。

 問27・さあどうだか、お心のほどはわかりません。
    「いさ」が用言「知ら」を修飾しているのでこれは副詞。副詞の場合の「いさ」は必ず
   後続の語に打消の語を伴う。上の句は詳しく現代語訳すると「あなたは、さあどうだか、
   (心変わりしているかどうか)そのお心のほどは(私には)わかりません」となる。

 問28・さあ、どうであろうか。
    「いさや」が文頭にあって主語にも述語にも修飾語にもならなければ感動詞。問28
   は文末にあるので副詞である。副詞なら用言を修飾しているはずだが、この文では用
   言を含む文節にあたる「知らず」が省かれているため、結果的に外見上は副詞で文が
   終わっている。「いさや」が副詞の場合は問27と同様に必ず打消の語を伴い、その打
   消すべき用言を強調する働きがある。

 問29・ある家は去年焼けて今年建て直している。
    「あるいは」には連語の場合と接続詞の場合とがある。前者は「あるいはA、あるい
   はB」といった形で常に複数の事物を並列する形で使われるので、「あるいは」で始ま
   る文ないし文節が2度以上連続することになる。この問29では、それにあてはまるの
   で、これは連語の「あるいは」である。連語の「あるいは」は、元をただすとラ行変格活
   用動詞「あり」の連体形に奈良時代に限って使われた副助詞「い」と係助詞「は」がつ
   いて構成された語である。「ある+体言+は」と訳し、体言の部分は文脈に応じて適宜
   適切な語句を選択する。

 問30・枝の長さは2.1m、または、1.8m
    「あるいは」が使われた文だが、問29と異なる点は「AあるいはB」という形になって
   いる点である。ここでは「七尺」がAにあたり、「六尺」がBにあたる。この場合は「また
   は」「もしくは」と訳し、2つの事物からいずれか一つを選択する、いわゆる2者択一を
   表す接続詞として機能する。ちなみに「一尺」は0.3mである。したがって「七尺」「六
   尺」はそれぞれ現代語訳に示した長さになる。