こてんこてん蔵庫5(その7)             戻る

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第31回・格助詞(1)

 次の赤文字の語は助詞である。種類と意味を答えなさい。ただし中級以上の問題は助
詞以外のものも含まれています。用言の場合は活用種類・基本形・活用形を、助動詞の
場合は意味・基本形・活用形を答えなさい。また、中級以上の問題では赤文字の部分だ
けでは一語とならないものがあります。それらは「×」と解答してください。

【初級】
 問01・雀の子を犬君逃しつる。
 問02・わ庵は都のたつみしかぞ住む世をうぢ山と人は言ふなり
 問03・世人の心惑はす事、色欲にはしかず。
 問04・月出でたらむ夜は見おこせたまへ。
 問05・春は藤波見る。
 問06・君すでに都出でさせたまひぬ。
 問07・三月なりぬ。
 問08・大人なりにければ男も女も恥ぢがはしてありけれど、
 問09・賑はひ豊かなれば、人は頼まるるぞかし。
 問10・屏風の絵似ていとをかし。


【中級】
 問11・この歌はある人のいはく柿本人麻呂なり。
 問12・いとやむごとなき際にあらぬ、すぐれて時めき給ふありけり。
 問13・草の花はなでしこ。唐はさらなり。
 問14・扇どもをかしきを、そのころ人々持たり。
 問15・神無月のころ、栗栖野といふ所過ぎて、ある山里に尋ね入ること侍りしに、
 問16・都の東南より火出で来て、西北至る。
 問17・見苦しとて人書かするはうるさし。
 問18・おのが身はこの国の人あらず。
 問19・花は盛り、月は隈なきをのみ見るものかは。
 問20・古京はすで荒れて、新都はいまだならず。


【上級】
 問21・清盛公そのころいまだ大納言にておはしける、大きに恐れ騒がれけり。
 問22・木曾三百余騎、六千余騎中を縦さま、横さま、蜘蛛手、十文字に駆けわつて、
 問23・世になく清らなる玉男皇子さへ生まれたまひぬ。
 問24・らうたげに鳴く、懐に入れて眺めゐたまへり。
 問25・逢坂にて人別れける時に詠める。
 問26・戸を押し開け給へれば、渡殿の火も消えけり。
 問27・ひしひしと、ただ食ひ食ふ音のしければ、
 問28・桂川、月の明きぞ渡る。 
 問29・命あるものを見る、人ばかり久しきはなし。
 問30・潮海のほとりてあざれあへり。


【解答・解説】

 問01・格助詞/主格
    「が」をそのまま「が」と訳すことができるので、現代語と全く同じ用法である。
 問02・格助詞/連体修飾格
    現代語訳すると「私の庵は」となり、「が」を「の」と訳せる。したがって英文法でいうと
   所有格になる。後続の体言にかかる働きを持つ。

 問03・格助詞/連体修飾格
    問02と同じ。「の」をそのまま「の」と訳すことができるので、現代語と同じ用法である。
 問04・格助詞/主格
    現代語訳すると「月が出ている夜は」となる。助詞「の」を「が」と訳せる場合は主格を
   表す。

 問05・格助詞/動作の対象
    「藤波」が「見る」の直接目的語になっており、「を」が英文法で言うところの目的格を
   表している。これは「を」をそのまま「を」と訳せるので現代語と同じ用法である。

 問06・格助詞/動作の起点
    直後の用言が「出づ」なので、「を」が出発点を表していることがわかる。これも「を」
   をそのまま「を」と訳せるので現代語と同じ用法である。

 問07・格助詞/時
    直前の体言が「三月」なので、「に」が時を表していることがわかる。これも「に」をそ
   のまま「に」と訳せるので現代語と同じ用法である。

 問08・格助詞/変化の結果
    いわゆる「〜になる」という表現。これも「に」をそのまま「に」と訳せるので現代語と
   同じ用法である。

 問09・格助詞/受身
    直後の文節に受身の助動詞「る」があるので、「に」が受身の対象を表すことがわか
   る。これも「に」をそのまま「に」と訳せるので現代語と同じ用法である。

 問10・格助詞/比較の対象
    直後の文節に用言「似る」があるので比較的判然としている。これも「に」をそのまま
   「に」と訳せるので現代語と同じ用法である。

 問11・格助詞/準体用法
    「が」の後に既出の体言「歌」が省かれており、体言の代わりに「が」が使われている。
   「が」が体言に準じた働きをすることから準体用法という。「この歌はある人の言うこと
   には柿本人麻呂の歌である」という現代語訳になる。「が」を「の」と訳し、省かれた体
   言を補って訳せることがポイントである。

 問12・格助詞/同格
    「たいして高貴な身分ではない人で非常に帝の寵愛を受けていらっしゃる人がいた」
   という現代語訳になる。「たいして高貴な身分ではない人」と「非常に帝の寵愛を受け
   ていらっしゃる人」とが同じ人物を指す。格助詞「に」を「で」と訳して「AでBは」という構
   文を形成し「A=B」の関係が成立する場合は同格である。

 問13・格助詞/準体用法
    「の」の後に既出の体言「なでしこ」が省かれており、体言の代わりに「の」が使われ
   ている。従って、問11と同じ用法である。「草の花はなでしこが良い。中国のなでしこ
   は言うまでもない」という現代語訳になる。

 問14・格助詞/同格
    「扇で風流なものをその頃女房たちは持っていた」という現代語訳になる。つまり「扇」
   と「風流なもの」とが同じものを指しているので問12の関係が成立する。したがって同
   格になる。

 問15・格助詞/経由地
    直前の語が場所を表し、後続の用言が「通る」「過ぐ」である場合は経由地や通過点
   を表す。これは「を」をそのまま「を」と訳せるので現代語と同じ用法である。

 問16・格助詞/方向
    直前の語が方角を表す体言であることに注目したい。これも「に」をそのまま「に」と訳
   せるので現代語と同じ用法である。

 問17・格助詞/使役の対象
    後続の文節に使役の助動詞「す」が使われている点に注目。「AにBさせる」という構
   文である。これも「に」をそのまま「に」と訳せるので現代語と同じ用法である。

 問18・断定/なり/連用形
    「に」を「で」と訳せること、後続の語が「あり」「侍り」「候ふ」の場合は断定の助動詞で
   ある。

 問19・×
    これは「盛りに」で一語。形容動詞ナリ活用「盛りなり」の連用形である。
 問20・×
    これは「すでに」で一語。後続の用言「荒れ」を修飾しているので副詞である。
 問21・接続助詞/逆接の確定条件
    「平清盛はその当時はまだ大納言でいらっしゃったが、人々からは非常に恐れられ
   騒がれた」という現代語訳になる。「が」をそのまま「が」と訳せるが、「が」を挟む前後
   が逆接の関係になること、また「が」の直後が読点であることから格助詞ではなく接続
   助詞と判断する。

 問22・格助詞/連体修飾格
    問02と同じ。「が」を「の」と訳せる。
 問23・格助詞/比喩
    「玉の」とは「玉のような」という意味で後続の「男皇子」の美しさを喩えた表現である。
   現代語訳は「世の中にまたとなくきれいな玉のような皇子までもがお生まれになった」
   となる。

 問24・接続助詞/順接の確定条件
    「を」を挟む前後は、「懐に入れて眺めゐ」という行為に至った理由が「らうたげに鳴く」
   ということ、つまり原因と結果の関係になる。したがって「を」は順接の確定条件で原因・
   理由を表す接続助詞とわかる。「を」を「を」と訳すことができないこと、「を」の直後が読
   点であることが格助詞との判別のポイントになる。

 問25・格助詞/離合の対象
    「を」を「と」と訳せること、後続の用言が「逢ふ」か「別る」など離合を表す語である点
   に注目。

 問26・完了/ぬ/連用形
    直前の語が用言の連用形である点に注目。助詞「に」が活用語から接続する場合は
   連体形である。

 問27・格助詞/強意
    直前の語は用言の連用形であるが「に」の後も同じ用言がある点に注目。この場合
   はその用言を強調する働きをもつ。現代語訳は「むしゃむしゃと、ただもうひたすら食
   べに食べる音がしたので」となる。これも現代語と同じ用法であるといえよう。

 問28・格助詞/時
    直前の語が用言の連体形なので、「に」を断定の助動詞「なり」の連体形や接続助
   詞と誤りがちだが、「明き」の後に体言を補うことができることに注目。現代語訳は「桂
   川を月の光が明るい時に渡る」となる。したがって「明き」の後に「時」が省かれている
   と考えて訳す。これも連体形の用法の1つでもある準体用法である。

 問29・接続助詞/単純接続
    「命のあるものを観察すると、人間ほど寿命の長い生き物はない」という現代語訳に
   なる。「に」を「と」と訳せることが判別のポイント。助詞の後が読点である場合は原則と
   して接続助詞である。

 問30・×
    これは「にて」で一語の格助詞である。「潮海のそばで」と訳すことができる。


第32回・格助詞(2)

 次の赤文字の語は助詞である。種類と意味を答えなさい。ただし中級以上の問題は助
詞以外のものも含まれています。用言の場合は活用種類・基本形・活用形を、助動詞の
場合は意味・基本形・活用形を答えなさい。また、中級以上の問題では赤文字の部分だ
けでは一語とならないものがあります。それらは「×」と解答してください。

【初級】
 問01・前栽の中に隠れゐて、河内往ぬる顔にて見れば、
 問02・去る者日々に疎し言へることなれば、
 問03・大津より浦戸をさして漕ぎ出づ。
 問04・去年から山籠りして侍るなり。
 問05・潮海のほとりにてあざりあへり。
 問06・そこなりける岩に指の血して書きつけける。
 問07・汝一所で死なんと思ふためなり。
 問08・一日の命、万金よりも重し。
 問09・十二にて元服したまふ。
 問10・もとより友とする人、一人二人して行きけり。


【中級】
 問11・すずろに飲ませつれば、麗はしき人も忽ちに狂人なりて、
 問12・木の間より洩りくる月の影見れば心づくしの秋は来にけり
 問13・月夜よみ妹に逢はむと直路から我は来れども夜そ更けにける
 問14・深き河を舟にて渡る。
 問15・宮の御いらへをば、女別当して書かせ給へり。
 問16・その主すみか無常を争ふさま、言はば朝顔の露に異ならず。
 問17・時の間の煙ともなりなんとぞ、うち見るより思はるる。
 問18・心から身を失ひける男とぞ。
 問19・男子の声は幼げにて文読みたる、いと美し。
 問20・足摺りをして泣けども甲斐なし。


【上級】
 問21・生きし生ける者、いづれか歌を詠まざりける。
 問22・ある時思ひ立ちて、ただ一人徒歩より詣でけり。
 問23・徒歩から罷りて、言ひ慰め侍らむ。
 問24・父は直人にて、母なむ藤原なりける。
 問25・行く河の流れは絶えずして、しかも元の水にあらず。
 問26・頼めずは人をまつちの山なり寝なましものをいさよひの月
 問27・もろともにあはれと思へ山桜花よりほかに知る人もなし
 問28・吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風を嵐と言ふらむ
 問29・御物の怪にて時々悩ませ給ふ。
 問30・奏しつる事ども申すを、聞こしめしてのたまふ。


【解答・解説】

 問01・格助詞/方向
    「へ」をそのまま「へ」と訳すことができるので、現代語と全く同じ用法である。
 問02・格助詞/引用
    「去る者日々に疎し」が諺なのでそれを助詞「と」で受けている。これも「と」をそのま
   ま「と」と訳すことができるので、現代語と全く同じ用法である。

 問03・格助詞/起点
    動作が始まる起点を表す。「より」をそのまま「より」と訳すことができるので、現代語
   と同じ用法である。

 問04・格助詞/起点
    問03と同じ。これも現代語と同じ用法である。
 問05・格助詞/場所
    動作が行なわれる場所を示す。「抽選会場にて景品と交換します。」という言い方が
   あるので現代語と同じ用法である。

 問06・格助詞/手段・方法
    「で」と訳す。動作を行なう手段や方法を表す用法で、これは現代語にはない。
 問07・格助詞/共同
    動作を複数の人物で行なうときの共同者を表す。これは「と」をそのまま「と」と訳す
   ことができるので、現代語と全く同じ用法である。

 問08・格助詞/比較
    2つの事物を比較するときの言い方。これも「より」をそのまま「より」と訳せるので現
   代語と同じ用法である。

 問09・格助詞/時
    問06と同じく「で」と訳す。動作を行なう手段や方法を表す用法で、これは現代語に
   はない。

 問10・格助詞/共同
    問07の「と」と同じく動作の共同を表す。
 問11・格助詞/変化の結果
    「AがBとなる」「AがBになる」という表現を「変化の結果」という。「と」をそのまま「と」
   と訳すことができるので、現代語と全く同じ用法である。

 問12・格助詞/通過点・経由地
    「木々の間を通って洩れて来る月の光の影」という現代語訳になる。したがって動作
   の通過点や経由地を表す用法である。

 問13・格助詞/通過点・経由地
    「直路」とは「近道」という意味。「近道を通って私は来たのだが」と訳す。問12と同じ
   く動作の通過点や経由地を表す用法である。

 問14・格助詞/手段・方法
    問06と同じく「で」と訳す。
 問15・格助詞/使役の対象
    「AにBをさせる」という表現を使役というが、「Aに」にあたる部分を「使役の対象」と
   いう。問題文では「女別当」が使役の対象になる。

 問16・格助詞/並列
    現代語の「AとBとCを買う」という言い方と同じで、事物を列挙するときの表現。した
   がって現代語と同じ用法である。

 問17・格助詞/即時
    「AするとすぐにBする」という構文。ここでは「ちょっと見るとすぐにそう自然に思う」と
   いう現代語訳になる。

 問18・格助詞/ 原因・理由
    「心」が原因で「身を失った」という関係になるので、原因・理由を表す。
 問19・×
    これはナリ活用の形容動詞「幼げなり」の連用形「幼げに」に接続助詞「て」がついた
   形である。

 問20・×
    これはサ行変格活用動詞「す」の連用形「し」に接続助詞「て」がついた形。「して」を
   そのまま「して」と現代語訳できる場合は、助詞ではない。また「し」の部分に、英語の
   ”do”の意味がある場合はサ変動詞である。

 問21・格助詞/強意
    連用形の後に使われて、直前の語と同一の動詞が「と」の後にも続く場合は強意を
   表す。

 問22・格助詞/手段・方法
    問06と同じ。「で」と訳せる。
 問23・格助詞/手段・方法
    問06と同じ。「で」と訳せる。
 問24・×
    これは断定の助動詞「なり」の連用形「に」に接続助詞「て」がついた形。直前の語は
   体言なので判別が難しいが、「にて」を「であって」と訳せることが判別のポイントである。

 問25・接続助詞/単純接続
    助動詞「ず」は未然形・連用形・終止形が同形であるが、「して」が格助詞の場合は体
   言ないし連体形に続いて用いられるので、格助詞の「して」が「ず」の後にくることはない。
   一方、接続助詞の「して」は連用形の後に使われる。

 問26・接続助詞/逆接の仮定条件
    終止形の後に続いて用いられるので、外見では格助詞の「と」と区別できないが、「と」
   を境に前後の文脈がどういう関係になっているかを見る。逆接になっていれば接続助
   詞である。

 問27・格助詞/限定
    後続の語が打消(打消推量や打消意志なども含む)の助動詞や形容詞「なし」の場
   合、「〜以外は〜ない」という意味になり、打消の語とセットで否定の限定を表す。

 問28・接続助詞/順接の確定条件
    「風が吹くと」と訳せるので、已然形の後に使われる接続助詞の「ば」と同じ用法であ
   る。

 問29・格助詞/原因・理由
    現代語訳は「御物の怪のためにときどき病を患っていらっしゃる」となる。すなわち
   「病」の原因が「物の怪」にあるという関係なので、「にて」は原因・理由を表すことがわ
   かる。

 問30・×
    これはサ行四段活用動詞「聞こしめす」の連用形「聞こしめし」に接続助詞「て」がつ
   いた形。「して」で切ると直前の語が動詞の語幹になっている点に注目。


第33回・接続助詞(1)

 次の赤文字の語は助詞である。種類と意味を答えなさい。ただし中級以上の問題は助
詞以外のものも含まれています。用言の場合は活用種類・基本形・活用形を、助動詞の
場合は意味・基本形・活用形を答えなさい。また、中級以上の問題では赤文字の部分だ
けでは一語とならないものがあります。それらは「×」と解答してください。

【初級】
 問01・死を憎ま、生を愛すべし。
 問02・飽かず惜しと思はば、千年を過ぐすとも、一夜の夢の心地こそせめ。
 問03・嵐のみ吹くめる宿に花すすき穂に出でたりかひやなからむ
 問04・木の葉をかきのきたれ、つやつやものも見えず。
 問05・打てども打てども働かず。
 問06・大きなる鉢にうづ高く盛りて、膝元に置きつつ食ひながら文をも読みけり。
 問07・君来んと言ひし夜ごとに過ぎぬれば頼まぬものの恋ひつつぞ経る
 問08・それを忘れて物を見て日を暮らす、愚かなる事はなほまさりたるものを
 問09・いたましうするものから、下戸ならぬこそ男は良けれ。
 問10・待つ人も来ぬものゆゑに鶯の鳴きつる花を折りてけるかな


【中級】
 問11・用ありて行きたりとも、その事果てなば疾く帰るべし。
 問12・長くとも四十に足らぬほどにて死なんこそめやすかるべけれ。
 問13・立て並べたるほどは、取られん事いづれの石とも知らねども、
 問14・筆取れ物書かれ、楽器を取れば音を立てんと思ふ。
 問15・富士の山を見れ、五月のつごもりに雪いと白う降れり。
 問16・今は亡き人なれ、かばかりの事も忘れがたし。
 問17・耳鼻欠けうげながら抜けにけり。
 問18・物思ふ過ぐる月日も知らぬ間に今年も今日に果てぬとか聞く
 問19・いかにもののあはれもなからん。
 問20・ただものをのみ見んとするなるべし。


【上級】
 問21・事を知り、世を知れれ願はず、走らず。
 問22・花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは。
 問23・もし死なずありとも、限りと思ふなり。
 問24・今日来ず明日は雪とぞ降りなまし消えずはありとも花と見ましや
 問25・八重桜は異様のものなり。植ゑずともありなん。
 問26・枕上に寄りゐて泣き悲しめども、聞くらんとも覚えず。
 問27・秋来ぬ目にはさやかに見えねども風の音にぞ驚かれぬる
 問28・生まれしを帰らぬものをわが宿に小松のあるを見るが悲しき
 問29・玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることの弱りもぞする
 問30・大事を思ひ立たん人は、去り難く、心にかからん事の本意を遂げずしてさながら
     つべきなり。


【解答・解説】

 問01・接続助詞/順接・仮定条件
    まだ実現していないのだが、それが仮に実現したものとして想定する表現を仮定条
   件という。このうち順接の仮定は未然形に接続助詞「ば」のついた形で表す。一方、已
   然形に接続助詞「ば」のついた形は順接の確定条件になるので注意。問題文は「死を
   憎むならば」と訳す。

 問02・接続助詞/逆接・仮定条件
    終止形に「と」「とも」のついた形が逆接の仮定条件である。問題文は「千年もの歳月
   を過ごすとしても」と訳す。

 問03・接続助詞/逆接・仮定条件
    問02と同じ。問題文は「嵐ばかりが吹く私の家で薄の穂のように言葉に出しても」と
   訳す。

 問04・接続助詞/逆接・確定条件
    すでにその事柄が起きたことを前提にする表現を確定条件という。問題文は「木の
   葉を取り除いてみたけれど」と訳す。

 問05・接続助詞/逆接・確定条件
    問04と同じく確定条件。問題文は「(馬の横腹を鞭で)打っても打っても」と訳す。現
   代語でも「行けども行けども一向に着かない」という表現が今なお残っている。

 問06・接続助詞/動作の並行
    現代語と同じく「ながら」と訳す。AB2つの動作が同時に行なわれていることを表す。
   ここではAが「食ひ」で、B「文を読み」である。

 問07・接続助詞/逆接・確定条件
    逆接の確定条件は已然形の後に使う「ど」「ども」の他に、「ものの」「ものから」「もの
   ゆゑ」「ものを」があり、これらは連体形の後に使う。問題文の「頼まぬものの」は「あて
   にしないけれど」と訳す。

 問08・接続助詞/逆接・確定条件
    2つの文末や句末に「ものを」が使われた場合は逆接ではなく、実現していないこと
   を詠嘆の気持をこめて「〜のになあ」と訳す終助詞的用法になる。問題文は「愚かだ
   という点ではあの法師よりもいっそう甚だしいのになあ」と訳す。

 問09・接続助詞/逆接・確定条件
    問07と同じ。「酒を勧められて困ったような態度をするけれど」と訳す。
 問10・接続助詞/逆接・確定条件
    問07の「と」と同じく動作の共同を表す。「私がいとしく思って待っているあの人は来
   ないけれども」と訳す。

 問11・接続助詞/逆接・仮定条件
    問02と同じ。「用事があって行ったとしても」と訳す。
 問12・接続助詞/逆接・確定条件
    問11と同じ「とも」で用法も同じだが、接続助詞「とも」が形容詞から接続する場合は、
   終止形ではなく本活用の連用形から接続する点に注意。「長く生きるにしても」と訳す。

 問13・×
    後続の「知ら」の内容が「取られんこといずれの石」で、それを引用の格助詞「と」が
   受けて係助詞の「も」につながった形で、これは接続助詞ではない。現代語訳は「立
   てて並べているときは、取られるのはどの石とも」となり、「とも」をそのまま「とも」と訳
   すことができる。これは現代語との「実施するともしないとも言わない」という表現の「と
   も」と同じである。

 問14・接続助詞/順接・確定条件
    問題文は「筆を手に取ると」と訳す。これは確定条件のなかでも恒常条件といい、「A
   という現象があると必ずBとなる。」という関係を表す。すなわち、「筆を手に取ると、必
   ず何か物を自然に書く」ということで、Aにあたるものが「筆取れ」で、Bが「物書かれ」
   になる。

 問15・接続助詞/順接・確定条件
    問題文は「富士の山を見ると」と訳す。これは確定条件の中でも偶然条件といい、「A
   という現象が起きたらたまたまBとなった。」という関係を表す。Aにあたるものが「富士
   の山を見れ」でBが「雪いと白う降れり」である。

 問16・接続助詞/順接・確定条件
    問題文は「今ではこの世にいない人であるので」と訳す。これは確定条件の中でも原
   因・理由で、「AのためBである。」という関係を表す。Aにあたるものが「今は亡き人な
   れ」でBが「かばかりの事も忘れがたし」である。

 問17・接続助詞/逆接・確定条件
    「ながら」には動作の並行の他に逆接の確定条件を表す用法があるので注意。問題
   文は「耳と鼻が取れて失ったけれど」と訳す。

 問18・接続助詞/動作の並行
    問03と同じ「と」だが、逆接の確定条件の他に、動作の並行を表す用法がある。「物
   思いをすると同時に」と訳す。

 問19・×
    直前の語が副詞で、活用語の連体形ではないので接続助詞ではない。これは名詞
   「物」に格助詞「の」がついた形で「ものの」をそのまま「物の」と訳せる。

 問20・×
    問19と同じく直前の語が副詞で、活用語の連体形ではないので接続助詞ではない。
   これは名詞「物」に格助詞「を」がついた形で「ものを」をそのまま「物を」と訳せる。

 問21・接続助詞/順接・確定条件
    「知れ」がラ行四段活用動詞の已然形なので、直前の「れ」は存続の助動詞「り」の已
   然形である。したがって已然形に接続助詞「ば」のついた形となる。「都に住むことへの
   危険を知り、俗世間のつまらなさを知っているので」と訳す。

 問22・格助詞/特定
    直前の語が活用語の未然形でもなけれじ已然形でもないので、これは接続助詞では
   ない。また、「ば」がなくても文意が通じる点に注目。これは係助詞「は」で直前の語が
   「を」なので濁音化したものである。

 問23・格助詞/単純接続
    この「ずは」は打消の助動詞「ず」の連用形でこれに係助詞「は」がついた形。この場
   合「は」は接続助詞的に単純接続を表す。「死なずは」は「死なないで」と訳す。

 問24・接続助詞/順接・確定条件
    この「ずは」は打消の助動詞「ず」の未然形でこれに接続助詞「ば」がついた形。した
   がって「ずば」が本来の形だが清音で表記されたものである。未然形に「ば」がついた
   形なので、当然仮定条件となる。したがって問題文は「もし私が今日来ないならば」と
   訳す。

 問25・接続助詞/逆接の仮定条件
    助動詞「ず」に接続助詞「とも」がついた形。この場合「ず」は終止形ではなく連用形
   から接続する。問題文は「植えなくても」と訳す。

 問26・×
    直前の語は現在推量の助動詞「らむ」の終止形でいかにも「とも」が接続助詞に思
   われるが、これは引用を表す格助詞「と」に係助詞「も」がついた形である。この場合
   「とも」をそのまま「とも」と訳せる。問題文全文の現代語訳は「枕元に近寄って座って
   泣き悲しむけれど、その声を本人が聞いているとも思われない」となる。つまり「聞くら
   ん」の部分が引用になる。

 問27・×
    この「と」は引用の格助詞で「秋来ぬ」が引用の部分になる。「秋が来た」と訳す。「と」
   をそのまま「と」と訳せる点が接続助詞との相違点だ。

 問28・接続助詞/順接の確定条件
    「ぬ」は打消の助動詞「ず」の連体形だから「ものを」は接続助詞となる。「生まれた子
   も帰らないのに」と訳す。

 問29・×
    これは「ながらへ」で一語のハ行下二段活用動詞である。直前の「ね」は完了の助動
   詞「ぬ」の命令形。接続助詞「ながら」は連用形の後に使われる点からも違いがわかる。

 問30・接続助詞/全部
    直前の「さ」は副詞。接続助詞「ながら」は普通、活用語の連用形や形容詞の語幹の
   後に続いて使われるが、名詞や副詞の後に使われることもある。この場合は「〜のま
   ま」と訳し、該当するもの全部を表す。


第34回・接続助詞(2)

 次の赤文字の語は助詞である。種類と意味を答えなさい。ただし中級以上の問題は助
詞以外のものも含まれています。用言の場合は活用種類・基本形・活用形を、助動詞の
場合は意味・基本形・活用形を答えなさい。また、中級以上の問題では赤文字の部分だ
けでは一語とならないものがあります。それらは「×」と解答してください。

【初級】
 問01・物を言ふも、くぐもり声に響き聞こえず。
 問02・とかく直しけれども、つひに廻らいたづらに立てりけり。
 問03・命あるものを見る、人ばかり久しきはなし。
 問04・しばし奏でて後、抜かんとする、おほかた抜かれず。
 問05・あまり憎き、その法師をばまづ斬れ。
 問06・御室にいみじき児のありける、いかで誘ひ出して遊ばんと企む法師どもありて、
 問07・八重桜は奈良の都にのみありける、このごろぞ世に多くなり侍るなる。
 問08・「時鳥の声尋ねに行かばや」と言ふ、我も我もと出で立つ。
 問09・長門の前司といふ人の女二人ありける、姉は人の妻にてありける。
 問10・めでたくは書きて候ふ、難少々候ふ。


【中級】
 問11・落ちぬべきまで簾張り出でて押し合ひつつ、一事も見漏らさじとまぼりて、
 問12・いとけなき子の、なほ乳を吸ひつつ臥せるなどもありけり。
 問13・かくしつつ世は尽きぬべきにやと思さるるに、
 問14・田子の浦にうち出でてみれば白妙の富士の高嶺に雪は降りつつ
 問15・御簾などもみな吹き散らしけり。
 問16・心づきなき事あらん折は、なかなかその由を言ひん。
 問17・行く河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。
 問18・身死して財残ることは、智者のせざる処なり。
 問19・御迎へに来む人をば、長き爪して眼をつかみ潰さん。
 問20・あやまちすな。心して降りよ。


【上級】
 問21・わざとならぬ庭の草も心あるさま、簀子・透垣のたよりをかしく、
 問22・もとのすみかに帰りてぞ、さら悲しきことは多かるべき。
 問23・同じき年の冬、なほこの京に帰り給ひき。
 問24・住吉の神の導き給ふまま、はや舟出してこの浦を去りね。
 問25・よき人ののどやか住みなしたる所は、さし入りたる月の色もひときはしみじみと
    見ゆるぞかし。
 問26・かの白く咲けるなん、夕顔と申し侍る。
 問27・とまれかくまれ、まずとく聞こえむ。
 問28・白玉か何ぞと人の問ひしとき露と答えて消えなましもの
 問29・いとやむごとなき際にはあらぬ、すぐれて時めき給ふありけり。
 問30・我等生死の到来、ただ今にもやあらん。


【解答・解説】

 問01・接続助詞/単純接続
    「て」をそのまま「て」と訳すことができるので、現代語と全く同じ用法である。単純接
   続の助詞「て」は、主に出来事を時間の早い順に列挙する場合に使う。

 問02・接続助詞/打消接続
    「て」と同じく単純に前の文節と後の文節とをつなげているだけの働きだが、前の文
   節の内容を打消してから接続するのが「で」の働きである。

 問03・接続助詞/単純接続
    「に」には順接・逆接・単純接続の3通りの用法がある。単純接続の場合は「〜する
   と」と訳すことができる。同じ単純接続でも「て」とは訳し方が異なる点に注意。問題文
   は「命あるものを観察すると」と現代語訳できるので単純接続である。

 問04・接続助詞/逆接
    「に」の前までが「しばらく舞をして足鼎を頭から抜こうとする」、「に」の後は「全く抜く
   ことができない」と訳せるので、前後が逆接の関係であることがわかる。

 問05・接続助詞/順接
    接続助詞「に」が順接の場合は原因・理由を表す。問題文は「あまりにも憎いので」
   という現代語訳になり、「その法師をばまづ斬れ」と命じる理由を表す。

 問06・接続助詞/順接
    「を」も「に」と同じく、順接・逆接・単純接続の3通りの用法がある。そして順接の場
   合は「に」と同様に原因・理由を表す。問題文は「仁和寺にすばらしい稚児がいたの
   で」という現代語訳になり、「いかで誘ひ出して遊ばん」と考えた理由になる。したがっ
   て順接になる。「を」も「に」と同様に順接の場合は原因・理由を表す。

 問07・接続助詞/逆接
    「を」の前までが「八重桜は奈良の都にだけあった」、「を」の後は「この頃は世の中
   に多くなっているようです」と訳せるので前後が逆接の関係であることがわかる。

 問08・接続助詞/単純接続
    現代語訳は「ある人が『ほととぎすがどこで鳴いているのか、その鳴き声を探しに行
   きたい』と言うと、『私も』『私も』と言って出かける」となる。したがって単純接続でよい。

 問09・接続助詞/単純接続
    現代語訳は「長門の前司という人の女が二人いたが、姉は人妻であった」となる。こ
   の現代語訳中の「が」は、逆接の「が」には当たらないので注意しよう。

 問10・接続助詞/逆接
    「が」の前までが「立派に書いてございます」、「が」の後は「欠点が少々ございます」
   と訳せるので、前後が逆接の関係であることがわかる。

 問11・接続助詞/動作の反復
    「つつ」は現代語にも存在するが、古語では反復・並行・継続・詠嘆の4種がある。
   「押し合ひつつ」とは「押し合い押し合いして」と訳すことができ、同じ動作を反復して
   いることになる。

 問12・接続助詞/動作の並行
    「母の乳を吸いながら横になっている」と訳すことができ、「吸ひ」「臥せ」という2つの
   動作が同時に行なわれていることになる。

 問13・接続助詞/動作の継続
    現代語訳は「このまま世の中が尽きてしまうのであろうか」となる。つまり同じ状態が
   ずっと続くことを意味する。

 問14・接続助詞/詠嘆
    和歌の句末で用いられる「つつ」は「つつ止め」と言われ、「つつ」を含む文節中にあ
   る動詞に対する詠嘆の心情を表す。

 問15・完了/つ/連用形
    付属語で「て」が一語となる場合は、接続助詞の他に完了や強意の意味を持つ助動
   詞「つ」の未然形・連用形がある。判別のポイントは「て」の後に続く語を見る。「て」が
   助動詞の場合は「て」の後続の語も原則として助動詞となる。

 問16・強意/つ/未然形
    これも「て」の後に続く語が助動詞なので「て」は接続助詞ではない。「て」の後に続く
   語が助動詞になる場合のうち、「む」「むず」が続く場合の「て」は完了ではなく強意で、
   「む」「むず」の意味をより強める働きがある。

 問17・接続助詞/単純接続
    「て」と同様に単純接続の働きをする。「して」は打消の助動詞「ず」の連用形の後に
   使われると「ずして」となるが、その場合は「で」と同じく打消接続になる。

 問18・×
    これはサ行変格活用動詞「死す」の連用形「死し」に接続助詞「て」がついた形。した
   がって「して」で一語とはならない。

 問19・×
    これは「して」で一語だが、「して」の直前の語が連用形ではなく名詞なので、接続助
   詞ではなく格助詞である。したがって「〜て」と訳してはならない。「〜で」と訳し、動作を
   する際の手段を表す。問題文は「長い爪で眼をつかんで潰そう」と訳す。

 問20・×
    これはサ行変格活用動詞「心す」の連用形「心し」に接続助詞「て」がついた形。した
   がって「して」で一語とはならない。

 問21・断定/なり/連用形
    直前の語が体言ないし連体形で、「に」を「〜で」「〜であって」と訳すことができる場
   合は断定の助動詞を考える。問題文は「特に手を加えてもいない庭の草も情趣が感じ
   られる様子であって」という現代語訳になる。

 問22・×
    これは「さらに」で一語の副詞で「多かる」を修飾している。
 問23・完了/ぬ/連用形
    「に」の前の語が連用形である点が判別のポイントである。後続の「き」は過去の意
   味をもつ助動詞。「帰り給ひにき」で「お帰りになってしまった」と訳す。

 問24・格助詞/対象
    「住吉の明神様のお導きになるままに」という現代語訳になる。「に」をそのまま「に」
   と訳すことができる点に注目。これは現代語と同じ用法である。

 問25・×
    これは形容動詞ナリ活用「のどやかなり」の連用形「のどやかに」で一語である。
 問26・格助詞/動作の対象
    現代語訳は「あの白く咲いている花を夕顔と申し上げます。」となる。「を」をそのまま
   「を」と訳すことができるので現代語と同じ用法である。

 問27・間投助詞/強意
    「ともかくも、さっそく申し上げよう」という現代語訳になる。「を」を取り除くと問題文は
   「とまれかくまれ、まづとく聞こえむ」となるが、それでも文の意味が変わらない点に注
   目したい。

 問28・×
    「を」で一語ではなく「ものを」で一語。接続助詞「ものを」は逆接で使われることが多
   いが、和歌の場合は実現しなかったことに対する詠嘆を表す。問題文は「『真珠です
   か、それとも何ですか』とあの女が訊ねたとき、『露だよ』と答えて自分もあの女と一緒
   に消えてしまえば良かったのに」という現代語訳になる。

 問29・格助詞/同格
    現代語訳は「とても身分の高くはない人で、格別に帝から寵愛を受けていらっしゃる
   方がいた」となる。「とても身分の高くはない人」と「格別に帝から寵愛を受けていらっし
   ゃる方」は同一人物を指すので同格になる。「が」を「で」と訳すことができるので接続
   助詞ではない。

 問30・格助詞/連体修飾格
    「が」を「の」と訳すことができる点に注目。「我々の死の到来は、この今の瞬間であ
   るかも知れない」という現代語訳になる。「が」を「の」と訳すことができるので、接続助
   詞ではない。


第35回・副助詞

 次の赤文字の語は助詞である。種類と意味を答えなさい。ただし中級以上の問題は助
詞以外のものも含まれています。用言の場合は活用種類・基本形・活用形を、助動詞の
場合は意味・基本形・活用形を答えなさい。また、中級以上の問題では赤文字の部分だ
けでは一語とならないものがあります。それらは「×」と解答してください。

【初級】
 問01・いはんや、河原などには馬・車の行き交ふ道だになし。
 問02・聖などすら前の世の事夢に見るはいと難かなるを、
 問03・神さへいといみじう鳴り、雨もいたう降りければ、
 問04・ただ物をのみ見んとすなるべし。
 問05・睦ましく使ひ給ふ若き男、また上童一人、例の随人ばかりぞありける。
 問06・咲きぬべきほどの梢、散り萎れたる庭などこそ見所多けれ。
 問07・仁和寺にある法師、年寄るまで石清水を拝まざりければ、
 問08・人の心すなほならねば、偽りなきにもあらず。
 問09・「我こそ得め」など言ふ者どもありて、跡に争ひたる、様悪し。
 問10・今、羽根といふ所に来ぬ。


【中級】
 問11・ここにも心にもあらでかく罷るに、昇らむをだに見送り給へ。
 問12・何事も古き世のみぞ慕はしき。
 問13・命あるものを見るに、人ばかり久しきはなし。
 問14・雨など降るもをかし。
 問15・あやしき家の見所もなき梅の木などには、かしがましきまでぞ鳴く。
 問16・格子どもも人はなくて開きぬ。
 問17・よく知らぬよして、さりながらつまづま合はせて語る虚言は、恐ろしき事なり。
 問18・その人ほどなく失せにけりと聞き侍り
 問19・もとより友とする人一人二人て行きけり。
 問20・夜になして京へ入らむと思へば、急ぎもせぬほどに月出でぬ。


【解答・解説】

 問01・副助詞/類推
    現代語訳は「ましてや、河原などでは馬や車の行き交う道さえもない」となる。類推
   とは程度の軽いものを上げてそれよりも程度の重いものを推測させる用法。

 問02・副助詞/類推
    現代語訳は「聖職者などでさえ前世のことを夢で見ることは容易ではないのに」とな
   る。聖職者でさえ容易ではないのだから凡人ではなおさら容易ではないことをほのめ
   かしている。

 問03・副助詞/添加
    現代語訳は「雷までもがひどく鳴り、雨も激しく降ったので」となる。添加とはAがあっ
   たところに新たにBが加わることを意味する。Aにあたるものは問題文には書かれて
   いないが、「神」がBにあたる。

 問04・副助詞/限定
    現代語訳は「ただ(祭りの行列)そのものだけを見ようとするようである」となる。「の
   み」は現代語と同じ用法である。

 問05・副助詞/限定
    現代語訳は「いつもの隋人だけがいた」となる。「ばかり」もほぼ現代語と同じ用法で
   ある。

 問06・副助詞/例示
    現代語訳は「今にも咲きそうな花の梢や、散ったり萎れている花がある庭などが特
   に見るべき価値が多いのである」となる。「見所多けれ」に該当する具体的な例として、
   「咲きぬべきほどの梢」と「散り萎れたる庭」を挙げている。

 問07・副助詞/範囲
    現代語訳は「仁和寺にいる、ある法師が年をとるまで石清水八幡宮を参拝しなかっ
   たので」となる。これは現代語と同じ用法である。

 問08・副助詞/強意
    現代語訳は「人の心は素直ではないので嘘がないわけでもない」となる。問題文か
   ら「し」を取り除くと「偽りなきにもあらず」となるが、それでも文意が変わらない。それ
   が副助詞「し」の特徴である。

 問09・副助詞/引用
    現代語訳は「私こそ手に入れよう」などという者がいて(死後に遺産を)争っているこ
   とは見苦しい」となる。「など」を「と」と置き換えると、「『我こそ得め』と言ふ者どもあり
   て、跡に争ひたる、様悪し。」となるが、それでも文意は変わらないので、「など」は格
   助詞「と」と同じく引用であることがわかる。

 問10・副助詞/強意
    現代語訳は「今、羽根という場所に来た」となる。これも問08と同じで「し」を取り除い
   ても文意は変わらない。

 問11・副助詞/最小限の希望
    現代語訳は「せめて天に昇る姿だけでもお見送り下さい」となる。述語の部分に命令
   ・仮定・意志・願望の表現がある場合の「だに」は類推ではなく最小限度の希望を表し、
   「せめて〜だけ」と訳す。

 問12・副助詞/強意
    現代語訳は「何事も昔の時代が特に慕わしい」となる。「のみ」には限定の用法があ
   るが、その他にある事柄を取り立てて強調する働きもある。

 問13・副助詞/程度
    現代語訳は「命あるものを観察してみると、人間ほど寿命の長い生き物はない」とな
   る。「ばかり」には限定の他に程度を表す用法がある。

 問14・副助詞/婉曲
    現代語訳は「雨などが降る(夜)も趣がある」となる。雨を挙げているが特に雨の夜を
   強調するのではなく、月の出ない夜を婉曲に表現している。

 問15・副助詞/程度
    現代語訳は「やかましいぐらいに鳴く」となる。「まで」には範囲を意味する他に程度を
   表す用法がある。

 問16・×
    これは「し」で一語ではない。「なく」が形容詞の連用形なので、接続助詞「して」で一
   語である。「し」が過去の助動詞の場合は「なく」ではなく、同じ連用形でも補助動詞の
   「なかり」が使われる点にも注目したい。

 問17・サ行変格/す/連用形
    現代語訳は「よく事情を知らないふりをして、それでいて話のつじつまを合わせて語
   る嘘は恐ろしいことである」となる。「して」をそのまま「して」と訳せる場合の「し」はサ変
   動詞で、後続の「て」は単純接続を表す接続助詞である。

 問18・過去/き/連体形
    現代語訳は「その人は間もなく死んでしまったと聞きました」となる。直前の語はラ行
   変格活用動詞「侍り」の連用形。係助詞もないのに連体形で文末になっているが、これ
   は作者の詠嘆が表現されているためである。

 問19・×
    これは「し」で一語ではない。直前の語が体言なので、格助詞「して」で一語である。格
   助詞「して」にはいくつかの用法があるが、ここでは動作の共同を表し「〜と一緒に」と訳
   すことができる。現代語訳は「以前から友達としていた人一人二人と一緒に行った」とな
   る。

 問20・副助詞/強意
    現代語訳は「夜になってから今日の都に入ろうと思うので、急ぎもしないうちに月が出
   た」となる。問題文から「し」を除くと「急ぎもせぬほどに月出でぬ」となるが、「し」がなくて
   も文意は変わらないので副助詞である。なお、直前の「急ぎ」は外見上は動詞の連用形
   だが、「彼の泳ぎは後輩の部員への素晴らしい手本になる」という表現と同じで名詞であ
   る。動詞の連用形はしばしば名詞に転化することも知っておきたい。