こてんこてん蔵庫5(その6)             戻る

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第26回・助動詞「ごとし」「たり」(断定)

 次の赤文字の語は用言ないし助動詞である。用言の場合は活用種類・基本形・活用形
を、助動詞の場合は意味・基本形・活用形を答えなさい。ただし中級以上の問題は用言で
も助動詞でもないものや赤文字の部分では一語とならないものがあります。それらは「×」
と解答してください。なお、今回は上級の問題はなしとします。

【初級】
 問01・下として上に逆ふること、あに人臣の礼たらむや。
 問02・国香より正盛に至るまでの六代は諸国の受領たりしかども、殿上の仙籍をばいま
    だ許されず。
 問03・国郡半ば過ぎて一門の所領となり田園の悉く一家の進止たり
 問04・人の奴たる者は賞罰甚だしく恩顧厚きを先とす。
 問05・三井寺は近江の義大領が私の寺たりしを、
 問06・下して上に逆ふること、あに人臣の礼たらむや。
 問07・世の中にある人とすみかと、またかくのごとし
 問08・楊貴妃ごときはあまり時めきすぎて悲しきことあり。
 問09・つひに本意のごとくあひにけり。
 問10・和歌・管絃・往生要集のごとき抄物を入れたり。


【中級】
 問11・思ひのごとくものたまふものかな。
 問12・あをによし奈良の都は咲く花のにほふがごとく今盛りなり。
 問13・そこらの年ごろ、そこらの金賜はりて、身をかへたるごとなりにけり。
 問14・味方の軍勢、雲霞のごとくなれば、
 問15・忠盛朝臣いまだ備前守たりし時、鳥羽院の御願得長寿院を造進して
 問16・岸うつ波も茫々たり
 問17・飼ひける犬の暗けれど、主を知りて飛びつきたりけるとぞ。
 問18・つくづく一年を過ごすほどだにも、こよなうのどけしや。
 問19・人向かひたれば、ことば多く身もくたびれ、心もしづかならず。
 問20・雨朦朧して鳥海の山隠る。


【解答・解説】

 問01・断定/たり/未然形
    「たり」には完了・存続と断定とがある。しかし判別方法は容易である。直前の語が
   用言や助動詞の連用形なら前者、体言なら断定である。

 問02・断定/たり/連用形
    後続の語が過去の意味をもつ助動詞「き」である。したがって連用形である。
 問03・断定/たり/終止形
    問01と同じ。
 問04・断定/たり/連体形
    問01と同じ。
 問05・断定/たり/連用形
    問02と同じ。
 問06・断定/たり/連用形
    存続・完了の意味をもつ助動詞「たり」の連用形は「「たり」1種類だけだが、断定の
   場合は連用形が「たり」と「と」との2つがある点に注意。これはタリ活用の形容動詞と
   同じ活用形態だからである。両者の区別も形容動詞と同じ原則が適用される。後続
   の語が助動詞の場合は「たり」が使われ、助動詞以外の場合は「と」が使われる。こ
   れは断定の助動詞「なり」の連用形「なり」と「に」についても同じことがいえる。

 問07・比況/ごとし/終止形
    現代でも使われる「ごとし」は、ある事象を別の語句で例える「比況」の意味と、具体
   的な例を挙げる「例示」の2つがある。「〜のようだ」と訳せる場合は比況で、現代文の
   修辞では直喩にあたる用法である。

 問08・例示/ごとし/連体形
    連体形の用法で、「ごとし」の前に固有名詞がある場合は例示と考える。
 問09・比況/ごとし/連用形
    問07と同じ。
 問10・例示/ごとし/連体形
    問08と同じ。ここでは「和歌」「管絃」「往生要集」が具体的な事物として挙げられた
   例になる。

 問11・比況/ごとし/連用形
    後続の語は助詞「も」であるが、「ごとく」は用言「のたまふ」にかかっているので連用
   形である。

 問12・比況/ごとし/連用形
    後続の語は副詞「今」であるが、「ごとく」は用言「盛りなり」にかかっているので連用
   形である。

 問13・比況/ごとし/連用形
    普通の形容詞で考えてみると、これは「ごとし」の語幹だけの部分である。したがって
   語幹の用法とは考える説も成立するが、後続の語は用言「なる」連用形と考えることも
   できる。したがって文意を解釈する際は「ごとく」と同様に考えてよい。現代語訳は「生
   まれ変わってしまったようになってしまった」となる。

 問14・比況/ごとくなり/已然形
    これは「ごとし」の連用形に断定の助動詞「なり」がついて生成された複合助動詞であ
   る。意味は「ごとし」と同じで、基本形は「ごとくなり」になる。

 問15・断定/たり/連用形
    直前の語は名詞なので問01と同様に断定の助動詞である。
 問16・×
    これは「茫々たり」で一語。タリ活用の形容動詞である。
 問17・完了/たり/連用形
    問03と同じ。直前の語が動詞の連用形なので、これは断定ではなく完了・存続の助
   動詞になる。「飼っている犬が、暗い夜道であったが主人の姿を見て主人に飛びつい
   たとかいうことである。」と訳せるので、存続ではなく完了。

 問18・×
    これは「つくづくと」で一語。用言「暮らす」を修飾する副詞である。
 問19・×
    これは現代語訳でもそのまま「と」と訳せるので助詞。
 問20・×
    これは「朦朧たり」で一語。タリ活用の形容動詞である。


第27回・助動詞の現代語訳(1)

 次の各文の赤文字の部分を、使われている助動詞の意味に注意して現代語訳しなさい。
但し、全く助動詞が使われていない場合もあります。

【初級】
 問01・あるときには糧尽きて、草の根を食物としき
 問02・野山にまじりて竹を取りつつ、よろづの事に使ひけり
 問03・まことかと聞きて見つれば言の葉を飾れる玉の枝にぞありけると言ひて、玉の枝も
    返しつ

 問04・果ては大きなる枝、心なく折り取りぬ
 問05・怪しがりて寄りて見るに、筒の中光りたり
 問06・富士の山を見れば、五月のつごもりに、雪いと白う降れり
 問07・よき人は怪しきことを語らず
 問08・音に聞くと見るときとは、何事も変はるものなり
 問09・男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり。
 問10・あるいは大家滅びて小家となる


【中級】
 問11・これをまことかと尋ぬれば、昔ありし家は稀なり。
 問12・今は昔、竹取の翁といふ者ありけり
 問13・かぐや姫のたまふやうに違はず作り出でつ
 問14・翁をいとほしく、かなしと思ひつる事も失せぬ
 問15・深田ありとも知らずして馬をざつと打ち入れたれば、馬の頭も見えざりけり。
 問16・やがて起きも上がらで、病み伏せり
 問17・あの国の人をえ戦はぬなり
 問18・おのが身はこの国の人にはあらず
 問19・龍の首に五色に光る玉あなり
 問20・河内へも行かずなりにけり


【上級】
 問21・秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる
 問22・見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮れ
 問23・日ごろは音にも聞きつらん。今は目にも見たまへ。
 問24・討ちつ、討たれつ、敵も御方も隙なきこそおもしろけれ。
 問25・怠る間もなく漏れゆかば、やがて尽きぬべし
 問26・八重桜は異様のものなり。植ゑずともありなん
 問27・日数の早く過ぐるほどぞ、物にも似ぬ
 問28・弓矢取りは年ごろ日ごろいかなる高名候へども、最後のとき不覚しつれば長ききず
    にて候ふなり

 問29・我は討ち死にせんと思ふなり
 問30・衣着せつる人は心異になるなりといふ


【解答・解説】

 問01・した
    直前の語が助詞でここで文節に区切れるため、「し」はサ行変格活用動詞「す」の連
   用形、「き」は過去の意味をもつ助動詞と考える。過去は「〜た」と訳す。

 問02・使った
    「使ひ」はハ行四段活用動詞の連用形、「けり」は過去の意味を持つ助動詞で現代
   語訳は問01と同じ。なお、「き」が自分が直接体験した過去の事実を述べるのに対し、
   「けり」は昔話など人から聞いた過去の事実を述べる場合に使われる。

 問03・返してしまった
    「返し」はサ行四段活用動詞の連用形、「つ」は完了の意味を持つ助動詞で「〜てし
   まった」と訳す。

 問04・折って取ってしまう
    「折り取り」は「折る」+「取る」の複合動詞で活用はラ行四段活用、「ぬ」は完了の意
   味を持つ助動詞。「ぬ」を問03のように「〜てしまった」と訳さないのは、人々の一般的
   な行動の傾向を描写した文であるからである。

 問05・光っている
    「光り」はラ行四段活用動詞の連用形、「たり」は存続の意味を持つ助動詞。存続とは
   過去のある時点から現在までその動作や状態が続いていることを表し、英語で言うとこ
   ろの「現在進行形」に相当する。「〜ている」と訳す。

 問06・降っている
    「降れ」はラ行四段活用動詞の已然形、「り」は存続の意味を持つ助動詞。「り」は「た
   り」と同じ意味で訳し方も変わらないが、「り」は四段活用動詞の已然形ないしサ行変格
   活用動詞の未然形の後に限って使われる点に注意。

 問07・語らない
    「語ら」はラ行四段活用動詞の未然形、「ず」は打消の意味を持つ助動詞。打消とは
   英語の否定にあたり、「〜ない」と訳す。

 問08・変わるものである
    「変はる」はラ行四段活用動詞の連体形、「もの」は名詞、「なり」は断定の意味を持
   つ助動詞である。直前の語が名詞の場合の「なり」は全て断定ないしは存在のいずれ
   かであり、伝聞や推定ではない。断定の場合は「〜である」「〜だ」と訳し、物事を決め
   つける言い方にする。

 問09・するとかいう(この文脈では「書くとかいう」)
    「す」はサ行変格活用動詞の終止形である。したがって「なる」は終止形の後に使わ
   れる助動詞でなければならない。問08とは異なり、答えは伝聞・推定のいずれかであ
   る。一般的に言われている話や噂話などのように人から聞いたことを表現する場合は
   伝聞で「〜とかいう」と訳す。正解に「書くとかいう」と意訳されているのは、この本文で
   は日記を書く話をしているからである。

 問10・小さな家となる
    問09と同じく「なる」であるが、直前の語が助詞「と」でしかも「小家と」が一文節を構
   成している。したがって「なる」が文節の先頭に来るわけで、そうなればこれは助動詞
   ではないことがわかる。動詞の「なる」は「成る」「鳴る」「馴る」「慣る」「生る」など数種
   類あるが、「〜になる」「〜となる」訳せる場合は現在でも使われている「成る」である
   (「夏になる」「医者になる」など)。この動詞は漢字で表記されることはほとんどないの
   で、助動詞と見誤らないようにしたい。

 問11・あった
    問01の「し」と違い、直前の語が動詞の連用形であり、後続の語が名詞であるから、
   「し」は過去の意味を持つ助動詞「き」の連体形と考えなければならない。したがって
   「ある」を過去形になるように訳す。

 問12・いた
    問02と同じく「けり」は過去の意味をもつ助動詞だが、問題は「あり」の訳し方だ。主
   語が人間も含めて動物ではない場合はそのまま「ある」と訳すことができるが、主語が
   動物の場合は「いる」と訳さないと不自然な日本語になる。

 問13・作り上げた
    「作り出で」はダ行下二段活用動詞の連用形、「つ」は完了の意味を表す助動詞であ
   る。完了だから「作り上げてしまった」と訳しても誤りではないが、「〜てしまった」と訳す
   と何か好ましくないことをしたかのような意味に取られる場合がある。たとえば「私は試
   験で0点を取ってしまった」とはよく言う。逆に「私は試験で100点を取ってしまった」と
   は言わないのは100点を取るのは歓喜できることだからである。完了の助動詞が使わ
   れているからといって何でもかんでも「〜てしまった」と訳すのは好ましくない。そう訳す
   と不自然な日本語になる場合は、「〜た」と過去の訳し方に意訳する。

 問14・なくなってしまった
    「失せ」はサ行下二段活用動詞の連用形、「ぬ」は完了の意味を表す助動詞。「失っ
   てしまった」でも正解。

 問15・乗り入れてしまった
    「打ち入れ」はラ行下二段活用動詞の連用形。(「入る」には四段活用と下二段活用
   の2種類がある)「たれ」は存続の意味に使われることが多いが、以前から行なわれ
   続けていた動作ではなく、たった今行なわれた動作の場合は、完了になるので注意し
   たい。

 問16・病床に臥してしまった
    「病み伏せ」はサ行四段活用動詞の已然形。「り」は存続・完了の意味を表す助動詞
   だが、文頭に「やがて」とあるので「病み伏せ」という動作が比較的最近になって起こっ
   たことがわかる。したがって存続ではなくここでは完了に訳す。

 問17・戦うことはできないのである
    「え」は陳述の副詞の一つで必ず打消の助動詞や助詞とセットで使われて不可能を
   表す。「戦は」がハ行四段活用動詞の未然形、「ぬ」は打消の意味を持つ助動詞「ず」
   の連体形、「なり」は断定の意味を表す助動詞である。打消の断定の場合は「〜ない
   のである」と訳す。なお直前の語がラ変型活用語の場合は、伝聞・推定の助動詞「な
   り」も連体形の後に続いて使われる。しかし、その場合は同じ打消の助動詞「ず」でも
   連体形「ざる」の短縮形「ざ」が使われ、「ざなり」という形になる。

 問18・この国の人間ではない
    「こ」は代名詞、「の」は助詞、「国」は名詞。名詞の後に使われている「に」は助詞の
   場合もあるが、後に「あり」ないしは「侍り」が使われ、「に」を「〜で」と訳せる場合は断
   定の意味を表す助動詞「なり」の連用形である。最後の「ず」は打消の意味を表す助動
   詞だが、直前の語がラ行変格活用動詞「あり」なので「あらず」で「ない」と訳す。(「あら
   ない」という日本語が成立しないため)「に」が断定の助動詞で「にはあらず」となってい
   る場合は「〜ではない」と訳す。

 問19・あるとかいう
    「あ」とはラ行変格活用動詞「あり」の連体形「ある」の「る」が省かれた形である。こう
   いうのを短縮形と言うが、このラ変型活用語の連体形短縮形の後に続いて使われる助
   動詞は「なり」(伝聞・推定)「めり」「らし」の3語に限られる。

 問20・行かなくなってしまった
    「行か」はカ行四段活用動詞の未然形、「ず」は打消の意味を表す助動詞の連用形、
   「なり」は連用形の後に使われているので、ラ行四段活用動詞の連用形となる。「に」
   は連用形の後に使われているので、完了の意味を表す助動詞「ぬ」の連用形となる。
   最後の「けり」は過去の意味を表す助動詞。完了+過去の場合は「〜てしまった」と訳
   す。

 問21・秋が来た
    直後に助詞「と」があるので、「秋来ぬ」までが作者の心内表現文となる引用文にな
   る。したがって「来」はカ行変格活用動詞の連用形、「ぬ」は完了の意味を表す助動詞
   の終止形となる。「ぬ」を打消と考えて「秋が来ない」と訳さないように注意。

 問22・ないのだなぁ
    「なかり」はク活用の形容詞補助活用の連用形。「けり」は通常の文章では過去の意
   味を表す助動詞だが、和歌の場合は詠嘆で使われ、物事に対する感動を表現する。

 問23・きっと聞いているだろう
    「聞き」はカ行四段活用動詞の連用形。「つ」「ぬ」は通常は完了の意味を表す助動詞
   だが、直後の助動詞が「む」「べし」「らむ」「けむ」など推量の意味を表す助動詞の場合
   は、強意ないし確述の用法となり、後続の助動詞の意味を強調する働きをする。したが
   って「きっと〜」と訳す。「らん」は現在推量の意味を表す助動詞。

 問24・討ったり討たれたり
    用言+助動詞「つ」、あるいは用言+助動詞「ぬ」で構成される文節が2つ連続し、そ
   れぞれが対の関係になるときの「つ」「ぬ」は、2つの動作が並行して行なわれることを
   表す。この場合は「AしたりBしたり」(A・Bはその用言にあたる語句が入る)と訳す。

 問25・きっと尽きるに違いない
    「尽き」はカ行上二段活用動詞の連用形、「ぬ」は問23と同じ理由で強意の助動詞と
   なる。「べし」は推量の意味を表す助動詞。「ぬ」を打消と誤りがちだが、助動詞「べし」
   は終止形の後に使われるので、「ぬ」で終止形となる助動詞を考えればわかる。(打消
   の意味を表す助動詞の終止形は「ず」である)

 問26・植えなくても良いだろう
    「植ゑ」はワ行下二段活用動詞の未然形、「ず」は打消の意味を表す助動詞の連用
   形、「とも」は逆接の仮定条件を表す接続助詞、「あり」はラ行変格活用動詞の連用形、
   「な」は確述の意味を表す助動詞「ぬ」の未然形、「ん」は推量の意味を表す助動詞。
   直訳すると「植えなくてもあるだろう」になるが、それを意訳すると解答の訳になる。

 問27・他とは比べようもない
    「似」はナ行上一段活用動詞の未然形、「ぬ」は打消の助動詞「ず」の連体形。文末
   であるから完了の助動詞の終止形と勘違いしがちだが、係助詞「ぞ」のため連体形に
   なっている点に注意。(完了の助動詞の連体形は「ぬる」になる。)したがって、打消に
   訳さなければならない。直訳すると「物にも似ない」となる。これを意訳すると解答に示
   した現代語訳になる。

 問28・(末代までの長い間の)不名誉であるとかいう
    「長き」はク活用の形容詞の連体形、「きず」は「不名誉」「恥辱」という意味の名詞、
   「に」は断定の意味を表す助動詞「なり」の連用形、「て」は接続助詞、「候ふ」はハ行
   四段活用動詞の終止形、「なり」は伝聞の意味を表す助動詞である。「に」を完了や
   助詞に、「なり」を断定に訳さないようにしたい。「に」の直前が体言で「に」を「〜で」と
   訳せること、「に」の後続に「あり」「侍り」「候ふ」がある場合は断定である。「に」が断
   定なら最後にまた断定を重ねるはずはないので「なり」を断定以外の助動詞と考える。

 問29・思うのだ
    「思ふ」はハ行四段活用動詞の連体形、「なり」は断定の意味を表す助動詞である。
   「なり」を伝聞・推定と誤りがちだが、主語は「我」とあるので一人称である。自分の行
   為を(ここでは討ち死にすること)伝聞や推定で表現することは基本的にない。

 問30・心は(地上の人々とは)別なものになるとかいう
    「心」は名詞、「異に」はナリ活用の形容動詞の連用形、「なる」はラ行四段活用動詞
   の終止形、「なり」は伝聞の意味を表す助動詞の終止形、「と」は引用を表す格助詞、
   「言ふ」はハ行四段活用動詞の終止形である。「なるなり」の部分が難解だが、まず直
   前にある「異に」が連用形であるから「なる」は動詞であると判断する。直前の語が四
   段活用動詞なので「なり」が断定か伝聞かの区別がつかないが、文の意味を考えて訳
   す。


第28回・助動詞の現代語訳(2)

 次の各文の赤文字の部分を、使われている助動詞の意味に注意して現代語訳しなさい。
但し、全く助動詞が使われていない場合もあります。

【初級】
 問01・我、人を起こさむ
 問02・この児、さだめて驚かさむずらむと待ちゐたるほどに、
 問03・一生の恥、これに過ぐるはあらじ
 問04・この人々の深きこころざしは、この海にも劣らざるべし
 問05・唐の物は、薬のほかはなくとも事欠くまじ
 問06・憶良らは今はまからむ子泣くらむそれその母も我を待つらむそ
 問07・医師のもとにさし入りて、向かひゐたりけん有様、さこそ異様なりけめ
 問08・男はこの女をこそ得めと思ふ。
 問09・潮満ちぬ。風吹きぬべし
 問10・妻といふものこそ男の持つまじきものなれ。


【中級】
 問11・千年を過ぐすとも、一夜の夢の心地こそせめ
 問12・我は討ち死にせんと思ふなり。もし人手にかからば自害をせんずれば、
 問13・家のあたりだに今は通らじ。男ども、な歩きそ。
 問14・勝たんと打つべからず。負けじと打つべきなり。
 問15・さて、冬枯れのけしきこそ、秋にはをさをさ劣るまじけれ
 問16・親しき者、老いたる母など枕上に寄り居て泣き悲しめども、聞くらんとも覚えず
 問17・五年六年のうちに千年や過ぎにけむ、かたへはなくなりにけり。
 問18・ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ
 問19・住む館より出でて、船に乗るべきところへ渡る。
 問20・ただ今は見るまじとて入りぬ。


【上級】
 問21・長くとも四十に足らぬほどにて死なんこそめやすかるべけれ。
 問22・さる所へ罷らむずるも、いみじくも侍らず。
 問23・あの国の人をえ戦はぬなり。弓矢して射られじ
 問24・ことに人多く立ちこみて、分け入りぬべきやうもなし
 問25・え止むまじければ、たださし仰ぎて泣き居り。
 問26・あが仏、何事思ひ給ふぞ。思すらん事、何事ぞ。
 問27・医師のもとにさし入りて、向かひゐたりけん有様
 問28・もし出で給ひぬべくやと思ひて、詣で来つれど、帰りては罪得べかめり
 問29・御文、不死の壺並べて、火をつけて燃やすべきよし仰せ給ふ。
 問30・後は誰にと心ざす物あらば、生けらんうちにぞ譲るべき


【解答・解説】

 問01・起こそう
    「起こさ」はサ行四段活用動詞「起こす」の未然形。主語が1人称なので、「む」は意
   志の意味で使われている助動詞と考える。意志の場合は「〜う」「〜よう」と訳す。

 問02・起こしてくれるだろう
    「驚かさ」は「寝ている人を起こす」という意味で、サ行四段活用動詞の未然形。主語
   が3人称なので「むず」は推量の意味で使われている助動詞。推量の場合は「〜だろ
   う」と訳す。

 問03・ないだろう
    「あら」はラ行変格活用動詞の未然形。主語は3人称なので、「じ」は打消推量の意
   味で使われた助動詞となる。「〜ないだろう」と訳す。

 問04・劣らないだろう
    「ざる」は打消の意味を表す助動詞「ず」の連体形。「べし」は「む」「むず」よりも程度
   の強い推量の助動詞。問題文は「べし」の前に「ざる」があるので、結果としては打消
   推量となる。

 問05・不自由しないだろう
    「事欠く」は「不自由する」という意味でカ行下二段活用動詞の終止形。「まじ」は「じ」
   よりも程度の強い打消推量の助動詞。「〜ないだろう」と訳す。

 問06・今頃は泣いているだろう
    「泣く」はカ行四段活用動詞の終止形。「らむ」は現在推量の意味を持つ助動詞。「今
   頃は〜だろう」と訳す。「む」は未来の推量、「らむ」は現在の推量、「けむ」は過去の推
   量で時制に違いがある。

 問07・奇妙な様子であっただろう
    「異様なり」はナリ活用形容動詞の連用形。「けむ」は過去推量の意味を持つ助動詞。
   「〜だっただろう」と訳す。

 問08・手に入れよう
    「得」はア行下二段活用動詞の未然形。主語は1人称相当なので、「め」は意志の意
   味で使われた助動詞であることがわかる。基本形は「む」だが、係助詞「こそ」の結びで
   已然形である。「女を手に入れる」ということは「結婚する」ということなので、問題文は
   「結婚しよう」と意訳できる。

 問09・風がきっと吹くに違いない。
    「吹く」はカ行四段活用動詞の終止形。「ぬ」は強意の助動詞なので「きっと〜」と訳す。
   問題文は主語が「風」、つまり3人称なので「べし」は推量の意味で使われていることに
   なる。強意の助動詞「ぬ」や「つ」とセットに使われた「べし」は最も程度の強い推量で現
   代語訳は「きっと〜に違いない」となり、確信の強い推量になる。

 問10・持ってはならない
    「まじき」は問05と同じ助動詞であるが、打消推量の他にも打消意志・打消当然・不
   適当・禁止・不可能と数々の意味があるので、文脈を読んで、どの意味で使われてい
   るかを考えなければならない。ここでは禁止に使われている。「〜てはならない」と訳す。

 問11・するだろう
    「せ」はサ行変格活用動詞「す」の未然形。主語は3人称なので「め」は推量の意味で
   使われている。

 問12・自殺しよう
    「せ」はサ行変格活用動詞「す」の未然形。主語は1人称なので「むずれ」は推量の意
   味で使われている。鎌倉時代以後になると「む」「むず」は「ん」「んず」と表記される点に
   も注意したい。

 問13・通るまい
    「通る」はラ行四段活用動詞の終止形。「じ」は打消意志の意味で使われた助動詞で
   ある。

 問14・勝とうと思って打ってはならない
    「勝た」はタ行四段活用動詞の未然形。「ん」は意志の意味を表す助動詞。「打つ」は
   タ行四段活用動詞の終止形。「べから」は命令の意味で使われている助動詞。「ず」は
   打消の意味を表す助動詞。この場合、「べから」と「ず」とで結果的には「禁止」となる。
   訳し方は「〜てはならない」となる。「べし」は一般に推量の助動詞といわれるが、「意
   志」「可能」「当然」「命令」「適当」と数々の意味に使われる。文脈ごとに判断できるよう
   にしたい。

 問15・劣らないだろう
    「劣る」はラ行四段活用動詞の終止形。主語は「冬枯れのけしき」で3人称なので、
   「まじ」は打消推量の意味で使われている。

 問16・聞いているようには思われない
    「聞く」はカ行四段活用動詞の終止形。「らん」は普通は現在推量の助動詞だが、「今
   頃は〜だろう」と訳すと不自然な日本語になる場合は、婉曲に訳すほうが無難。その場
   合は「〜ような」「〜ように」という訳になる。

 問17・過ぎてしまったのだろうか
    「過ぎ」はガ行上二段活用動詞の連用形。「に」は完了、「けむ」は過去推量の意味を
   表す助動詞である。「に」と「けむ」で「〜てしまったのだろう」と訳す。最後の「か」は「千
   年や」の「や」(疑問の意味を持つ係助詞)の現代語訳である。

 問18・花が散っているのだろうか
    「散る」はラ行四段活用動詞の終止形。「らむ」は現在の原因推量の意味を表す助動
   詞「らむ」の連体形である。ここでは、桜の花が慌しく散っていく様子を見て花の散るの
   を惜しむ心情を詠んでいる。

 問19・乗ることになっている場所
    「乗る」はラ行四段活用動詞の終止形。「べき」は当然の意味で使われた助動詞。当
   然の場合は「〜はず」と訳すので直訳すると「乗るはずの場所」となる。これを意訳する
   と解答例のようになる。

 問20・見るつもりはない
    「見る」はマ行上一段活用動詞の終止形。主語は1人称なので、「まじ」は打消意志の
   意味を表す助動詞の終止形。

 問21・死ぬ
    「ん」は普通は推量の助動詞だが、文中に使われた連体形の場合は婉曲となる点に
   注目したい。この場合、無理に訳すと日本語として変なものになりがちなので特に訳さ
   ない方が良い。

 問22・そのような場所へ去っていくのも
    「むずる」が文中に使われた連体形である点に注目。問21と同様の理由で婉曲とな
   り、現代語訳には反映させない。

 問23・射ることはできないだろう
    「射」はヤ行上一段活用動詞の「射る」の未然形。「られ」は可能、「じ」は打消推量の
   意味で使われた助動詞。「られ」と「じ」の両方で不可能の意味になる。「〜ことはでき
   ないだろう」と訳す。

 問24・分け入ることができそうにない。
    「分け入る」はラ行四段活用動詞の終止形。「ぬ」は強意、「べき」は可能の意味で使
   われた助動詞。「やう」は名詞、「も」は係助詞、最後の「なし」は形容詞。

 問25・引き止めることができない
    「え」は陳述の副詞で後続の助動詞とセットで不可能を表す。第26回の問17と同じ
   用法。

 問26・お思いになっていること
    「らん」は普通、現在推量の助動詞だが、文中に使われた連体形である点に注目。
   この場合は問21と同様に婉曲になる。なお、「思す」は「思ふ」の尊敬語で「お思いに
   なる」と訳す。

 問27・向き合って座っていた様子は
    「向かひゐ」は「向かふ」と「ゐる」の複合動詞でワ行上一段活用の連用形。「たり」は
   存続の意味を表す助動詞、「けむ」は文中に使われた連体形なので、これも婉曲。

 問28・天罰が下りそうだ
    「罪」は名詞、「得」はア行下二段活用動詞の終止形。「べか」は推量の意味で使われ
   た助動詞で、「べし」の連体形「べかる」の短縮形。「めり」は婉曲の意味をもつ助動詞。
   直訳すと「罪を得るだろうようだ」になる。これでは日本語にならないので、解答例のよ
   うに意訳する。

 問29・火をつけて燃やせ
    「燃やす」はサ行四段活用動詞の終止形、「べき」は命令の意味で使われた助動詞
   「べし」の連体形。天皇の命令を伝言という形で表現している。

 問30・生きているうちに譲るのが良い
    「生け」はカ行四段活用動詞「生く」の已然形。「ら」は存続の意味を表す助動詞「り」
   の未然形。「ん」は文中で使われた連体形なので、婉曲。「うち」は名詞、「に」は格助
   詞、「ぞ」は係助詞。「譲る」はラ行四段活用動詞の終止形。最後の「べし」は適当の意
   味で使われた助動詞「べし」の連体形である。「らん」を現在推量と判断しないこと(直
   前の用言が終止形ではない点に着目)、作者から読者一般に対して述べているので
   主語は2人称相当になる。したがって「べし」は適当の意味を選択することがポイント。


第29回・助動詞の現代語訳(3)

 次の各文の赤文字の部分を、使われている助動詞の意味に注意して現代語訳しなさい。
但し、全く助動詞が使われていない場合もあります。

【初級】
 問01・或は大家滅びて小家となる
 問02・今は亡き人なれば、かばかりの事も忘れがたし。
 問03・吉野なる夏実の川の川淀に鴨ぞ鳴くなる山陰にして
 問04・男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり。
 問05・忠盛朝臣、いまだ備前守たりし時、鳥羽院の御願得長寿院を造進して、
 問06・世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし
 問07・酔ひたる人ぞ、過ぎにし憂さを思ひ出でて泣くめる
 問08・み山には霰降るらし外山なるまさきのかづら色づきにけり
 問09・おのが行かまほしきところへ往ぬ。
 問10・言ひたきままに語りなして筆にも書きとどめぬれば、やがて定まりぬ。


【中級】
 問11・この西なる家には何人の住むぞ。問ひ聞きたりや。
 問12・八重桜は奈良の都にのみありけるを、このごろぞ世に多くなり侍るなる
 問13・「大勢の中にてこそ討死にをもせめ」とて、真先にぞ進んだる
 問14・難き事どもにこそあなれ
 問15・下として上に逆らふこと、あに人臣の礼たらむや。
 問16・しやせまし、せずやあらましと思ふことは、おほやうはせぬは良きなり。
 問17・今様はむげにいやしくこそなりゆくめれ
 問18・秋の夜は露こそことに寒からし草むらごとに虫のわぶれば
 問19・少しの事にも先達はあらまほしき事なり
 問20・悪所に落ちては死にたからず


【上級】
 問21・昨日今日君に逢はずてなすすべのたどきを知らに哭のみしそ泣く
 問22・五年、六年の間に千年や過ぎにけむ、かたへはなくなりにけり。
 問23・落ちぬべき時に目をさますことたびたびなり。
 問24・この国にある物にもあらず
 問25・桂川、月の明きにぞ渡る
 問26・命あるものを見るに、人ばかり久しきはなし。
 問27・子になり給ふべき人なめり
 問28・吉野山峰の白雪いかならし麓の里も降らぬ日はなし
 問29・なお、これより深き山を求めてや跡絶えなまし
 問30・人はかたち・有様の優れたらんこそあらまほしかるべけれ


【解答・解説】

 問01・小さな家となる。
    「なる」が終止形になっているので、これは動詞である。助動詞の場合は、終止形が
   「なり」であること、問題文に係結びがないことを見抜くことができれば現代語訳は難し
   くないはず。

 問02・この世にない人である
    「なれ」の直前の語は「人」である。体言の直後に使われる「なり」は断定の意味を表
   す助動詞である。

 問03・鳴いているらしい
    「なる」の直前の語は四段活用動詞。終止形・連体形が同形なので、外見では「なる」
   が断定か推定かの区別がつかない。この場合は文脈で判断するしかないのだが、音
   に関する出来事を提示しそれを根拠に作者や話し手が物事を推断している場合は、推
   定の意味を表す助動詞「なり」を考えたほうがよい。この和歌では「鴨ぞ鳴く」がそれに
   あたる。

 問04・書くとかいう
    「す」はサ行変格活用動詞の終止形なので、この「なり」は動詞でも断定の助動詞で
   もないことがわかる。したがって伝聞・推定のいずれかになるのだが、問03に記した
   とおり、両者の判別は音に関する出来事を根拠にしているか否かで区別する。なお、
   「す」の部分を「書く」と訳しているが、これは「日記」は書くものだから意訳した結果で
   ある。直訳するなら「するとかいう」になる。

 問05・備前の国司であったとき
    「たり」の直前の語に注目。用言・助動詞の場合は完了・存続、体言の場合は断定
   の意味を表す助動詞と考える。「し」は過去の意味を表す助動詞「き」の連体形なので、
   両者を合わせて過去の事実を断定する表現になる。ちなみに国司とは地方官。「備前」
   「越中」など当時の旧国名にしたがって分けた地域の長で、現代の都道府県知事に相
   当する役職である。

 問06・のんびりとしていたことだろうに
    「まし」には反実仮想と躊躇する意志の2つの意味がある。この場合、「まし」よりも前
   の文節に未然形+助詞「ば」の形があるか否かをみる。問06の和歌では「なかりせば」
   という文節がそれにあたる。(「なかり」は形容詞「なし」の連用形、「せ」は過去の意味
   を表す助動詞「き」の未然形、「ば」が接続助詞)未然形に助詞「ば」のついた形で仮定
   条件を表すので、「まし」は、現実にはそうなっていないことを仮定した場合の結果を表
   す表現になる。

 問07・泣くようだ。
    「泣く」はカ行四段活用動詞の終止形。「める」は婉曲の意味を表す助動詞で「〜よう
   だ」と訳す。

 問08・降るらしい
    「らし」は視覚で捕らえたことを根拠に物事を推定する際に使われる助動詞。この和
   歌では「外山なるまさきのかづら色づき」が、視覚で捕らえた内容である。

 問09・行きたい
    「行き」はカ行四段活用動詞「行く」の未然形。「まほしき」は希望の意味を表す助動
   詞である。

 問10・言いたい
    「言ひ」はハ行四段活用動詞「言ふ」の連用形。「たき」は希望の意味を表す助動詞
   である。

 問11・西にある家には
    「西」が名詞なので「なり」は断定と考えがちだが、同じ名詞でも場所や方角を表す場
   合は断定ではなく存在の意味を表す助動詞と考える。したがって「〜である」とは訳さず
   「〜にある」と訳す。

 問12・世の中に多くなっているようです。
    「侍る」はラ行変格活用動詞「侍り」の連体形。終止形の後に続く「なり」は伝聞・推定、
   連体形の後に続く「なり」は断定となるのが原則だが、ラ変型活用語の場合は伝聞・推
   定を表す助動詞「なり」も連体形から接続するという例外がある。その場合、活用語尾
   の「る」が省かれる短縮形となるのが普通だが、このように本来の形のまま伝聞・推定
   の助動詞につながる場合もあるので、外見だけではなく文意を考えてから判断するよ
   うにしたい。

 問13・進んだ。
    「進ん」はマ行四段活用動詞「進む」の連用形「進み」の撥音便。「だる」は完了の意
   味を表す助動詞「たり」であるが、直前の語の撥音便を受けた連濁で本来は「たる」と
   なるべきものである。

 問14・難しいことであるようだ。
    「難き」はク活用の形容詞の連体形。「事」は名詞。「に」は断定の意味を表す助動
   詞「なり」の連用形。「こそ」は係助詞、「あ」はラ行変格活用動詞「あり」の連体形「あ
   る」の短縮形。「なれ」は直前の語がラ変型活用語の連体形で短縮形になっているの
   で断定ではなく、伝聞・推定の意味を表す助動詞。(ここでは推定となる。)

 問15・臣下であって主君に逆らうことは
    「下」は名詞。「と」が断定の意味を表す助動詞「たり」の連用形であることを見抜か
   なければならない。「して」は接続助詞。あとはだいたい現代語とほぼ同じ訳になる。

 問16・しようかしら、それともしないでおこうかしら
    「し」はサ行変格活用動詞「す」の連用形。「や」は係助詞。「せ」はサ行変格活用動
   詞「す」の未然形。「まし」は前の文節に未然形に助詞「ば」のついた形を伴わずに単
   独で使われているので、躊躇する意志を表す助動詞「まし」の連体形。ここまでで「し
   ようかしら」と訳せる。これと対になるものが「せずやあらまし」になる。「せ」はサ行変
   格活用動詞「す」の未然形。「ず」は打消の意味を表す助動詞。「や」は係助詞。「あら」
   はラ行変格活用動詞「あり」の未然形。「まし」は躊躇する意志を表す助動詞「まし」の
   連体形。「せず」で「しない」、「あら」は「〜しておく」と訳し、全体では「しないでおこうか
   しら」となる。

 問17・なってゆくようだ
    「なりゆく」はカ行四段活用動詞の終止形。「めれ」は婉曲の意味を表す助動詞「めり」
   の已然形である。

 問18・寒いらしい
    「寒か」はク活用形容詞「寒し」の補助活用連体形「寒かる」の短縮形。「らし」は推定
   の意味を表す助動詞である。問03と同じく聴覚で捕らえたことを根拠に物事を推定す
   る助動詞である。

 問19・いてほしいものである。
    「あら」はラ行変格活用動詞「あり」の未然形であるが、主語が人間なので「ある」とは
   訳さず「いる」と訳さなければならない。「まほしき」は希望の意味を表す助動詞「まほし」
   の連体形。

 問20・死にたくない
    「死に」はナ行変格活用動詞「死ぬ」の連用形。「たから」は希望の意味を表す助動詞
   「たし」の未然形。「ず」は打消の意味を表す助動詞である。希望+打消なので、拒否し
   たい心情を表す。

 問21・わからない
    「知る」はラ行四段活用動詞「知る」の未然形なので、「に」は完了ではなく打消の意
   味を表す助動詞「ず」の連用形である。これは上代=奈良時代に限って使われた用法
   である。

 問22・千年が過ぎてしまったのだろうか。
    「千年」は名詞。「や」が疑問の意味を表す係助詞。「過ぎ」はガ行上二段活用動詞
   「過ぐ」の連用形。「に」は完了の意味を表す助動詞「ぬ」の連用形。「けむ」は過去推
   量の意味を表す助動詞「けむ」の連体形である。

 問23・きっと落ちそうなときに
    「落ち」はタ行上二段活用動詞「落つ」の連用形。「ぬ」は強意の意味を表す助動詞
   「ぬ」の終止形。「べき」は推量の意味を表す助動詞「べし」の連体形である。助動詞
   「つ」「ぬ」は単独で用いられる場合は完了の意味で使われるが、後続の語が「む」「む
   ず」「べし」「らむ」「けむ」の場合はそれらの助動詞の意味を強調する働きをもつ。

 問24・この国にあるものでもない。
    「に」が2箇所使われているが、最初の「この国に」の「に」は場所を表す格助詞で現
   代と同じ用法。後の「に」は断定の意味を表す助動詞。「も」は係助詞。「あら」はラ行
   変格活用動詞「あり」の未然形。「ず」は打消の意味を表す助動詞。「にはあらず」で
   「〜ではない」、「にもあらず」で「〜でもない」と訳す。

 問25・月の明るいときに渡る。
    「明き」はク活用の形容詞「明し」の連体形。「に」は格助詞。「明き」の直後に体言
   「時」を補って訳すことができること、 また「に」を「で」とは訳せない点が、断定の助
   動詞「なり」の連用形との識別点である。

 問26・命のあるものを見ると
    「に」で一語となるものは助動詞の場合と助詞の場合とがあるが、後続の語との間
   に読点がある場合はすべて助詞である。助詞の場合は格助詞と接続助詞の2種類
   があるが、「〜と」と訳せる場合は接続助詞。ここでは順接の確定条件の用法である。

 問27・私の子どもにおなりになる人のようだ。
    「なり」はラ行四段活用動詞「なる」の連用形。「給ふ」は尊敬の意味を表す補助動
   詞。「べき」は当然の意味を表す助動詞「べし」の連体形。「人」は名詞。「な」は断定
   の意味を表す助動詞「なり」の連体形「なる」の短縮形。「めり」は婉曲の意味を表す
   助動詞。

 問28・どのような様子だろうか
    「いかな」と「らし」に品詞分解できる。「いかな」はナリ活用の形容動詞、「いかなり」
   の連体形「いかなる」の連体形の短縮形。「らし」は推定の意味を表す助動詞。

 問29・姿をくらましてしまおうかしら
    「絶え」はヤ行下二段活用動詞「絶ゆ」の連用形。「な」は完了の意味を表す助動詞
   「ぬ」の未然形。「まし」は問16と同じ理由で躊躇する意志を表す助動詞。「〜しようか
   しら」と行為をためらう心情を表現する現代語訳になる。

 問30・優れているのが理想的だろう。
    「優れ」はラ行下二段活用動詞「優る」の連用形。「たら」は存続の意味を表す助動
   詞「たり」の未然形。「ん」は婉曲の意味を表す助動詞「む」の連体形。「こそ」は係助
   詞。「あら」はラ行変格活用動詞「あり」の未然形。「まほし」は希望の意味を表す助動
   詞「まほし」の連体形。「べけれ」は推量の意味を表す助動詞「べし」の已然形。「あら
   まほし」は直訳すると「ありたい」になるが、それでは日本語にならないので、「理想的
   だ」と意訳する。


第30回・助動詞の現代語訳(4)

 次の各文の赤文字の部分を、使われている助動詞の意味に注意して現代語訳しなさい。
但し、全く助動詞が使われていない場合もあります。

【初級】
 問01・七騎がうちまで巴は討たれざりけり
 問02・筆を取れば物書かれ、楽器を取れば音を立てんと思ふ。
 問03・良き人は偏に好けるさまにも見えず、興ずるさまも等閑なり。
 問04・京極入道中納言はなほ一重梅をなん、軒近く植ゑられたりける
 問05・高名の木登りと言ひし男、人を置きてて高き木に登せて梢を切らせしに、
 問06・汝が巻きて持たせたる旗あげさせよ
 問07・名を三室戸斎部の秋田を呼びてつけさす
 問08・仮の宿り、誰がためにか心を悩まし、何によりてか目を喜ばしむる
 問09・御心地も悩ましければ、人にも目も見合はせたまはず
 問10・塵灰たちのぼりて、盛りなる煙のごとし


【中級】
 問11・あくびをせられて、かく目に涙の浮きたる。
 問12・しばし奏でて後、抜かんとするに、おほかた抜かれず
 問13・事を知り、世を知れれば、願はず、走らず。
 問14・変わりゆくかたち、ありさま、目も当てられぬこと多かり
 問15・世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし
 問16・われに今一度、声をだに聞かせ給へ
 問17・君、すでに都を出でさせたまひぬ
 問18・この幣の散る方に御船すみやかに漕がしめ給へ
 問19・道を正しくせば、その化遠く流れんことを知らざるなり。
 問20・楊貴妃のごときはあまり時めきすぎて悲しきことあり。


【上級】
 問21・あさましさに、見てけりとだに知られむと思ひて、書き付く。
 問22・家の造りやうは夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住まる
 問23・述べやらせ給ふ事こそ、まことと思う給へられね
 問24・亀山殿建てられんとて、地をひかれけるに、
 問25・夜は明け方になり侍りぬらん。はや、帰らせ給ひなん
 問26・物怖ぢをなむ、わりなくせさせ給ふ御本性にて、いかに思さるるにか。
 問27・使ひに禄取らせさせ給ふ
 問28・重く勘当せしめ給ふべき由なむ仰せごと侍りつれば、
 問29・家に預けたりつる人の心も荒れたるなりけり
 問30・まことに聞くがごとくならば、不便なることなり。


【解答・解説】

 問01・討たれなかった
    「れ」は受身、「ざり」は打消、「けり」は過去の意味を表す助動詞。受身の場合は受
   身の対象となる事物がある。この場合でいうと敵軍がそれにあたる。文中に書かれて
   はいないが、受身の対象となる相手の存在を読み取る必要がある。

 問02・自然と何か物を物を書き
    「れ」は自発の意味を表す助動詞。「筆を取れば物書かれ」と「楽器を取れば音を立
   てん」が対になる。どちらも自然にそのような衝動に駆られるという意味になるので
   「れ」は自発となる。

 問03・愛好している
    「る」の直前の語の活用形に注目。「好け」はカ行四段活用動詞「好く」の已然形であ
   る。四段活用動詞の已然形の後に使われる「る」「れ」は完了・存続の意味を表す助動
   詞「り」である。受身・自発・可能・尊敬の意味を表す助動詞「る」は未然形の後に続い
   て使われる。

 問04・植えていらっしゃった
    「植ゑ」はワ行下二段活用動詞「植う」の未然形。「られ」は尊敬の意味を表す助動詞
   「らる」の連用形。四段・ナ変・ラ変動詞以外の動詞の場合は、「る」ではなく「らる」が使
   われる。「ける」は過去の意味を表す助動詞である。

 問05・切らせた
    「せ」は使役・尊敬の助動詞「す」の連用形だが、尊敬の場合は直後に「たまふ」など
   の敬語動詞を伴うので、単独で用いられる場合はすべて使役である。「し」は過去の意
   味を表す助動詞「き」の連体形。

 問06・旗を上げさせろ
    「上げ」はガ行下二段活用動詞「上ぐ」の未然形。「させよ」は使役の意味を表す助動
   詞「さす」の命令形。問05の「す」と同様に使役・尊敬の意味を表す助動詞であるが、四
   段・ナ変・ラ変動詞以外の動詞の下に使われる。敬語動詞を伴わず単独で用いられる
   場合は使役になる。これは問05の「す」と同じである。

 問07・つけさせる
    「つけ」はカ行下二段活用動詞「つく」の未然形なので、「す」ではなく「さす」になる。
   これも敬語動詞を伴わず単独で用いられているので使役である。

 問08・喜ばせる/楽しませる
    「しむる」は使役の意味を表す助動詞「しむ」の連体形。「す」「さす」が和文に使われ
   るのに対し、「しむ」は漢文訓読調の文で使われる。敬語動詞を伴わず単独で用いら
   れる場合は使役になる。これも「す」「さす」と同じである。

 問09・見合わせなさらない
    「給は」は尊敬の意味を表す補助動詞「給ふ」の未然形。助動詞「す」「さす」の後に
   「給ふ」を伴った形、つまり「せ給ふ」「させ給ふ」となる場合の「せ」「させ」には、尊敬の
   場合と使役の場合とがある。使役の場合は「○○に××をさせる」という現代語訳にな
   るので、使役の対象となる人物の有無を読み取らなければならない。この場合は自分
   自身が目を見合わせるという行為をしているので使役ではなく尊敬の意味で使われて
   いることがわかる。

 問10・盛んに(立ち上る)煙のようだ
    「ごとし」は比況の意味を表す助動詞である。必ず直前に比況する対象となる事物が
   述べられる。

 問11・欠伸をなさって
    「せ」はサ行変格活用動詞「す」の未然形。「られ」は尊敬の意味を表す助動詞「らる」
   の連用形。現代語では「する」に対して「なさる」と訳せばよい。

 問12・全く抜くことができない
    「抜か」はカ行四段活用動詞「抜く」の未然形。「れ」は可能の意味を表す助動詞「る」
   の未然形。「ず」は打消の意味を表す助動詞「ず」の終止形。助動詞「る」「らる」の直後
   に打消の助動詞「ず」を伴っている場合は、不可能の意味を表す。

 問13・世の中をわかっていると
    「知れ」はラ行四段活用動詞「知る」の已然形。「れ」は存続の意味を表す助動詞「る」
   の已然形。「ば」は順接の確定条件を表す接続助詞。

 問14・目も当てることができないことが多い
    「当て」はタ行下二段活用動詞「当つ」の未然形。「られ」は問12と同じ理由で可能の
   意味を表す助動詞「らる」の未然形となる。「ぬ」は打消の意味を表す助動詞「ず」の連
   体形。

 問15・この世の中に全く桜がなかったならば
    「なかり」はク活用の形容詞「なし」の連用形。「せ」は過去の意味を表す助動詞「き」
   の未然形。「ば」は順接の仮定条件を表す接続助詞。

 問16・お聞かせ下さい
    「聞か」はカ行四段活用動詞「聞く」の未然形。「せ」は使役の意味を表す助動詞「す」
   の連用形。「給へ」は尊敬の意味を表す補助動詞「給ふ」の命令形。

 問17・都をお出になってしまわれた
    「出で」はダ行下二段活用動詞「出づ」の連用形。「させ」は尊敬の意味を表す助動詞
   「さす」の連用形。「給ひ」は尊敬の意味を表す補助動詞でハ行四段活用の連用形。
   「ぬ」は完了の意味を表す助動詞「ぬ」の終止形。

 問18・漕がせなさって下さい
    「漕が」はガ行四段活用動詞「漕ぐ」の未然形。「しめ」は使役の意味を表す助動詞「し
   む」の連用形。「給へ」は尊敬の意味を表す補助動詞「給ふ」の命令形。なお、「しめ」を
   尊敬と解釈するのは誤りである。尊敬だと「御漕ぎになって下さいませ」という現代語訳
   になるが、その場合は最高敬語になるので主語は天皇・上皇・法皇など極めて身分・
   地位の高い人間でなければならない。問題文では船を漕ぐのは皇族ではなく船頭であ
   ることを考えると、「しめ」は尊敬ではないことがわかる。

 問19・(政治の)道を正しくすれば
    「正しく」はシク活用の形容詞「正し」の連用形。「せ」はサ行変格活用動詞「す」の未
   然形。「ば」は順接の仮定条件を表す接続助詞。形容詞の本活用の連用形の後に使わ
   れる「せ」「す」「すれ」「せよ」はサ変動詞であり助動詞ではない。

 問20・楊貴妃のような例は
    「ごとき」は例示の意味を表す助動詞「ごとし」の連体形。「楊貴妃」を例に挙げて説明
   している文である。

 問21・見てしまったことだけでも知らせよう
    「て」は完了の意味を表す助動詞「つ」の連用形。「けり」は過去の意味を表す助動詞
   「けり」の終止形。「れ」は受身の意味を表す助動詞「る」の未然形。「む」は意志の意味
   を表す助動詞「む」の終止形。直訳すると「見てしまったということだけでも知られるよう
   にしよう」となる。 「だに」は最低限のことを表す副助詞。

 問22・冬はどんな場所でも住むことができる
    「住ま」はマ行四段活用動詞「住む」の連体形。「る」は可能の意味を表す助動詞「る」
   の終止形である。「る」「らる」が可能の意味で使われる場合、打消の助動詞を伴い不
   可能の意味を表すことが多いが、それは平安時代以前の作品における用法である。鎌
   倉時代以後は打消の助動詞を伴わず、肯定文にも使われることも知っておきたい。

 問23・本当のことと信じてさしあげることができません
    「思う」はハ行四段活用動詞「思ふ」の連用形ウ音便。「給へ」は謙譲の意味を表す補
   助動詞。「られ」は可能の意味を表す助動詞「らる」の未然形。「ね」は打消の意味を表
   す助動詞「ず」の已然形。この問題のポイントは「給へ」がハ行下二段活用の未然形で
   あるということ。 尊敬を表す補助動詞「給ふ」はハ行四段活用なので、未然形は「給は」
   になる。したがって「給へ」は謙譲に訳さなければならない。

 問24・亀山殿を建設なさろうということで
    「建て」はタ行下二段活用動詞「建つ」の未然形。「られ」は尊敬の意味を表す助動詞
   「らる」の未然形。「ん」は意志の意味を表す助動詞「む」の終止形。

 問25・早くお帰りになるのが良いでしょう
    「帰ら」はラ行四段活用動詞「帰る」の未然形。「せ」は尊敬の意味を表す助動詞「す」
   の連用形。「給ひ」は尊敬の意味を表す助動詞「給ふ」の連用形。「な」は強意の意味
   を表す助動詞「ぬ」の未然形。「ん」は適当の意味を表す助動詞「む」の終止形。「せ給
   ふ」が使われているので、「帰る」の主語は非常に身分の高い人ということになり、その
   人に対して「帰る」という行為を推奨する言い方になる。

 問26・やたらになさる
    「わりなく」はク活用の形容詞「わりなし」の連用形。「むやみに」「やたらに」という意味。
   「せ」は問19と同じ理由でサ行変格活用動詞「す」の未然形。「させ」は尊敬の意味を表
   す助動詞「さす」の連用形。「給ふ」は尊敬の意味を表す補助動詞。

 問27・ご褒美の品物を取りに行かせなさる
    「取ら」はラ行四段活用動詞「取る」の未然形。「せ」は使役の意味を表す助動詞「す」
   の未然形。「さす」は尊敬の意味を表す助動詞「さす」の連用形。「給ふ」は尊敬の意味
   を表す補助動詞。問題文の冒頭に「使ひに」と使役の対象になる人物がいるので、「せ」
   は尊敬ではなく使役となる。

 問28・重く処罰なさるであろう
    「勘当せ」はサ行変格活用動詞「勘当す」の未然形。「しめ」は尊敬の意味を表す助動
   詞「しむ」の未然形。「給ふ」は尊敬の意味を表す補助動詞「給ふ」の終止形。「べき」は
   推量の意味を表す助動詞「べし」の連体形。この文では問27のように使役の対象となる
   人物がいないこと、後に「仰せごと」とあるので「勘当せ」の主語は非常に身分の高い人
   間であることがわかるので、「しめ」は尊敬である。

 問29・家を預かっていた人の心も荒れてしまったのだなあ
    「預け」はカ行下二段活用動詞「預く」の連用形。「たり」は存続の意味を表す助動詞
   「たり」の連用形。「つる」は完了の意味を表す助動詞「つ」の連体形。「荒れ」はラ行下
   二段活用動詞「荒る」の連用形。「たる」は存続の意味を表す助動詞「たり」の連体形。
   「なり」は断定の意味を表す助動詞「なり」の連用形。「けり」は詠嘆の意味を表す助動
   詞「けり」の終止形。

 問30・本当に聞く通りのことであるならば
    「ごとく」は比況の意味を表す助動詞「ごとし」の連体形。「なら」は断定の意味を表す
   助動詞「なり」の未然形。「ば」は順接の仮定条件を表す助詞。なお、「ごとくなり」で一
   語の比況の助動詞としても良い。