こてんこてん蔵庫5(その5)             戻る

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第21回・助動詞「らむ」「けむ」

 次の赤文字の語は用言ないし助動詞である。用言の場合は活用種類・基本形・活用形
を、助動詞の場合は意味・基本形・活用形を答えなさい。ただし中級以上の問題は用言で
も助動詞でもないものや赤文字の部分では一語とならないものがあります。それらは「×」
と解答してください。

【初級】
 問01・風吹けば沖つ白波たつた山夜半にや君が一人越ゆらむ
 問02・「名対面は過ぎらむ。瀧口の宿直申し今こそ。」と推し量り給ふ。
 問03・また異所にかぐや姫と申す人ぞおはすらむ
 問04・鸚鵡、いとあはれなり。人の言ふらむことをまねぶらむよ。
 問05・ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ
 問06・みだり心地の悪しう侍れば、うつぶし伏して侍るなり。お前にこそわりなく思さるらめ
 問07・増賀聖の言ひけむやうに、名聞ぐるしく仏の御教えに違ふらんとぞ覚ゆる。
 問08・右大臣の御年、五十七、八にやおはしましけむ
 問09・いかなる所にか、この木はさぶらひけん
 問10・医師のもとにさし入りて、向かひゐたりけん有様、さこそ異様なりけめ


【中級】
 問11・枕上に寄りゐて泣き悲しめども、聞くらんとも覚えず。
 問12・思ひ出でてしのぶ人あらんほどこそあらめ、
 問13・などて乗り添ひて行かざりつらん
 問14・あが仏、何事思ひ給ふぞ。思すらん事、何事ぞ。
 問15・かく辛き目にあひたらん人、嫉く口惜しと思はざらんや。
 問16・疑はし外に渡せる文見ればここや跡絶えにならんとすらむ
 問17・徳大寺にもいかなるゆゑか侍りけむ。
 問18・夜昼これを預かりて取り飼ひたまふほどに、いかがし給ひけむ、そらし給ひてけり。
 問19・昔は聞きけんものを木曾の冠者、今は見るらん、左馬頭兼伊予守、朝日の将軍源
     義仲ぞや。
 問20・そも、参りたる人ごとに山へ登りしは、何事かありけん


【上級】
 問21・蓬莱といふらむ山に逢ふやと、波を漕ぎ漂ひ歩きて、
 問22・文を書き置きてまからむ。恋しからむ折々取り出でて見たまへ。
 問23・憶良らは今はまからむ子泣くらむそれその母も我を待つらむそ
 問24・いかにもののあはれもなからん
 問25・「後は誰に。」と心ざす物あらば、生けらんうちにぞ譲るべき。
 問26・われら、いかなる罪を犯してかく悲しき目を見るらむ
 問27・日頃は音にも聞きつらむ、今は目にも見たまへ。
 問28・夜中も過ぎにけんかし、風のやや荒々しう吹きたるは。 
 問29・医師のもとにさし入りて、向かひゐたりけん有様、さこそ異様なりけめ。
 問30・いかなる心地かはしけむ。わが思ふにはいま少しうちまさりて嘆くらむ。


【解答・解説】

 問01・ヤ行下二段活用/越ゆ/終止形
    後続の助動詞「らむ」は用言・助動詞の終止形の後に続いて使われる。
 問02・強意/ぬ/終止形
    助動詞「ぬ」は終止形、したがって打消「ず」の連体形ではない。したがって完了の助
   動詞ではあるが、後続の語が助動詞「む」「らむ」「けむ」「べし」など推量の意味を持つ
   場合は、完了ではなく強意となることが多い。「ぬ」+「らむ」でしたがって極めて確信を
   もった現在推量になり、「きっと名対面は今頃終わっているだろう」という現代語訳にな
   る。

 問03・現在推量/らむ/連体形
    文末ではあるが、係助詞「ぞ」の結びで「らむ」は連体形となる。
 問04・現在推量/らむ/終止形
    後続の「よ」は終助詞。言い終えた文の後に使われるので、文末ではないがこの「ら
   む」は終止形となる。

 問05・現在の原因推量/らむ/終止形
    眼前の現象がどんな理由や原因によるのかを推量する表現で、普通の現在推量で
   はない点に注意したい。作者は目の前ではらはらと散っていく桜の花を見て、その理
   由を推量しているのである。したがって現代語訳は「どうして桜は慌しく散っているのだ
   ろう」となる。

 問06・現在推量/らむ/已然形
    文末ではあるが、係助詞「こそ」の結びで「らむ」は已然形となる。
 問07・ハ行四段活用/言ふ/連用形
    後続の助動詞「けむ」は用言・助動詞の連用形の後に続いて使われる。
 問08・過去推量/けむ/連体形
    文末ではあるが、係助詞「や」の結びで「けむ」は連体形となる。
 問09・過去推量/けむ/連体形
    文末ではあるが、係助詞「か」の結びで「けむ」は連体形となる。なお問題文は「けむ」
   が「けん」となっているが、鎌倉時代以後の作品では「む」が「ん」と表記されることが多
   くなるので注意しよう。

 問10・過去推量/けむ/已然形
    文末ではあるが、係助詞「こそ」の結びで「らむ」は已然形となる。
 問11・カ行四段活用/聞く/終止形
    問01と同じ。「聞く」は終止形・連体形が同じだが、これは終止形である。
 問12・×
    これはラ行変格活用動詞「あり」の未然形「あら」に、婉曲の助動詞「む」がついた形
   である。したがって、「らむ」で一語とはならない。「らむ」の直前が終止形ではなく動詞
   の語幹になっている点で判別する。

 問13・現在の原因推量/らむ/連体形
    冒頭の「など」は疑問の意味を表す副詞で「どうして」と訳す。こういう語がある場合は
   文中に係助詞がなくても文末の活用語は連体形で結ぶので注意したい。現代語訳は
   「どうして一緒に付き添って乗っていかなかったのだろう」となる。手前の「つ」は強意の
   ことが多いが、ここでは完了。理由は過ぎ去ったことを後悔する文脈であるためである。
   また「らむ」が「らん」と表記される点については問09と同じ。

 問14・現在の婉曲/らむ/連体形
    助動詞「む」「らむ」「けむ」に共通して言えることであるが、文中で連体形として使われ
   ている場合(つまり係り結びによる連体形ではない場合)は婉曲であることが多い。この
   文も直訳すると「お思いになっているようなことは何ですか」となる。但し、婉曲はあえて
   訳出しないほうが日本語として自然になる。したがって「お思いになっていることは」とす
   る方がよい。

 問15・×
    これは存続の助動詞「たり」の未然形「たら」に、婉曲の助動詞「む」がついた形である。
   したがって、「らむ」で一語とはならない。「らむ」の直前が終止形ではなく助動詞の一部
   になっている点に注目して判別する。

 問16・現在推量/らむ/連体形
    和歌の句末ではあるが、係助詞「や」の結びで「らむ」は連体形となる。現代語訳は「疑
   わしい。他の女性に渡している手紙があるのを見ると、ここへの訪れはもう途絶えがちに
   なろうとしているのだろうか」となる。

 問17・ラ行変格活用/侍り/連用形
    問07と同じ。「侍り」は連用形・終止形が同じだが、これは連用形である。
 問18・過去の原因推量/けむ/連体形
    現代語訳は「夜も昼もこの鷹を預かって飼育なさっているうちに、いったいどうなさった
   のだろうか、逃がしなさってしまった」となる。したがって「いかがし給ひけむ」の部分だけ
   が作者の推量表現で、これが事実描写の文中に挿入されている点に注意したい。

 問19・過去推量/けむ/連体形
    後続の「ものを」は逆接の接続助詞。連体形の後に使われる。
 問20・過去推量/けむ/連体形
    文末ではあるが、係助詞「か」の結びで「けむ」は連体形となる。疑問文なので「何事
   があったのだろうか」と訳す。

 問21・現在の婉曲/らむ/連体形
    問14と同じ理由で婉曲となる。現代語訳は「蓬莱という山に」となり、婉曲の部分は特
   に訳さない。

 問22・×
    これはラ行四段活用動詞「罷る」の未然形「罷ら」に、意志の助動詞「む」がついた形
   である。したがって、「らむ」で一語とはならない。「らむ」の直前が終止形ではなく動詞
   の語幹となっている点に注目して判別する。

 問23・現在推量/らむ/終止形
    現代語訳は「今頃子どもが泣いているだろう。」となるが、ここで和歌の句切れとなって
   いる点に注意したい。句切れは散文で言えば句点を打ったのと同じことになるので、この
   「らむ」は終止形となる。

 問24・×
    これはク活用形容詞「なし」の未然形「なから」に、推量の助動詞「む」がついた形であ
   る。したがって、「らむ」で一語とはならない。「らむ」の直前が終止形ではなく形容詞の
   語幹の一部となっている点に注目して判別する。

 問25・×
    これは存続の助動詞「り」の未然形「ら」に、婉曲の助動詞「む」がついた形である。し
   たがって、「らむ」で一語とはならない。「らむ」の直前が終止形ではなく四段活用動詞
   「生く」の已然形となっている点に注目して判別する。

 問26・現在の原因推量/らむ/連体形
    冒頭の「いかなる」疑問の意味を表す形容動詞の連体形で「どんな」と訳す。問13に
   述べた理由で文末の活用語は連体形となる。現代語訳は「どんな罪を犯したためにこ
   のような悲しい目に遭っているのだろうか」である。

 問27・現在推量/らむ/終止形
    後続は読点だがここで文意が切れるので終止形である。
 問28・過去推量/けむ/終止形
    後続の「かし」は終助詞。言い終えた文の後に使われるので、問04と同様に「けむ」
   は終止形となる。

 問29・過去の婉曲/けむ/連体形
    問14と同じ理由で婉曲となる。現代語訳は「医院に入って医師と向き合って座ってい
   た様子はさぞかし奇妙であっただろう」となる。婉曲の部分は特に訳さない。

 問30・過去推量/けむ/連体形
    文末ではあるが、係助詞「か」の結びで「けむ」は連体形となる。現代語訳は「どんな
   気持がしただろうか」となる。


第22回・助動詞「らし」「めり」「まし」

 次の赤文字の語は用言ないし助動詞である。用言の場合は活用種類・基本形・活用形
を、助動詞の場合は意味・基本形・活用形を答えなさい。ただし中級以上の問題は用言で
も助動詞でもないものや赤文字の部分では一語とならないものがあります。それらは「×」
と解答してください。

【初級】
 問01・龍を捕らへたらましかば、またこともなく我は害せられなまし。
 問02・音高く小浜の波ぞ聞こゆなる貝うち寄する風は吹くらし
 問03・簾すこし上げて花奉るめり。
 問04・世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし
 問05・この川にもみぢ葉流る奥山の雪消の水ぞ今まさるらし
 問06・京極の屋の南向に今も二本侍るめり
 問07・これに何を書かまし
 問08・春過ぎて夏来たるらし白妙の衣ほしたり天の香具山
 問09・今様はむげに卑しくこそなりゆくめれ
 問10・見る人もなき山里の桜花ほかの散りなむ後ぞ咲かまし


【中級】
 問11・法師にやなりまし。
 問12・恋ひ死ねとするわざらしむばたまの夜はすがらに夢に見えつつ
 問13・子になり給ふべき人めり。
 問14・鏡に色・形あらましかば、映らざらまし
 問15・春過ぎて夏来にけらし白妙の衣ほすてふ天の香具山
 問16・今は限りにこそは物し給ふめれ
 問17・仏師のもとにて造り奉らましかば、そこにてこそは物は参らましか
 問18・秋の夜は露こそことに寒からし草叢ごとに虫の侘ぶれば
 問19・桜の散るを見て詠める歌。
 問20・いかにせまし


【上級】
 問21・なほ、これより深き山を求めてや、跡絶えなまし
 問22・吉野山峰の白雪いかならし麓の里も降らぬ日はなし
 問23・いとど忍びがたくおぼすべかめり。
 問24・やがてかけこもらましかば、口惜しからまし。
 問25・聞きつるや初音なるらしほととぎす老いは寝覚ぞ嬉しかりける
 問26・子になり給ふべき人なめり
 問27・出でて行く道知らませばあらかじめ妹をとどめむ関も置かましを
 問28・いにしへの然なれこそうつせみも妻を争ふらしき
 問29・今ひときは心も浮き立つものは春の気色にこそあめれ
 問30・しやせまし、せずやあらましと思ふことは、おほやうはせぬは良きなり。


【解答・解説】

 問01・完了/たり/未然形
    後続の助動詞「まし」は用言・助動詞の未然形の後に続いて使われる。ちなみに「た
   り」はここでは完了。以前から捕まえているわけではないので、存続ではない。

 問02・カ行四段活用/吹く/終止形
    後続の助動詞「らし」は用言・助動詞の終止形の後に続いて使われる。したがって、
   「吹く」は連体形ではない。

 問03・ラ行四段活用/奉る/終止形
    後続の助動詞「らし」は用言・助動詞の終止形の後に続いて使われる。したがって、
   「奉る」は連体形ではない。

 問04・反実仮想/まし/終止形
    助動詞「まし」には事実と反対のことを仮想する表現と、躊躇する気持ちを含んだ意
   志という2つの用法がある。この場合、「まし」を含んだ文の前に用言・助動詞の未然
   形に助詞「ば」がついた形があれば反実仮想、単独で使われていたら原則として意志
   と考える。この問題は「せ」(過去の助動詞「き」の未然)+助詞「ば」があるため、反実
   仮想になる。現代語訳は「もしこの世の中に桜というものがなかったら春を迎えたとき
   の気持ちはどんなにのんびとしていただろうに」となる。つまり桜のない春を想定し、も
   しそうなったら「のんびりしていただろうに」と所感を述べているのである。

 問05・推定/らし/連体形
    何らかの根拠をもとにあることがらを予測する場合に「らし」を用いる。この和歌では
   「この川にもみぢ葉流る」(この川に紅葉の葉が流れていく)という事実を根拠に、「奥
   山の雪消の水ぞ今まさる」(奥山の雪解け水は今水かさを増している)という事柄を推
   定しているのである。なお句末の「らし」は係助詞「ぞ」の結びで連体形となる。

 問06・婉曲/めり/終止形
    助動詞「めり」には目の前で見たことをもとにあることがらを推量する場合と、明言せ
   ず遠まわしに表現する婉曲とがある。推量の場合は原則として前に根拠となる事柄が
   書かれている。

 問07・意志/まし/終止形
    前に未然形に助詞「ば」がついた形がないので、これは問04とは違う。現代語訳は
   「これに何を書こうかしら」となる。

 問08・推定/らし/終止形
    後続の「白妙」は体言だが、「夏来たるらし」で句切れとなるので「らし」は終止形であ
   る。ここまでの現代語訳は「春が過ぎて夏がやってきたらしい」となる。

 問09・婉曲/めり/已然形
    係助詞「こそ」の結びで已然形となる。ちなみに「めり」は文末・句末に使われ、終止
   形以外の場合はすべて係り結びによるものである。

 問10・反実仮想/まし/終止形
    この和歌には未然形に助詞「ば」がついた形がないが、主語が桜なので擬人法でな
   い限り人間ではない事物が意志を表すことはありえない。現代語訳は「他の桜が散っ
   てしまった後に咲いてくれたらいいのに」となるので、これは反実仮想になる。

 問11・完了/ぬ/未然形
    直前の語「なり」はラ行四段活用動詞の連用形なので、この「な」は完了である。
 問12・断定/なり/連体形
    「らし」は終止形の後に続いて使われるが、ラ変型活用語の場合は連体形から接続
   する。しかもその場合は「る」が省かれいわゆる短縮形になる。「な」の直前が体言「わ
   ざ」なので、この「な」は断定の助動詞。なお、断定の助動詞はラ変型活用語なので後
   続の語が「なり」(伝聞・推定)「めり」「らし」の場合は原則として連体形の短縮形になる。

 問13・断定/なり/連体形
    直前の語「人」は体言なので、この「な」も問12と同じく断定になる。品詞分解の際に
   「なら」と「しむ」に分けないように注意。

 問14・反実仮想/まし/終止形
    「ましかば」と未然形に助詞「ば」がいた形が前にあるので、これは反実仮想になる。
   現代語訳は「もしも鏡に色や形があったら鏡には何も映らないだろうに」となる。

 問15・推定/らし/終止形
    直前の「け」は過去の助動詞「けり」の連体短縮形である。
 問16・推量/めり/已然形
    「めり」には遠まわしに表現する用法の他に、目の前で見たことを根拠に何らかのこ
   とがらを予測する場合がある。亡くなる姿を目の前で見ているからこの場合は推量。
   現代語訳は「もうこれで最期でいらっしゃるでしょう」となる。

 問17・反実仮想/まし/未然形(最初の「ましか」)・已然形(最後の「ましか」)
    最初の「ましか」は未然形。後続の助詞「ば」とセットで仮定条件を表す。未然形に助
   詞「ば」がついた形は、「まし」自体が未然形となって直後に「ば」がくる場合もある。こ
   の場合、文末の「まし」とともにどちらも反実仮想になる。なお、この文の最後の「まし
   か」は係助詞「こそ」の結びで已然形である。

 問18・推定/らし/已然形
    3句目の「寒からし」で句切れとなるので「らし」は文末と同じことになるが、2句目に
   係助詞「こそ」があるため「らし」は終止形ではなく已然形になる点に注意したい。

 問19・×
    これはマ行四段活用動詞「詠む」の已然形活用語尾に存続の助動詞「り」の連体形
   がついた形で、「める」で一語ではない。「める」の直前が終止形ではなく動詞の語幹
   になっている点で判別できる。

 問20・意志/まし/連体形
    未然形に助詞「ば」がついた形が前にないため、この「まし」は意志になる。文末では
   あるが、疑問を表す副詞「いかに」があるため係り結びと同じ法則が働き「まし」は連体
   形。現代語訳は「どうしようかしら」となる。

 問21・意志/まし/連体形
    問20と同様に未然形に助詞「ば」がついた形が前にないため、この「まし」は意志に
   なる。文末ではあるが、係助詞「や」があるため「まし」は連体形。現代語訳は「いっそ
   のこと行方をくらましてしまおうかしら」となる。

 問22・ナリ活用「いかなり」連体形
    本来は「いかなる」である。形容動詞はラ変型活用語に該当するので、問12と同じ
   理由で短縮形になる。

 問23・推量/べし/連体形
    本来は「べかる」である。助動詞「べし」は形容詞型活用をするが、その補助活用は
   ラ変型活用語に該当するので、問12と同じ理由で短縮形になる。

 問24・反実仮想/まし/未然形
    問17と同じく「まし」自体が助詞「ば」を伴って未然形となった例。現代語訳は「もし客
   が帰った後すぐに掛け金をかけて部屋に引きこもってしまったら、どんなにがっかりす
   ることだろうに」となる。

 問25・断定「なり」連体形
    直前の語は「初音」なので体言。したがって「なる」は断定。この場合短縮形「な」にな
   るのが普通だが、稀にそうでない場合もある。現代語訳は「今聞いたのはほとどきすの
   初音ではなかったかしら」となる。

 問26・婉曲/めり/終止形
    直前の「な」は断定「なり」の連体形短縮形。現代語訳は「私の子どもになるはずの人
   であるようだ」となる。

 問27・反実仮想/まし/未然形
    問24と同じ形で「まし」自体が後続の助詞「ば」を伴っている。なお、助動詞「まし」の
   未然形には「ましか」と「ませ」とがある。「ませ」は奈良時代までの用法で、平安時代
   以後は「ましか」が使われていた。

 問28・推定/らし/已然形
    係助詞「こそ」があるのでその結びで已然形となる。なお、助動詞「らし」の已然形に
   は「らし」と「らしき」とがある。「らしき」は奈良時代までの用法で、平安時代以後は「ら
   し」が使われ活用による語形変化がなくなった。

 問29・婉曲/めり/已然形
    直前の「な」は断定「あり」の連体形短縮形。係助詞「こそ」の結びで已然形となる。
   現代語訳は「なおいっそう心が惹かれるものは春の風情であるようだ」となる。

 問30・意志/まし/連体形
    品詞分解すると「し」はサ変動詞連用形、「や」は係助詞、「まし」は意志の助動詞。こ
   れは直後の「せずやあらまし」とともに心内表現文になっていて、共に後にある「と思ふ
   ことは」につながっている。「しやせまし」「せずやあらまし」がそれぞれ一文となっている
   ので後続は読点だが「まし」で文が終わっていると考える。しかし終止形ではない。係助
   詞「や」の結びになるので連体形である。なお現代語訳は「『しようかしら』それとも『しな
   いでおこうかしら』と迷うようなことは、大抵はしない方が良い」となる。


第23回・助動詞「る」「らる」

 次の赤文字の語は用言ないし助動詞である。用言の場合は活用種類・基本形・活用形
を、助動詞の場合は意味・基本形・活用形を答えなさい。ただし中級以上の問題は用言で
も助動詞でもないものや赤文字の部分では一語とならないものがあります。それらは「×」
と解答してください。

【初級】
 問01・七騎がうちまでも巴は討たざりけり。
 問02・我ながらかたじけなく、屈しにける心のほど思ひ知ら
 問03・この名しかるべからずとて、かの木を切らにけり。
 問04・しばし奏でて後、抜かんとするに、おほかた抜かず。
 問05・物に襲はるる心地して驚きたまへれぱ、火も消えにけり。
 問06・あの国の人をえ戦はぬなり。弓矢して射られじ。
 問07・験あらん僧たち、祈り試みられよ
 問08・恐ろしくて寝も寝られず。
 問09・さやうの所にてこそ万に心づかひせらるれ
 問10・ありがたきもの。舅にほめらるる婿。


【中級】
 問11・家の造りやうは夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住ま
 問12・あさましさに、見てけりとだに知らむとて書きつく。
 問13・今日は都のみぞ思ひやらるる
 問14・古き墳はすかて田となりぬ。
 問15・すなはち人を恐るるがゆゑなり。
 問16・住みなれしふるさと、限りなく思ひいでらる
 問17・南海の浜に吹き寄せられたるにやあらむ。
 問18・木曾殿は信濃より巴・山吹とて二人の美女を具せられたり。
 問19・それを見てだに帰りなむと仰せらるれば、かぐや姫、もとのかたちになりぬ。
 問20・かくなむ帝の仰せ給へ。なおやは仕うまり給はぬ。


【上級】
 問21・秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞ驚かぬる
 問22・平清盛公と申しし人の有様、伝へ承るこそ心も言葉も及ばね。
 問23・国香より正盛に至るまでの六代は諸国の受領たりしかども、殿上の仙籍をばいま
    だ許さず。
 問24・さる者ありとは鎌倉殿までも知ろしめさたるらんぞ。
 問25・人知れずうち泣かぬ。
 問26・事を知り、世を知れば、願はず、走らず。
 問27・もの怖ぢをなむわりなくせさせたまふ御本性にていかに思さるるにか。
 問28・主上は御涙にくもりつつ、月の光もおぼろげにぞ御覧ぜられける。
 問29・なにか心もなくて侍らむに、ふと行幸して御覧ぜむ、御覧ぜられなむ。
 問30・恥づかしく心づきなき言は、いかでか御覧ぜられじ。


【解答・解説】

 問01・受身/る/未然形
    受身の場合はその動作をする相手が存在することが前提条件となる。この問題で
   は「討つ」動作を敵軍がするので「れ」は受身となる。(巴が誰かを討つわけではない)
   現代語訳は「討たれなかった」となる。

 問02・自発/る/終止形
    「る」「らる」は動詞の連用形の後に続いて使われるが、その動詞が「思ふ」「見る」
   「聞く」「知る」といった知覚を表す動詞の場合は自発として使われることがあるので注
   意したい。自発の現代語訳は「自然と〜れる」「〜せずにはいられない」となる。

 問03・尊敬/る/連用形
    「〜を」と目的語がある場合、その動詞は他動詞となる。この文では「木を切る」とい
   う行為に尊敬の意を付したものである。

 問04・可能/る/未然形
    後続の語が打消・打消推量・打消意志など、いわゆる否定文に使われる場合の「る」
   「らる」は可能を考える。特に平安時代以前に成立した作品では可能の意味をもつ「る」
   「らる」の大部分は打消の助動詞を伴って不可能の意を表した。問題文の「抜かれず」
   は「抜くことができない」と訳す。

 問05・受身/る/連体形
    「物」とは「物の怪」である。「襲う」という動作を実行する相手がいるので、この場合は
   受身となる。

 問06・可能/らる/未然形
    問04と同じ。問題文は『竹取物語』で平安時代に成立した作品である。「弓矢で闘っ
   ても相手を射ることはできないだろう」と訳す。

 問07・尊敬/らる/命令形
    命令形の用法は尊敬・受身に限られ、自発・可能にはないことを知っておきたい。そ
   して問01で述べたようにその動作をする相手がいなければ受身ではないので尊敬と
   なる。この場合は僧たちに祈祷をお願いする場面で「お祈りをお試しください」と訳す。

 問08・可能/らる/未然形
    問04と同じ。「寝も寝られず」で「眠ることもできない」と訳す。
 問09・自発/らる/已然形
    「心づかひす」は知覚動詞ではないが、やはり心の動きを表す動詞である。こういう
   場合は自発の可能性もあることを考える。現代語訳は「そのような所でこそ自然と気
   遣いをさせられるものであるよ」となる。これを意訳すると「旅先でこそ自然と気遣いを
   するようになるものであるよ」となる。

 問10・受身/らる/連体形
    「ほめる」という動作をする人物が「舅」なので、これは受身である。
 問11・可能/る/終止形
    鎌倉時代以後に成立した作品では肯定文でも可能の用法も登場するので注意。現
   代語訳は「家の建築は夏(に住みやすくすること)を第一と考えるのがよい。冬はどん
   な場所でも(人間は)住むことができる」となる。

 問12・受身/る/未然形
    受身の対象は明記されていなくても受身の場合があるので注意。問題文は「見てけ
   りとだに知られむ」の部分を「せめて私が手紙を見たということだけでも夫に知られる
   ようにしよう」と直訳できるので受身。なお後続の「む」は意志。意訳すると「せめて手
   紙を見たということだけでも夫に知らせよう」となる。

 問13・自発/る/連体形
    問02と同じ。「思ひやる」は「思ふ」の複合動詞であるが、こういうものも知覚動詞で
   ある。

 問14・受身/る/連用形
    現代語訳は「古くなった墓は掘り返されて田んぼになってしまう」となる。この文も問
   12と同じく受身の対象は明記されていないが、「墓を掘り返す」という行為をするのは
   一般的な意味での「人」であることがわかる。

 問15・×
    これはラ行下二段活用動詞「恐る」の連体形活用語尾である。「るる」の直前が動詞
   の語幹であるから判別は容易であろう。助動詞「る」はあくまでも四段活用・ナ行変格
   活用・ラ行変格活用動詞の未然形の後に限って使われる。

 問16・自発/らる/終止形
    問13と同じ。
 問17・受身/らる/連用形
    これも受身の対象が明記されていないが、風であることがわかる。
 問18・尊敬/らる/連用形
    主語の「木曾」に「殿」という敬称がついていることに注目。したがって「具す」という動
   詞にも敬意が加えられなければならない。現代語訳は「お連れになっていた」となる。
   木曾殿が誰かに連れ回されていたわけではない。

 問19・尊敬/らる/已然形
    直前の動詞が敬語動詞(もともと敬意を有している動詞)の場合、「る」「らる」は尊敬
   となるのが原則。「仰す」は「言ふ」の尊敬語で「おっしゃる」と訳すので敬語動詞である。
   そして敬語動詞に尊敬の助動詞「る」「らる」を伴った場合は単独の敬語動詞よりもさら
   に程度の高い尊敬の意を表すことも知っておきたい。

 問20・存続/り/連体形
    直前の「給へ」は四段活用動詞の已然形である。四段活用動詞の已然形の後に使
   われる助動詞は存続・完了の「り」しかない。なお「給ふ」には謙譲の意味をもつ下二
   段活用動詞もあるが、この場合は会話文・手紙文・心内表現文で知覚動詞の後に続
   いて使われる。

 問21・自発/る/連用形
    問02と同じ。後続の「ぬる」は完了の助動詞「ぬ」の連体形なので「れ」は連用形で
   ある。

 問22・可能/る/未然形
    後続の「ね」は打消の助動詞「ず」の已然形なので「れ」は未然形である。したがって
   問04と同じ理由で可能となる。現代語訳は「言葉で表現することができない」となる。

 問23・受身/る/未然形
    問22と同じく後続の語は打消ではあるが、受身の対象、すなわち「許す」という動作
   をした人が存在するので受身となる。

 問24・尊敬/る/連用形
    直前の「知ろしめす」は「知っていらっしゃる」と訳し、敬語動詞である。したがって問
   19と同じ理由で「れ」は尊敬となる。問19と同じで敬意の度合いが高いので現代語訳
   は「ご存知でいらっしゃる」となる。

 問25・自発/る/連用形
    直前の「泣く」も知覚動詞。「自然と涙が出てしまう」と訳す。
 問26・存続/り/已然形
    直前の「知れ」はラ行四段活用動詞「知る」の已然形。したがって問20と同じ理由で
   存続・完了を表す助動詞となる。

 問27・尊敬/る/連体形
    直前の「思す」は「思ふ」の尊敬語にあたり敬語動詞である。したがって問19と同じ
   理由で「るる」は尊敬となる。現代語訳は「お思いになっていらっしゃる」となる。

 問28・尊敬/らる/連用形
    直前の「御覧ず」は「見る」に尊敬の意味を持たせた語なので敬語動詞である。した
   がって問19と同じ理由で「られ」は尊敬となる。

 問29・可能/らる/連用形
    問28と同様に敬語動詞に続いて用いられる「る」「らる」の用例であるが、必ずしも
   尊敬とはならない例。問題文は竹取物語であるが平安時代の作品にしては滅多にな
   い肯定文における可能の用法である。現代語訳は「姫がうっかりしているときに突然
   行幸なさって御覧になれば、姫の姿を御覧になることもできるでしょう」となる。なお、
   「御覧ぜられなむ」を「自然と御覧になるだろう」と訳し「られ」を自発と取る解釈もある
   が現代語訳をしたとき日本語としてやや不自然になるので可能の方が妥当である。

 問30・受身/らる/未然形
    直前の語は「御覧ず」であるが、この場合は「中宮」という受身の対象があるので受
   身となる。現代語訳は「私がきまりが悪くて気に入らないような歌は、なんとか中宮様
   のお目にはかけまい」となる。つまり歌を中宮が見るのではなく、中宮に見られないよ
   うにしようということである。


第24回・助動詞「す」「さす」「しむ」

 次の赤文字の語は用言ないし助動詞である。用言の場合は活用種類・基本形・活用形
を、助動詞の場合は意味・基本形・活用形を答えなさい。ただし中級以上の問題は用言で
も助動詞でもないものや赤文字の部分では一語とならないものがあります。それらは「×」
と解答してください。

【初級】
 問01・妻の嫗に預けて養は
 問02・仮の宿り、誰がためにか心を悩まし、何によりてか目を喜ばしむる
 問03・汝が巻きて持たせたる旗上げさせよ
 問04・この子いと大きになりぬれば、名を三室戸斎部の秋田を呼びてつけさす
 問05・音に聞きし猫また、あやまたず足もとにふと寄り来て、やがて掻きつくままに首の
     ほどを食はんと
 問06・山々に人をやりて求めさすれど、さらになし。
 問07・仏師らを供養してわが像を作らしめたり。
 問08・さるは便りごとに物も絶えず得させたり。
 問09・少将の命婦などにも聞かな。
 問10・月の都の人詣で来ば、捕へさせむ。


【中級】
 問11・世の中にたえて桜のなかりば春の心はのどけからまし
 問12・わづかに二つの矢、師の前にて一つを愚かにんと思はんや。
 問13・頭中将呼びよて奉らす。
 問14・この十五日になむ、月の都よりかぐや姫の迎へに詣で来なる。尊く問はたまふ。
 問15・これをだに奉らばすずろなるべしとて、人々に歌詠またまふ。
 問16・物怖ぢをわりなくさせ給ふ本性にて、いかが思さるるにか。
 問17・君既に都を出でさせたまひぬ。一門の運命はや尽き候ひぬ。
 問18・この事を帝聞こしめして、竹取が家に御使遣はさせたまふ。
 問19・この幣の散る方へ御船すみやかに漕がしめたまへ。
 問20・公も行幸せしめたまふ。


【上級】
 問21・蔵人の弁を召し寄せて、まめやかにかかる由を奏せさせたまふ。
 問22・いづくよりおはしますにか。悩ましげに見えさせたまふ。
 問23・さばかり日本国に聞こえさせたまひつる木曾殿をば、それがしの郎等の討ち奉つ
     たる。
 問24・はやおはしまして、夜更けぬさきに帰らおはしませ。
 問25・我に今一度声をだに聞かたまへ。
 問26・親のあはすれども、聞かでなむありける。
 問27・繋ぎ苦しむるこそ痛ましけれど、なくてかなはぬものなればいかがはせん。
 問28・これに置きて参らせよ。枝も情けなげなめる花を。
 問29・門あけて惟光の朝臣出で来たるして奉ら。 
 問30・帝おほきに驚かせたまひて感ぜしめ、聞き召すこと限りなし。


【解答・解説】

 問01・使役/す/終止形
    四段活用・ナ行変格活用・ラ行変格活用動詞の未然形の後に使われている「す」は
   使役・尊敬の助動詞である。このうち後続の語が「給ふ」「奉る」など敬語動詞ではな
   い場合、つまり単独で使われている場合は原則として使役の用法である。

 問02・使役/しむ/連体形
    奈良時代以前の使役の助動詞は「しむ」が一般的に使われ、平安時代以後におい
   ては和文が「す」「さす」に替わり、漢文訓読文が「しむ」のまま残った。単独で使われ
   る場合は原則として使役である点は「す」「さす」と同様である。問02は連体形であが、
   これは係助詞「か」の結びとなったものである。

 問03・使役/さす/命令形
    「す」は四段活用・ナ行変格活用・ラ行変格活用動詞の未然形の後に用いられるが、
   「さす」はそれ以外の動詞の未然形の後に続いて用いられる。この区別は現在も同じ
   で、たとえば五段活用動詞では「彼に行かせる」という用例が示すように「せる」が、下
   一段活用動詞の場合は「彼に届けさせる」という用例の通り「させる」が用いられる。こ
   のうち「せる」が古語では「す」、「させる」が古語では「さす」となっている。

 問04・使役/さす/終止形
    問03と同じ。これも単独で用いられているので使役である。なお使役の場合は「Aが
   BにCをさせる」という現代語訳になる。Aは主語、Bは使役の対象者、Cが動作である。
   Aは省かれることがしばしばあるが、この文の場合Aが「竹取の翁」、Bが「秋田」、Cが
   「つけ」(名前をつけること)という動作になる。

 問05・サ行変格/す/終止形
    直前の語は助詞「と」である。助動詞「す」は助詞の後に続いて使われることはない
   ので「食はんと」で一文節を構成する。ということは「す」が文節の先頭に来ることにな
   り、したがってこれは動詞であることがわかる。

 問06・使役/さす/已然形
    問03と同じ。
 問07・使役/しむ/連用形
    後に敬語動詞がなく単独で使われているのでこれも使役。後続の語は存続の助動
   詞「たり」なので、この「しめ」は未然形ではなく連用形である。

 問08・使役/さす/連用形
    問04と同じ。これは『土佐日記』の中にある文である。作者(紀貫之)が自宅を預か
   ってくれている隣家の住人に対し、そのお礼をしていたのであるが、作者自らが隣家
   の人にお礼の品を手渡したのではなく従者に届けさせたという意味である。

 問09・使役/す/終止形
    問01と同じ。源氏物語夕顔の巻にある文で「この出来事(夕顔の急死)を少将の命
   婦などにも聞かせるな」という意味である。後に助詞「な」があって句点で文が終わっ
   てはいないが、「す」という活用形は終止形しかないので、解答は当然終止形となる。

 問10・使役/さす/未然形
    問03と同じ。後続の語は意志の助動詞「む」であるので活用形は未然形となる。「も
   し月の都の人がやってきたら屋根の上で守っている人々に捕まえさせよう」という意味
   である。

 問11・過去/き/未然形
    いわゆる「せ」の判別に関する問題。「せ」にはサ変動詞の「す」の未然形、サ行四段
   活用・サ行下二段活用動詞の活用語尾、過去の助動詞「き」の未然形、使役の助動詞
   「す」の未然・連用形、尊敬の助動詞「す」の未然・連用形の5種がある。このうちサ変
   動詞は自立語なので文節の先頭にくる。過去の助動詞は用言や助動詞の連用形の後
   に使われる。後2者は問01に記した通りである。問11は形容詞「なし」の連用形で、し
   かも補助活用であるので答えは過去の助動詞となる。冒頭から「なかりせば」までの現
   代語訳は「もしもこの世の中に桜というものがなかったら」となる。

 問12・サ行変格/す/終止形
    直前の語は形容動詞ナリ活用の連用形であるが、これには「語幹+なり」と「語幹+
   に」の2つがある点に注目。前者は助動詞につながるときに使われ後者は用言につな
   がるときに使われる。したがって問12の「せ」は助動詞ではない。

 問13・×
    「呼び寄す」で一語のサ行下二段活用動詞で、その連用形活用語尾として「せ」が出
   ている。したがってこれだけで一語とはならない。

 問14・尊敬/す/連用形
    四段活用動詞の未然形の後に続いているので使役・尊敬の助動詞である。後に敬
   語動詞「たまふ」がある場合は尊敬の用法と使役の用法の両方の可能性がある。判
   別の際には使役の対象者の有無を考える。つまり問04に記した「AがBにCをさせる」
   という現代語訳になるか否かを考える。

 問15・使役/す/連用形
    前後の語は問14と同じパターンだが、「人々に」という使役の対象者が存在するの
   で、これは使役とわかる。現代語訳は「『これをただ親王に差し上げるだけならつまら
   ないだろう』とおっしゃって、大将は人々に和歌を詠ませなさる」となる。

 問16・サ行変格活用/す/未然形
    直前の語は形容詞の連用形だが補助活用ではなく本活用の連用形である点に注
   目。助動詞につなぐ場合は原則として補助活用になるのでこの「せ」は動詞である。
   現代語訳は「日頃から物怯え(物事におびえたり怖がること)をむやみになさる本性
   であるので、どんなに恐ろしくお思いになっていることか」となる。

 問17・尊敬/す/連用形
    「君」とは天皇のこと。「天皇は既に都をお出になってしまわれた」という現代語訳に
   なるのでこれは尊敬。「す」「さす」が尊敬でしかも「給ふ」が後に続く場合は最高敬語
   ないしは絶対敬語といい、非常に高い敬意を表す。敬意の対象者が天皇・上皇・法皇
   など特に身分の高い人であることが多い。

 問18・尊敬/さす/連用形
    「御使」と文中に出ているので使役と見誤りがちだが、現代語訳は「このことを天皇が
   お聞きになられて竹取の翁の家に遣いの者を派遣なさる」となるので、これは作者の
   帝に対する尊敬である。

 問19・使役/しむ/連用形
    「しむ」の後に敬語動詞があるので、まず「しむ」が尊敬か使役かを区別しなければな
   らない。問題文は『土佐日記』の中にあ一文で船頭が航海の安全を神様に祈願してい
   る時の言葉である。「しめ」を尊敬に解釈すると「神への捧げ物が散る方向に御船を速
   やかにお漕ぎになって下さい」となり、これでは意味がつながらない。使役なら現代語
   訳は「神への捧げ物が散る方向に御船を速やかに漕いで行かせて下さい」となる。

 問20・尊敬/しむ/連用形
    問19と同じく敬語動詞を伴った「しむ」の用法であるが、「行幸せ」とは天皇が外出す
   ることを意味する語なので、使役ではなく天皇自らの行為であることがわかる。したが
   って現代語訳は「天皇も外出なさる」となる。

 問21・使役/さす/連用形
    現代語訳は「源氏の君は蔵人の弁をお呼び出しになって、まじめな様子でこの事情
   を帝に申し上げさせなさる」となる。問04に記した「AがBにCをさせる」構図でみるとこ
   の文の場合、Aが「源氏の君」、Bが「蔵人の弁」、Cが「奏せ」(帝に申し上げること)と
   いう動作になる。このように「す」「さす」が使役で敬語動詞「給ふ」を伴う場合は、身分
   の高い人が身分の低い人に対してある動作をさせるという意味になる。

 問22・尊敬/さす/連用形
    現代語訳は「どちらよりお帰りになったのであろうか。気分が悪そうな様子にお見え
   になるが・・・」となる。二条院の女房が、源氏の君の様子を具合が悪そうに見えたの
   であるから、これは使役ではなく尊敬。

 問23・尊敬/さす/連用形
    現代語訳は「あれほどまでに高い評判をとっていらっしゃった木曾殿の首を誰それの
   家来がお討ち取り申し上げたぞ」となる。合戦での数々の手柄を取り強い武士として日
   本国中に、その名を轟かせていたのは木曾殿であるから、これは尊敬となる。

 問24・尊敬/す/連用形
    後続の「おはしませ」も敬語動詞でこれも程度の高い敬意を表す。現代語訳は「夜が
   更けないうちにお帰りくださいませ」となる。使役の対象がないので「帰る」という動作
   主は敬意の対象者になる。したがって「せ」も尊敬である。

 問25・使役/す/連用形
    現代語訳は「私にもう一度せめて声だけでもお聞かせください」となる。問題文も「我
   に」とあるのでこれが使役の対象者になる。

 問26・×
    現代語訳は「親は別の男と結婚させようとするが、本人は言うことを聞かずにいた」と
   なる。直前の語が四段活用動詞の動詞の未然形で「すれ」がいかにも使役の助動詞と
   いう感じがするが、これは「あはす」が一語のサ行下二段活用動詞である。

 問27・×
    直前の語が用言の語幹である点に注目。これはマ行下二段活用動詞「苦しむ」の連
   体形で「苦しむる」で一語である。

 問28・×
    直前の語が動詞の未然形なので「せよ」で一語に思われがちだが、これは、サ行下
   二段活用の敬語動詞「参らす」の命令形で「参らせよ」で一語である。

 問29・使役/す/連用形
    現代語訳は「隣の門をあけて惟光の朝臣が出てきたところに取次ぎを頼んで夕顔の
   花を源氏に献上させる」となる。つまり自らが源氏の君に献上するのではなく、惟光に
   献上させることになるので使役。なお「奉る」は「献上する」の意味で謙譲の意味をもつ
   敬語動詞である。

 問30・尊敬/しむ/連用形
    敬語動詞を伴わずに尊敬の意味で使われている特殊な用例。「驚く」「感ず」「聞く」い
   ずれも全て天皇の動作であり、文中に使役の対象者がない点に注目。現代語訳は「天
   皇は非常に驚きなさって感動なさり、このうえなく事情をお尋ねになる」となる。


第25回・助動詞「まほし」「たし」

 次の赤文字の語は用言ないし助動詞である。用言の場合は活用種類・基本形・活用形
を、助動詞の場合は意味・基本形・活用形を答えなさい。ただし中級以上の問題は用言で
も助動詞でもないものや赤文字の部分では一語とならないものがあります。それらは「×」
と解答してください。なお、今回は上級の問題はなしとします。

【初級】
 問01・いかなる人なりけん、たづね聞かまほし
 問02・愛敬ありて言葉多からぬこそ、飽かず向かはまほしけれ
 問03・少しの事にも先達はあらまほしきことなり。
 問04・紫のゆかりを見て、つづきの見まほしく覚ゆれど、
 問05・かぐや姫を見まほしうて物も食はず思ひつつ、
 問06・花は折りたし。梢は高し。
 問07・言いたきままに語りなして筆にも書きとどめぬれば、やがて定まりぬ。
 問08・今朝はなどかやがて寝暮らし、起きずして起きては寝たく暮るる間を待つ。
 問09・同じう死ぬとも、敵に会うてこそ死にたけれ
 問10・ただ思ふことは出家ぞしたき


【中級】
 問11・御気色も見まほしかりけり。
 問12・人はかたち・有様のすぐれたらんこそあらまほしかるべけれ。
 問13・秋の虫をいはばくつわ虫などの心地して、うたて近く聞かまほしからず。
 問14・息も絶えつつ聞こえまほしげなることはありげなれど、
 問15・花と言はば、かくこそ匂はまほしけれな。
 問16・琴のことの音聞きたくは、北の丘の上に松を植ゑよ。
 問17・ありたき事はまことしき文の道、作文、和歌、管絃の道。
 問18・悪所に落ちては死にたからず。
 問19・近う参つて見参にも入りたかりつれども、
 問20・取りつきながらいたう睡りて、落ちぬべき時に目をさますことたびたびなり。


【解答・解説】

 問01・希望/まほし/終止形
    「まほし」「たし」ともに基本形は「し」で言い切る。すなわち形容詞型の活用をする助
   動詞である。

 問02・希望/まほし/已然形
    係助詞「こそ」の結びで已然形となる。問02の文を品詞分解させると最後の「まほし
   けれ」を「まほし」と「けれ」に分けて後者を「過去(詠嘆)の助動詞」と誤る人が少なくな
   い。しかし、もしそうなら問題文は「まほしかりけれ」となり、補助活用の連用形が使わ
   れなければならない。

 問03・希望/まほし/連体形
    後続の語は体言なので補助活用ではなく正規の連体形が使われる。
 問04・希望/まほし/連用形
    後続の語は用言なのでこれも補助活用ではなく正規の連用形が使われる。
 問05・希望/まほし/連用形
    助詞「て」を挟んで用言「食は」に続く形なので問04と同じく正規の連用形だが、連
   用形活用語尾がウ音便となっている。

 問06・希望/たし/終止形
    「まほし」「たし」はどちらも希望・願望を表す助動詞であるが、「まほし」は用言・助動
   詞の未然形から、 「たし」は連用形の後に続いて使われるという違いがある。

 問07・希望/たし/連体形
    問03と同じ。
 問08・希望/たし/連用形
    問04と同じ。
 問09・希望/たし/已然形
    問02と同じ。
 問10・希望/たし/連体形
    係助詞「ぞ」の結びで文末が連体形となっている。
 問11・希望/まほし/連用形
    後続の語が助動詞「けり」である。形容詞の場合と同じく、断定の助動詞「なり」に続
   く場合を除き、後続の語が助動詞の場合は必ず補助活用が使われる。

 問12・希望/まほし/連体形
    後続の語が助動詞「べし」であるので補助活用の連体形が使われる。なお、助動詞
   「べし」は用言・助動詞の終止形の後に使われるのが原則だが、直前の語がラ行変
   格活用型の場合は連体形の後に使われる。形容詞の補助活用もこれに該当するの
   で注意。

 問13・希望/まほし/未然形
    後続の語が助動詞「ず」であるので、補助活用の未然形が使われる。
 問14・×
    これは形容詞の終止形に接尾語「げ」がついたものが語幹となる形容動詞である。
   助動詞「まほし」は問01で述べたとおり形容詞型の活用をするので、問14の場合も
   「まほし」で一語とはならず「まほしげなり」で一語となる。この類は他にも「さびしげな
   り」(形容詞「さびし」+接尾語「げ」+形容動詞活用語尾「なり」)「いとほしげなり」(形
   容詞「いとほし」+接尾語「げ」+形容動詞活用語尾「なり」)など数多くある。

 問15・×
    これは「まほしけれ」で一語で已然形となる。「まほし」で終止形となる一語ではない。
   問02を参照のこと。

 問16・希望/たし/連用形
    後続の「は」は、形容詞・形容詞型の活用語・打消しの助動詞「ず」の連用形の後に
   使われて順接の仮定条件を表す接続助詞である。通常、順接の仮定条件は用言・助
   動詞の未然形の後に接続助詞「ば」が使われるが、この「は」は連用形の後に使われ
   る点に注意したい。

 問17・希望/たし/連体形
    問03と同じ。なお、直前の語がラ変動詞「あり」で「あらまほし」「ありたし」となってい
   る文注意したい。理由は現代語訳の際に「あってほしい」と直訳すると妙な日本語にな
   ることが多いからである。文脈に応じて適宜意訳する必要がある。ここでは「身に付け
   ておきたい」と意訳する。ちなみに問12は「理想的だ」「望ましい」、問03は主語が人
   間なので「いてほしい」と訳す。

 問18・希望/たし/未然形
    問13と同じ。
 問19・希望/たし/連用形
    問11と同じ。
 問20・×
    これは形容詞「いたう」が一語で形容詞「いたし」の連用形である。「たう」の直前の語
   が活用語の連用形ではなく形容詞の語幹の一部になっている点で判別できる。