こてんこてん蔵庫5(その3)             戻る

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第11回・動詞+形容動詞

 次の赤文字の語は動詞ないし形容動詞である。活用種類・基本形・活用形を答えなさい。

【初級】 
 問01・つれづれなるままに、日暮らし、硯に向かひて、
 問02・にはかに風吹き出でて空もかき暮れぬ。
 問03・大きなるも小さきも、一つとして破れざるはなし。
 問04・良からぬことどもうち続きて、五穀ことごとくならず。
 問05・南には蒼海漫々として、岸うつ波も茫々たり
 問06・飢え死ぬる者のたぐひ、数も知らず。
 問07・いとあはれなることも侍りき。
 問08・夏は郭公を聞く
 問09・あさましう、珍らかなり
 問10・恋しうおぼつかなき御さまを、ほのかなれど、さだかに見奉る


【中級】
 問11・天下の人の品高きやと問はむ例にもせよかし。
 問12・すさまじきもの。昼ほゆる犬。
 問13・これはただいささかなる物の報いなり。
 問14・月日重なり、年経にし後は、言葉にかけて言ひ出づる人だになし。
 問15・夏は夜。月の頃はさらなり
 問16・思し出づることありて、案内せさせて入りたまひぬ。
 問17・我が生既にさだたり
 問18・あだなる契りをかこち、
 問19・かく危うき枝の上にて安き心ありて睡るらんよ。
 問20・これもいかならむと、心はそらにてとらへたまへり。


【上級】
 問21・しばしはむ心もなし。
 問22・これより深き山を求めてや、跡絶えなまし。
 問23・頭さし出づべくもあらぬ空の乱れに、いでたち参る人もなし。
 問24・我は位にありし時、過つことなかりしかど、
 問25・青山峨々として松吹く風も索々たり。
 問26・大地にいたりては、ことなる変をなさず。
 問27・「うち逃るまじかりけり」とて出づるに、心得で、人をつけて見すれば、
 問28・はては大きなる枝、心なく折り取りぬ。
 問29・老来たりて初めて道を行ぜんと待つことなかれ。
 問30・南には蒼海漫々として、


【解答・解説】

 問01・ナリ活用/つれづれなり/連体形
     形容動詞はつねに「語幹」+「なり」、もしくは「語幹」+「たり」という形である。「つれ
    づれなる」は現代には存在しない語であるが、見た目で「つれづれ」が語幹で「なる」
    が活用語尾と判断できるようにしたい。ちなみに活用種類は「ナリ活用」と「タリ活用」
    の2種だけで、活用する行はない。

 問02・ナリ活用/にはかなり/連用形
     現代語では「急に」という意味で「にわかに」という連用形だけが残存している。なお、
    形容動詞は連用形が2種類ある。「語幹」+「に」、もしくは「語幹」+「と」の場合は後
    続の語が助動詞以外の場合に使われる。

 問03・ラ行下二段活用/破る/未然形
     現代語の「破れる」である。この動詞に「ない」をつけると「破れない」となり、「ない」
    の直前の活用語尾はエの音だから下二段活用である。

 問04・ラ行四段活用/なる/未然形
     「なる」は現代語にもある。この動詞に「ない」をつけると「ならない」となり、「ない」の
    直前の活用語尾はアの音だから四段活用である。

 問05・タリ活用/茫々たり/終止形
     形容動詞の場合、「堂々」などのように同一の漢字が2字続いて構成された語幹は
    全てタリ活用である。

 問06・ナ行変格活用/飢ゑ死ぬ/連体形
     ワ行下二段活用の「飢う」とナ行変格活用の「死ぬ」とが複合した動詞。
 問07・ラ行変格活用/侍り/連用形
     「居り」「あり」「いますかり」とともに「侍り」は4語しかないラ行変格活用動詞。
 問08・カ行四段活用/聞く/終止形
     「聞く」は現代語にもある。この動詞に「ない」をつけると「聞かない」となり、「ない」の
    直前の活用語尾はアの音だから四段活用である。

 問09・ナリ活用/珍らかなり/終止形
     問01と同じ。現代語に「珍しい」という形容詞があるが、それとは別の語である点に
    注意。

 問10・ナリ活用/ほのかなり/已然形
     「ほのかだ」は現代語にもある。「静かだ」「哀れだ」「穏やかだ」という語の例からわ
    かるように、基本的に「〜だ」で言い切る単語は形容動詞と考える。そのうち「静かに」
    「哀れに」「穏やかに」というように、「〜に」という活用が成立するものはナリ活用と判
    断する。


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 問11・サ行変格活用/す/命令形
     後続の「かし」は強調する働きをもつ終助詞で終止形や命令形の後に続いて使わ
    れる。

 問12・ヤ行下二段活用/吠ゆ/連体形
     現代語の「吠える」にあたる。この動詞に「ない」をつけると「吠えない」となり、「な
    い」の直前の活用語尾はエの音だから下二段活用である。なお、活用語尾に「ゆ」
    があるからヤ行である。

 問13・ナリ活用/いささかなり/連体形
     問01と同じ。
 問14・ラ行四段活用/重なる/連用形
     いかにも「語幹」+「なる」で形容動詞に見えるが、連用形に「重に」という形が存
    在しないことから形容動詞ではないことがわかる。

 問15・ナリ活用/さらなり/終止形
     問01と同じ。
 問16・サ行変格活用/案内す/未然形
     現代語の「案内する」にあたる語。熟語に「す」ないし「ず」がついた形は全てサ行
    変格活用である。

 問17・タリ活用/さだたり/終止形
     問01と同じ。
 問18・ナリ活用/あだなり/連体形
     問01と同じ。
 問19・ラ行四段活用/睡る/終止形
     現代語にはないが「睡眠」の「睡」が使われていることから想像力を働かせて意味
    を推測できるようになってほしいものである。本来眠るべき場所ではないところで眠
    るという意味で、「睡」の読みは「ねぶ」である。

 問20・ナリ活用/いかなり/未然形
     現代語では「いかに」と「いかなる」いう形が残っている。(例1・いかに効率を上げ
    るかが今後の課題だ。)(例2・書類の不備がある場合はいかなる理由があっても受
    理しない。)このことからナリ活用の形容動詞と判断できるようになってほしい。

 問21・マ行上一段活用/見る/未然形
     後続の「ん」は意志を表す助動詞「む」で未然形の後に使われる。
 問22・ヤ行下二段活用/絶ゆ/連用形
     現代語の「絶える」にあたる語。この動詞に「ない」をつけると「絶えない」となり、
    「ない」の直前の活用語尾はエの音だから下二段活用である。なお、活用語尾に
    「え」があるからヤ行である。(ア行は「得」「心得」しかない)

 問23・ダ行下二段活用/さし出づ/終止形
     「さし」は接頭辞。「出づ」は現代語の「出る」にあたる。「出る」という動詞に「ない」
    をつけると「出ない」となり、「ない」の直前の活用語尾はエの音になるが、「さし出づ」
    の場合も同じく下二段活用である。

 問24・タ行四段活用/過つ/連体形
     「失敗する」という意味だが、現代語にはない。ただこれの連用形が名詞に転化し
    た「過ち」という語は現代でも使われている。活用語尾がウの音1字だけで連体形な
    ので四段活用と判断する。

 問25・タリ活用/峨々たり/連用形
     問05と同じ。この問題文中にある「索々たり」も同じくタリ活用の形容動詞である。
 問26・ナリ活用/異なり/連体形
     現代語では「異なる」というラ行四段活用動詞だが、これだけは例外で古語ではナ
    リ活用の形容動詞である。(古語に「異なる」という動詞は存在しない。)

 問27・ア行下二段活用/心得/未然形
     現代語の「心得る」にあたり、「得」と共に全ての動詞の中で2語しかないア行の動
    詞である。後続の「で」は打消しの意味をもつ接続助詞で未然形の後に続いて使わ
    れる。

 問28・ナリ活用/大きなり/連体形
     現代語では「大きい」という形容詞だが、これだけは例外で古語では形容詞である。
    なお関西弁には現代でも「おおきに」という言葉が使われているが、これはとりもなお
    さず古語の形容動詞「大きなり」の連用形である。

 問29・サ行変格活用/行ず/未然形
     現代語にはないが、漢字の音読みに「す」ないし「ず」のついた形なのでサ行変格
    活用の動詞である。後続の「ん」は問21と同じ。

 問30・タリ活用/漫々たり/連用形
     問05と同じ。


第12回・用言

 次の赤文字の語は用言である。活用種類・基本形・活用形を答えなさい。

【初級】 
 問01・暑きころ、わろき住居はたへがたきことなり。
 問02・静かに思へば、よろづに過ぎにしかたの恋しさのみぞせんかたなき。
 問03・恐れのなかに恐るべかりけるは、ただ地震なりけりとこそ覚え侍りしか。
 問04・冬はいかなる所にも住まる。
 問05・たまたま換ふる者は金を軽く、粟を重くす。
 問06・都のうち、三分が一に及べりとぞ。
 問07・浅くて流れたる、はるかに涼し。
 問08・いかが他の力を借るべき。
 問09・なんぞいたづらに休み居らん。
 問10・人の亡きあとばかり悲しきはなし。


【中級】
 問11・法師の登りて木の股についゐて物見るあり。
 問12・人をしてかかる目を見すること、慈悲もなく礼儀にも背けり。
 問13・しばし、このこと果てて。
 問14・月日重なり、年にし後は、言葉にかけて言ひ出づる人だになし。
 問15・宝を費やし心を悩ます事はすぐれてあぢきなくぞ侍る。
 問16・われ賢げに物ひきしたため、ちりぢりに行きあかれぬ。
 問17・羽なければ空をも飛ぶべからず。
 問18・そもまたほどなく失せて、聞き伝ふるばかりの末々は、あはれとやは思ふ
 問19・あなわびしと思ひて、今一度起こせかしと思ひ寝に聞けば、
 問20・折節の移りかはるこそ、ものごとにあはれなれ


【上級】
 問21・遣戸は蔀の間よりも明し
 問22・長き夜を一人明かし、遠き雲井を思ひやり、
 問23・明くる日まで頭痛く物食はず、によひ臥し、
 問24・いにしへのはあはれなること多かり
 問25・いかにもののあはれもなからん。
 問26・あまりさへ疫癘うちそひて、勝様に跡かたなし。
 問27・住む人もこれに同じ
 問28・変りゆくかたち有様、目も当てられぬ事多かり。
 問29・かたはらに琴・琵琶おのおの一張りを立つ
 問30・世はさだめなきこそいみじけれ


【解答・解説】

 問01・ク活用/暑し/連体形
     現代語では「暑い」という語である。現代語で「い」で言い切る語は原則として形容
    詞と判断する。古語の形容詞は「し」で言い切るのが原則。形容詞にはク活用とシ
    ク活用があるが、終止形以外の場合、活用語尾に「し」が含まれていればシク活用、
    なければク活用である。

 問02・ナリ活用/静かなり/連用形
     現代語では「静かだ」となり「だ」で言い切るので形容動詞である。活用語尾が「に」
    ならナリ活用の連用形しかない。

 問03・ヤ行下二段活用/覚ゆ/連用形
     現代語の「覚える」にあたる語。この動詞に「ない」をつけると「覚えない」となり、「な
    い」の直前の活用語尾はエの音だから下二段活用である。後続の「侍り」は用言だか
    ら「覚え」は連用形である。

 問04・ナリ活用/いかなり/連体形
     「いかなる」は「いかに」という活用とともに現代語にも残っている。連用形の活用語
    尾が「に」、連体形が「なる」となるので、ナリ活用の形容動詞である。

 問05・サ行変格活用/す/連用形
     「し」1字だけで用言となる語はサ行変格活用しかない。
 問06・ラ行四段活用/及ぶ/已然形
     「及ぶ」は現代語にもある。この動詞に「ない」をつけると「及ばない」となり、「ない」
    の直前の活用語尾はアの音だから四段活用である。活用語尾はエの音だが、後続
    の語がある場合は命令形ではなく已然形と判断するのが原則。

 問07・ク活用/浅し/連用形
     現代語では「浅い」になる。問01と同じ理由でク活用である。活用語尾が「く」の場
    合は未然形もあり得るが、助詞「て」をはさんで別の文節につながる場合は連用形
    である。

 問08・ラ行上二段活用/借る/終止形
     現代語では「借りる」にあたる語。この動詞に「ない」をつけると「借りない」となり、
   「ない」の直前の活用語尾はイの音だから上二段活用である。後続の語があるが、上
   二段活用で活用語尾がウの音1字なので終止形と判断する。

 問09・ラ行変格活用/居り/未然形
     「あり」「侍り」「いますかり」と共に4語しかないラ行変格活用動詞。
 問10・シク活用/悲し/連体形
     現代語では「悲しい」にあたる語。現代語で「い」で言い切るので形容詞である。活
    用語尾は「しき」で、「し」が含まれているのでシク活用である。


 古典文法の勉強を始めたばかりの方はここまでの問題を正解できればOKです。
    
 問11・マ行上一段活用/見る/連体形
     「見る」は15語しかない上一段活用動詞。後続は動詞「あり」だが、これは「見る」
    の後に体言「人」が省かれている。したがって連用形ではなく連体形である。

 問12・サ行下二段活用/見す/連体形
     現代語の「見せる」にあたる。この動詞に「ない」をつけると「見せない」となり、「な
    い」の直前の活用語尾はエの音だから下二段活用である。問11の「見る」とは別の
    動詞である。

 問13・タ行下二段活用/果つ/連用形
     現代語の「果てる」にあたる。この動詞に「ない」をつけると「果てない」となり、「な
    い」の直前の活用語尾はエの音だから下二段活用である。後続の「て」は連用形の
    後に続いて使われる接続助詞である。

 問14・ハ行下二段活用/経/連用形
     現代語の「経る」にあたる。この動詞に「ない」をつけると「経ない」となり、「ない」
    の直前の活用語尾はエの音だから下二段活用である。後続の「に」は完了の意味
    を表す助動詞で連用形の後に続いて使われる。

 問15・ク活用/あぢきなし/連用形
     後続は係助詞「ぞ」を挟んで用言「侍る」になっているため、「あぢきなく」は連用形
    であることがわかる。連用形の活用語尾が「く」になるのはク活用の形容詞しかあり
    えないので、現代語にはない語だが基本形「あぢきなし」という形容詞と判断できる
    ようにしたい。「おぼつかなし」「言ふかひなし」「やむごとなし」など「○○なし」という
    形の形容詞は古語には数多く存在する。

 問16・ナリ活用/賢げなり/連用形
     現代語に「賢い」という形容詞があるが、形容詞の語幹ないし終止形に「げ」がつ
    いて新たな語幹を構成するものはナリ活用の形容動詞である。他にも「らうたげな
    り」「いとほしげなり」「すさまじげなり」などがある。現代語でも「悲しげだ」「寂しげだ」
    などという形容動詞が存在する。

 問17・ク活用/なし/已然形
     「遠い⇔近い」「生まれる⇔死ぬ」のように普通、対義語は同一の品詞であるのが
    原則だが、「ある⇔ない」だけは例外で、「あり」は動詞だが「なし」は形容詞である
    点に注意。

 問18・ハ行四段活用/思ふ/連体形
     直前に反語の意味を表す係助詞「やは」があるが、これは係助詞「や」と係助詞
    「は」の複合語で、結果的には「や」の係り結びとなるため「思ふ」は連体形である。

 問19・シク活用/わびし/終止形
     現代語の「わびしい」にあたる語。古語では終止形の場合ク活用・シク活用とも活
    用語尾が「し」1字になるため活用種類の判別ができないが、「美しい」「嬉しい」「楽
    しい」など現代語で「しい」で言い切るものはシク活用である。

 問20・ナリ活用/あはれなり/已然形
     現代語の「哀れだ」にあたる語。文末は係助詞「こそ」の結びで已然形である。ち
    なみに形容動詞の命令形の用例は稀なので、活用語尾が「なれ」「たれ」の場合は
    ほぼ已然形と考えてよい。

 問21・ク活用/明し/終止形
     活用語尾が「し」でしかも文末にあるので一目で形容詞の終止形とわかる。これ
    は現代語の「明るい」にあたる語である。

 問22・サ行四段活用/明かす/連用形
     活用語尾は問21と同じく「し」だが、後続の語は接続助詞「て」(連用形の後に続
    いて使われる語)なので、「明かし」は連用形であることがわかる。したがってこれ
    は問21とは別の語で動詞である。

 問23・カ行下二段活用/明く/連体形
     現代語の「明ける」にあたる語。「明かす」は他動詞であるのに対し、「明ける」は
    自動詞である。この動詞に「ない」をつけると「明けない」となり、「ない」の直前の活
    用語尾はエの音だから下二段活用である。後続の語は体言「日」だから連体形と
    判断できる。

 問24・ク活用/多かり/終止形
     形容詞の連用形活用語尾「く」に動詞「あり」が合成してできた、いわゆる補助活
    用には終止形は存在しないが、「多し」だけは例外で、すべての活用形に補助活用
    が存在する。歴史的には平安時代中期までは「多し」は漢文訓読文、「多かり」は
    和文で用いられていた。その後、和漢混交化が進行に伴い、「多し」が高頻度に使
    われるようになった。

 問25・ク活用/なし/未然形
     問17と同じ語。未然形は他に「なく」という形も存在するが、後続の語は助動詞で
    あるため補助活用が使われる。

 問26・ナリ活用/勝様なり/連用形
     現代語にはない語である。後続の語は形容詞「跡かたなし」なので用言、したがっ
    て、「勝様に」は連用形であることがわかる。連用形で活用語尾が「に」となるものは
    動詞にも存在するが、文節の働きをみると「跡かたなし」を修飾しているので形容動
    詞である。

 問27・シク活用/同じ/終止形
     現代語では「同じだ」という形容動詞であるが、これだけは例外で古語では形容詞
    である。連用形は「同じく」で活用語尾に「じ」が含まれるためク活用ではない。なお、
    「じ」で言い切るが「ジク活用」とは言わない。「じ」で言い切る形容詞は他に「いみじ」
    がある。

 問28・タ行下二段活用/当つ/未然形
     現代語の「当てる」にあたる語。この動詞に「ない」をつけると「当てない」となり、「な
    い」の直前の活用語尾はエの音だから下二段活用である。後続の語「られ」は可能
    の意味を表す助動詞で、未然形の後に続いて使われる。

 問29・タ行下二段活用/立つ/未然形
     「立つ」には四段活用と下二段活用の両方があり注意を要する。前者が自動詞、後
    者が他動詞である。他動詞の場合は「〜を」という目的語を補って現代語訳ができる。
    この文の場合「琴・琵琶おのおの一張り」がそれにあたるので「立つ」は他動詞である
    ことがわかる。

 問30・タリ活用/漫々たり/連用形
     現代語にはないが「いみじ」は重要古語の一つ。文末にあって終止形ではない理由
    は係助詞「こそ」の結びのため。活用語尾に「じ」が含まれているのでシク活用である。


第13回・用言の音便

 次の赤文字の語は用言である。活用種類・基本形・活用形を答えなさい。

【初級】 
 問01・それを見れば三寸ばかりなる人、いとうつくしうて居たり。
 問02・さるほどに成田五郎も出で来たり。
 問03・日ごろは何とも覚えぬ鎧が今日は重うなつたるぞや。
 問04・我討つ取らんとぞ進みける。
 問05・勝つべき軍に負くる事もよもあらじ。
 問06・人を従へ、人を顧みるよりやすし。
 問07・家に預けたりつる人の心も荒れたるなりけり。
 問08・中垣こそあれ、一つ家のやうなれば、望みて預かれるなり。
 問09・過ぎにしかたの恋しさのみぞせんかたなき
 問10・遠からん者は音にも聞き、近からん人は目にも見たまへ。


【中級】
 問11・その人ならば苦しかるまじ。
 問12・疎略を存ぜずといへども、つねに参り寄ることも候はず。
 問13・さては互ひに良い敵。
 問14・いで、君も書いたまへ。
 問15・かく世を離るるさまに物したまへば、いとあはれに口惜しうなん。
 問16・「大勢の中にてこそ討死をもせめ」とて、真先にぞ進んだる。
 問17・あき間をねば手も負はず。
 問18・主従駒を早めて寄り合うたり。
 問19・さては契りはいまだ朽ちざりけり。
 問20・御行末のおぼつかなさに、これまでのがれ参つて候ふ。


【上級】
 問21・去んぬる五月より、甲斐なき命を助けられ参らせて候へば、
 問22・ここにしぐらうで見ゆるは、誰が手やらん。
 問23・この玉取り得では帰り来な。
 問24・同じ命の限りあるものになんある。
 問25・馬より逆さまに飛び落ち、貫かつてぞ失せにける。
 問26・いとらうたげなるさまして、まだいささか変はりたるところなし。
 問27・三浦石田次郎為久おつかかつて、よつ引いてひやうふつと射る。
 問28・臆病でこそさは思し召され候ふらめ。
 問29・かの亡骸を見ざらんがいといぶせかるべきを、馬にて物せん。
 問30・病者のことを思うたまへあつかひ侍るほどに、隣のことはえ聞き侍らず。


【解答・解説】

 問01・シク活用/美し/連用形ウ音便
     現代語では「美しい」という語であるから、これはシク活用の形容詞とわかる。形容
    詞の音便は活用種類にかかわらずウ音便・イ音便の2種がある。前者は連用形活
    用語尾「く」が音便化し、後者は連体形活用語尾「き」が音便化する。したがって「美
    しう」は本来「美しく」となるところ、「く」がウ音便化したものである。

 問02・カ行変格活用/出で来/連用形
     現代語では「出てくる」という語に相当する。複合動詞なので後にある動詞の活用
    種類と活用形がそのまま答えとなる。

 問03・ラ行四段活用/なる/連用形促音便
     動詞の音便はウ音便・イ音便・撥音便・促音便の4種があるが、いずれも四段・ラ
    行変格・ナ行変格活用の連用形活用語尾が音便化する。したがって「なつ」はラ行
    四段活用動詞の連用形「なり」が本来の姿。現代でも「医者になって家を継ぐ」とい
    う表現があることからもわかるように、促音便である。但し、当時は「っ」という文字
    はなかったため「つ」と表記される点に注意。もちろん音読の際は「っ」と扱う。

 問04・ラ行四段活用/討つ取る/未然形
     現代語の「討ち取る」だが、「討つ」と促音便化されたまま動詞「取る」と複合してい
    る。活用語尾は「ら」なので、これは音便化したわけではない。したがって普通の未
    然形である。

 問05・カ行下二段活用/負く/連体形
     現代語では「負ける」という語。この動詞に「ない」をつけると「負けない」となり、「な
    い」の直前の活用語尾はエの音だから下二段活用である。

 問06・マ行上一段活用/顧みる/連体形
     「顧みる」は「省みる」とともに現代語にもある。漢字に「みる」のついた形はマ行の
    上一段活用と覚えておく。

 問07・カ行下二段活用/預く/連用形
     現代語では「預ける」になる。この動詞に「ない」をつけると「預けない」となり、「な
    い」の直前の活用語尾はエの音だから下二段活用である。

 問08・ラ行四段活用/預かる/已然形
     現代語では「預かる」で問07とは別の語である。この動詞に「ない」をつけると「預
    からない」となり、「ない」の直前の活用語尾はアの音だから四段活用である。後続
    の語があるので、命令形ではなく已然形となる。

 問09・ク活用/せんかたなし/連体形
     「せんかたなし」は元をただせば「せ」(サ行変格動詞)、「ん」(意志を表す助動詞)、
    「かた」(名詞)、「なし」(形容詞)、以上4語の複合語である。現代には存在しない語
    だが、「なし」の前に何らかの語がついてできた複合語はク活用の形容詞と考える。
    直前に係助詞「ぞ」があるため文末にあっても連体形となる。

 問10・ク活用/遠し/未然形
     現代語では「遠い」という語になる。現代語で「い」で言い切るのでク活用の形容詞
    である。助動詞に続く場合は補助活用が使われることも知っておきたい。


 古典文法の勉強を始めたばかりの方はここまでの問題を正解できればOKです。
    
 問11・シク活用/苦し/連体形
     現代語で「苦しい」にあたる語。「しい」で言い切るのでシク活用の形容詞とわかる。
    「まじ」はもともと終止形の後に続いて使われる語だが、ラ変型活用語の後に使う場
    合は連体形からの接続となる。形容詞から助動詞に接続する場合は補助活用が使
    われるが、この補助活用はラ変型活用語に該当する点に注意。

 問12・サ行変格活用/存ず/未然形
     現代語の「存じる」にあたる。現代ではザ行上一段活用になるが、古語では漢字の
    音に「す」「ず」がついた形なのでサ行変格活用となる。

 問13・ク活用/良し/連体形イ音便
     現代語の「良い」にあたる。後続の「敵」は体言なので本来なら「良き」となるべきだ
    が、「き」がイ音便化したものである。現代語の形容詞の連体形はすべてこのイ音便
    がそのまま使われている。

 問14・カ行四段活用/書く/連用形イ音便
     現代語の「書く」にあたる。後続の「たまへ」は動詞なので本来なら連用形「書き」に
    なるべきだが、「き」がイ音便化したものである。現代語の「メモを書いて渡す。」とい
    う場合の「書い」と同じ用法である。

 問15・シク活用/口惜し/連用形ウ音便
     現代語に「惜しい」という形容詞があることから、「口惜し」はシク活用の形容詞と判
    断できる。問01で述べたとおり形容詞のウ音便は連用形なので本来は「口惜しく」に
    なるところだが、連用形の活用語尾が「く」がウ音便化したものである。

 問16・マ行四段活用/進む/連用形撥音便
     問03で述べたとおり動詞の音便は連用形しかないので本来は「進み」となるべきだ
    が、「み」が撥音便化したものである。現代語の「自ら進んで申し出る。」の「進ん」と同
    じ用法である。後続の「だる」は本来は「たる」で完了の助動詞「たり」の連体形だが、
    直前の語の音の関係で「だ」と濁音化したものである。こういう現象を連濁という。

 問17・ヤ行上一段活用/射る/未然形
     「射る」は15語しかない上一段活用動詞。後続の「ね」は打消の助動詞「ず」の已然
    形。この助動詞は未然形の後に続いて使われる。

 問18・ハ行四段活用/寄り合ふ/連用形ウ音便
     問03で述べたとおり動詞の音便は連用形しかないので、「寄り合う」は本来「寄り合
    ひ」となるべきだが、「ひ」がウ音便化したものである。なお、ウ音便で表記されるとい
    かにも基本形も「寄り合う」でア行の動詞のような印象を受けるが、もともとはハ行で
    ある点にも注意。ア行の動詞はあくまでも「得」「心得」の2語のみである。

 問19・タ行上二段活用/朽つ/未然形
     現代語の「朽ちる」にあたる語。この動詞に「ない」をつけると「朽ちない」となり、「な
    い」の直前の活用語尾はイの音だから上二段活用である。後続の「ざり」は打消の助
    動詞で未然形の後に続いて使われる。

 問20・ラ行四段活用/参る/連用形撥音便
     現代語は「参る」という語。連用形は「参り」が本来の姿だが、「り」が促音便化した
    ものである。現代語の「墓に参って先祖の冥福を祈る」の「参っ」と同じ用法。なお当
    時、促音便であることを表す「っ」は存在しなかったので、古語では「つ」と表記されて
    いる点に注意。

 問21・ナ行変格活用/去ぬ/連体形
     本来は「去ぬる」となるべきところ間に「ん」が挟まった形。「死ぬ」とともにナ行変格
    活用である。これは活用語尾が音便化されたわけではないので、普通の連体形であ
    る。

 問22・ハ行四段活用/しぐらふ/連用形
     問03で述べたとおり動詞の音便はすべて連用形なので、「しぐらう」は本来は「しぐ
    らひ」となるべきところ、「ひ」がウ音便化したものである。

 問23・カ行変格活用/帰り来/終止形
     問02と同じく「来」の複合動詞形。後続の「な」は禁止を表す終助詞で、終止形の
    後に続いて使われる。

 問24・シク活用/同じ/連体形
     後続の「命」は体言。したがって「同じ」は連体形である。シク活用の連体形なら活
    用語尾が「しき」となるはずだが、「同じ」に関しては例外で連体形も「同じ」が使われ
    ていた点に注意。

 問25・ラ行四段活用/貫かる/連用形撥音便
     問03で述べたとおり動詞の音便はすべて連用形なので、本来は「貫かり」だが、
    「り」が撥音便化したもの。なお「貫かる」とは「貫いた状態になる」という意味の自動
    詞。

 問26・ナリ活用/らうたげなり/連体形
     現代語にはない語であるが、形容詞の語幹や終止形に「げ」をつけて新たな語幹
    を構成するものはナリ活用の形容動詞である。現代語でも「さみしげだ」「悲しげだ」
    などがある。

 問27・カ行四段活用/よつ引く/連用形イ音便
     「よつ」は接頭辞。「引く」はカ行四段活用動詞。問03で述べたとおり動詞の音便
    はすべて連用形なので、「引い」は本来「引き」となるべき語だが、「き」がイ音便化
    したもの。

 問28・ハ行四段活用/候ふ/終止形
     後続の「らめ」は現在推量の助動詞で終止形の後に続いて使われる。したがって
    「候ふ」は終止形となる。

 問29・ク活用/いぶせし/連体形
     現代語にはないから難しい。「いぶせし」は「気がかりだ」という意味でク活用の形
    容詞。形容詞から助動詞に接続する場合は、問11で述べた変則が適用されるので
    注意。

 問30・ハ行四段活用/思ふ/連用形ウ音便
     問03で述べたとおり動詞の音便はすべて連用形なので、「思う」は「思ひ」が本来
    の形である。この「ひ」がウ音便化したものである。基本形は「思ふ」なのでハ行であ
    る点に注意。


第14回・助動詞「き」「けり」

 次の赤文字の語は用言ないし助動詞である。用言の場合は活用種類・基本形・活用形を、
助動詞の場合は意味・基本形・活用形を答えなさい。ただし、中級以上の問題は用言でも
助動詞でもないものや赤文字の部分では一語とはならないものがあります。それらは×と
解答して下さい。

【初級】 
 問01・また、いとあはれなること侍り
 問02・今は昔、比叡の山に児ありけり
 問03・人の語りままに書きつけ侍るなり。
 問04・飼ひける犬の、暗けれど主を知りて飛びつきたりけるとぞ。
 問05・双六の上手といひし人にその手だてを問ひしかば、
 問06・息もつまりければ、打ち割らんとすれど、たやすく割れず。
 問07・住みはてぬ世に醜き姿を待ちえて何かはん。
 問08・青柳は鬘にすべくなりにけらずや
 問09・あはれ、しつるせうとくかな。年ごろは、わろく描きけるものかな。
 問10・年ごろ、不動尊の火炎をあしく描きけるなり。


【中級】
 問11・命長ければ恥多し。
 問12・年寄るまで石清水を拝まざりければ、心憂く覚えて、
 問13・円子川ければぞ波上がりける。
 問14・妻子のためには恥をも忘れ、盗みもつべきなり。
 問15・さやうの人の祭見さま、いと珍らかなりき。
 問16・急ぎもせぬほどに月出でぬ。
 問17・世の中に絶えて桜のなかりば春の心はのどけからまし
 問18・道を正しくば、その化遠く流れん事を知らざるなり。
 問19・海の面、うらうらと凪ぎわたりて行方も知らぬに、し方ゆく先思し続けられて、
 問20・菜種の大きさおはせしを、わが丈立ち並ぶまで養ひ奉りたる我が子を、何人か迎
     え聞えん。


【上級】
 問21・世は定めなきこそいみじけれ
 問22・清少納言が書けるもげにさることぞかし。
 問23・身死て財残すことは智者のせざるところなり。
 問24・長き爪て眼をつかみつぶさむ。
 問25・その手をつかはずて、一目なりとも遅く負くべき手につくべし。
 問26・鬼のやうなるもの出で来て殺さむとき。
 問27・直垂もなくてとかくせほどに、
 問28・やうやう夜も明けゆくに、見れば率てこ女もなし。
 問29・今はいかで見聞かずだにありにしかな。
 問30・ゆかしかりしかど、神へ参るこそ本意なれと思ひて、山までは見ず。


【解答・解説】

 問01・過去/き/終止形
     直前の語はラ変動詞の連用形。後続の語は何もなく句点となっている。連用形か
    ら接続して文末にある「き」は例外なく過去の助動詞の終止形である。

 問02・過去/けり/終止形
     問01と同様で直前の語はラ変動詞の連用形。後続の語は何もなく句点となってい
    る。連用形から接続して文末にある「けり」は例外なく過去の助動詞の終止形である。

 問03・過去/き/連体形
     直前の語は四段動詞の連用形。後続の語は体言である点に注目する。
 問04・過去/けり/連体形
     問03と同じ。直前の語は四段動詞の連用形。後続の語は体言である点に注目す
    る。

 問05・過去/き/已然形
     直前の語は四段動詞の連用形。後続の語は助詞「ば」である点に注目する。
 問06・過去/けり/已然形
     問05と同じ。直前の語は四段動詞の連用形。後続の語は助詞「ば」である点に注
    目する。

 問07・サ行変格活用/す/未然形
     現代語では「する」に相当する。直前の語が用言や助動詞の連用形ではないので、
    これは過去の助動詞ではない。「せ」の手前で文節に区切ることができる点に注目す
    る。

 問08・過去/けり/未然形
     「けら」は奈良時代にのみあった用法で、平安時代以後は終止・連体・已然の3種
    にしか活用がない。

 問09・ク活用/わろし/連用形
     現代語に「悪い」があるから形容詞とわかる。後続の語は「描く」でこれは動詞なの
    で「わろく」は連用形になる。活用語尾に「し」が含まれていないためク活用となる。

 問10・シク活用/あし/連用形
     現代では「あしき風習」「良しあし」という語に残るのみだが、「悪い」という語義をも
    つのは「わろし」ではなく「あし」であることを知っておきたい。(「わろし」は「良くない」
    という意味。)後続の語は「描く」でこれは動詞なので「あしく」は連用形になる。活用
    語尾に「し」が含まれているためシク活用となる。

 問11・×
     「長けれ」で一語の形容詞である。したがって「けれ」は過去の助動詞ではない。
    「けれ」の直前が形容詞の語幹になる点に注目する。

 問12・過去/けり/已然形
     直前の語は打消の助動詞「ず」の連用形である。しかも本活用の「ず」ではなく補
    助活用の「ざり」が使われている。補助活用は助動詞に接続する場合に使う活用な
    ので、当然「ざり」の後の語は助動詞となる。

 問13・カ行下一段活用/蹴る/已然形
     現代語の「蹴る」にあたる。したがって「けれ」は過去の助動詞ではない。「けれ」の
    直前が体言である点に注目する。

 問14・サ行変格活用/す/連用形
     「し」の直前が助詞でここで文節に区切ることができる。したがってこれは過去の助
    動詞ではない。問07と同じで「する」という意味を有する動詞である。

 問15・過去/き/連体形
     直前の語はマ行上一段活用動詞「見る」の連用形である。前が用言や助動詞の連
    用形で後続の語は体言である場合の「し」は過去の助動詞である。

 問16・×
     直前の語がいかにもガ行四段活用動詞「急ぐ」の連用形にみえるので、「し」が過去
    の助動詞と誤解されがちだが、これは助詞であり直前の「急ぎ」は名詞である。「し」を
    取ると「急ぎもせぬほどに月出でぬ」となるが、それでも文意が通じる点に注目する。

 問17・過去/き/未然形
     直前の語は形容詞「なし」の連用形。しかも補助活用である点に注目する。この場合
    の「せ」は過去の助動詞である。

 問18・サ行変格活用/す/未然形
     問17と同様に直前の語は形容詞の連用形だが、補助活用ではなく本活用である点
    に注目。この場合の「せ」は動詞で「する」という意味を持つ。したがって問07・問14と
    同じ語である。

 問19・カ行変格活用/来/未然形
     過去の助動詞「き」は原則として連用形から接続するが、連体形「し」と已然形「しか」
    がカ変動詞やサ変動詞から接続する場合は未然形から接続するという例外がある。

 問20・サ行変格活用/おはす/未然形
     「おはせ」はサ変動詞。したがって問19と同じ例外が適用される。
 問21・×
     「いみじけれ」で一語の形容詞である。したがって「けれ」は過去の助動詞ではない。
    「けれ」の直前が形容詞の終止形になる点に注目する。過去の助動詞は連用形から
    接続するので、直前の語が終止形になることは有り得ない。

 問22・×
     これはカ行四段活用動詞「書く」の已然形に存続の助動詞「る」がついたもので、単
    語に区切る場合は「書け」と「る」になる。したがって「ける」は過去の助動詞ではない。
    「ける」の直前が動詞の語幹になってしまう点に注目。

 問23・×
     これはサ行変格活用動詞「死す」の連用形活用語尾であり、「し」で一語とはならな
    い(「死し」で一語の動詞)。ちなみにナ行変格活用動詞「死ぬ」とは別に、名詞「死」
    にサ変動詞「す」がついた形で「死す」という語があることも知っておきたい。

 問24・×
     直前の語が体言なのでこれも過去の助動詞ではない。これは「して」一語が格助
    詞で「〜で」と訳し、ある動作をする際の手段や方法を表す。

 問25・×
     直前の語は打消の助動詞「ず」の連用形だが、本活用の連用形である点に注目
    する。過去の助動詞の場合は補助活用の「ざり」から接続することも知っておきた
    い。したがってこれは「して」で一語の接続助詞である。

 問26・サ行変格活用/す/連用形
     「し」の直前の語は引用を表す格助詞で、ここで文節に区切れる点に注目する。し
    たがってこれは動詞で「する」と訳せる。問07・問14・問18と同じ語である。ちなみ
    に後続の「き」が過去の助動詞だ。

 問27・過去/き/連体形
     直前の語「せ」はサ変動詞「す」の未然形。前が未然形なので「し」は過去の助動
    詞ではなさそうに見えるが、問19で述べた例外が適用される。カ変動詞・サ変動詞
    から過去の助動詞「き」の連体形ないし已然形に接続する場合は連用形ではなく未
    然形となる点に注意。

 問28・過去/き/連体形
     直前の語「こ」はカ変動詞「来」の未然形。問27と同じ例外が適用された接続であ
    る。

 問29・×
     直前の語「に」を完了の助動詞の連用形、「しか」を過去の助動詞「き」の已然形と
    考えてしまいがちなので注意。これは「にしか」で一語の終助詞。「〜したい」という
    意味で希望を表す。

 問30・過去/き/已然形
     直前の「ゆかしかり」はシク活用の形容詞「ゆかし」の連用形で補助活用である。
    したがってこれは過去の助動詞になる。


第15回・助動詞「つ」「ぬ」

 次の赤文字の語は用言ないし助動詞である。用言の場合は活用種類・基本形・活用形を、
助動詞の場合は意味・基本形・活用形を答えなさい。ただし、中級以上の問題は用言でも
助動詞でもないものや赤文字の部分では一語とはならないものがあります。それらは×と
解答して下さい。

【初級】 
 問01・馬車より落ちてあやまちし
 問02・果ては、大きなる枝、心なく折り取り
 問03・今見れば、かうこそ燃えけれ、と心得つるなり。
 問04・そのかただになくなりぬるぞ悲しき。
 問05・すずろに飲ませつれば、うるはしき人もたちまちに狂人となりて、
 問06・渡り過ぎぬれば、「また渡らんまで。」と言ひて下りぬ。
 問07・多くの人殺しける心ぞかし。
 問08・極楽寺・高良などを拝みて、かばかりと心得て帰りけり。
 問09・国王の仰言を背かば、はや殺し給ひてよかし。
 問10・用ありて行きたりとも、その事果てば疾く帰るべし。


【中級】
 問11・いづれの手か疾く負けべきと案じて、
 問12・所なく並みゐつる人も、いづかたへかゆきらん、
 問13・心づきなき事あらん折は、なかなかその由をも言ひん。
 問14・「潮満ちぬ。風吹きぬべし。」と騒げば、船に乗りむとす。
 問15・過ちす。心して下りよ。
 問16・たれと知るべきにもあらくに、
 問17・や、起こしたてまつりそ。幼き人は寝入りたまひにけり。
 問18・今し羽といふところにぬ。
 問19・鏡に神の心をこそはつれ。
 問20・我をいかにせよとて捨てては昇り給ふぞ。具して出でおはせね。


【上級】
 問21・人離れたるところに、心とけて寝ぬるものか。
 問22・「時たがひぬる。」と言ふまでもえ出でやらず。
 問23・憂へ忘ると言へど、酔ひたる人ぞ過ぎし憂さをも思ひ出でて泣くめる。
 問24・ある人、弓射る事を習ふ、諸矢をたばさみて的に向かふ。
 問25・荒れたる庭の露しげき、わざとならぬ匂ひしめやかにうち香りて、
 問26・なほ事ざまの優覚えて、物の隠れよりしばし見ゐたるに、
 問27・もとの住家に帰りてぞ、さら悲しき事は多かるべき。
 問28・いかでこのかぐや姫を得てしがな、見しがな。
 問29・それを忘れて物見日を暮らす、愚かなる事はなほまさりたるものを。
 問30・あさましさに、見けりとだに知られむと思ひて書きつく。


【解答・解説】

 問01・完了/つ/終止形
    直前の語はサ変動詞の連用形。後続の語はない。連用形から接続し後続が句点
   の場合の「つ」はすべて完了の助動詞である。

 問02・完了/ぬ/終止形
    直前の語は四段活用動詞の連用形。後続の語はない。連用形から接続し後続が
   句点の場合の「ぬ」はすべて完了の助動詞である。打消の助動詞ではない点に注
   意。

 問03・完了/つ/連体形
    直前の語は下二段活用動詞なので未然形・連用形の区別はつかないが、未然形
   から接続する「つる」は存在しないのでこれも完了の助動詞しかない。

 問04・完了/ぬ/連体形
    直前の語は四段活用動詞の連用形。後続の語は助詞だが、この間に体言「こと」
   が省かれている。

 問05・完了/つ/已然形
    後続の語は助詞。「ば」は未然形ないし已然形の後に使われる。
 問06・完了/ぬ/已然形
    問05と同じ。
 問07・完了/つ/連用形
    直前の語は四段活用動詞の連用形。「つ」は未然形と連用形とが同じだが、後続
   の語は過去の助動詞「けり」なので連用形である。

 問08・完了/ぬ/連用形
    直前の語は四段活用動詞の連用形。後続の語は問07と同じく過去の助動詞であ
   る。

 問09・完了/つ/命令形
    直前の語は四段活用動詞の連用形。命令形の場合は普通句点で文が終わり後
   続の語がないものだが、活用語尾が「てよ」となるのは命令形しかないので、これは
   後続の語の有無にかかわらず命令形でよい。

 問10・完了/ぬ/未然形
    直前の語は下二段活用動詞なので未然形・連用形の区別はつかないが、後続の
   語が助詞「ば」なので完了の助動詞の未然形。

 問11・強意/ぬ/終止形
    後続の「べし」は推量の助動詞で終止形の後に続いて使われる。したがって「ぬ」
   は打消ではない。(「ぬ」が打消の助動詞なら連体形である。)「ぬ」はよく完了の助
   動詞といわれるが、後続の助動詞が「む」「つ」など推量や意志を表す場合は、その
   助動詞の意味を強める働きをもつ点に注意。

 問12・強意/つ/終止形
    後続の「らん」は現在推量の助動詞。したがって問12と同じ理由で強意となる。
 問13・強意/つ/未然形
    後続の「ん」は意志を表す助動詞で未然形の後に続いて使われる。問11と同じ理
   由でこれも完了の意味はなく、後続の助動詞「む」の意味を強める働きである。

 問14・強意/ぬ/未然形
    問13と同じ。
 問15・×
    直前の語がサ変動詞の終止形である点に注目。したがって「な」は完了の助動詞
   ではない。これは禁止の意味を表す終助詞で「〜するな」と訳す。

 問16・打消/ず/未然形
    直前の語がラ変動詞の未然形である点に注目。したがって「な」は完了ではなく、打
    消の助動詞である。なお、打消の助動詞「ず」の未然形「な」は奈良時代のみの用法
    で、後続の語も「く」に限られる。

 問17・×
    「な」が文節の先頭にあるから自立語と判断する。したがって助動詞ではない。 これ
   は陳述の副詞で後続の「そ」とセットで禁止を表す。

 問18・カ行変格活用/来/連用形
    後続の「ぬ」は終止形なので完了の助動詞である。完了の助動詞は連用形の後に
   続いて使われるので「来」は連用形となる。したがって漢字「来」の読みは「き」である。

 問19・マ行上一段活用/見る/連用形
    後続の「つれ」は完了の助動詞である。完了の助動詞は連用形の後に続いて使わ
   れるので「見」は連用形となる。未然形ではない。

 問20・サ行変格活用/おはす/未然形
    後続の「ね」は完了の助動詞の命令形。完了の助動詞は連用形の後に続いて使わ
   れるので、本来なら「おはせ」は「おはし」になるところだが、例外的な接続である。

 問21・×
    「ぬる」の直前は「寝」だが、これはナ行下二段活用動詞「寝ぬ」の語幹である。した
   がってこれは「寝ぬる」で一語となる。

 問22・完了/ぬ/連体形
    直前の語は四段活用動詞の連用形。したがってこれは完了の助動詞である。係り
   結びでもないのに連体形で文を終えているのは話者の詠嘆を表しているためである。

 問23・完了/ぬ/連用形
    直前の語は上二段活用動詞なので未然形との連用形とが区別つかない。「に」には
   打消の助動詞「ず」の連用形もあるが、これはきわめて限られた接続と用法なので判
   別は容易である。後続の語は過去の助動詞「き」の連体形である。

 問24・×
    直前の語は四段活用動詞の連体形で、後続は読点を挟んで別の文節につながって
   いる。この場合は接続助詞である。

 問25・×
    直前の語は形容詞の連体形で後続は読点を挟んで別の文節につながっている。外
   見上は問24と同じだが、「しげき」の後に体言を補うことができるので格助詞である。

 問26・×
    「に」の直前は形容動詞の語幹である。したがってこれは「優に」で一語の形容動詞
   である。

 問27・×
    「に」の直前は「さら」で、これを一語とすると意味不明の語になってしまう。これは「さ
   らに」で一語の副詞である。

 問28・×
    「てしがな」で一語の終助詞。直前の語は上一段活用動詞の連用形だが、完了・強
   意の助動詞ではない。

 問29・×
    直前の語は問28と同じく上一段活用動詞の連用形だが、後続を見ると別の文節に
   なっている。この場合は接続助詞であって完了・強意の助動詞ではない。完了・強意
   の助動詞「つ」の未然形や連用形の場合は、必ず後続の語も他の助動詞となる点に
   注目。

 問30・完了/ぬ/連用形
    直前の語は問28と同じく上一段活用動詞の連用形だが、後続の語は過去の助動
   詞である。このように他の助動詞に接続する「て」は完了・強意の助動詞となる。なお、
   この場合、推量や意志を表す助動詞に接続する場合は強意の用法で、それ以外の
   助動詞に接続する場合は完了である。