こてんこてん蔵庫5(その2)             戻る

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第6回・ナ行・ラ行変格活用動詞

 次の赤文字の語は動詞である。活用種類・基本形・活用形を答えなさい。

【初級】 
 問01・牛を売る者あり
 問02・夜の間に牛死にぬ。
 問03・飢ゑ死ぬる者のたぐひ、数も知らず。
 問04・翁も塗籠の戸を鎖して戸口に居り
 問05・その人ほどなく失せにけりと聞き侍りし。
 問06・命あるものを見るに、人ばかり久しきはなし。
 問07・その思ひまさりて深き者、必ず先立ちて死ぬ
 問08・かきつばたといふ五文字を句の上に据ゑて旅の心を詠め
 問09・翁のあらむ限りは、かうてもいますかりなむかし。
 問10・すでにし出したるさまにて、ひしめきあひたり。


【中級】
 問11・花見にまかれりけるに早く散り過ぎにければ
 問12・前栽の中に隠れ居て河内へ往ぬる顔にて見れば、
 問13・君があたり見つつ居らむ生駒山雲な隠しそ雨は降るとも
 問14・おのれが恐れ侍れば申さず。
 問15・あの松の中で御自害候へ
 問16・飢ゑ死ぬる者のたぐひ、数も知らず。
 問17・気色ばみいますかりとも、え書き並べじや。
 問18・臆病でこそさは思しめし候へ
 問19・子孫おはせぬぞよく侍る
 問20・吉野の桜、左近の桜、みな一重にてこそあれ


【上級】
 問21・われらが生ける今日の日、なんぞその時節に異ならん。
 問22・かく騒がしげにめるを、この朝臣候へばと思ひ給へ譲りて、
 問23・この児、さだめておどろかさむずらむと待ちゐたるに、
 問24・残るといへども、朝日に枯れぬ。
 問25・知らず、生まれ死ぬる人、何方より来たりて何方へか去る
 問26・もの申しさぶらはむ。おどろかせたまへ。
 問27・日ごろは何とも覚えぬ鎧が、今日は重うなつたるぞや。
 問28・甲斐の一条次郎とこそ聞け
 問29・羽なければ空をも飛ぶべからず。
 問30・難き事どもにこそなれ。


【解答・解説】

 問01・ラ行変格活用/あり/終止形
     「あり」「居り」「侍り」「いますかり」の4語はラ行変格活用である。後続の語が何
    もない場合は原則として終止形か命令形のいずれかである。活用語尾が「り」なら
    連用形もあり得るが、その場合は読点や他の語が続く。

 問02・ナ行変格活用/死ぬ/連用形
     「死ぬ」「往ぬ」(「去ぬ」も含む)はナ行変格活用である。ナ行変格は未然形から
    命令形までの6種の活用形がすべて異なるため、活用形の判別は容易にできる。

 問03・ラ行四段活用/知る/未然形
     四段活用では活用語尾がアの音になったら未然形である。
 問04・ラ行変格活用/居り/終止形
     問01と同じ。
 問05・ラ行変格活用/侍り/連用形
     これもラ行変格であるが、後続の語があるため終止形ではなく連用形となる。
 問06・ラ行変格活用/あり/連体形
     現代語では「ある」が終止形だが、古語では連体形となる点に注意。
 問07・ナ行変格活用/死ぬ/終止形
     問02と同じ。
 問08・マ行四段活用/詠む/命令形
     四段活用では活用語尾がエの音になったら已然形か命令形であるが、後続の
    語がない場合は原則として命令形と考える。

 問09・ラ行変格活用/いますかり/連用形
     問05と同じ理由でこれも連用形である。
 問10・サ行四段活用/し出だす/連用形
     現代語にはない言葉だが現代語の「出す」が五段活用であるから、そこから推
    測できる。なお、漢字の「出」は「い」と読む点に注意。


 古典文法の勉強を始めたばかりの方はここまでの問題を正解できればOKです。
    
 問11・ラ行四段活用/まかる/已然形
     後続の「り」は完了の意味をもつ助動詞である。「まかる」は重要古語の一つ。
 問12・ナ行変格活用/往ぬ/連体形
     問02と同じ。最後が「る」だからという理由でラ行と判断しないこと。
 問13・ラ行変格活用/居り/未然形
     問01と同じ。活用語尾がアの音なら未然形しかない。
 問14・ラ行変格活用/侍り/已然形
     ラ行変格の場合でも活用語尾がエの音なの場合は已然形・命令形のいずれか
    なので、問08と同じ基準で判断する。

 問15・ハ行四段活用/候ふ/命令形
     これも問08のルールを適用する。
 問16・ナ行変格活用/死ぬ/連体形
     問02と同じ。
 問17・ラ行変格活用/いますかり/終止形
     後続の語は接続助詞「とも」は終止形接続であるため、これは連用形ではない。
 問18・ハ行四段活用/候ふ/已然形
     文中に係助詞「こそ」の結びとなるため問15とは異なり已然形となる。
 問19・ラ行変格活用/侍り/連体形
     文中に係助詞「ぞ」の結びとなるため連体形となる。
 問20・ラ行変格活用/あり/已然形
     問18と同じ。命令形ではない。
 問21・カ行四段活用/生く/已然形
     現代語の「生きる」は上一段活用だが、古語では平安時代院政期まで四段活用
    として使われていた。後続の「る」は存続の意味を表す助動詞で已然形接続である。

 問22・ラ行変格活用/侍り/連体短縮形
     本来は「侍る」となるべきところ「る」が省かれたまま後続の助動詞につながったも
    の。この現象はラ行変格活用動詞・形容詞・形容動詞・及びそれに準じた活用をす
    る助動詞から、助動詞「めり」「なり」「らし」に接続する場合に限って見られる。なお
    音読の際は「はべんめる」となり、省かれた「る」を「ん」と発音する。当時「ん」という
    文字は存在しなかった点にも注意。

 問23・サ行四段活用/おどろかす/未然形
     現代語で「おどろかす」に相当する語。
 問24・ラ行四段活用/残る/終止形
     後続の語は引用を表す格助詞「と」であるので、これは「残る」一語で一文と考え
    る。したがって終止形となる。

 問25・ラ行四段活用/去る/連体形
     直前にある係助詞「か」の結びとなるため連体形である。
 問26・カ行四段活用/おどろく/未然形
     問23とは別の語。現代語の「おどろく」に相当する。「おどろかす」は他動詞である
    が「おどろく」は自動詞である。

 問27・ラ行四段活用/なる/連用形促音便
     本来は「なり」となるべきところ音便化した形。したがってもともとはラ行である。
 問28・カ行四段活用/聞く/命令形
     直前にある係助詞「こそ」の結びとなるため已然形である。
 問29・バ行四段活用/飛ぶ/終止形
     後続の「べから」は可能の意味を表す助動詞で終止形接続である。
 問30・ラ行変格活用/あり/連体短縮形
     本来は「ある」となるべきところ「る」が省かれたまま後続の助動詞につながったも
    の。問22と同じ。音読の際は「あんなれ」となる。


第7回・前回分+上一段活用動詞

 次の赤文字の語は動詞である。活用種類・基本形・活用形を答えなさい。

【初級】
 問01・しばし試みるほどになど気色あり。
 問02・世の中飢渇してあさましきこと侍りき。
 問03・箱のあるを手まさぐりに開けて見れば、人のもとに遣らむとしける文あり。
 問04・衣冠より馬・車に至るまで、あるに従ひて用ゐよ
 問05・みさごは荒磯に居る
 問06・ある人、弓射ることを習ふに、諸矢をたばさみて的に向かふ。
 問07・紫雲のごとくして西方に匂ふ
 問08・家を顧みる営みのいさましからん。
 問09・辻風は常に吹くものになれど、かかる事やある
 問10・壺なる御薬奉れ


【中級】
 問11・命あるものを見るに、人ばかり久しきはなし。
 問12・この風未の方に移りゆきて、多くの人の歎きをなせり。
 問13・ここを切れ、かしこを断て
 問14・次に弓、馬に乗ること。
 問15・ほど狭しといへども、夜臥す床あり、昼居る座あり。
 問16・たれか一人ふるさとに残り居らん。
 問17・屋の上に居る人どもの聞くに、いとまさなし。
 問18・芥河といふ河をて行きければ、
 問19・あくるまでも試みむとしつれど、とみなる召使の来あひたりつればなむ。
 問20・神へ参るこそ本意なれと思ひて山まではず。


【上級】
 問21・見るべき人見よとなめりとさへ思ふに、
 問22・酔ひたる人ぞ過ぎにし憂さを思ひ出でて泣くめる。
 問23・日数の早く過ぐるほどぞ、ものにもぬ。
 問24・かぐや姫をまほしうて、物も食はず思ひつつ、
 問25・所なく並みゐつる人も、いづかたへか行きつらん。
 問26・また衣ぬ妻子などもさながら内にありけり。
 問27・吉野の花、左近の桜、みな一重にてこそあれ
 問28・妻といふものこそ、をのこの持つまじきものなれ。
 問29・人の身にやむことを得ずして営むところ、第一に食物、第二に着る物、第三に
    居る
所なり。
 問30・歎きつつ一人寝る夜のあくる間はいかに久しきものとかは知る


【解答・解説】

 問01・マ行上一段活用/試みる/連体形
     「試みる」は現代語にもある。この動詞に「ない」をつけると「試みない」となり、「な
    い」の直前の活用語尾はイの音になる。この場合は上一段活用か上二段活用だ。
    前者は15語しかないので暗記すれば判別は容易である。活用形は終止形と連体
    形が同一であるが、読点ないし後続の語があれば原則として連体形である。

 問02・ラ行変格活用/侍り/連用形
     第6回の問1と同じ。
 問03・マ行上一段活用/見る/已然形
     問1と同じく「ない」をつけると「ない」の直前の活用語尾はイの音になる。なお、「な
    い」をつけたとき動詞の部分は「見」一字になるので、語幹と活用語尾との区別がな
    い点にも注意。上一段活用では活用語尾の末尾が「れ」なら活用する行とは関係な
    く已然形になるので、「れ」だからラ行だと判断しないようにしたい。

 問04・ワ行上一段格活用/用ゐる/命令形
     現代語の「用いる」で、「ない」をつけると直前の活用語尾はイの音になる。ただし
    古語ではワ行に活用する点に注意。また、活用語尾の末尾が「よ」の場合は活用す
    る行とは関係なく命令形になるので、「よ」だからヤ行と判断しないようにしたい。

 問05・ワ行上一段活用/居る/終止形
     これも現代語の「居る」で、「ない」をつけると直前の活用語尾はイの音になる。漢
    字で「居」と表記されるとわかりにくいが、ワ行に活用する点に注意。問3と同じく語
    幹と活用語尾との区別がない。なお活用形は後続の語がないので終止形である。

 問06・ヤ行上一段活用/射る/連体形
     現代語の「射る」で、「ない」をつけると直前の活用語尾はイの音になる。これも漢
    字で「射」とあるのでわかりにくいがヤ行に活用する点に注意。なお、ア行の動詞は
    下二段に活用する「得」「心得」以外には存在しないことも知っておきたい。活用形は
    終止形と連体形が同一であるが、読点ないし後続の語があれば原則として連体形
    である。

 問07・ハ行四段活用/匂ふ/終止形
     現代語の「匂う」で「ない」をつけると「匂わない」と、「ない」の直前の仮名はアの音
    になるから四段活用動詞である。ただし、古語ではワ行ではなくハ行に活用する。

 問08・マ行上一段活用/顧みる/連体形
     問1と同じく「ない」をつけると直前の活用語尾はイの音になる。問08や問01の「試
    みる」など、「○みる」という形態の動詞はすべて上一段活用である。他に「鑑みる」
    「惟みる」がある。

 問09・ラ行変格活用/あり/連体形
     第6回の問1と同じ。連体形で文が終止している理由は直前に係助詞「や」があり、
    これの係り結びとなっているためである。

 問10・ラ行四段活用/奉る/命令形
     この動詞で文が終わっているので、終止形か命令形を考える。そして活用語尾が
    ウの音でなければ命令形である。

 
古典文法の勉強を始めたばかりの方はここまでの問題を正解できればOKです。

 問11・マ行上一段活用/見る/連体形
     後続の語があるので終止形ではなく連体形である。よく連体形は後続の語が体言
    といわれるが、体言だけに接続しているわけではないので注意。このように助詞にも
    接続する。

 問12・サ行四段活用/なす/已然形
     問02と同じ。漢字で書けば「為す」。「ない」をつけると「なさない」となるので四段活
    用である。
  
 問13・タ行四段活用/断つ/命令形
     活用形に関しては問10と同じ。「断つ」は「ない」をつけると「断たない」となるので四
    段活用である。

 問14・ヤ行上一段活用/射る/連用形
     問06と同じ。読点をはさんで後続の語につながる場合は、未然形ではなく連用形で
    ある。

 問15・ワ行上一段活用/居る/連体形
     見かけではラ行変格活用「居り」の連体形との判別が全くつかないが、これは文意を
    とらえて考える。「居る」の後に「座」があるので、「狭いとはいっても夜寝るための床は
    あり昼間座る場所もある」という現代語訳になる。一方、ラ行変格活用「居り」は「存在
    する」「いる」という意味で「座る」という意味はない。
    
 問16・ラ行変格活用/居り/未然形
     語幹は「居」でも活用語尾が「ら」であるから、ワ行上一段活用の「居る」との判別は
    容易である。また活用語尾がアの音になるのは未然形しかないことも知っておきたい。

 問17・ラ行変格活用/居り/連体形
     見かけでは問15との判別が全くつかないが、これは文意をとらえて考える。「居る」
    の前に「屋の上に」があるので、「屋根の上にいる人々が聞くと、たいへんみっともな
    い」という現代語訳になる。一方、ワ行上一段活用「居る」は「座る」「位に就く」「じっと
    する」「留まる」「おさまる」という意味である。「いる」と訳すことができる古語は「居る」
    ではなく「居り」である点に注意。

 問18・ワ行上一段活用/率る/連用形
     後続の語が助詞「て」の場合は連用形である。なお「率る」と「率ゐる」とは別の動詞
    である。「率る」は連れて行くという意味をもつ。また、「率る」は語幹と活用語尾との区
    別がない点にも注意。

 問19・マ行上一段活用/試みる/未然形
     問01と同じ。後続の「む」は意志を表す助動詞で未然形の後に続いて用いる。した
    がって「試み」は連用形ではない。
   
 問20・マ行上一段活用/見る/未然形
     問03と同じ。後続の「ず」は打消を表す助動詞で未然形の後に続いて用いる。した
    がって「見」は連用形ではない。

 問21・マ行上一段活用/見る/終止形
     後続の「べき」は当然の意味を表す助動詞で終止形の後に続いて用いる。したがっ
    て「見る」は連体形ではない。

 問22・カ行四段活用/泣く/終止形
     後続の「める」は推定の意味を表す助動詞で、問21同じく終止形の後に続いて用い
    る。したがって「泣く」は連体形ではない。
      
 問23・ナ行上一段活用/似る/未然形
     後続の「ぬ」は打消の意味を表す助動詞で未然形の後に続いて用いる。なお「ぬ」
     は係助詞「ぞ」の結びで連体形である。完了の意味を表す助動詞「ぬ」ではない点
     に注意。

 問24・マ行上一段活用/見る/未然形
     後続の「まほしう」は希望の意味を表す助動詞で未然形の後に続いて用いる。した
    がって連用形ではない。
  
 問25・ワ行上一段活用/並みゐる/連用形
     マ行四段活用動詞「並む」とワ行上一段活用動詞「居る」とが複合した形。活用種
    類と活用形は後の動詞(ここでは「ゐる」)のそれが答えとなる。後続の「つる」は完
    了の意味を表す助動詞で連用形の後に続いて用いる。したがって未然形ではない。

 問26・カ行上一段活用/着る/未然形
     後続の「ぬ」は問23と同じ語。したがって「着」は未然形となる。連用形ではない。
 問27・ラ行変格活用/あり/已然形
     直前にある係助詞「こそ」の結びとなるため已然形である。命令形ではない。
 問28・タ行四段活用/持つ/終止形
     後続の「まじき」は禁止の意味を表す助動詞で終止形の後に続いて用いる。した
    がって連体形ではない。
     
 問29・ワ行上一段活用/居る/連体形
     問15と同じく外見ではラ行変格動詞「居り」の連体形と区別がつかないので、現
    代語訳をして判別する。問題文は「人間にとってやむを得ず務めることは、第一に
    食べる物、第二に着る物、第三に住む家を確保することである」となる。したがって
    「住む」と訳せるので「をり」ではなく「ゐる」である。

 問30・ラ行四段活用/知る/連体形
     直前の「かは」は反語の意味を表す助詞だが、これは係助詞「か」に係助詞「は」
    がついたものである。したがって、もともとの助詞「か」が係り結びとなり文末の「知
    る」は連体形になる。


第8回・前回分+上二段活用動詞

 次の赤文字の語は動詞である。活用種類・基本形・活用形を答えなさい。

【初級】 
 問01・日数の早く過ぐるほどぞ、ものにも似ぬ。
 問02・よき人はあやしきことを語らず。
 問03・その人にあひ奉りて恨み申さばやと思ひて、尋ね申すなり。
 問04・いかなる大事あれども、人の言ふこと聞き入れず。
 問05・この人失せなん後、我が身死ぬべきに定まりたりとも、ほどなく待ちつけぬべし。
 問06・そのほど過ぎぬれば、かたちを恥づる心もなく、人に出でまじらはん事を思ひ、
 問07・法華堂などもいまだ侍るめり。
 問08・誰かを恥ぢ、誰にか知られん事を願はん。
 問09・事の尽くる限りもなく、思ひ立つ日もあるべからず。
 問10・あやまちすな。心して降りよ


【中級】
 問11・それなん、また、え生くまじく侍るめる。
 問12・御産のとき、こしき落とすことは定まれる事にはあらず。
 問13・鞠もかたきところを蹴出だして後、やすく思へば必ず落つと侍るやらん。
 問14・久しくたる、いとむつかし。
 問15・ただ腫れに腫れみちて、息もつまりければ、
 問16・そのとき悔ゆとも、かひあらんや。
 問17・さだかに知れる人もなし。
 問18・すゑなほして往にければ、上人の感涙、いたづらになりにけり。
 問19・近き火などに逃ぐる人は「しばし」とやは言ふ
 問20・問はずして、などやと恨むる人もなし。


【上級】
 問21・怠る間もなく漏れゆかば、やがて尽きぬべし。
 問22・されば、転び落ちぬやうに、心得て炭を積むべきなり。
 問23・渡り過ぎぬれば「また渡らんまで」と言ひて下りぬ。
 問24・さやうの人の祭しさま、いと珍らかなりき。
 問25・つぎに医術を習ふべし。
 問26・かばかりになりては飛び降るとも降りなん。
 問27・「奥山に猫またといふものありて、人を食らふなる」と言ひけるに、
 問28・千年を過ぐすとも、一夜の夢の心地こそせめ。
 問29・緩くすべきことを急ぎて、過ぎにしことの悔しきなり。
 問30・老いぬる人は、精神衰へ、淡くおろそかにして感じ動くところなし。


【解答・解説】

 問01・ガ行上二段活用/過ぐ/連体形
     「過ぎる」は現代語にもある。この動詞に「ない」をつけると「過ぎない」となり、「な
    い」の直前の活用語尾はイの音になる。この場合は上一段活用か上二段活用だ。
    前者は15語しかないので暗記すれば判別は容易である。上二段活用の場合、活
    用語尾が2文字あって最後が「る」の場合は、活用する行とは無関係に連体形であ
    る。

 問02・ラ行四段活用/語る/未然形
     「ず」は現代語の「ない」と同じ意味で打消しになる。動詞に「ず」をつけたときも
    「ず」の手前の音がアの音の場合は四段・ラ変・ナ変のいずれかである。

 問03・マ行上二段活用/恨む/連用形
     現代語の「恨む」は「ない」をつけると「恨まない」となり、直前の活用語尾はアの
    音になるが、古語では四段ではなく上二段に活用する点に注意。

 問04・ラ行変格活用/あり/已然形
     現代語の「ある」にあたる。これは古語ではラ行変格で基本形は「あり」となる。
 問05・ナ行変格活用/死ぬ/終止形
     「死ぬ」と「往ぬ」はナ行変格活用である。なお、この問題では終止形にもかかわ
    らず後続の語があるが、活用語尾が「ぬ」となるのは終止形以外には存在しない
    ので答えは終止形でよい。

 問06・ダ行上二段活用/恥づ/連体形
     現代語の「恥じる」で、「ない」をつけると「恥じない」となり直前の活用語尾はイの
    音になる。なお、ザ行ではなくダ行である点に注意したい。問01と同様に、活用語
    尾が2文字あって最後が「る」の場合は、活用する行とは無関係に連体形である。

 問07・ラ行変格活用/侍り/連体形
     これも「あり」「居り」「いますかり」と共にラ行変格活用動詞である。
 問08・ダ行上二段活用/恥づ/連体形
     問06と同じだが、活用語尾が「ぢ」一字なので未然形か連用形である。読点をは
    さんで後続の文節がある場合は、連用形である。

 問09・カ行上二段活用/尽く/連体形
     「尽きる」は現代語にもある。この動詞に「ない」をつけると「尽きない」となり、「な
    い」の直前の活用語尾はイの音になる。問01と同様に活用語尾が2文字あって最
    後が「る」の場合は、活用する行とは無関係に連体形である。

 問10・ラ行上二段活用/降る/命令形
     「降りる」は現代語にもある。この動詞に「ない」をつけると「降りない」となり、「な
    い」の直前の活用語尾はイの音になる。上二段活用の場合、活用語尾の最後が
    「よ」の場合は、活用する行とは無関係に命令形である。


 古典文法の勉強を始めたばかりの方はここまでの問題を正解できればOKです。
    
 問11・カ行四段活用/生く/終止形
     現代語の「生きる」だが、古語では四段活用である点に注意。後続の「まじく」は不
    可能を表す助動詞で終止形の後に続いて用いる。

 問12・サ行四段活用/落とす/連体形
     現代語にも「落とす」という語があるので四段活用だとわかるはず。後続の「こと」
    は名詞なので「落とす」は連体形になる。

 問13・タ行上二段活用/落つ/終止形
     問12とは別の動詞。現代語の「落ちる」にあたる。これは「ない」をつけると「落ち
    ない」となり、「ない」の直前の活用語尾はイの音になる。なお「落とす」は他動詞、
    「落つ」は自動詞である。

 問14・ワ行上一段活用/居る/連用形
     漢字の「居」一字のみで動詞になっている場合は語幹と活用語尾との区別がない
    ので、ラ行変格の「居り」ではない。

 問15・タ行上二段活用/腫れみつ/連用形
     「腫る」と「みつ」との複合動詞。現代語では「みつ」は「みちる」となる。この動詞に
    「ない」をつけると「みちない」となり、「ない」の直前の活用語尾はイの音になる。後
    続が助詞「て」の場合は連用形である。

 問16・ヤ行上二段活用/悔ゆ/終止形
     現代語の「悔いる」という動詞である。この動詞に「ない」をつけると「悔いない」とな
    り、「ない」の直前の活用語尾はイの音になる。但しア行に上二段活用は存在しない
    のでヤ行となる点に注意。「老ゆ」「悔ゆ」「報ゆ」の3語はヤ行上二段活用である。

 問17・ラ行四段活用/知る/已然形
     「知る」は現代語にもあるので四段活用とわかるはず。後続の「り」は存続の意味を
    表す助動詞で、サ行変格活用の未然形か四段活用の已然形のいずれかの後にしか
    使われない。

 問18・ナ行変格活用/往ぬ/連体形
     問05と同じ。活用語尾がイの音なら連用形である。
 問19・ハ行四段活用/言ふ/連体形
     直前の「やは」は反語の意味を表す助詞だが、これは係助詞「や」に係助詞「は」が
    ついたものである。したがって、もともとの助詞「や」が係り結びとなり、文末の「言ふ」
    は連体形になる。

 問20・マ行上二段活用/恨む/連体形
     問03と同じ。上二段活用の場合、活用語尾が2文字あって最後が「る」の場合は、
    活用する行とは無関係に連体形である。

 問21・カ行上二段活用/尽く/連用形
     問09と同じ動詞。後続の「ぬ」は強意の働きを表す助動詞で連用形の後に続いて
    用いる。したがって「尽き」は未然形ではない。

 問22・タ行上二段活用/転び落つ/未然形
     「転ぶ」と「落つ」との複合動詞。活用種類は問13と同じになる。後続の「ぬ」は打消
    の意味を表す助動詞で、未然形の後に続いて用いる。したがって問21と同じ助動詞
    ではない点に注意。この助動詞「ぬ」の判別については後の回で扱う。

 問23・ガ行上二段活用/渡り過ぐ/連用形
     「渡る」と「過ぐ」との複合動詞。活用種類は問01と同じになる。後続の「ぬれ」は完
    了の意味を表す助動詞で連用形の後に続いて用いる。したがって「渡り過ぎ」は未然
    形ではない。

 問24・マ行上一段活用/見る/連用形
     「見る」は15語しかない上一段活用動詞。後続の「し」は過去の意味を表す助動詞
    で連用形の後に続いて用いる。したがって「見」は未然形ではない。

 問25・ハ行四段活用/習ふ/終止形
     現代語の「習う」だが、古語ではハ行に活用する。後続の「べし」は義務の意味を表
    す助動詞で終止形の後に続いて用いる。したがって「習ふ」は連体形ではない。

 問26・ラ行上二段活用/降る/連用形
     問10と同じ動詞。後続の「な」は問23と同じ語。したがって「降り」は連用形となる。
    未然形ではない。

 問27・ハ行四段活用/食らふ/終止形
     現代語の「食らう」だが、古語ではハ行に活用する。後続の「なる」は伝聞の意味を
    表す助動詞で終止形の後に続いて用いる。したがって「食らふ」は連体形ではない。

 問28・サ行四段活用/過ぐす/終止形
     現代語の「過ごす」に相当する。問01の「過ぐ」とは別の語である。後続の「とも」は
    逆接の意味を表す助詞で終止形の後に続いて用いる。したがって「過ぐす」は連体形
    ではない。

 問29・ガ行上二段活用/過ぐ/連用形
     問01と同じ動詞。問28の「過ぐす」が他動詞であるのに対し、「過ぐ」は自動詞。後
    続の「に」は完了の意味を表す助動詞で連用形の後に続いて用いる。したがって「過
    ぎ」は未然形ではない。

 問30・ヤ行上二段活用/老ゆ/連用形
     現代語の「老いる」。この動詞に「ない」をつけると「老いない」となり、「ない」の直前
    の活用語尾はイの音になる。但しア行に上二段活用は存在しないのでヤ行となる点
    に注意。後続の「ぬる」は完了の意味を表す助動詞で連用形の後に続いて用いる。
    したがって「老い」は未然形ではない。


第9回・前回分+下二段活用動詞

 次の赤文字の語は動詞である。活用種類・基本形・活用形を答えなさい。

【初級】 
 問01・近き火などに逃ぐる人は「しばし」とやは言ふ。
 問02・河内へ往ぬる顔にて見れば、
 問03・その人にあひ奉りて恨み申さばやと思ひて、尋ね申すなり。
 問04・験あらん僧たち、試みられよ。
 問05・神へ参るこそ本意なれと思ひて、山ではず。
 問06・木の葉をかきのけたれど、つやつや物も見えず。
 問07・去りがたく心にかからんことの本意を遂げずして、さながら捨つべきなり。
 問08・聞き伝ふるばかりの末々は、あはれとやは思ふ。
 問09・思ひ出でて偲ぶ人あらんほどこそあらめ、
 問10・寺・社などに忍びてこもりたるもをかし。


【中級】
 問11・耳鼻欠けうげながら抜けにけり。
 問12・しばし奏でて後、抜かんとするに、おほかた抜かれず。
 問13・すでにし出だしたるさまにて、ひしめきあひたり。
 問14・思し出づることありて、案内せさせて入りたまひぬ。
 問15・極楽寺・高良などを拝みて、かばかりと心得て帰りにけり。
 問16・家に預けたりつる人の心も荒れたるなりけり。
 問17・老いぬる人は、精神衰へ、淡くおろそかにして感じ動くところなし。
 問18・死を恐れざるにはあらず。
 問19・「えい。」といらへたりければ、僧たち笑ふこと限りなし。
 問20・初心忘るべからず。


【上級】
 問21・立てる人どもは装束の清らなること、物にも似ず。
 問22・この道を立てて世にあらんには、仏だに書き奉らば百千の家も出で来なん。
 問23・満座興に入ること限りなし。
 問24・水を汲み入るることめでたかりけり。
 問25・御所へ参りたる間に盗めるなりけり。
 問26・命を終ふる大事、今、ここに来れり。
 問27・残るといへども、朝日に枯れぬ。
 問28・人はまだ見馴るといふべきにもあらず。
 問29・年月ても、つゆ忘るるにはあらねど、
 問30・歎きつつひとり寝る夜のあくる間はいかに久しきものとかは知る


【解答・解説】

 問01・ガ行下二段活用/逃ぐ/連体形
     「逃げる」は現代語にもある。この動詞に「ない」をつけると「逃げない」となり、「な
    い」の直前の活用語尾はエの音になる。この場合は100%下二段活用だ。上二段
    活用と同様に下二段活用の場合も活用語尾が2文字あって最後が「る」の場合は、
    活用する行とは無関係に連体形である。

 問02・ナ行変格活用/往ぬ/連体形
     「死ぬ」「往ぬ」はナ変。これは暗記しよう。後続の語は「顔」という名詞なので連体
    形になる。

 問03・ナ行下二段活用/尋ぬ/連用形
     「尋ねる」は現代語にもある。この動詞に「ない」をつけると「尋ねない」となり、「な
    い」の直前の活用語尾はエの音だから下二段活用である。後続の語「申す」は動詞、
    つまり用言なので「尋ね」は未然形ではなく連用形である。

 問04・マ行上一段活用/試みる/未然形
     現代語の「試みる」と同じ。「漢字+みる」という形は上一段活用と覚えておく。他に
    「鑑みる」「顧みる」などがある。

 問05・マ行上一段活用/見る/未然形
     「見る」は15語しかない上一段活用動詞である。後続の語が「ず」(つまり現代語の
    「ない」に相当する)であるため、「見」は連用形ではなく未然形だ。

 問06・ヤ行下二段活用/見ゆ/未然形
     現代語の「見える」で、問05とは別の動詞。「ない」をつけると「見えない」となり、未
    然形はエの音になるため下二段活用である。なお、ア行は「得」「心得」しかないので、
    これはヤ行である。

 問07・タ行下二段活用/捨つ/終止形
     「捨てる」は現代語にもある。この動詞に「ない」をつけると「捨てない」となり、「ない」
    の直前の活用語尾はエの音になるので下二段活用だ。後続の語があるが、活用語
    尾が「つ」、つまりウの音1字だけの場合は終止形である。

 問08・ハ行下二段活用/聞き伝ふ/連体形
     現代語の「聞き伝える」に相当する。もともと「聞く」と「伝ふ」の複合動詞だ。複合動
    詞の場合、後にある動詞の活用種類がそのまま答えとなる。現代語にもある「伝える」
    だが、古語ではハ行に活用する点に注意。連体形になる理由は問01と同じ。

 問09・バ行四段活用/偲ぶ/連体形
     「偲ぶ」は現代語にもある。後続の語が「人」という名詞なので、「偲ぶ」は連体形で
    ある。なお、「偲ぶ」は時代により古語では四段にも上二段にも活用したが、この問09
    に関しては連体形で活用語尾がウの音1字だけなので四段活用とわかる。
     (上二段活用の連体形なら「偲ぶる」となる。)

 問10・バ行上二段活用/忍ぶ/連用形
     現代でも「忍びない」という表現が残っているため、「忍ぶ」はもともと上二段である
    ことがわかる。一方、問09の「偲ぶ」はもともと四段活用である。それが平安時代後
    期から「偲ぶ」「忍ぶ」両方とも四段にも上二段にも活用するようになり、区別もつか
    なくなった。なお、後続の語が助詞「て」なので問10は連用形である。


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 問11・カ行下二段活用/抜く/連用形
     後続の語は完了の意味を表す助動詞で連用形の後に続いて用いられる。したがっ
    て「抜け」は連用形なのだが、活用語尾がエの音で連用形なのは下二段活用である。
    したがって、現代語の「抜ける」にあたる動詞であることがわかる。

 問12・カ行四段活用/抜く/未然形
     現代語にも「抜く」という語がある。問11とは別の動詞である。未然形の活用語尾
    がアの音だからこちらは四段活用である。

 問13・サ行四段活用/し出だす/連用形
     現代語に「出す」という語があるからこれをヒントに考えれば四段活用とわかる。
 問14・ダ行下二段活用/思し出づ/連体形
     「思す」と「出づ」とが複合した形。後の「出づ」は現代語の「出る」に相当し、問13
    の「出す」とは別の動詞である。この動詞に「ない」をつけると「出ない」となることから
    も下二段活用とわかる。連体形である理由は問01と同じ。

 問15・ア行下二段活用/心得/連用形
     現代語の「心得る」である。この語と「得る」に相当する「得」という動詞だけはア行
    である。後続の語は助詞「て」であるため連用形である。

 問16・ラ行下二段活用/荒る/連体形
     現代語の「荒れる」という動詞である。この動詞に「ない」をつけると「荒れない」とな
    り、「ない」の直前の活用語尾はエの音であるから下二段活用とわかる。後続の「た
    る」は存続の意味を表す助動詞で連用形の後に続いて用いられる語である。

 問17・ハ行下二段活用/衰ふ/連用形
     現代語の「衰える」だが、ハ行に活用する点に注意。後続が読点を挟んで別の文
    節につながる場合は連用形か連体形である。この場合は活用語尾がエの音1字な
    ので連用形とわかる。

 問18・ラ行下二段活用/恐る/未然形
     現代語の「恐れる」という動詞である。この動詞に「ない」をつけると「恐れない」と
    なり、「ない」の直前の活用語尾はエの音であるから下二段活用とわかる。後続の
    「ざる」は打消の意味を表す助動詞で未然形の後に続いて用いられる語である。

 問19・ハ行下二段活用/いらふ/連用形
     現代語にはないので後続の語で判断するしかない。「たる」は問16と同じく存続の
    意味を表す助動詞であるから、「いらへ」は連用形であることがわかる。連用形で活
    用語尾が「へ」、すなわちエの音ということは下二段活用である。

 問20・ラ行下二段活用/忘る/終止形
     現代語の「忘れる」という動詞である。この動詞に「ない」をつけると「忘れない」とな
    り、「ない」の直前の活用語尾はエの音であるから下二段活用とわかる。後続の語が
    あるが、活用語尾が「る」、つまりウの音1字だけの場合は終止形である。

 問21・タ行四段活用/立つ/已然形
     「立つ」には下二段活用と四段活用との2種類があるが、後続の「る」は存続の意
    味を表す助動詞「り」の連体形で、これはサ行変格活用の未然形か四段活用の已
    然形のいずれかの後にしか使われない。したがって「立つ」は四段活用とわかる。

 問22・タ行下二段活用/立つ/連用形
     後続の「て」は連用形の後に続いて用いられる助詞である。したがって「立て」は連
    用形であるわけだが、活用語尾がの音で連用形になるということは問21とは別の下
    二段活用動詞である。

 問23・ラ行四段活用/入る/連体形
     後続の「こと」という語が名詞であるから「入る」は連体形であるとわかる。活用語
    尾がウの音1字で連体形ということは四段活用である。すなわち、現代語の「入る」
    という動詞ということになる。ただし古語では「入」を「い」と読む。

 問24・ラ行下二段活用/入る/連体形
     「汲む」と「入る」とが複合した形で現代語の「汲み入れる」に相当する。後続の語
    は問23と同じだが、活用語尾が「るる」と2字あるので二段活用動詞とわかる。

 問25・ラ行四段活用/盗む/已然形
     後続の「る」は問21と同じ。したがって「盗め」が四段活用の已然形とわかる。
 問26・ハ行下二段活用/終ふ/連体形
     現代語の「終える」だが、ハ行に活用する点に注意。後続の語が「大事」という名
    詞なので「終ふる」は連体形である。

 問27・ラ行下二段活用/枯る/連用形
     現代語の「枯れる」に相当する。この動詞に「ない」をつけると「枯れない」となり、
    「ない」の直前の活用語尾はエの音であるから下二段活用とわかる。後続の「ぬ」は
    完了の意味を表す助動詞で連用形の後に続いて用いる。したがって「枯れ」は未然
    形ではない。

 問28・ラ行下二段活用/見馴る/終止形
     「見る」と「馴れる」とが複合した形。現代語の「見なれる」に相当する。「馴れる」に
    「ない」をつけると「馴れない」となり、「ない」の直前の活用語尾はエの音であるから
    下二段活用であることがわかる。なお、後続の「と」は引用の意味を表す助詞で終
    止形の後に続いて用いる。

 問29・ハ行下二段活用/経/連用形
     現代語の「経る」に相当する。この動詞に「ない」をつけると「経ない」となり、「ない」
    の直前の活用語尾はエの音であるから下二段活用とわかる。未然形が「経」1字と
    なるため、語幹と活用語尾との区別がない。基本形は「経」で「ふ」と読む。

 問30・カ行下二段活用/あく/連体形
     現代語の「明ける」に相当する。この動詞に「ない」をつけると「明けない」となり、「な
    い」の直前の活用語尾はエの音になるから下二段活用とわかる。 問01と同じ理由で
    活用形は連体形である。


第10回・全ての動詞

次の赤文字の語は動詞である。活用種類・基本形・活用形を答えなさい。

【初級】 
 問01・男は女にあふことを
 問02・美麗を求むることなかれ。
 問03・まづ足にて枕をはたとぞたりける。
 問04・われに今一度、声をだに聞かせたまへ
 問05・日暮れて惟光参れり。
 問06・片方に寄りて寝たるよしにて出で来るを待ちけるに、
 問07・よき人は偏に好けるさまにも見えず、興ずるさまも等閑なり。
 問08・都のうちに多き人、死なざる日はあるべからず。
 問09・あるかなきかの心地するかげろふの日記といふべし。
 問10・植ゑずともありなん。


【中級】
 問11・身死して財残ることは、智者のせざるところなり。
 問12・住み果てぬ世に醜き姿を待ちえて、何かはせん。
 問13・人離れたる所に心とけて寝ぬるものか。
 問14・「我こそめ。」など言ふ者ありて、後に争ひたる、さまあし。
 問15・昔、男、初冠して奈良の京春日の里にしるよしして、狩りに去にけり。
 問16・中に心さかしき者、念じてんとすれども、
 問17・この人みな失せなん後、我が身死ぬべきに定まりたりとも、ほどなく待ちつけぬべし。
 問18・人ば取らせよ。
 問19・「時たがひぬる。」と言ふまでも、え出でやらず。
 問20・吉野の花、左近の桜、みな一重にてこそあれ


【上級】
 問21・この十五日になむ、月の都よりかぐや姫の迎へにまうで来なる。
 問22・また異所にかぐや姫と申す人ぞおはすらむ。
 問23・修法延べさすべかりけり。
 問24・名対面は過ぎぬらむ。
 問25・なほ持て来や。
 問26・ここにおはするかぐや姫は重き病をし給へば、え出でおはしますまじ。
 問27・鞠もかたき所を蹴出だして後、やすく思へば、必ず落つと侍るやらん。
 問28・例の家とおぼしき所にものしためり。
 問29・もし出でたまひぬべくやと思ひて詣で来つれど、帰りては罪べかめり。
 問30・わがはかばかしくは、さのたまふとも、かかる道にて出で奉るべきかは。


【解答・解説】

 問01・サ行変格活用/す/終止形
     「す」は現代語の「する」で、サ行変格活用である。これは暗記しよう。
 問02・マ行下二段活用/求む/連体形
     「求める」は現代語にもある。この動詞に「ない」をつけると「求めない」となり、「な
    い」の直前の活用語尾はエの音だから下二段活用である。活用語尾が2文字あっ
    てその最後が「る」の場合は連体形となる。

 問03・カ行下一段活用/蹴る/連用形
     「蹴る」は現代語では五段活用だが、古語では下一段活用である。これも暗記す
    べき事項だ。

 問04・ハ行四段活用/たまふ/命令形
     現代語にはない語だが、活用語尾がエの音で文が終わっていたら、原則として四
    段活用の命令形であることを知っておきたい。

 問05・ラ行下二段活用/暮る/連用形
     「暮れる」は現代語にもある。この動詞に「ない」をつけると「暮れない」となり、「な
    い」の直前の活用語尾はエの音だから下二段活用である。後続は助詞「て」を挟ん
    で別の文節につながっている。この場合は連用形である。

 問06・カ行変格活用/出で来/連体形
     現代語の「出て来る」にあたる。ダ行下二段活用「出づ」とカ行変格活用「来」とが
    複合した動詞。複合動詞の場合は後の動詞の活用種類と活用形がそのまま答え
    となる。

 問07・サ行変格活用/興ず/連体形
     漢字の音読みに「す」ないし「ず」がついた形はすべてサ行変格活用である。現代
    語でも「努力する」「準ずる」などの語はサ行変格活用だ。

 問08・ナ行変格活用/死ぬ/未然形
     「死ぬ」「往ぬ」はナ行変格活用。これは暗記しよう。
 問09・サ行変格活用/心地す/連体形
     漢字が音読みでなくても名詞に「す」「ず」がついた形も問07と同様にサ行変格活
    用となる。現代語でも「よそ見する」「受付する」など数多くある。

 問10・ワ行下二段活用/植う/未然形
     「植える」は現代語にもある。この動詞に「ない」をつけると「植えない」となり、「な
    い」の直前の活用語尾はエの音だから下二段活用である。活用語尾が「ゑ」なので
    ワ行である。他に「飢う」「据う」がワ行下二段活用動詞として存在する。後続の語は
    「ず」なので現代語の助動詞「ない」と同じ意味になる。したがって「植ゑ」は未然形だ。


 古典文法の勉強を始めたばかりの方はここまでの問題を正解できればOKです。

 問11・サ行変格活用/死す/連用形
     ナ行変格活用の「死ぬ」とは別の動詞で、こちらは名詞「死」に「す」がついた複合
    形である。したがって問09と同じである。

 問12・ア行四段活用/待ち得/未然形
     タ行四段活用動詞「待つ」とア行下二段活用動詞「得る」とが複合した形。後続の
    語は助詞「て」であるので問05と同じく連用形である。

 問13・ナ行下二段活用/寝ぬ/連体形
     現代語にはないので活用種類の判断が難しい。「寝」を「い」と読む。同じくナ行下
    二段活用動詞で「寝」がある。

 問14・ア行下二段活用/得/未然形
     「得」と「心得」はア行下二段活用である。後続の「め」は意志を表す助動詞で、未
    然形の後に続いて用いる。したがって「得」は未然形である。連用形ではない。

 問15・ナ行変格活用/去ぬ/連用形
     「往ぬ」はしばしば「去ぬ」と表記されることがあるので注意。語義(言葉の意味)は
    「往ぬ」と同じ。なお、ラ行四段活用の「去る」とは別の動詞である。

 問16・ヤ行上一段活用/「射る」/未然形
     「射る」は15語しかない上一段活用動詞の一つ。後続の語「ん」は意志を表す助動
    詞で問14の「め」と同じ語である。したがって「射」は未然形である。

 問17・サ行下二段活用/失す/連用形
     「失せる」は現代語にもある。この動詞に「ない」をつけると「失せない」となり、「な
    い」の直前の活用語尾はエの音だから下二段活用である。後続の語「な」は助動詞
    「ん」の意味を強める働きをもつ強意の助動詞で連用形の後に続いて用いる。

 問18・カ行変格活用/来/未然形
     後続の「ば」は未然形の後か已然形の後に使われて仮定や確定の条件を表す接
    続助詞だが、問題は「来」1字なので已然形ではないことがわかる。したがって「来」
    は「こ」と読み未然形である。

 問19・ハ行四段活用/たがふ/連用形
     現代語にはないが「たがふ」は漢字で書くと「違ふ」となる。現代語で「ない」をつけ
    ると「違わない」となるから、四段活用とわかる。「ぬる」は完了の意味を表す助動詞
    で連用形の後に続いて使われる。

 問20・ラ行変格活用/あり/已然形
     「居り」「侍り」「いますかり」とともに「あり」は4語しかないラ行変格活用動詞。係助
    詞「こそ」が直前にあるので、それの結びとなって文末は已然形となる。

 問21・カ行変格活用/詣で来/終止形
     問06と同様に「詣づ」と「来」とが複合した形である。後続の「なる」は伝聞の意味を
    表す助動詞で終止形の後に続いて用いられる。したがって「来」は「く」と読み終止形
    である。

 問22・サ行変格活用/おはす/連用形
     現代語にはないので難しい。漢字で書くと「おはす」は「御座す」で、問07と同様に
    漢字の音に「す」がついた形である。

 問23・バ行下二段活用/延ぶ/未然形
     現代語の「延びる」から推測すれば当然バ行上二段活用になるが、「延ぶ」には上
    二段と下二段の2つが存在する点に注意。前者が自動詞、後者が他動詞である。こ
    の文では主語がなく、「修法」が「延べ」の目的語になっているため他動詞とわかる。
    なお、後続の「さす」は使役の意味を表す助動詞で未然形の後に続いて用いる。した
    がって未然形が「べ」、すなわちエの音ということから下二段と判断することもできる。

 問24・ガ行上二段活用/過ぐ/連用形
     現代語の「過ぎる」にあたる。後続の語「ぬ」は助動詞「らむ」の意味を強める働き
    をもつ強意の助動詞で連用形の後に続いて用いる。

 問25・カ行変格活用/持て来/命令形
     現代語の「持って来る」に相当する複合語。後続の「や」は間投助詞で詠嘆や呼び
    かけを表し、文末に用いる場合は終止形や命令形の後に続いて使われる。

 問26・サ行四段活用/おはします/終止形
     サ行変格活用「おはす」とは別の語で四段活用である。後続の「まじ」は打消推量
    の意味を表す助動詞で終止形の後に続いて用いる。

 問27・サ行四段段活用/蹴出だす/連用形
     現代語の「蹴り出す」に相当する。つまり「蹴る」と「出す」との複合形である。「出す」
    に「ない」をつけると 「出さない」となり、「ない」の直前の活用語尾はアの音であるか
    ら四段活用とわかる。

 問28・サ行変格活用/ものす/連用形
     名詞「物」に「す」がついた形なのでサ行変格活用である。「ものす」は英語の”do”
    に相当し、文脈によってさまざまな意味に使われる。

 問29・ア行下二段活用/得/終止形
     現代語の「得る」に相当し「心得」と共に2つしかないア行の動詞である。後続の「べ
    か」は助動詞「べし」の連体形の短縮形。「べし」は終止形の後に続いて用いる。この
    ため「得」は「う」と読み、終止形となる。

 問30・ワ行上一段活用/率る/連用形
     15語しかない上一段活用動詞。後続の「て」は助詞で連用形の後に続いて用いる。
    なお「率る」とは別に「率ゐる」というワ行上一段活用動詞がある。