Steiner-Lehmusの定理
エリ・マオール著:「素晴らしい三角法の世界」(好田順治訳 青土社刊)を読んでいたら、
とても刺激的な一文に遭遇した。
外見は易しそうに見えるが、その証明は経験のある実践者たちにさえ分からない
ことがある。
それは、例えば、次のような問題である。
任意の三角形において、2つの内角の2等分線の長さが等しければ、その三角形
は、二等辺三角形であることを証明せよ。
これは、角と線分の間の関係を問う問題で、その関係は、簡単とはとても言えないという
一つの例を与えている。何日間か、証明をしてみようと試みたが、うまくいかなかった。
そんなとき、広島工業大学の大川研究室から、
「この事実は、Steiner-Lehmus Theorem あるいは Lehmus' Theorem などといわ
れ、有名な定理である。」
と、ご教示をいただき、さらに、次のようなホームページまで検索していただいた。
このページの作成にあたり、大いに参考になりました。大川研究室に、感謝いたします。
・ http://www.mathforum.com/epigone/geometry-college/clanflarblax
/Pine.LNX.4.10.10006221025190.11559-100000@dl2sql9.princeton.edu
・ http://www.mathematik.uni-bielefeld.de/~sillke/PUZZLES/steiner-lehmus
・ http://www.math.niu.edu/~rusin/known-math/99/steiner-lehmus
これらのホームページによると、この定理に関しては、60種類以上の証明が知られてい
るとのことである。(Bill Kleinhans による)
それらの中から、私的に好きな、高校生でも理解できる平易な証明を紹介したいと思う。
証明(1)
△ABCにおいて、∠B<∠C とする。∠B、
∠C の2等分線を、BD、CE とし、線分AE上
に点Fを、∠ABD=∠ECF となるようにとる。
さらに、∠B<∠BCF より、辺BF上に点Gを、
BG=CF であるようにとれる。また、線分BD
上に点Hを、GHとFCが平行となるようにとる。
このとき、明らかに、
△BGH≡△CFE
が成り立つ。よって、 CE=BH がいえる。
BH<BD なので、したがって、
∠B<∠C ならば、CE<BD
同様にして、
∠B>∠C ならば、CE>BD
したがって、もし、CE=BD が成り立つならば、∠B=∠C すなわち、△ABC は、二
等辺三角形以外にありえない。
(注) 幾何の証明らしく、巧妙な手順で証明されている。とても、感動的だ!
このような証明方法を、転換法という。
証明(2) ・・・ 三角関数を用いた解法
△ABCにおいて、∠B<∠C とする。
∠B=2θ、∠C=2φ とおく。
△ABC=△ABD+△BCD なので、
2△ABC=c・BDsinθ+a・BDsinθ
=(c+a)BDsinθ
同様にして、
△ABC=△CAE+△CBE なので、
2△ABC=b・CEsinφ+a・CEsinφ
=(a+b)CEsinφ
このことと、BD=CE から、
(c+a)sinθ=(a+b)sinφ
すなわち、
c・sinθ−b・sinφ=a(sinφ−sinθ)
0°<θ<φ<90°なので、
sinφ>sinθ から、sinφ−sinθ>0 が成り立つ。
よって、c・sinθ−b・sinφ>0 すなわち、c・sinθ>b・sinφ>0 となる。
ところで、0°<θ<φ<90°のとき、cosθ>cosφ>0 なので、2つの不等式を、辺々か
けて、 c・sinθcosθ>b・sinφcosφ から、2c・sinθcosθ>2b・sinφcosφ で、
すなわち、c・sinB>b・sinC となる。これは、c・sinB=b・sinC であることに矛盾する。
同様にして、∠B>∠C としても矛盾を得るので、BD=CE ならば、∠B=∠C である。
したがって、△ABC は、二等辺三角形とならなければならない。
(注) 数学U程度の三角関数の知識が用いられているが、後半部分の論理の展開の上
手さには感心せざるをえない。
(追記) 少し強引ではあるが、直接的に計算で求める方法も知られている。
証明(3) ・・・ ヘロンの公式を用いた解法
BD と CE をそれぞれ∠B、∠C の二等分
線とする。仮定より、BD = CE である。
∠B=2θ とおくと、
△ABC=△ABD+△BCD なので、
2△ABC=c・BDsinθ+a・BDsinθ
=(c+a)BDsinθ
ところで、ヘロンの公式より、
△ABC=
が成り立つ。
ただし、
とする。
また、三角関数の半角の公式より、
なので、
これらを、2△ABC=(c+a)BDsinθ に代入して、BD を解くと、
同様にして、
BD = CE すなわち、BD2 = CE2 に上式を代入して式を整理すると、
c(a+b)2(a−b+c)=b(c+a)2(a+b−c)
この式を展開して、
cb3+(a2+3ca)b2+(a3−3c2a−c3)b−ca3−c2a2=0
b の方程式と見て、b に c を代入すると、左辺=0 になるので、因数定理により、左辺は、
b−c で割り切れる。よって、左辺は因数分解されて、
(b−c)(cb2+(a2+3ca+c2)b+a3+ca2)=0
ここで、a、b、c は、正の数なので、cb2+(a2+3ca+c2)b+a3+ca2≠0 である。
よって、b−c=0、すなわち、b=c で、△ABC は、二等辺三角形となる。
(注) 数学T程度の三角関数の知識、および数学Bにおける方程式の理論(新学習指導
要領では、数学U)が用いられているが、計算は、相当ハードである。正直に告白する
と、私自身、計算ミスを何度か経験した。
(追記) 平成24年2月15日付け
空舟さんより、Steiner-Lehmus Theorem の証明について、参考サイトをご紹介いただ
きました。