二重ゼータ値
自然数の累乗の逆数の和ζ(s)=Σn=1〜∞ (1/ns) はリーマンゼータ関数やゼータ級
数などと呼ばれ、
Re(s)>1 のときに、絶対収束する
ことが知られている。特に変数sが2以上の自然数のとき、リーマンゼータ値と呼ばれる。
このゼータ関数は素数と深い関連があり、「整数論あるところ、必ずゼータ関数あり」という
志村五郎先生の言は有名だ。
18世紀にオイラーは手計算(?)で、
sが正の偶数のとき、リーマンゼータ値は有理数倍を除いて円周率πのべき乗
になることを発見し証明した。さらに、二重ゼータ値に関する具体的な公式をいくつも導き出
した。例えば、平方数の逆数の和は、π2/6 、4乗数の逆数の和は、π4/90、・・・ など。
sが正の奇数のときの値は、今でもほとんど何も知られていない。ただ、
ζ(3)=1.20205・・・・ (アベリー定数) 、 ζ(5)=1.03692・・・・ 、
ζ(7)=1.00834・・・・ 、 ζ(9)=1.002008・・・・ 、・・・
ζ(3)は無理数(1978年、ロジェ・アペリー(仏))
などが知られている。
また、次の事実も知られている。
ズディリン(2001年) ζ(5)、ζ(7)、ζ(9)、ζ(11)のうち少なくとも一つは無理数
多重ゼータ値は、リーマンゼータ値の一種の拡張となる。例えば、二重ゼータ値は、
ζ(p,q)=Σm>n>0 1/(mp・nq)=1/2p+1/3p(1+1/2q)+1/4p(1+1/2q+1/3q)+・・・
と定義される。 p≧2 のとき、この級数は収束する。
3重ゼータ値、4重ゼータ値、…も同様に定義される。多重ゼータ値は、保型形式論など整
数論の分野に位置づけられるが、結び目理論などトポロジーなど、さまざまな方向への応用
も考えられている。
この二重ゼータ値について、当HPがいつもお世話になっているHN「GAI」さんから投稿を
頂いた。(平成26年10月29日付け)
調べ物(アイゼンシュタイン級数)の資料を見ていたとき、オイラーが二重ゼータ値を
ζ(p,q)=Σm>n>0〜∞ 1/(mp・nq) (p、q∈N、p≧2)
で定義したとき、 ζ(2,1)=ζ(3) 、ζ(2,2)=3・ζ(3,1) 、ζ(2,2)+ζ(3,1)=ζ(4)
の様な関係式を発見した、という記事を目にした。この事は、通常の式で見直すと、
1/22(1/1)+1/32(1/1+1/2)+・・・+1/n2(1/1+1/2+1/3+・・・+1/(n-1))+・・・
=1/13+1/23+1/33+1/43+・・・+1/n3+・・・・・ (=1.202056903159・・・)
1/22(1/12)+1/32(1/12+1/22)+・・・+1/n2(1/12+1/22+1/32+・・・+1/(n-1)2)+・・・
=3(1/23(1/1)+1/33(1/1+1/2)+・・・+1/n3(1/1+1/2+1/3+・・・+1/(n-1))+・・・)
(=0.811742425283・・・)
1/22(1/12)+1/32(1/12+1/22)+・・・+1/n2(1/12+1/22+1/32+・・・+1/(n-1)2)+・・・
+(1/23(1/1)+1/33(1/1+1/2)+・・・+1/n3(1/1+1/2+1/3+・・・+1/(n-1))+・・・
=1/14+1/24+1/34+1/44+・・・+1/n4+・・・ (=π4/90=1.082323233711・・・)
を意味する。さっそく計算機で追試してみた。因みに、第1の等式で、m を有限数で設定して
計算させてみたら、ζ(2,1)は、
m=4----->17/32=0.53125・・・
m=10---->0.85457・・・
m=102--->1.14102・・・
m=103--->1.19358・・・
m=104--->1.20098・・・
計算機では∞に加えるをどう処理しているのか中身は知らぬがMathematicではInfinityを
セットすると計算してくれる。すると、しばらく経ってからZeta[3]を返すではないか!他の2つ
の関係式も数値上ピタリと一致した。残念ながら、その本には上記の3つしか関係式が書い
ていなかった。いろいろ探してみたが見つからなかったので、他にも関係式がありそうだと計
算を頼りに力技で探してみた。
6・ζ(4,1)+2・ζ(3,2)=ζ(5)
8・ζ(5,1)+3・ζ(4,2)+2・ζ(3,3)=ζ(6)
5・ζ(6,1)+ζ(5,2)+3・ζ(4,3)+3・ζ(3,4)=ζ(7)
が数値的に成り立ちそうなんです。
これはあくまで推測でしかありませんから、ただ数値的に近いだけかもしれません。
(一つ一つの計算に随分時間がかかるのと成り立つ関係式を発見するのに手間がかかるの
でこれ以上は作業中止しています。)
どなたかこれらに成り立つ関係式をもっと見つけてくれませんか。また、これらが成立する
背景について詳しい方は情報を下さい。
それにしてもオイラーという人はコンピュータもない時代に何という心眼を持っていた人な
んだろう。
DD++さんからのコメントです。(平成26年10月29日付け)
詳しくないどころか定義すら今朝知った程度の超ニワカですが、面白そうなので手を出し
てみました。
とりあえず、p+q≦6 の範囲の ζ(p,q) を普通の ζ(n) を使って表すことに挑戦。全部は
出ませんでしたが、それなりに肉薄した感じです。
ζ(2,1) = ζ(3)
ζ(2,2) = (1/2){ζ(2)}2-(1/2)ζ(4)
ζ(3,1) = (-1/2){ζ(2)}2+(3/2)ζ(4)
ζ(2,3) = ? ( ζ(2,3)+ζ(3,2)=ζ(3)ζ(2)-ζ(5) ですが、個別に出せてません)
ζ(3,2) = ?
ζ(4,1) = 2ζ(5)-ζ(3)ζ(2)
ζ(2,4) = ? ( ζ(2,4)+ζ(4,2)=ζ(4)ζ(2)-ζ(6) ですが、個別に出せてません)
ζ(3,3) = (1/2){ζ(3)}2-(1/2)ζ(6)
ζ(4,2) = ?
ζ(5,1) = (- 1/2){ζ(3)}2-ζ(4)ζ(2)+(5/2)ζ(6)
## 人力バンザイな計算なので本当に合ってるか自信がないのですが、GAI さんの手元にあ
る数値で、間違いがないか確認してもらえますか?
使ったのは、オイラーの見つけた式を見て直感的に作った以下の公式です。
【公式1】 p>1、q>1のとき、ζ(p,q)+ζ(q,p)+ζ(p+q)=ζ(p)ζ(q)
【公式2】 (p,q) = (2,k)、(3,k-1)、(4,k-2)、…、(k+1,1) (ただし
k∈N)について、
Σ[(p,q)] ζ(p,q) = ζ(k+2)
しかし、これだと ζ(2,3)+ζ(3,2) のようなものをさらにバラすことができないので、全部
個別に出すのは新たなる公式3が必要なようです。同時にそれが見つかれば、GAI
さんの
も全部解決すると思います。
感覚的に、 ζ(p,q)-ζ(q,p) あたりがどうにかすればうまく処理できそうですが、さてどう
実行したものか...。
公式証明も高校数学に毛の生えた程度でできた(つもり)ので、以下に記載します。これも
どなたか確認していただければ...。Σの範囲を略しているものは自然数全体についてで
す。また、級数が絶対収束することは証明を略しています。
【公式1】 p>1、q>1のとき、ζ(p,q)+ζ(q,p)+ζ(p+q)=ζ(p)ζ(q)
(証明) ζ(p)ζ(q) を展開し、各項を二次元に書き並べます。
1^(-p)*1^(-q) 1^(-p)*2^(-q) 1^(-p)*3^(-q) 1^(-p)*4^(-q) 1^(-p)*5^(-q)
2^(-p)*1^(-q) 2^(-p)*2^(-q) 2^(-p)*3^(-q) 2^(-p)*4^(-q) 2^(-p)*5^(-q)
3^(-p)*1^(-q) 3^(-p)*2^(-q) 3^(-p)*3^(-q) 3^(-p)*4^(-q) 3^(-p)*5^(-q)
4^(-p)*1^(-q) 4^(-p)*2^(-q) 4^(-p)*3^(-q) 4^(-p)*4^(-q) 4^(-p)*5^(-q)
5^(-p)*1^(-q) 5^(-p)*2^(-q) 5^(-p)*3^(-q) 5^(-p)*4^(-q) 5^(-p)*5^(-q)
(右と下は無限に続く)
対角線より左下にある数の総和は、ζ(p,q)
ちょうど対角線にある数の総和は、ζ(p+q)
対角線より右上にある数の総和は、ζ(q,p)
よって、 ζ(p,q)+ζ(q,p)+ζ(p+q)=ζ(p)ζ(q) (証終)
【公式2】 (p,q) = (2,k)、(3,k-1)、(4,k-2)、…、(k+1,1) (ただし
k∈N)について、
Σ[(p,q)] ζ(p,q) = ζ(k+2)
(証明) ζ(p,q) の各項を二次元に書き並べます。
2^(-p)*1^(-q)
3^(-p)*1^(-q) 3^(-p)*2^(-q)
4^(-p)*1^(-q) 4^(-p)*2^(-q) 4^(-p)*3^(-q)
5^(-p)*1^(-q) 5^(-p)*2^(-q) 5^(-p)*3^(-q) 5^(-p)*4^(-q)
(下は無限に続く)
これを斜めに足すことを考えます。
2^(-p)*1^(-q) + 3^(-p)*2^(-q) + 4^(-p)*3^(-q) + 5^(-p)*4^(-q) + ……
これは、Σ[n] (n+1)^(-p)*n^(-q) と書けます。
同様に、
3^(-p)*1^(-q) + 4^(-p)*2^(-q) + 5^(-p)*3^(-q) + 6^(-p)*4^(-q) + ……
これは、Σ[n] (n+2)^(-p)*n^(-q) と書けます。
以下繰り返して、全体の和すなわち ζ(p,q) の式を作りなおすと、
ζ(p,q) = Σ[m,n] (n+m)^(-p)*n^(-q)
これを (p,q) = (2,k)、(3,k-1)、(4,k-2)、…、(k+1,1) (ただし k∈N) として、全て足すこ
とを考えます。和を取る順番を入れ替えて中身だけ先に足すと、
Σ[(p,q)=さっきの] (n+m)^(-p)*n^(-q)
(↑実は 初項 (n+m)^(-2)*n^(-k) 公比 (n+m)^(-1)*n^1 項数 k の等比級数!)
= (n+m)^(-2)*n^(-k) { 1 - (n+m)^(-k)*n^k } / { 1 - (n+m)^(-1)*n^1
}
= m^(-1)*n^(-k)*(m+n)^(-1) - (n+m)^(-k-1)*m^(-1)
ここで、前の項について、
m^(-1)*(m+n)^(-1) = m^(-1)*n^(-1) - n^(-1)*(m+n)^(-1)
と部分分数分解できるので、
Σ[m,n] m^(-1)*n^(-k)*(m+n)^(-1)
= Σ[n] n^(-k) Σ[m] m^(-1)*(m+n)^(-1)
= Σ[n] n^(-k-1) Σ[m] { m^(-1)- (m+n)^(-1) }
= Σ[n] n^(-k-1) Σ[m=1..n] m^(-1)
= { Σ[n] n^(-k-1) Σ[m=1..n-1] m^(-1) } + { Σ[n] n^(-k-2) }
= ζ(k+1,1) + ζ(k+2) (∵定義式から)
後の項について、
Σ[m,n] (n+m)^(-k-1)*m^(-1) = ζ(k+1,1) (∵20行ほど前で作りなおした式から)
よって、 Σ[(p,q)] ζ(p,q) = ζ(k+1,1) + ζ(k+2) - ζ(k+1,1) = ζ(k+2) (証終)
## ∃専門書 にこれらの等式ともっとエレガントな証明が載ってる予感。
GAI さんからのコメントです。(平成26年10月29日付け)
ζ(2,2) = (1/2){ζ(2)}2-(1/2)ζ(4)
ζ(3,1) = (-1/2){ζ(2)}2+(3/2)ζ(4)
ζ(4,1) = 2ζ(5)-ζ(3)ζ(2)
ζ(3,3) = (1/2){ζ(3)}2-(1/2)ζ(6)
ζ(5,1) = (- 1/2){ζ(3)}2-ζ(4)ζ(2)+(5/2)ζ(6)
消さずに残っていた計算結果の数値を用いて小数点以下20位までで確認してみましたら
全てピッタリ一致しました。
【公式1】 p>1、q>1のとき、ζ(p,q)+ζ(q,p)+ζ(p+q)=ζ(p)ζ(q)
【公式2】 (p,q) = (2,k)、(3,k-1)、(4,k-2)、…、(k+1,1) (ただし
k∈N)について、
Σ[(p,q)] ζ(p,q) = ζ(k+2)
これが直感的に見えてくるなんてDD++さんは21世紀のオイラーですよ。
しかし、これだと ζ(2,3)+ζ(3,2) のようなものをさらにバラすことができないので、全部
個別に出すのは新たなる公式3が必要なようです。同時にそれが見つかれば、GAI
さんの
も全部解決すると思います。
感覚的に、 ζ(p,q)-ζ(q,p) あたりがどうにかすればうまく処理できそうですが、さてどう
実行したものか...。
これに対する等式がありそうだというDD++さんのヒントを手懸かりにいろいろ数値的に調
べてみます。
[追伸] サイトでいろいろな文献を調べてみると、どうもZagier(ザキエ)なる人物<この人は
数論のいろいろな分野で活躍していて名前をよく見かける>が研究している様です。
コピペ常習犯さんより、参考サイトをご紹介頂きました。(平成26年10月29日付け)
DD++さんからのコメントです。(平成26年10月30日付け)
ありがとうございます。お手数おかけしました。Zagier(ザキエ)ってフェルマーの二平方定理
のあの感動的な一文証明をした方でしょうか。どうやらとんでもない発想力を有する方のよう
ですね。
GAI さんからのコメントです。(平成26年10月30日付け)
とりあえず、成り立ちそうな関係式(予想)
ζ(4,1)=2ζ(5)-ζ(2)ζ(3)
ζ(6,1)=3ζ(7)-ζ(2)ζ(5)-ζ(3)ζ(4)
ζ(8,1)=4ζ(9)-ζ(2)ζ(7)-ζ(3)ζ(6)-ζ(4)ζ(5)
ζ(2,3)-ζ(3,2)=5ζ(4,1)
ζ(2,4)-2ζ(4,2)=7ζ(5,1)+ζ(3,3)
また、DD++さんが発見されたζ(2,2)、ζ(3,1)を、2{ζ(2)}2=5ζ(4) で置き換えると、
ζ(2,2)=(3/4)ζ(4)
ζ(3,1)=(1/4)ζ(4)
DD++さんからのコメントです。(平成26年10月30日付け)
公式2の証明をさらに一般化し、そこから得られる式と公式1と組み合わせたところ、とりあ
えず、p+q≦7 について、全て個別に求めることができました。(→ 参考)
かなり慎重に検算しながら解き進めたのでたぶん計算ミスはないと思います。
GAI さんからのコメントです。(平成26年10月30日付け)
全ての関係式の繋がりを解明されたことに敬意を表します。しかも懇切丁寧な解説をされ
ているので、論理をたどりやすいです。本の中には敢えて読者を困らせているんじゃないか
と訝しがる著者もいて、「どうだ、私の論理についてこれるかな?」と訝しがりたい人物もいて
困ったものです。
いつも思うことなんですが、無限に何かを続けると、思ってもいない世界が広がっているん
だなという感想を持ちます。
DD++さんのお陰でモヤモヤ感がスッキリしました。ありがとうございました。
DD++さんからのコメントです。(平成26年10月30日付け)
GAI さん、ありがとうございます。結果は既知のものなのだろうと思いますが、挑んでいて
楽しかったです。GAI さんは少し冗長になっても丁寧に書いた方が理解してくださるというの
はもう学びましたので(笑)。これが人によっては説明の長さだけで読む気力をなくしたり途
中で飽きてしまったりされるので、書籍のように不特定多数相手に書くものとなると、どのあ
たりに照準を定めるかが難しいのだと思います。あるいは、ほとんど接点のない方に説明し
ようとすると、私もどこからどこまでを説明に盛り込むべきか掴みきれずにかなりしどろもど
ろになりますし...。
また、単なる学習指導目的の場合は本人の発見によって前に進んだ方が身につくため、
肝心なところの一歩手前まで説明してあとは濁すような方法が使われることもあります。案
外、丁寧に説明することが善とは限らないケースって多いんですよね。