調和級数
当HPの読者のK.S.さんより、平成24年6月22日付けで標記話題をメールで頂いた。
調和級数は、発散することが知られていますが...。
Sn=Σk=1n1/k において、S10=2.928968254、S102=5.187377518、S103=7.485470861
S102−S10=2.258409264 、S103−S102=2.298093343 、 ・・・
より、一般に、S10n−S10n-1 は増加数列と見なせる。
また、S9=2.828968254、S99=5.177377518、S999=7.484470861
S99−S9=2.348409264 、S999−S99=2.307093343 、 ・・・
より、一般に、S10n-1−S10n-1-1 は減少数列と見なせる。
そこで、An=S10n−S10n-1 、Bn=S10n-1−S10n-1-1 とすると、
An-1≦An ・・・(*) 、An≦Bn ・・・(**) 、Bn≦Bn-1 ・・・(***)
が成り立つことを示す。
((*)の証明)
An-1≦An ⇔ S10n-1−S10n-2≦S10n−S10n-1
⇔ (1+・・・+1/10n-1)−(1+・・・+1/10n-2)≦(1+・・・+1/10n)−(1+・・・+1/10n-1)
⇔ 1/(10n-2+1)+・・・+1/10n-1≦1/(10n-1+1)+・・・+1/10n
(各項数は、9×10n-2と9×10n-1で10倍多い)
前の方から、10個ずつ束ねて比較すると、
1/(10n-1+10(k−1)+1)+・・・+1/(10n-1+10(k−1)+10)
≧1/(10n-1+10(k−1)+10)+・・・+1/(10n-1+10(k−1)+10)
=10/(10n-1+10k)
=1/(10n-2+k) (1≦k≦10n-1−10n-2=9・10n-2)
が成り立つので、(*)が示された。
((**)の証明)
An≦Bn ⇔ S10n−S10n-1≦S10n-1−S10n-1-1
⇔ (1+・・・+1/10n)−(1+・・・+1/10n-1)≦(1+・・・+1/(10n-1))−(1+・・・+1/(10n-1-1))
⇔ (1+・・・+1/10n)−(1+・・・+1/(10n-1))≦(1+・・・+1/10n-1)−(1+・・・+1/(10n-1-1))
⇔ 1/10n≦1/10n-1
((***)の証明)は、((*)の証明)と同様。
以上により、{An}、{Bn}は極限値を持ち、 limn→∞(An−Bn)=limn→∞(1/10n−1/10n-1)=0
つまり、 limn→∞Bn=limn→∞An=2.30258・・・=log10
一般的に、等比の差(=abn+c)に対して、オイラーの定数を使うと明らかに一定の極限
(=log b)に近づくことが証明される。
最近、調和級数の一つの自然数の逆数和が発散するということについていろいろ考えさ
せられた。(平成28年7月2日付け)
Σn=1∞1/n=1+1/2+1/3+1/4+・・・ が発散することは通常次のように示される。
第2m部分和につて、
S2m=1+1/2+(1/3+1/4)+(1/5+・・・+1/8)+・・・+(1/(2m-1+1)+・・・+1/2m)
>1+1/2+(1/4+1/4)+(1/8+・・・+1/8)+・・・+(1/2m+・・・+1/2m)
=1+1/2+1/2+1/2+・・・+1/2=1+m/2
よって、m→∞ のとき、 S2m→∞ なので、与えられた無限級数は発散する。
発散すること自体は、積分を用いた方が視覚的に分かりやすいかも知れない。
y=1/x のグラフと長方形を考えて、面積の関係から、
第n部分和 Sn=1+1/2+1/3+1/4+・・・+1/n>∫1n+11/xdx=log(n+1)
よって、n→∞ のとき、Sn→∞ なので、与えられた無限級数は発散する。
あるいは、log(1+x)のマクローリン展開: log(1+x)=x−x2/2+x3/3−x4/4+・・・
において、x→1+0 を考えることからも無限級数が発散することが分かる。
ここで、面白い問題に出会ったので紹介したい。
問題 自然数の逆数和において、分母の数で数字1を含むものを除いた無限級数
1/2+1/3+1/4+1/5+1/6+1/7+1/8+1/9+1/20+1/22+・・・
の収束・発散を調べよ。
(解) 分母の数で数字1を含まないものは、
1桁の数: 8個
2桁の数: 8×9個 (使える数字は、1以外の0〜9の9個であるが最高位には0は入らない)
3桁の数: 8×92個
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
n桁の数: 8×9n-1個
そこで、n桁の数までを分母とする部分和をSnとおくと、
Sn<(1/2)・8+(1/(2×10))・8×9+・・・+(1/(2×10n-1))・8×9n-1
=4・10(1−(9/10)n)<40
よって、数列{Sn}は単調に増加する数列で上に有界なので、収束する。
(しかも、その和が何と「40」を超えないというから驚きです。自然数の逆数和は正の無限大
に発散するのにね...!)
読者のために、練習問題を残しておこう。
問題 自然数の逆数和において、分母の数で数字2を含むものを除いた無限級数
1+1/3+1/4+1/5+1/6+1/7+1/8+1/9+1/10+1/11+・・・
の収束・発散を調べよ。
(解) 分母の数で数字2を含まないものは、
1桁の数: 8個
2桁の数: 8×9個 (使える数字は、2以外の0〜9の9個であるが最高位には0は入らない)
3桁の数: 8×92個
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
n桁の数: 8×9n-1個
そこで、n桁の数までを分母とする部分和をSnとおくと、
Sn<8+8×9/10+・・・+8×(9/10)n-1=80(1−(9/10)n)<80
よって、数列{Sn}は単調に増加する数列で上に有界なので、収束する。
(コメント) 収束・発散は紙一重なんですね!
ksさんからのコメントです。(平成29年5月17日付け)
例として、自然数列の逆数から100個づつ間を抜いても、1000個づつ間を抜いても発散
するのに、この1や2などの数字が付くものを抜くほうが収束するということは、和としては少
ないということになります。確かに大きな数のところでは、より多く抜き取られるということです
が、有限のところに目を向けてしまいがちだと不思議な感じがします。あと素数列の逆数和
は発散するので、素数は無限にあるという証明にもなっている。しかし、双子素数列の逆数
和は収束するからと言って有限ということは分からない。間引きがどういうとき和が少ないの
か?平方数の逆数和は有名ですが、N乗数の逆数和にすれば、和はどんどん小さくなると
思いますが...。
Σn=1∞1/n が発散することから、0<r≦1のとき、Σn=1∞1/nr が発散することもすぐ
分かる。
実際に、1/nr>1/n から明らかだろう。
このことから、Σn=1∞1/√n が発散することが分かる。それでは、Σn=1∞1/(n√n) は
どうだろうか?
「r>1のとき、Σn=1∞1/nr は収束する」という事実を知っていれば、収束となるが、直接
的に証明することも可能である。
次のような式変形が計算の妙である。
n≧2 のとき、
1/(n√n)=2/(√n√n(√n+√n))
<2/(√n√(n−1)(√n+√(n−1)))
=2(√n−√(n−1))/(√n√(n−1))
=2/√(n−1)−2/√n
よって、無限級数Σn=1∞1/(n√n) の第n部分和Snについて、
Sn<1+(2−2/)+(2/−2/)+・・・+(2/√(n−1)−2/√n)
=3−2/√n<3
よって、数列{Sn}は単調に増加する数列で上に有界なので、収束する。
GAI さんから上記と同趣旨の問題をいただいた。(平成29年5月11日付け)
調和級数 Σn=1∞1/n は発散するが、この中で、例えば「9」の数字が混じるもの
{1/9,1/19,1/29,・・・,1/89,1/90,1/91,1/92,・・・}
を取り除いた残りの級数
S[-9]=1+1/2+・・・+1/8+1/10+・・・+1/88+1/100+1/101+・・・+1/888+1/1000+・・・
は収束するという証明に出会った。では、どんな値に実際収束するのか?
やってみたが埒が明かない。せめて収束範囲(上限と下限)でも確定できぬものなのだろ
うか?
らすかるさんからのコメントです。(平成29年5月11日付け)
22.9206766192…のようです。(→ 参考:「A082838」)
GAI さんからのコメントです。(平成29年5月11日付け)
なんでも調査済みなんだ!関連部分を見てみたら、
S[-8]=22.726365・・・
S[-7]=22.493475・・・
S[-6]=22.205598・・・
S[-5]=21.834600・・・
S[-4]=21.327465・・・
S[-3]=20.569877・・・
S[-2]=19.257356・・・
S[-1]=16.176969・・・
S[-0]=23.103448・・・
さらに、任意の列(「31415」が並ぶもの全てを除くものなど)に対しても、その収束値が算
出可能のアルゴリズムが考え出されている模様。よくも考え出すものですね。「9」が出ないも
のについて、1〜10^7までの範囲でも、まともに集計していたら半日以上の時間が必要でした。
(追記) 「逆立ち歩きは面白い」と題して、GAI さんからの投稿です。
(平成29年5月12日付け)
S[3]=1/1+1/3+1/6+1/10/+1/15+1/21+・・・ とくれば、
S[3]=1/1+1/(1+2)+1/(1+2+3)+1/(1+2+3+4)+1/(1+2+3+4+5)+・・・=limn→∞Σk=1〜n 2/k(k+1)
=2limn→∞(1/1-1/(n+1))=2
また、S[4]=1/1+1/4+1/9+1/16+1/25+1/36+・・・ とくると、
S[4]=1/1^2+1/2^2+1/3^2+1/4^2+1/5^2+・・・=zeta(2)=π2/6
これらの流れは、polygonal number (多角数)と捉えることで、
1,3,6,10,15,21,・・・ は三角形 、1,4,9,16,25,36,・・・ は四角形
と密接に関係してくる。そこで、次は、五角数を登場させたい。なお、日頃、五角数
1,5,12,22,35,51,70,92,・・・
には縁がないと思いがちだが、この列を、f(n)=n(3n−1)/2 と表すと、
Πn=1〜∞ (1−xn)=Σk=-∞〜+∞ (−1)kxf(k) (オイラーの五角数定理)
f(n)に負数まで拡張させて適応すれば、数列 {f(n)} は、
・・・,57,40,26,15,7,2,0,1,5,12,22,35,51,70,・・・
即ち、左辺の無限乗積が決して x,x^3,x^4,x^6,x^8,x^9,x^10,x^11,x^13,・・・ の冪乗
項({f(n)}以外のもの全て)は一切姿を現さない形での無限和へ移り変わることができる。
(よく気づくよな〜)少しでも身近に感じてもらって、さて本題へ。
では、この五角数で構成する無限級数 S[5]=1/1+1/5+1/12+1/22+1/35+1/51+・・・ 及び
六角数での無限級数 S[6]=1/1+1/6+1/15+1/28+1/45+1/66+1/91+1/120+・・・ は、どんな
極限値となるでしょう?
GAI さんからのコメントです。(平成29年5月16日付け)
r角数のn番目の数f(r,n)は、 f(r,n)=n*((r-2)*n-(r-4))/2=(r-2)/2*n*(n-(r-4)/(r-2)) で表
されるので、 a=(r-2)/(r-4) 、b=(r-2)/2 と置くと、 f(r,n)=b*n*(n-a) となり、求めるr角形
数の逆数の無限級数S[r]は、 S[r]=Σn=1〜∞ 1/f(r,n)=b*Σn=1〜∞ 1/(n*(n-a)) ・・・ (1)
ここで、ディガンマ関数 psi(z)=Γ'(z)/Γ(z) の関係式より、
psi(z+1)+γ=Σ[n=1,∞]z/(n*(n+z)) (z≠-1,-2,-3,・・・)
(ただし、γ=0.577215664901532・・・のオイラーガンマ定数)
なので、z=-a と見立てると、a は整数ではないので、
psi(-a+1)+γ=-a*Σ[n=1,∞]1/(n*(n-a)) ・・・ (2)
(1)、(2)から、 psi(-a+1)+γ=-a*(S[r]/b)
よって、 S[r]=-(b/a)*(psi(-a+1)+γ)=-2/(r-4)*(psi(2/(r-2))+γ) ・・・ (3)
さて、ここに psi(z) に関して、ガウスが一般に正整数 p<q に対して、
psi(p/q)=-γ-log(q)-π/2*cot(p*π/q)+Σ[k=1,q-1]cos(2*k*p*π/q)*log(2*sin(k*π/q))
なる関係式を導き出している。
#以前、psi 関数について集中的に勉強したとき、公式集の中からこの式を発見して、この
複雑さと重要性に妙に感心してメモしていました。この極限値を求めるのに、この式が偶
然にも用いられていることに驚き、しかも、その式の発見者がガウスであることを知りまし
た。やはり、ガウスは凄い人だ。
そこで、(3)で、r-2>2 即ち、r≧5 であるとき、q=r-2、p=2 とみなせば、p、q は、p<q を
満たす正整数となるので、このガウス導出の関係式を利用すれば、
psi(2/(r-2))=psi(p/q)
=-γ-log(q)-π/2*cot(2*π/q)+Σ[k=1,q-1]cos(4*k*π/q)*log(2*sin(k*π/q)) ・・・
(4)
(4)を(3)へ代入して、
S[r]=-2/(q-2)*(-log(q)-π/2*cot(2*π/q)+Σ[k=1,q-1]cos(4*k*π/q)*log(2*sin(k*π/q)))
=1/(q-2)*(2*log(q)+π*cot(2*π/q)-2*Σ[k=1,q-1]cos(4*k*π/q)*log(2*sin(k*π/q)))
・・・ (5)
(ただしq=r-2として計算する。)
(5)式を用いて、 S[5]=3*log(3)-√3*π/3 (q=3で計算) 、S[6]=2*log(2) (q=4で計算) が
求まることになる。
他の多角数の逆数の極限値も、この式から次々と求められる。
この様に明示的な式で極限値を示したのが近年だそうで、ガウスの時代の産物が200年
以上の時を越えて蘇ったことになる。
GAI さんからのコメントです。(平成29年5月17日付け)
多角数は元々正r多角数(r≧3)における図形の変化の様子から産み出されてくる数
f(r,n)=n*((r-2)*n-(r-4))/2
なので、n=1,2,3,・・・しか考慮しないことが通常となる。
しかし、オイラーの5角数定理のように、nが負の値にも拡張すると他に利用する範囲が
広がる可能性を秘める。
5、6、7、8、9、10角数に対して、n<0も許し、出現する数を並べてみると(拡張多角数)、
拡張5角数:{1,2,5,7,12,15,22,26,35,40,・・・}
拡張6角数:{1,3,6,10,15,21,28,36,45,55,・・・}
拡張7角数:{1,4,7,13,18,27,34,46,55,70,・・・}
拡張8角数:{1,5,8,16,21,33,40,56,65,85,・・・}
拡張9角数:{1,6,9,19,24,39,46,66,75,100,・・・}
拡張10角数:{1,7,10,22,27,45,52,76,85,115,・・・}
こう並べていくと、一定の規則で変化が見える。(奇数項目は通常の多角数が出現)
ある統一的規則で捉えると、一般に、拡張r角数F(r,n)が
・・・ n(n:奇数)
g(r,n)=|
・・・(r-4)*n/2(n:偶数)
なる数字発生装置(nが偶数なら半分にr-4の重しを付けるイメージ)を仮定すれば、この2
つに分かれた式を
g(r,n)=n*((r-2)+(r-6)*(-1)^n)/4
に統合して、
F(r,n)=Σ[i=1,n]g(r,i)=Σ[i=1,n]i*((r-2)+(r-6)*(-1)^i)/4
=(2*(r-2)*n*(n+1)-(6-r)*(2*n+1)*(-1)^n+(6-r))/16
なる式で構成できる。
では、この拡張多角数での逆数での無限級数 Σ[n=1,∞]1/F(5,n) 、Σ[n=1,∞]1/F(6,n)
というのはどんな値に?
以下、工事中!