学習指導要領から、計算尺が消えて久しい。今専門高校で行われている計算技術検定は
昔、計算尺検定だったと聞く。(ときどき年配の方が言い間違えるので、多分そうだろう。)
電卓の広範な普及、機能の高度化、リーズナブルな値段により、もはや計算尺が復活する
ことは皆無である。しかし、一時期を画した計算尺をこのまま忘れ去るには忍びない。その足
跡をこのホームページに残しておくことにしよう。
計算尺は、対数の性質に基づいて作られている。まず、対数目盛について整理しよう。
対数関数 y=log x において、x=1、2、・・・、10における値(近似値)は、次の表の通り
である。
x | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
y | 0.0000 | 0.3010 | 0.4771 | 0.6021 | 0.6990 | 0.7782 | 0.8451 | 0.9031 | 0.9542 | 1.0000 |
この y の値を、原点からの距離として、log x のところに、x と数直線上に目盛る。このよ
うにして目盛った目盛を対数目盛という。これに対して、普通の物差しの目盛を等分目盛と
いう。
対数目盛
等分目盛
対数目盛の方眼紙は対数方眼紙といわれ、植物の成長記録など、等分目盛では見えない
特徴を明らかにするときに用いられる。
計算尺は、台尺(外尺)、滑尺(内尺)、カーソル(標線)の3つの部分からなる。
台尺上には、A尺、D尺の2つの対数目盛が目盛られている。
A尺・・・左端の目盛が1、右端の目盛が100 (単位の長さがC尺の単位の長さの半分)
D尺・・・左端の目盛が1、右端の目盛が10
滑尺上には、B尺、C尺、CI尺(逆C尺)の3つの対数目盛が目盛られている。
B尺・・・左端の目盛が1、右端の目盛が100 (単位の長さがC尺の単位の長さの半分)
C尺・・・左端の目盛が1、右端の目盛が10
CI尺・・・左端の目盛が10、右端の目盛が1
(C尺と単位の長さは同じで、目盛の向きが反対)
以上から、計算尺の外観は次のようなものとなる。
A尺 | 台尺は固定 | |
B尺 | 滑尺は自由 に左右へ動 かせる |
|
CI尺 | ||
C尺 | ||
D尺 | ||
標線(自由に左右へ移動可) |
計算尺の関係
(1) C尺とD尺の関係
C尺のa、b とD尺のc、dがそれぞれ一致するとき、a : b=c : d (目盛が比例)
(2) CI尺とD尺の関係
CI尺のa、b とD尺のc、dがそれぞれ一致するとき、ac=bd (目盛の積が一定)
(3) A尺とD尺の関係
A尺のaとD尺のbが一致するとき、aはbの平方となる。
(4) C尺とCI尺の関係
C尺のaとCI尺のbが一致するとき、ab=10
【数学的根拠】
(1) log b − log a =log d − log c より明らか。
(2) (1−log b )−(1−log a )=log d − log
c より明らか。
(3) (1/2)log a =log b より明らか。
(4) 1−log b = log a より明らか。
計算尺の計算方法
(1) 乗法・・・CI尺とD尺(またはC尺とD尺)を用いる。
例 a×b の計算
D尺の目盛aにCI尺の目盛bを一致させる。このとき、CI尺の目盛1に一致する
D尺の目盛の値が、a×b の答である。
(追記) 当HPがいつもお世話になっているHN「よおすけ」さんから、対数尺の利用例を
頂いた。(平成26年4月25日付け)
以下のように、対数尺C、Dをずらして重ねたとき、目盛 a、b、c (すべて正の数) に
ついて、 a×b=c が成り立つ。
(実際の計算尺使用例)
(コメント) C尺の「1 、2」とD尺の「1.5 、3」がそれぞれ一致するので、
1 : 2=1.5 : 3 より、 1.5×2=3 が成り立つ。
...というよりも、「2は、1の2倍なので、1.5の2倍は3」と考える方が自然
かな?
C尺とD尺は同じ目盛りなので、log c − log a = log b − log 1
すなわち、 log 1=0 より、 log c = log a + log b = log (a×b)
よって、 a×b = c が成り立つ。
(2) 除法・・・C尺とD尺を用いる。
例 a÷b の計算
D尺の目盛aにC尺の目盛bを一致させる。このとき、C尺の目盛1に一致するD
尺の目盛の値が、a÷b の答である。
(3) 平方と平方根・・・A尺とD尺を用いる。
計算の仕方は、計算尺の関係から明らかであろう。
(計算例) 12.3×456 を計算尺で行う場合
12.3×456
=(1.23×10)×(4.56×100)=(1.23×4.56)×1000=5.61×1000=5610
この部分に対して、計算尺を使用
計算尺を用いるとき、誤差を考慮しなければならない。上の計算は、正しくは5608.8
である。しかし、電卓がない時代において、小数の掛け算、割り算などを行うとき、計算尺
は本当にありがたかった。多分今の電卓に対する思い以上だろう。学校教育において計
算尺を学んだ最後の世代(多分?)として、この思いを是非後世に伝えていけたらと考え
る次第である。
(参考文献:本部 均 著 数Tの研究(旺文社)
矢野健太郎 監修 春日正文 編 公式集(科学新興社モノグラフ))
(追記) 計算尺の基礎になる対数尺は、1620年イギリスのガンターによって発明された。
(追記) 当HPがいつもお世話になっているHN「よおすけ」さんから、「平方尺とピタゴラスの
定理」と題して、ご投稿いただいた。(平成27年6月7日付け)
証明は記しませんが、とりあえず紹介。
2つの平方尺A、Bにおいて、Aの目盛aとBの目盛0、Aの目盛cとBの目盛bがそれぞれ重
なるようにおくと、目盛a、b、c(a、b、cは異なる正の数)の間に
a2+b2=c2
という関係式が成り立つ。平方尺が手持ちにないので、各自ご確認お願いします。
(コメント) B尺には「0」はないはずなのだが...。計算尺は加減算が苦手なので、暗算や
他のC尺、D尺も活用しないと出来ないような...予感?