相似比の真実                             戻る

 相似の関係にある図形間で、対応する部分の長さの比のことを、相似比という。相似に
ついては、中学3年で学ぶが、相似な図形の面積比、体積比については、高校1年の「数
学T」を待たなければならない。

 実際に、「数学T」を1年間眺めてみて、三角比の話が佳境に入ったところ(正弦定理や
余弦定理、面積)で突然ギヤチェンジしたように相似図形の話、球の体積や表面積の話に
移るのには少し違和感を覚えた。

 例えば、それまで三角形の辺の長さや角の大きさが与えられて、そこを起点に三角形の
面積を求めていたものが突然相似比の性質を使って三角形の面積を求めさせられるから
だ。

問 2つの三角形 P と Q は相似で、相似比は 2 : 3 である。P の面積が 4 のとき、Q の
  面積はいくつか?

 この問題を解くには、次の基本的な公式が活躍する。

 2つの図形 P と Q は相似で、相似比が m : n であるとき、

   P と Q の面積比は、 m2 : n2 となる。 (面積比は相似比の2乗に等しい)


同様に、

 2つの図形 P と Q は相似で、相似比が m : n であるとき、

   P と Q の体積比は、 m3 : n3 となる。 (体積比は相似比の3乗に等しい)


 このような関係は以前は中学で何の違和感もなく取り扱われてきたものだが、三角比の
学習の最後の方で突然現れていることに違和感を覚えるのは果たして私だけであろうか?

 さて、上記の性質を用いると、問は次のように解かれる。

 P : Q = 22 : 32 = 4 : 9  より、 4Q=9P=9×4=36  よって、Q=9

 解答は非常にシンプルであるが、新しい発想に結構生徒は戸惑うようである。

 このような相似比の性質は、数学においてはかなり重要と思われる。このページでは、相
似比の性質に着目し、その素晴らしい応用を眺めていきたいと思う。

例題 座標平面上で、2点A(1,0)、B(0,2)を通る直線 2x+y−2=0 に、点C(2,2)よ
   り垂線の足Hを下ろす。このとき、△ACHの面積を求めよ。


 (解) 直線CHの方程式は、

       y=(1/2)x+1

   なので、直線ABの方程式と連立して、

       H(2/5 ,6/5)

   が求められる。

    このとき、 AH=3/ 、CH=4/

   なので、△ACHの面積は、

    (1/2)(3/)(4/)=6/5  (終)


 与えられた条件から自然に上記のように計算はできるが、あまり美しさは感じられない。

この解法に対して、相似比を用いた次のような美しい解答が存在する。


  (解) 左図において、△OAB∽△HBC で相似比

     は、:2 なので、

       △OAB : △HBC = 5 : 4

     よって、 △HBC=(4/5)×1=4/5

     したがって、

      △ACH=4−1×2−4/5=6/5  (終)



(コメント) 相似比を用いた解法の素晴らしさは、面積を求める際に当該図形の情報として
      相似比が分かれば十分ということだろう。相似比を求めるには対応する1対の線
      分の比が分かればよいので、面積計算で必要な諸々の諸計算をしなくても済むと
      いう利点がある。

 相似比に関わる問題は、何と中学受験で出題されている。特に、面積比が相似比の2乗
に比例するという性質も問われていることには驚きを隠せない。公立で進級してきた生徒が
高校1年で初めて学ぶ内容が小学6年生に課されているからだ。ただ、このことで中学入試
を否定しようとは思わない。数学における永遠普遍の真理を、いつ知るかというのは、人そ
れぞれ自由であるべきと思うからだ。

公文国際学園中等部(2004年)(一部改題)

 正方形ABCDの辺BCを何等分かし、Bにもっとも近い点をPとする。BからAPに垂直な
線をひき、APとの交点をH、AP=10cmとするとき,次の問いに答えよ。


(1) 下図のように、辺BCを3等分するとき、BH:HP をもっとも簡単な整数の比で表せ。


  これは、 △BHP ∽ △ABP より、

     BH : HP = AB : BP = 3 : 1

 であることは明らかだろう。






(2) (1)と同様に、辺BCを3等分するとき、正方形ABCDの面積を求めよ。

   (1)より、 BP=x とおくと、 AB=3x で、 三平方の定理より、

          x2+9x2=100  すなわち、 10x2=100 より  x2=10

      よって、 正方形ABCDの面積は、 9x2=90 (cm2

(コメント) ウ〜ム!この解答では、どう見ても小学生向きではないですね。
      多分、小学生なら次のように解くのだろうか?

     (1)より、 BH : HP = AB : BP = 3 : 1

     △AHB ∽ △BHP より、 AH : BH = BH : HP =3 : 1

      よって、 AH : HP = 9 : 1 で、 AP=10 より、 AH=9 、 HP=1

     BH=3 より、 △AHB=3×9÷2=27/2

               △BHP=3×1÷2=3/2

      よって、  △ABP=27/2+3/2=15

     したがって、 正方形ABCDの面積は、 15×2×3=90 (cm2

(3) BH:HP=7:1 のとき、△ABPの面積を求めよ。

     BH : HP = 7 : 1 より、 AH : BH = 7 : 1

   よって、 AH : HP = 49 : 1 で、 AP=10 より、 AH=49/5 、 HP=1/5

     BH=7/5 より、 △ABP=(7/5)×10÷2=7 (cm2

(4) △ABHの面積が 16 cm2 で△BPHの面積が 4 cm2 のとき、正方形ABCDの面積
  を求めよ。


    △ABH : △BPH = 16 : 4 = 42:22 より、

  △ABH と △BPH の相似比は、 2 : 1 である。

   よって、 AH : BH = 2 : 1  より、 AB : BP = 2: 1 で、P は、辺BCの中点。

  したがって、 正方形ABCDの面積は、 (16+4)×2×2=80 (cm2

(コメント) (4)は、Pが辺BCの何等分点かが分からないところがミソだろうか?
      巧妙に面積比の性質を用いて、Pが中点であることを示している点が面白い。

 上記の解答では、面積比の性質を用いているが、次のようにも解けるだろう。

     △ABH と △BPH の高さが共通なので、面積比と底辺の比は等しい。

    よって、 AH : HP = 16 : 4 = 4 : 1 で、 

      AP=10 より、 AH=8 、 HP=2 で、このとき、 BH=4 となる。

    よって、 AB : BP = AH : BH = 8 : 4 = 2 : 1 で、P は、辺BCの中点。

    したがって、 正方形ABCDの面積は、 (16+4)×2×2=80 (cm2

(コメント) このように解いた方が十分小学生的かな?

 これから面白い応用に入る前に、基礎知識を整理しておこう。

   左図のような立方体 OABC-DEFG にお
  いて、3頂点 E、B、G を結んで出来る三角
  形は、正三角形である。

   このことは、三角形の3辺 EB、BG、GE
  の長さが相等しいことから明らかだろう。

   この場面は数学Bで学ぶ「ベクトル」で、内
  積の計算によく用いられる。

   立方体の1辺の長さを a とすると、このと
  き出来る正三角形の面積は、

         


 また、上図のように正三角形と線分 OF との交点を H とすると、H は正三角形の重心
である。

 実際に、 FE 、FB 、FG  (ベクトルを太字の斜体で表すことにする。)と

すると、平面 EBG の方程式は、 =x+y+z  ( x+y+z=1 ) で表される。

また、 FH=k() (k は実数) と書ける。

 点 H が平面 EBG 上にあるとき、  3k=1  となり、  k=1/3

よって、  FH=()/3  となり、これは、点 H が三角形 EBG の重心であること

を示す。

 また、3垂線の定理より、明らかに線分 OF は点 H において、平面 EBG と直交する。

 今度は、O と F を通らない辺の中点を結んだ図形を考える。

   左図のような立方体 OABC-DEFG にお
  いて、6点 P、Q、R、S、T、U を結んで出来
  る図形は、正六角形である。

   ただ、この場合は前述の正三角形の場合
  と異なって自明とすることには抵抗があるだ
  ろう。

   次の3点を確かめれば十分である。
  (1) 6点が同一平面上にあること
  (2) 6辺の長さが全て等しいこと
  (3) 6つの内角が全て等しいこと

   このことを以下でまず示そう。




 (1) 図より、 FT=OT 、 FQ=OQ で、かつ、 FT=FQ なので、

   平行四辺形 FTOQ は、ひし形である。

    よって、 対角線 OF と QT は、線分 OF の中点 H において、直交する。

   同様にして、 線分 OF と UR 、線分 OF と PS は点 H において、直交する。

    したがって、6点 P、Q、R、S、T、U は線分 OF と点 H において直交する平面上

   にある。

 (2) 6辺の長さが全て等しいことは明らかだろう。

 (3) (1)より、 HP=HQ=HR=HS=HT=HU なので、6つの内角が全て等しいこ

   とも明らかだろう。


 中点連結の定理を用いてもよい。下図を眺めていると自ずから証明が浮かび上がってく
ることだろう。
         

 さて、いよいよ本論に入ろう。

 先日何とはなしにTVを見ていたら「学校へ行こう!MAX」(2月20日放送 TBS系)という
番組の中で「天才少年募集!!」というタイトルで立体図形の切り口の面積を求める問題が
出題されていた。直ぐに切り口のイメージが思い浮かばず、興味を引いた問題なので考えて
みることにした。

 天才少年募集!!の問題(一部文章表現改題)

  左図のような立方体 OABC-DEFG におい
 
 て向かい合った面から面まで、正方形の穴を
 
 つきぬけるように3方向にあける。穴の正方形
 
 の中心と立方体の面の中心は同一直線上に
 
 あるものとし、穴の正方形の1辺の長さは、立
 
 方体の1辺の長さの1/3とする。







 穴のあいた上記の立体図形を、O と F を通らない辺の中点を結んだ正6角形の平面で
切ることを考える。

         

 いま、正6角形PQRSTUの面積が、144cm2であるとき、その切り口の面積を求めよ。

(解) 上図を詳しく解析すると、求める面積は、下図の図形 TYXZS の面積の6倍である。

          

 三角形 XYZ と三角形 HYZ は互いに合同な正三角形である。

大きい正6角形と小さい正6角形は相似で、相似比は、3 : 1 なので、面積比は、9 : 1 で

ある。よって、大きい正6角形の面積が、144cm2であるので、小さい正6角形の面積は、

    144×(1/9)=16 (cm2

となる。 したがって、求める面積は、

    144−16×2=112 (cm2

である。

(コメント) この問題が分かる小学生は、多分日本のどこかにはいるのだろう!


(追記) 平成28年2月18日付け

 2つの図形 P と Q は相似で、相似比が m : n であるとき、

   P と Q の面積比は、 m2 : n2 となる。 (面積比は相似比の2乗に等しい)


という事実は、最近まで「数学T」での学習内容であったが、新学習指導要領では、中学校
の指導内容に戻されている。違和感があったので自然な対応だろう。

 平成28年2月16日に行われた神奈川県公立高校入試(数学)で次のような問題が出題
された。

問題 右の図のような平行四辺形ABCDがあり、辺CDの中点をEとする。また、辺AD上に点
   FをAF:FD=4:3 となるようにとり、辺BC上に点GをAB‖FG となるようにとる。線分AE
   と線分FGとの交点をH、線分BEと線分FGとの交点をIとする。

    このとき、三角形BGIと三角形EHIの面積の比を最も簡単な整数の比で表しなさい。

     

(解) FD:AD=3:7 より、 △EHI:△EAB=32:72=9:49 なので、△EHI=9S とお

 くと、△EAB=49 である。このとき、△BCE=(49/2)S となる。

  よって、 △BGI:△BCE=42:72=16:49 なので、

   △BGI=(49/2)S×(16/49)=8S となる。

 したがって、 △BGI:△EHI=8S:9S=8:9 である。  (終)


(追記) 平成30年8月4日付け

 本日数学に関する会合があり、その席で長岡亮介先生から高校数学の悪しき慣習につい
ての話を伺った。

 相似比と言うと、何となく m : n と置いてしまうのだが、これは古代ギリシャ時代に、比と
言えば自然数の比だったことの名残だという。現代風だと、t : 1−t と置いた方がよいとの
ことである。

 確かに、t : 1−t と置いた方が、分点の公式で分母が1と簡素化されるわけであるが、私
的には、比として、m : n と置くことの良さもあるわけで、臨機応変に使い分けていきたいと
思う。


  以下、工事中