階乗の分割
当HPの読者のK.S.さんより、平成24年1月10日付けで標記話題をメールで頂いた。
相異なるN個のものの順列(N個の置換)の総数は、N!個である。このN!を、例えば、
互換の個数で分けたり、様々に(不動点の個数、連結の個数、あみだくじの交点、...e.t.c.)
類別したものの和として表すことができる。以下では対称なものについて考えてみた。
(1) ヤング図形
ヤング図形のマス目に、1、2、・・・、n を入れるとき、「左から右、上から下の順で増加
する」という規則を守って入れる方法の個数を fλ とする。このとき、
N!=Σ(fλ)2 (Σは、全てのヤング図形にわたり和を取るものとする。)
例 1!=12 、2!=12+12
3つのマス目のヤング図形は、次の3種類。
(イ) | (ロ) | (ハ) |
(イ)(ハ)の場合は、左または上から順に「123」の1通り。(ロ)の場合は、左上が[1」で、右
上または左下は、「2」または「3」の2通りの入れ方がある。
よって、 3!=12+22+12 が成り立つ。
同様にして、 4!=12+32+22+32+12 、5!=12+42+52+62+52+42+12
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空舟さんからのコメントです。(平成24年2月26日付け)
N!=Σ(fλ)2 (Σは、全てのヤング図形にわたり和を取るものとする。)
は、どうして成り立つのでしょうか?
(コメント) 一つのヤング図形に対して、数字の並べ方の総数を、fλとするとき、
N!=Σ(fλ)2 が成り立つという事実は、一見とても美しいが、いざ、それを示そ
うと思うとき、途方に暮れてしまう。この公式は、そんな妖しさを持つ。実際に、示すことは
かなり難しい...雰囲気。fλ自体は、Frobenius などの尽力で求める公式(フック公式)
が知られているが、N!の分割公式を得るには、1938 年に Robinson により発見された
「Robinson-Schensted 対応」が1対1対応であることを示す必要があるらしい。
(→ 参考:「ヤング図形の組合せ論」)
空舟さんからのコメントです。(平成24年2月26日付け)
3次の場合、(ヤング盤は、"/"で改行を表すものとする)
123 12/3 13/2 1/2/3 の4通りで、順に、a、b1、b2、c とします。
3次の置換が、同じ形のヤング盤同士の写像と対応されます。
(123): a → a
(132): b1 → b1
(213): b2 → b2
(312): b1 → b2
(231): b2 → b1
(321): c → c
森田英章 著(北海道大学理学研究科)
「On the Robinson-Schensted correspondence」の176-177ページに分かりやすい図があり
ます。
置換の数字を順に挿入して作られるヤング盤Pと、その作る過程順に数字を振ったヤング
盤Qによって、置換に対応する写像P→Qという風に構成されるようです。(そして、逆対応を
得る方法があって、対応は1対1)このような対応があることを認めれば、
(置換の個数=N!)=Σ(形ごとのヤング盤の種類)2
が成り立つことが分かる。
空舟さんが、上記の話題を「NNの分割」に拡張されました。(平成24年2月27日付け)
ヤング図形を使ったNNの分割を考えました。多少無理やり感があるのですが、紹介して
みます。
ヤング図形λのマス目に、1、2、・・・、N を入れる時について、
A:「左から右には増加するが上下は問わない。」
B:「各行の右端だけに数字を入れる。
上下に接するもの同士では上から下に増加する。」
この2つの規則を守る入れ方をそれぞれ aλ、bλ とします。
(もちろん同じ数字は2回以上使わない。)
そうすると、Σ(aλ・bλ)=NN となります。
具体的に、N=3 だと、λは、(3)、(21)、(111) の3つで、この順に
aλ=1、3、6 bλ=3、6、1 となって、 Σ(aλ・bλ)=3+18+6=33
N=4 の場合、λは、(4)、(31)、(22)、(211)、(1111) の5つで、この順に
aλ=1、4、6、12、24 bλ=4、12、6、12、1
となって、 Σ(aλ・bλ)=4+48+36+144+24=44
(N進数のN桁の数字の分類と対応させることで構成しました。)
(2) 互換の個数
互換の個数で、N!を分割する。
NDr : 文字の個数N個の順列のうち、転倒数(大小の順が逆転している数)が r の順列
の個数
例 123 の順列は、123、132、213、231、312、321 の6通り
このうち、 123 の転倒数は、0 ・・・ 3D0=1
132、213 の転倒数は、1 ・・・ 3D1=2
231、312 の転倒数は、2 ・・・ 3D2=2
321 の転倒数は、3 ・・・ 3D3=1
以上から、 3!=3D0+3D1+3D2+3D3 と分割される。
同様にして、
1D0=1 、2D0+2D1=1+1 、3D0+3D1+3D2+3D3=1+2+2+1
4D0+4D1+4D2+4D3+4D4+4D5+4D6=1+3+5+6+5+3+1
5D0+5D1+5D2+5D3+5D4+5D5+5D6+5D7+5D8+5D9+5D10
=1+4+9+15+20+22+20+15+9+4+1
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一般に、 N!=Σk=0〜N(N-1)/2 NDk
ND0=1 、NDN(N-1)/2=1 、NDr=NDN(N-1)/2-r
NDr=N-1D0+N-1D1+・・・+N-1Dr (ただし、r≦[N(N−1)/2])
(3) オイラーによる係数
NEr=Σs=0〜r-1 (-1)s・N+1Cs(r−s)N とすると、 N!=Σr=1〜N NEr
例 3!=1+4+1 、4!=1+11+11+1 、5!=1+26+66+26+1
(4) 対称ではないが...
N!=Σr=0〜N (-1)N-r・NCr(x+r)N
例 2!=2C0(x+0)2−2C1(x+1)2+2C2(x+2)2=x2−2(x+1)2+(x+2)2
(コメント) 1月10日に頂いたものですが、アップが2月26日になってしまいました。申し訳
ありません。いろいろな見方が出来て、ためになりました!
階乗及び累乗の分割について、K.S.さんからの続報です。(平成24年3月28日付け)
3月1日付けでメールをいただいて、そのままになっていました。K.S.さんにお詫び申し上
げます。
(5) 第1種スターリング数による階乗の分割
n≧k≧0 に対して、x(x+1)(x+2)・・・(x+n−1)のxkの係数を、nSk と表し、第1種
スターリング数と言う。ただし、0S0=1 とする。
例 nS0 ・・・ 定義より、明らかに定数項は、0 なので、nS0=0
nS1 ・・・ x の係数は、(n−1)! なので、nS1=(n−1)!
nSn-1 ・・・ xn-1 の係数は、1+2+・・・+(n−1)=n(n−1)/2 なので、
nSn-1=n(n−1)/2
nSn ・・・ xn の係数は、1 なので、nSn=1
n>k>0 に対して、次の漸化式が知られている。: n+1Sk=nSk-1+n・nSk
実際に、 x(x+1)(x+2)・・・(x+n−1)(x+n)
=x2(x+1)(x+2)・・・(x+n−1)+n・x(x+1)(x+2)・・・(x+n−1)
において、左辺のxkの係数は、n+1Sk で、右辺のxkの係数は、
x(x+1)(x+2)・・・(x+n−1)のxk-1の係数に
x(x+1)(x+2)・・・(x+n−1)のxkの係数をn倍して加えたものに等しいので、
n+1Sk=nSk-1+n・nSk が成り立つことが分かる。
このとき、 N!=Σr=0〜N NSk が成り立つ。
例 | 1 | |||||||||||
0 | 1 | ・・・ | 1=1! | |||||||||
0 | 1 | 1 | ・・・ | 2=2! | ||||||||
0 | 2 | 3 | 1 | ・・・ | 6=3! | |||||||
0 | 6 | 11 | 6 | 1 | ・・・ | 24=4! | ||||||
0 | 24 | 50 | 35 | 10 | 1 | ・・・ | 120=5! | |||||
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(6) オイラーの係数による階乗の分割
オイラーの係数 T(n,k) (→ 参考;「A008292」)について、
漸化式 T(n,k)=(n−k+1)T(n−1,k−1)+kT(n−1,k)
T(n,1)=T(n,n)=1
が成り立つ。このとき、
N!=Σr=0〜N T(n,k) が成り立つ。
例 | 1 | 1=1! | ||||||||||
1 | 1 | ・・・ | 2=2! | |||||||||
1 | 4 | 1 | ・・・ | 6=3! | ||||||||
1 | 11 | 11 | 1 | ・・・ | 24=4! | |||||||
1 | 26 | 66 | 26 | 1 | ・・・ | 120=5! | ||||||
1 | 57 | 302 | 302 | 57 | 1 | ・・・ | 720=6! | |||||
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ |
上記の三角形は、オイラーの三角形と言われる。
以下、工事中