複素数の大小?                        戻る

 今まで数学を学んできて、ずっと、「複素数に、大小はない!」と思ってきた。しかし、この
ことは、ある意味では正しいが、ある意味では誤りであるということを、最近知った。

 例えば、2つの数 があって、その大小を調べると、「 」が成り立つが、こ
のような大小関係は、実は、複素数においても成り立つ。

 そのためには、2つの複素数 α = u+i・v 、β = x+i・y に対して、

   α < β であることを、「 u < x または ( u = x かつ v < y ) 」

   α = β であることを、「 u = x かつ v = y 

と定義すればよい。

上記で定義した大小関係が、次のような性質を持つことは明らかであろう。

(1) 2つの複素数 α 、β に対して、

            α < β 、 α = β 、 β < α

   の何れか一つだけが必ず成り立つ。
   (このことから、全ての複素数が、大小の順序「<」または「=」で、一列に並べられる。

(2) 3つの複素数 α 、β 、 γ に対して、

            α < β 、 β < γ ならば、 α < γ

   が成り立つ。(このような性質は、「推移的」と言われる。

例 上記の大小関係で考えると、次のようになるであろう。

      2+3・i < 3−2・i  、 2+3・i < 2+4・i

 また、
     α ≦ β であることを、「 α < β または α = β 」

と定義する。

 このとき、大小関係「」は、順序の公理を満たしている。

順序の公理

(1) α ≦ α  (反射律)

(2) α ≦ β かつ β ≦ α ならば、 α = β  (反対称律)

(3) α ≦ β 、 β ≦ γ ならば、 α ≦ γ  (推移律) (← 上記の性質(2)

 順序の公理の中で、(3)(推移律)が最も本質的である。

 さらに、上記で定義した大小関係「」は、線形順序にもなっている。(← 上記の性質(1)

 線形順序とは、任意の α 、β に対して、「 α ≦ β または β ≦ α 」の何れかが成立す
ることをいう。(任意の2つの数の比較が可能となる。

例 自然数 m、n に対して、

     m ≦ n であることを、「m は、n の約数」により定義する。

      (整数論の世界では通常、「m は、n の約数」ということを、記号「 m | n 」で表す。

  このとき、「」は、明らかに、順序の公理を満たすが、線形順序にはなっていない。

  実際に、例えば、「 2 と 4 」などについては、「 2 ≦ 4 」であるが、「 2 と 3 」について
は、「 2 ≦ 3 」は成り立たない。したがって、任意の数について比較することができないの
で、線形順序にはなり得ない。

 このように考えると、複素数において定義した大小関係「≦」は、順序の概念としては、よ
り高度な条件をクリアしていることになる。

 複素数においては、上記の定義以外にも、無数の線形順序が定義されるらしい。その意
味からすると、「複素数に、大小はない!」ということは、誤りとなる。

 しかしながら、通常我々が大小関係という場合に、上記の順序の公理以外に次のような
計算ができることを要請している。

例  2 ≦ 4 の両辺に、−2を加えて、2−2≦4−2 すなわち 0≦2

    2 ≦ 4 の両辺を、2で割って、2/2≦4/2 すなわち 1≦2

 このように、「不等式」において、項を移項したり、簡約できるという性質を、我々の認識
では、大小関係「≦」に付随する性質と考えるのが普通である。

 しかしながら、複素数において、次のような性質

(3)  α < β ならば、 任意の γ に対して α + γ < β + γ

(4)  α < β 、0 < γ に対して α ・ γ < β ・ γ

を持つ線形順序は存在しない。

 たとえば、上記の性質(3)(4)を満たす線形順序が存在したと仮定する。

線形順序の性質から、複素数 0 と虚数単位 i について、

      0 < i  、 0 = i  、  i <0

の何れか一つだけが必ず成り立つ。

 0 < i  の場合、性質(4)から、0 ・ i < i ・ i すなわち、0 <−1 となる。
これは、矛盾である。

 0 = i  の場合、 0 ・ 0 = i ・ i すなわち、0 =−1 となる。
これは、矛盾である。

 i <0  の場合、 性質(3)から、両辺に −i を加えて、 i +( −i )< 0 +( −i )
すなわち、0 < −i となる。このとき、性質(4)から、0 ・ ( −i )<( −i )・( −i ) なので、
0 <−1 となる。これは、矛盾である。

 したがって、上記の性質(3)(4)を満たす線形順序は存在しない。

 通常、我々が、「複素数に、大小はない!」ということは、実はこの意味においてだったの
である。

(参考文献:吉田紀雄 著 入試数学と現代数学のあいだ (聖文社)
       松坂和夫 著 集合・位相入門 (岩波書店))

 複素数の大小ではないが、大小関係に絡む次の大学入試問題は、とても新鮮に、しかし、
受験生にとっては斬新な脅威に感じられる。

平成20年度 慶應義塾大学 環境情報学部

 2つの自然数 a、b の関係 ab を次のように定める。

素数を小さい順に、p1=2、p2=3、p3=5、・・・とし、a、b の素因数分解を

   a=p11・p22・・・p  、 b=p11・p22・・・p

と表す。

ただし、s(1≦h≦m)、t(1≦k≦n)は、0以上の整数とし、s≠0、t≠0 である。

 以下では、s0=sm+1=sm+2=・・・=0 、 t0=tn+1=tn+2=・・・=0 とする。

 ここで、次のいずれかの条件が満たされるとき、ab とする。

(@) s1+s2+・・・+s>t1+t2+・・・+t

(A) s1+s2+・・・+s=t1+t2+・・・+t であり、あるh(1≦h≦m)で
      s0=t0 、s1=t1 、・・・・・ 、sh-1=th-1 、sh>th
   となる。

 このとき、bはに関してaより大きいという。

 2<N≦50 なる自然数Nで、に関して最大の数は( 1 )であり、に関して小さい方

から10番目の数は( 2 )である。


(答え) (1)=47 、 (2)=28

 これは

54・343・33・52・3232・32・52・72・11・・・47

という並びから求められる。

 それでは、 2<N≦30 なる自然数Nで、に関して最大の数は( 1 )であり、に関し

て小さい方から10番目の数は( 2 )である。

としたらどうだろうか?

 これも易しいかな?

(答え) (1)=29 、 (2)=4

 この場合、素因数は、

    2 、3 、5 、7 、11 、13 、17 、19 、23 、29

の計10個である。この順番に指数部分を並べたものが下表である。

指数部分   指数部分   指数部分
      11 0000100000   21=3・7 0101000000
1000000000   12=22・3 2100000000   22=2・11 1000100000
0100000000   13 0000010000   23 0000000010
4=22 2000000000   14=2・7 1001000000   24=23・3 3100000000
0010000000   15=3・5 0110000000   25=52 0020000000
6=2・3 1100000000   16=24 4000000000   26=2・13 1000010000
0001000000   17 0000001000   27=33 0300000000
8=23 3000000000   18=2・32 1200000000   28=22・7 2001000000
9=32 0200000000   19 0000000100   29 0000000001
10=2・5 1010000000   20=22・5 2010000000   30=2・3・5 1110000000

 この表を見ると、に関する大小の決め方が手に取るように分かる。

大小関係について、小さい順に並べると、

 16、24、8、12、20、28、18、30、27、4、6、10、14、22、26、9、15、21、2、3、

5、7、11、13、17、19、23、29

となっている。