世の中に「源氏香」という遊びがある。これは、5種類の香のかおりを区別し、その答えを
源氏物語の巻の名前で答えるというものである。これが「源氏香」と呼ばれる由縁である。
(具体的な遊び方)
(1) 5種類の香木を、それぞれ5包ずつ(計25包)用意する。
(2) この25包を混ぜ合わせて任意の5包を引き去る。
(3) この5包を順に5炉炊き出し、かおりを順にかいで、かおりの区別をする。
(4) 同じかおりを横線で結び、香の出によって香図を書く。
(5) 香図が表わす源氏物語の巻名を答える。
(香図の書き方) 5回香炉が回ってくるので、1炉聞く毎に「右から左へ」一本ずつ縦線を引
いて、同じ香だと思ったものの縦線の上部を横線で繋ぐ。違う香の場合は
縦線を短く書く。
たとえば、1番目と3番目、4番目と5番目がそれぞれ同じかおりで、2番目がどちらとも異
なるかおりであるとき、次のような香図となる。
これは、源氏物語 第48巻 「早蕨」に対応する。香図の芸術性、デザイン性の高さから、
古くから着物や帯の文様(柄模様)や、家紋や蒔絵、和菓子などに用いられてる。
かおりの区別を表す香図は、全部で52通りある。実際に、計算してみよう。
・5炉がすべて同香のとき、 1通り
・5炉中4炉が同香で、1炉が異香のとき、 5通り
・5炉中3炉が同香で、2炉が異香のとき、 5C2=10通り
・5炉中3炉、2炉が同香のとき、 5C3・2C2=10通り
・5炉中2炉が同香で、3炉が異香のとき、 5C2=10通り
・5炉中2炉、2炉が同香で、1炉が異香のとき、 5C2・3C2÷2=15通り
・5炉がすべて異香のとき、 1通り
よって、香図の総数は、 1+5+10×3+15+1=52(通り)
源氏物語は「桐壺」の巻から始まり「夢浮橋」の巻で終わる全54巻の物語で、「桐壺」と
「夢浮橋」を除いた巻の名前がそれぞれの香図につけられている。どのような規則性で名
前が付けられているのかは不明である。
読者の皆さんに練習問題です。
練習 かおりの種類が4種類のときの香図をすべて書け。(答えは、15通りかな?)
(追記) 「香図の総数」と題して、kuiperbelt さんからのご投稿です。(令和6年10月6日付け)
要素n個をグループk個に分割する方法には、
・要素(n-1)個をグループ(k-1)個に分割し、n番目の要素をk番目のグループとして追加する
場合と、
・要素(n-1)個をグループk個に分割し、n番目の要素をk個のグループのどれかに追加する
場合とがある。
要素n個をグループk個に分割する方法の数をS(n,k)とすると、
S(n+1,k)=k*S(n,k)+S(n,k-1)
という漸化式で表すことができて、S(n,k)は、第2種スターリング数として知られています。
第2種スターリング数は、S(n,1)=1(n≧1) 、S(n,n)=1(n≧0) 、S(n,0)=0(n≧1)で、以下
S(3,2)=3 、S(4,2)=7 、S(5,2)=15 、S(6,2)=31 、・・・
S(4,3)=6 、S(5,3)=25 、S(6,3)=90 、・・・
S(5,4)=10 、S(6,4)=65 、・・・
S(6,5)=15 、・・・
・・・
と続きます。
源氏香の香図の総数は、5個の要素を5個以下のグループに分割する方法の数なので、
S(5,1)+S(5,2)+S(5,3)+S(5,4)+S(5,5)=52
となります。
香木の種類が3種類だと、香図の総数は、
S(3,1)+S(3,2)+S(3,3)=5
で、
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となります。香木の種類が4種類だと、香図の総数は、
S(4,1)+S(4,2)+S(4,3)+S(4,4)=15
で、
┌┬┬┐ ┌┬┐│ ┌┬─┐ ┌┐┌┐ ┌─┬┐
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となります。
香木の種類が4種類のものは系図香といって、香木の種類が3種類のものは三炷香という
そうです。
系図香の香図にも、源氏香と同様に銘が付されていて、上の図では、志野流の場合は、
小笹、野中の蔀、落葉、春日野、篝火
鳴子、住吉、苅田、龍田、八橋
関屋、武蔵鐙、花筐、葎の宿、初冠
という銘が付されていて、その多くが伊勢物語から引かれているそうです。
昔は香木の種類が6種類以上のものもあったそうです。香木の種類が6種類だと、香図の
総数は、
S(6,1)+S(6,2)+S(6,3)+S(6,4)+S(6,5)+S(6,6)=203
となります。
なお、この香図の総数はベル数といって、「A000110」にも載っています。
(コメント) ( → 参考:「ベル数」)
以下、工事中!