・等式の美                             S.H氏

 単独の数としては表現が難しい場合でも等式としてならその美しさを発露する場合がある
ことを最近、茨城大学の仁平政一さんの書籍:

  三角関数に関するある等式について (数研通信 No.69 (数研出版))

で学ぶことができた。

例 sin10°

 この値は、らすかるさんの「三角関数表」にも載せられていない!それもそのはずで、この
値を求めるためには、θ=10°として、3次方程式 8sin3θ−6sinθ+1=0 を解かな
ければならない。3次方程式の解の公式があるとはいえ、これは少し大変そうだ。

 ところが、10°について、次のような美しい等式が成り立つことが知られている。

  4sin10°+tan10°=1 ・・・ (*)

 このような等式による表現は、「チェビシェフの多項式」においても取り上げられている。

 同様に、20°については、 4sin20°+tan20°=  ・・・ (**) が成り立つ。

 三角関数の諸公式を活用すれば、等式(*)、(**)を直接導くことは可能である。

(*)の証明: θ=10°とおくと、3θ=30°なので、2θ=30°−θ

  よって、 2sin2θ=2sin(30°−θ)=cosθ−sinθ

 すなわち、 4sinθcosθ=cosθ−sinθ より、両辺をcosθで割って、

   4sinθ=1−tanθ より、 4sin10°+tan10°=1  (証終)

(**)の証明: θ=20°とおくと、3θ=60°なので、2θ=60°−θ

  よって、 2sin2θ=2sin(60°−θ)=cosθ−sinθ

 すなわち、 4sinθcosθ=cosθ−sinθ より、両辺をcosθで割って、

   4sinθ=−tanθ より、 4sin20°+tan20°=  (証終)


 次に、等式(*)、(**)を別な視点で証明することを考えよう。

 C=90°の直角三角形ABCにおいて、∠ABC=θとおく。

 今、1≦p≦n なる実数p、nに対し、辺CA上に、∠DBC=(p/n)θとなる点Dをとる。

CD=x とおく。
     

 このとき、 a・sin(p/n)θ−b・cos(p/n)θ+c・sin(1−p/n)θ=0 が成り立つ。


(正弦定理を用いた証明)

 △ABDにおいて、(b−x)/sin(1−p/n)θ=c/sin{90°+(p/n)θ}=c/cos(p/n)θ

なので、 b・cos(p/n)θ−x・cos(p/n)θ=c・sin(1−p/n)θ

 ここで、 x=a・tan(p/n)θ より、 x・cos(p/n)θ=a・sin(p/n)θ なので、

  b・cos(p/n)θ−a・sin(p/n)θ=c・sin(1−p/n)θ

すなわち、 a・sin(p/n)θ−b・cos(p/n)θ+c・sin(1−p/n)θ=0

が成り立つ。

(面積を用いた証明)

 BD=a/{cos(p/n)θ} で、△ABD+△DBC=△ABC より、

 ca/{cos(p/n)θ}・sin(1−p/n)θ+a2/{cos(p/n)θ}・sin(p/n)θ=ab

よって、 c・sin(1−p/n)θ+a・sin(p/n)θ=b・cos(p/n)θ より、

  a・sin(p/n)θ−b・cos(p/n)θ+c・sin(1−p/n)θ=0

が成り立つ。


 等式(*): 4sin10°+tan10°=1 、(**): 4sin20°+tan20°= は、上
記で得られた等式を用いても示される。

 p=1、n=3 として、 a・sin(1/3)θ−b・cos(1/3)θ+c・sin(2/3)θ=0 より、

  a・sin(1/3)θ−b・cos(1/3)θ+2c・sin(1/3)θcos(1/3)θ=0

 両辺をcos(1/3)θで割って、 a・tan(1/3)θ−b+2c・sin(1/3)θ=0

(*)の証明: θ=30°とすると、a=、b=1、c=2としてよいので、

   tan10°−1+4sin10°=0 すなわち、 4sin10°+tan10°=1

(**)の証明: θ=60°とすると、a=1、b=、c=2としてよいので、

   tan20°−+4sin20°=0 すなわち、 4sin20°+tan20°=

 因みに、θ=45°とすると、a=1、b=1、c=としてよいので、

   tan15°−1+2sin15°=0 すなわち、 2sin15°+tan15°=1

 これより、次の等式が得られた。

  2sin15°+tan15°=1 ・・・ (***)

(別解) sin15°=()/4 、tan15°=()/()=2−

    なので、 2sin15°+tan15°=−1+2−=1  (終)

 因みに、sin15°=()/4 、tan15°=2− という値は、加法定理を用い
れば直ちに求められるが、次のようにしても求められる。

 下図において、AD : DC=2 :  なので、DC=/(2+)=2−3

  よって、 BD=3 なので、

  sin15°=(2−3)/(3)=()/4

  tan15°=(2−3)/=2−




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