・ラプラス変換 kk 氏
はじめまして、kk と申します。現在は普通の社会人ですが、高専時代には、電気電子機
械系の学科に所属していて、専攻の柱の一つとして制御工学があり、タイトルにありますよ
う、ラプラス変換も用いていました。
当時からラプラス変換に関して、モヤモヤ感がかなりあり、なぜ微分方程式が解けるのか
ということについて自分なりにかなり調べたつもりですが、納得できる説明は未だ得られてい
ません。(現在28才…)
数学力としては高専卒のため、大学初等レベルかと思います。たとえば、フーリエ変換で微
分方程式が解ける原理は(自分なりに)しっかり理解できます。そして、原理について調べると、
いつも行き当たるところは、
・いったん対数の世界に持って行き演算してから、こっちの世界に戻すようなものだ。
・sとは周波数を複素数に拡張したものだ。
・単なる積分変換であり、意味はない。
といったような、あまりにモヤモヤした説明にとどまるものであります。いずれの説明も間違っ
てはいないのでしょうが…。(→ 参考:「ラプラス変換」)
また、ラプラス変換と冠するタイトルを持つ本は、例外なく、いきなりラプラス変換の定義か
ら始まり、変換の線形性の説明等々が続いていて、なぜ微分方程式が解けるのか、という説
明をしている本は見たことがありません。
大阪大学大学院の方(当時)が書かれている「ラプラス変換で微分方程式がなぜ解ける?」
というPDFがネットで見つかります。原理を説明している数少ない資料でありすばらしいもの
だと思いますが、やはり、もやもや感はなくなりません。
フーリエ変換で解く方法から始まり、ラプラス変換に入る構成であり、ラプラス変換の説明が
かなり早足であり、私の力不足によるところかとも思うのですが、定性的な説明にとどまってい
るように感じてしまいます。
また、ヘビィサイド氏によって工学で利用され始めた後で、数学的に厳密に正当性が示され
たとの記述もよく見かけますが、その厳密な説明が見つかりません。
言葉稚拙で、前置きが長くなってしまいましたが、数学のどんな分野を勉強してゆけば、理
解することができるようになるのでしょうか。
たとえば、フェルマー・ワイルズの定理を理解するためには、
・群論、ガロア理論
・楕円曲線論
・谷山・志村予想
・保型形式 etc
の知識が必要になる、のように示していただきたいです。
(フェルマー・ワイルズの定理に関してまったくの無知であるので、上記、おかしな表現になっ
ているかもしれませんがご了承ください。)
または、ダイレクトに、数学的に厳密に正当性が示された文献を教えていただきたいです。
もちろん、それら一つ一つを理解するのは大変なことだということは承知の上です。
以上、よろしくお願いします。
DD++さんからのコメントです。(平成26年9月15日付け)
ラプラス変換、懐かしいですね。私は工学系ではなかったのもあって、実用は専らフーリエ
変換の方でしたが、学生時代、ラプラス変換には同じような苦手意識を持った覚えがありま
す。実用重視のものなので、理論面をしっかり解説することに需要があまりないのかもしれま
せんね。
さて、ご紹介いただいたPDFですが、確かに最後のページだけやけに大雑把な議論ですね。
確かにここをまともに扱おうとするとページ数が激増しそうなのでやむを得なかったのでしょう
が...。
ラプラス変換の理論を学ぼうと思ったら、必要なのは、微積分、複素解析、線型代数、フー
リエ解析くらいでしょうか。とはいえ、フーリエ変換の原理がお分かりになるのであれば、微積
分や線型代数については問題はないだろうと思います。
逆にフーリエ変換とラプラス変換の間に大きなギャップがあるのが複素解析です。特に、PDF
最後の1ページ+その前数行はフーリエ変換では必要にならなかった複素解析の知識がいろ
いろ必要です。逆変換の式なんてモロに複素積分(被積分関数に虚数単位がある意味では
なく、積分変数が複素数という意味)ですし。モヤっとするのがこのあたりなのであれば、複素
解析の書籍の中でおまけ的にラプラス変換も取り扱っているものを探すのがよいかもしれま
せん。
kkさんからのコメントです。(平成26年9月15日付け)
DD++さん、返信ありがとうございます。なるほど、やはりフーリエ変換からは大きなギャップ
があるのですね。さっそくまずは複素解析を一通りやってみます。
当時、半ば冗談で、いつか「ラプラス変換の "定義の導出"」と題する本を書く!とか口走っ
てた記憶がありますが、本気で目指そうと思います。
それにしても、ラプラス変換はフーリエ変換の拡張だと考えると、
1780年、ラプラス変換発表
1811年、フーリエ変換発表
...これって、なんなんでしょう。卵か鶏かより謎です。
DD++さんからのコメントです。(平成26年9月16日付け)
卵の誕生と鶏の誕生(ひよこの誕生というべき?)には因果関係がありますが、さて、ラプラ
ス変換の発見とフーリエ変換の発見には因果関係はあったのでしょうか?
以下、私の推測や独自解釈を多分に含みます。誤りが含まれる可能性がありますのでご了
承ください。
私はフーリエ変換とラプラス変換はどちらがどちらの拡張とも思っていません。片方を先に
学んだらもう片方はそこから出発して学習すると楽なのは間違いないですが...。
そもそもの両者の発端となるフーリエ級数から考えてみましょう。フーリエ級数は周期関数
であることが前提なので、基底同士の内積を取る際も有限区間の積分で済みます。で、これ
から周期性という制約を取り払って無限範囲で考えようとした時に、ここで数学的には大きな
困難が生じます。
それは、exp(iωt) を基底に取った場合、自分自身との内積が、1 を無限に広い範囲で積
分するので発散してしまう点。これをどうにかしないとちゃんとした理論構築はできません。
ここから先には二つの道があります。
1つは、この困難を回避せず、発散を理論的に取り扱えるようにしてしまおうという方向に
進む道。具体的にはデルタ超関数とその扱いについて整備し、基底同士の内積をデルタ超
関数として表現。この方向に進んだ結果がフーリエ変換。
もう1つは、だったら基底同士の内積が発散しないような基底を使えばいい、とする道。
exp(-st) を基底に取り、s の実部が正なら減衰するということで、積分範囲も未来に限定。
逆変換が大変になるが、そこは変換表を使って逃げる。こうすることで困難を回避した結果
がラプラス変換。
つまり、両者は同じ困難の異なる解決法というだけである、と。大雑把にはこのように私は
理解しています。極端な類比ですが、二元一次連立方程式の解法における代入法と加減法
の関係みたいなものですね。
こう考えると、使い分けも非常に納得が行きます。理学では「簡単のため摩擦や空気抵抗
は考えない」など、ずっと続く現象を取り扱うことが多いので、減衰しないものを基底に取って
いるフーリエ変換の方が相性がよく、制御工学では影響が収束する現象を主に取り扱うので、
最初から基底に減衰が考慮されているラプラス変換の方が相性がいい、と。
もちろん、実際にはラプラス変換はフーリエ変換どころかフーリエ級数よりも早く生まれ、ま
たデルタ超関数もこれよりも後の時代ですから、厳密な意味ではこの考えが誤りであるのは
明らかです。
しかし、こうして一つの困難を乗り切る方向性の違いで両者の違いの説明がつくということ
は、実際の歴史において何らかの同じ困難に直面した全く無関係な二人が、独立にそれぞ
れを思いつき発表したとしても、それほど驚くような話ではないのかもしれないと私は考えま
す。
kkさんからのコメントです。(平成26年9月16日付け)
フーリエ変換とラプラス変換はどちらがどちらの拡張でもないというのはカルチャーショック
でした!一つの困難を乗り切る方向性の違い、という見方はまったくなかったです。というよ
り、そういう見方をするための基礎も...。
実用重視の高専数学では、大学初等レベルまで扱ってはいますが、抽象的なことにはあま
り触れていません。大学向けの本、特に線形代数などを見て、表現の違いにびっくりして、独
学で苦労して読破した(実はできてない?)記憶があります。
ラプラス変換を使った解法の解説が見つからないのは、ページ数の関係や、需要のなさは
もちろんですが、それに加えて、複素解析などを会得している方たちにとっては、自然と納得
できるような考え方に見えるのからなのかなと考えを改めました。
ラプラス変換の定義の導出、なんてのはちょっと赤面ですね!
いろいろと教えていただきありがとうございました。時間はかかりそうですが、納得できるま
で地道にがんばってみます。