・ 重心の位置                    S.H氏

 物理というか力学の分野で、質点系や剛体の重心が話題になる。そのような知識がある
と、数学で重心を考える場合に具体的イメージがわいて考えやすい。

 線分上の2点において、その重心の位置はちょうど中点の位置と重なる。それは、2点に
同じ質量を負荷している場合であるが、一般には次のような公式で、重心の位置は与えら
れる。

   

 上図において力のつりあいから、  m1(x−x1)=m2(x2−x)

この式は、数学で行われる線分の長さの比が

     x−x1 : x2−x = m2 : m1

であることを意味する。これより、

           

 数学では、均質な質点と考え、 m1=m2 とするので、

           

 となる。これは、正しく高校の「数学U」で学ぶ中点の公式である。

 三角形において、その重心の位置は、3中線の交点として得られる。

        

 重心が中線を 2:1 に内分することは、よく知られた事実である。

 三角形の各頂点を表すベクトルを、  とすれば、その重心を表すベクトルが、

          

であることから明らかだろう。

 ところで、三角形の内心は、
                    

で与えられるが、a=b=c すなわち、 正三角形のとき、内心と重心が一致することが分

かる。

 三角錐において、その重心の位置は、相対する辺の中点同士を結ぶ線分の中点として
得られる。

 これは、底面の三角形の重心と残りの頂点を結ぶ線分を 1:3 に内分する点でもある。

      

 三角錐の各頂点を表すベクトルを、  とすれば、その重心を表すベクトルが、

          

であることから明らかだろう。

 それでは、底面が半径 r の円で高さが h の直円錐の重心の位置はどうなるだろうか?

答は、三角錐の場合に類似していて、底面からの高さがちょうど (1/4)h のところにある。

 これは、

  周の長さが一定な三角形で面積が最大な図形は正三角形、周の長さが一定な
図形で面積が最大な図形は円である


という関係と類似していそうで面白い。


(追記) 平成25年7月6日付け

 何となく、半円の重心を求めたい気分になった。パップス・ギュルダンの定理を用いれば
容易に求められる。パップス・ギュルダン(Pappus-Guldin)の定理と私の出会いは、高校2
年のときである。参考書に、回転体の体積については、次の定理が成り立つことが知られ
ていると、さらりと記述されているに過ぎなかったが...。

 平面上の閉じた線で囲まれた図形が、この平面上にあって、これと交わらない直線の周
りに回転して得られる立体の体積について、

  (立体の体積)=(図形の面積)×(図形の重心の描く円周の長さ)

が成り立つ。


 原点中心で半径 r の上半円を x 軸の周りに回転させると球ができるので、定理より、

   4πr3/3=πr2/2×L  から、 L=8r/3

 y 軸上の点(0,y)に重心があるので、 2πy=8r/3 から、 y=4r/(3π)


 この y の計算は、次のように直接的にも求められる。

 原点中心で半径 r の上半円の方程式は、 x2+y2=r2 (y≧0)

 この上半円を密度(=ρ)一様な図形と考えると、その質量は、πr2ρ/2

 区間[0,r]をn等分し、微小な長方形の面積から定まる質量(r/n)ρ√(r2−(k/n)2)が

全て重心の位置(1/2)√(r2−(k/n)2)にかかってくるとすると、そのモーメントの極限は、

 2×limn→∞Σk=0〜n-1(r/(2n))ρg(r2−(k/n)2)=ρg∫0(r2−x2)dx=2r3ρg/3

(ただし、gは重力加速度)

 よって、y 軸上の点(0,y)に重心があるとして、

  2r3ρg/3=y×πr2ρg/2

が成り立つ。このとき、 y=4r/(3π) となる。


 上記では、物理的に計算したのだが、大学初年級で学ぶ重積分を用いればまた違った解
法となろう。

 半円の周および内部を表す領域D: x2+y2≦1、y≧0 について、その重心の位置は、

  x=∫D xdxdy/∫Ddxdy 、y=∫D ydxdy/∫Ddxdy

で求められる。


 変数変換 x=rcosθ、y=rsinθ (0≦r≦1、0≦θ≦π)により、 dxdy=rdrdθ
なので、

   ∫D xdxdy=∫012dr∫0πcosθdθ=0

   ∫D ydxdy=∫012dr∫0πsinθdθ=2/3

   ∫Ddxdy=∫01rdr∫0πdθ=π/2

 よって、 x=0 、y=4/(3π) より、重心の座標は、 (0,4/(3π))


 上記話題について、当HPがいつもお世話になっているHN「或る髷すと」さんから情報を
頂いた。或る髷すとさんに感謝します。(平成25年7月15日付け)

 重心決定は結局は積分の問題に帰着されるのですが、微積分発見以前から個別の図形
に関しての研究はされていたようです。(→ 参考:「円と球の求積(直感的方法)」)

 アルキメデスの半円の重心決定があまりにもエレガントですので、ご紹介いたします。

 xy平面に点(−1,1)、(−1,−1)、(0,0)を頂点とする三角形と単位円を半分にした半
円を考えます。
           

 すると、三角形と半円はx軸を天秤の腕木、原点を支点としてつり合うというものです。する

と、三角形の重心は点(−2/3,0)の位置にあり、面積の比は、半円:三角形=π/2 : 1、

さらに、  (支点から三角形の重心までの長さ)×(三角形の面積)
                 =(支点から半円の重心までの長さ)×(半円の面積)

から、 (2/3)×1=g×(π/2) より、 g=4/(3π)

であるので、半円の重心は、点(4/(3π),0)の位置にあるというものです。

 アルキメデスは、各図形を x 軸に平行な直線で切った切り口が、重さを持つと仮定して、
それら無限の切り口がすべて、支点に対してつり合うということを根拠にそれら線分を集め
た(無限に)図形もつりあうはずだという、ある種の公理を前提しています。

 図なしではそのつり合いの議論を行いにくいので、参考図書をあげておきます。

1 T.L.Heath 英訳 「The method of Archimedes」 pp38〜40 proposition12
2 林栄治 斎藤憲 著「天秤の魔術師 アルキメデスの数学」pp173〜178 命題13

 1については、フリーのPDFが公開されています。なお、著者により、命題の番号付が異な
りますのでご注意ください。

 半円の重心決定の積分計算はそれなりに複雑ですが、新たな技法を生まなくとも既存の
技法で解ける問題は解いてやるという凄みと、そのエレガントな内容がアルキメデスの研究
成果のなかでも際立っている命題と思います。

 因みに、アルキメデスには、半円の重心決定は、いわゆる合蓋(直交交差円柱体)の
体積決定のための準備だったようです。


 空舟さんからのコメントです。(平成25年7月16日付け)

 紹介の文献を読み、理解しました。折角なので数式的に書くことを試みておきます。

補題 2つの線分 A≦y≦B  と C≦y≦D が、x=0で「釣り合う」

    ⇔ (B2−A2)+(D2−C2)=0

 実際に、1つ目の線分の重心は、(A+B)/2 であり、重さは、(B−A)k

 2つ目の線分の重心は、(C+D)/2 であり、重さは、(D−C)k

 「釣り合う」ということは、それらの積の和が0である。

 (B−A)k・(A+B)/2+(D−C)k・(C+D)/2=0

 すなわち、 (B2−A2)+(D2−C2)=0


 さて、本題です。三角形を、 −1≦y≦ −|x| 、半円を、 0≦y≦√(1−x2) で示す。

x座標を固定して切り取られた線分を考えると、先の補題に示した関係式を満たすことが分
かった(技巧的!)。

 実際に、直線 x=t (0≦t≦1) で切り取られた三角形の方の線分ABについて、

    A(t,−1) 、B(t,−t) より、 (B2−A2)=t2−1

 直線 x=t (t≧0) で切り取られた半円の方の線分CDについて、

    C(t,0) 、D(t,√(1−t2)) より、 (D2−C2)=1−t2

 したがって、 (B2−A2)+(D2−C2)=(t2−1)+(1−t2)=0


(コメント) 最初、(B2−A2)=(D2−C2)では?と思ったのですが、実際に上記のように計
      算してみると、(B2−A2)+(D2−C2)=0 なんですね!


(追記) 重心の実験について、GAI さんからの投稿です。(平成25年9月11日付け)

 任意の三角形の重心Gの位置は、おなじみの各中線の交点で発見される。この点は厚紙
でこの三角形を作って、その点に細い棒を当てるとバランスよく釣り合う。また、各頂点に同
じ重さ(例えば10円)を釣り下げても、そこの点は変えなくてもよい。

 一方、任意の四角形を厚紙でつくり、どこで釣り合うかを探す方法は、向かい合う頂点をそ
れぞれ結び、4つに分かれる三角形(時計まわりにA,B,C,Dと名付ける)を2つずつ組み
合わせる(A,B一体とC,D一体もしくはB,C一体とA,D一体)ことでできる三角形を考えて、
それぞれの三角形にできる重心G1、G2、もしくはG3,G4を作図で見つけ出し、G1、G2を
結ぶ線分とG3,G4を結ぶ線分を引いて、その交点がバランスをとれる位置として発見され
る。

 ところが、この位置は各頂点に10円玉を釣り下げてみるとバランスが崩れ、三角形のよう
に同じ点として存在できなくなる。(厚紙による実験での現象より)

 なお、こちらの点は、頂点から500円玉を糸でつるし、頂点を持って四角形を持ったとき糸
が垂れる線を2カ所の頂点で実験して2本の線が交わる点として発見できる。

 このように重心という概念は四角形以上の形状では二通り考えられるのではと思いました。
これらのことに関する意見を聞かせて下さい。


 らすかるさんからのコメントです。(平成25年9月11日付け)

 四角形の頂点に十円玉を吊り下げたものの重心は、「四角形の重心」とは言わない(関係
ない)と思います。


 ももっこうの父さんからのコメントです。(平成25年9月11日付け)

 凹四角形の中には、重心が内部にないものがあるので…。4分割も無理ですし…。4分割
された三角形の面積がばらばらなので、位置ベクトルで表したら、どうでしょうか?2分割した
三角形の重心を結ぶ線分上で考えないと、新たな4点が現れるので、困りませんかねえ?


 りらひいさんからのコメントです。(平成26年2月3日付け)

 私は物理系出身ですので、物体の重心 g といえば次の式を思い浮かべます。

  g=(∫V xρ(x)dx)/(∫V ρ(x)dx)  または  g=(Σ[i]m[i]x[i])/(Σ[i]m[i])

(※m[i]やx[i]はm,xに下付き添え字iのつもりです。m_iとかx_iとか書きたいけどまぎわらしくな
るし、どうしたものか…。)

 ここで、Vは物体の占める空間、ρ(x)は物体の密度、m[i]、x[i]は物体のi番目部分の質量、
位置です。

 Wikipediaの重心のページにおいては、密度がf(x)である図形Dに対して、∫D (g-x)f(x)dx=0
を満たす点gを重心と定義しています。これを変形すると、g=(∫D xf(x)dx)/(∫D f(x)dx) とな
って、最初に示した力学における式と一致しています。

 数学的には、密度f(x)がconstantの場合を議論することがほとんどでしょう。すなわち、

  ∫D (g-x)dx=0  あるいは、式変形すれば、 g=(∫D xdx)/(∫D dx)

となります。さて、この定義のもとで、GAIさんの投稿に対する意見を述べようと思います。

 その前に、GAIさんの二つの実験を式で表してみたいと思います。念のため述べておきま
すが、以下でxは2次元座標です。

 まず、四角形の厚紙のみ(十円玉なし)の実験を式で表します。厚紙の面密度をr(x)、厚
紙の質量をmとおくと、 m=∫D r(x)dx となります。重心の位置gは、

  g=(∫D xr(x)dx)/(∫D r(x)dx) =(∫D xr(x)dx)/m

です。厚紙の面密度が一定であるとみなせるならば、このgは数学的な重心と一致します。

それに対して、頂点に十円玉を吊り下げた場合の実験について式に書き下してみます。

 4つの頂点の位置ベクトルをabcdとおきます。十円玉の質量をMとおけば、厚紙と
十円玉をあわせた全体の面密度f(x)は、

  f(x)=r(x)+Mδ(x-a)+Mδ(x-b)+Mδ(x-c)+Mδ(x-d)

となります。ここでδ(x)は(変数が2次元の)ディラックのδ関数です。厚紙と十円玉を合わ
せた系の重心の位置g'は、

g'=(∫D xf(x)dx)/(∫D f(x)dx)
  =(∫D xr(x)dx+M∫D xδ(x-a)dx+M∫D xδ(x-b)dx+M∫D xδ(x-c)dx+M∫D xδ(x-d)dx)
  /(∫D r(x)dx+M∫D δ(x-a)dx+M∫D δ(x-b)dx+M∫D δ(x-c)dx+M∫D δ(x-d)dx)
  =(mg+Ma+Mb+Mc+Md)/(m+M+M+M+M)
  =(mg+M(a+b+c+d))/(m+4M)

となります。もし、厚紙の質量が十円玉の質量に比べて十分に小さく(m<<M)、無視できるの
ならば(m/M<<1)、

  g
'=((m/M)g+a+b+c+d)/(m/M+4)≒(a+b+c+d)/4

となります。このとき、g'は4頂点の座標を算術平均した座標の点になっているといえます。

 さて、ここから私の意見です。

 通常「四角形の重心」というときは、定義における図形Dに(内部まで含めた2次元図形とし
ての)四角形をあてはめていると考えられます。

 そして、4つの三角形に分けて求めるやり方であれば、正しくこの「四角形の重心」を求める
ことができます。

 凹四角形の場合にも(四角形の外側でも作図ができるという前提で)同じようなやり方で求
められます。

 四角形の厚紙のみの実験では、厚紙の面密度が一定ならこの重心の位置で釣り合うでし
ょう。しかし十円玉ありの実験で釣り合う点はこの意味での「四角形の重心」とは呼べないと
思います。

 重心という言葉を使うとしたら、厚紙の重さが無視できる場合に「平面上にある(等しい重
みを持つ)4点の重心」とでもいうべきでしょう。

 ところで、GAIさんがどうしてこのように考えたのかは三角形の場合の特殊な事情に起因し
ているようです。

 三角形の場合、私が述べた定義から求めた重心と、3つの頂点座標を算術平均した点が
一致します。
(2次元空間の三角形の場合に限らず、一般にn次元空間ではn次元単体で同様のことが示
せます。)

 この事実から、三角形ならば十円玉を吊り下げても釣り合う点は変わらないということにな
ります。この三角形における現象を四角形にも適用しようとしてしまったのではないかと思い
ました。

 三角形の重心がg=(a+b+c)/3で表されることは有名ですが、これは三角形の場合に限っ
て導かれるものであると思っていたほうがいいと思います。
(もっというなら、単体では頂点座標を算術平均した点が重心と一致するが、一般の図形で
はそうなるとは限らないということです。)

 数学のページなのに半分物理みたいな話題になってしまいました。


(追記) 当HPがいつもお世話になっているHN「或る髷すと」さんから「アルキメデスの半円
    の重心決定問題」について補足をいただきました。(平成28年7月24日付け)

 約3年前にアルキメデスの半円の重心決定について投稿したのですが、こちらのサイトは
数学系?のブログなどに引用されることも多いようで、その際、誤解されている部分がある
ようですので、補足したいと思います。

 また夏休み期間ということもあり、意欲的な中学生の参考にもなるように、関数を使わず、
図形の問題として、ご紹介します。

  左図において、△GHMが半円RQPと天秤の横木
 OQについて、支点Hで釣り合うことを示せば、三角
 形の重心と面積、半円の面積は既知ですので、半円
 の重心を決定できることになります。

  なお、アルキメデスは、「線分の重心は線分の中点
 である」こと、つり合いの原理「面積AとBの図形がそ
 れぞれ、重心と支点からの距離がCとDでつるされて
 いるとき、A:B=D:C のとき、図形はつり合う」とい
 うことを公理(要請)としています。

 そして、図形の切り口である線分や面がつりあえば、それらで無限に満たされている元の
図形もつり合うということを明確に公理とはしていませんが、議論の前提としています。

 さて、以上から、SKとLWがつり合うことを示せば半円と三角形のつり合いを示せます。

 LWとSKの支点Hを通る垂線から重心までの距離はそれぞれ (SL+SW)/2、SK/2

ですので、 SK:LW=SL+SW:SK 即ち、 SK2=LW・(SL+SW) を示せばよいこ

とになります。まず、SK2+SH2=HK2  *HK=円OPQRの半径

 SL=HKで、SH=SWであるから、 SK2+SW2=SK2+SH2=HK2=SL2

 よって、 SL2−SW2=SK2 が成り立つ。

 ここで、SL2−SW2=(SL−SW)(SL+SW)=LW・(SL+SW)

※ a2-b2=(a+b)(a-b) は図形の問題として、ユークリッド『原論』の第2巻命題5,6 で少し
 異なる形で扱われています。古代ギリシャ人は辺SLの正方形と辺SWの正方形の面積
 の差を辺LW、(SL+SW)の長方形の面積に変換して議論します。代数計算をしている
 わけではないのです。

 よって、 SK2=LW・(SL+SW) となり、線分のつり合いがしめされたので、三角形と
半円もつり合う。

 円の半径を r、半円の重心から支点Hまでの距離を g とすれば、

 半円の面積は、πr2/2、三角形の面積は、r2、支点から三角形の重心までの距離は、(2/3)r
ですので、(※三角形の重心はアルキメデスの『平面のつり合いについて』で証明されています。

 πr2/2 : r2 = (2/3)r : g より、 g=4r/(3π) となる。



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