マルコフの鎖                       戻る

  今、次のような問題を考える。

 Aの袋には1と−1のカードが1枚ずつ、Bの袋には0と1のカードが1枚ずつ入っている。A、B
の袋から、それぞれ1枚のカードを任意に取り出し、互いのカードを交換して袋に戻すという試行
を繰り返す。n回の試行の後、Aの袋に入っている2枚のカードの数の和がkになる確率をP(k)
で表す。ただし、nは自然数とする。このとき、P(1)を求めよ。

 n=2のとき、Aにおいて和が1となる場合は次の通りである。
{1、−1}⇒{1、−1}⇒{1、0}  このときの確率は、(1/2)×(1/2)=1/16
{1、−1}⇒{0、−1}⇒{0、1}  このときの確率は、(1/2)×(1/2)=1/8
{1、−1}⇒{1、1}⇒{1、0}    このときの確率は、(1/2)×(1/2)=1/8
{1、−1}⇒{1、0}⇒{1、0}    このときの確率は、(1/2)×(1/2)=1/16
  従って、P(1)=3/8 となる。
 n の値が小さい場合は、このようにコツコツ樹形図を書いて求めることができるが、一般の n
について樹形図を書くことは不可能であり実戦的ではない。
 上記問題をじっくり腰を落ち着けて考えると、
袋Aの状態は、{1、−1}、{1、0}、{0、−1}、{1、1} の4通りしかなく、試行を何回続けても、この
いずれかの状態になっていて、これらの状態を行き来しているにすぎない
ということが、見えてくる。

 試行回数 n=0,1,2,3,・・・の各場合において定まる観測値X(n)がある確率変数の実現値
であるとき、{X(n)} を確率過程と呼ぶ。特に、m<n とするとき、n における状態の確率が、mに
おける状態のみによって定まり、m以前には無関係である、つまり、未来は現在のみに関係し、
過去には関係しないという場合の確率過程のことを、マルコフ過程という。
 マルコフ過程において、確率変数X(n)のとりうる値が有限個のとき、マルコフの鎖という。
X(n)のとりうる値を、状態といい、起こりうる状態の集合を、状態空間と呼ぶ。

 上記問題において、袋Aの数字の和をX(n)とすると、状態空間は{−1,0,1,2} となる。これら
の状態間での推移と、それに伴う推移の確率を求めて図示すると、次のような推移図式が得られ
る。
推移図式 この推移図式を用いると、P(1) の値は次のように
して求められる。
 P(1)=(1/2)P(-1)+(1/4)P(0)
              +(1/4)P(1)+(1/2)P(2)
 状態0から出発するので、
  P(-1)=P(0)=P(1)=P(2)=1/4
 従って、P(1)=(3/2)×(1/4)=3/8 となる。
  
  一般に、
 P(1)=(1/2)P−1(-1)+(1/4)P−1(0)
           +(1/4)P−1(1)+(1/2)P−1(2)
 同様にして、
 P(-1)=(1/4)P−1(0)+(1/4)P−1(1)
 P(0)=(1/2)P−1(-1)+(1/4)P−1(0)
                                     +(1/4)P−1(1)+(1/2)P−1(2)
                           P(2)=(1/4)P−1(0)+(1/4)P−1(1)
 これらを整理すると、
       P(1)=P−1(-1)+(1/2)P−1(1)、 P(-1)=(1/2)P−1(1)

従って、 P(1)+P(-1)=P−1(1)+P−1(-1)=P(1)+P(-1)=1/2 ・・・・(
また、
  P(1)−2P(-1)=P−1(-1)−(1/2)P−1(1)=(−1/2)(P−1(1)−2P−1(-1)) より、
      P(1)−2P(-1)=−(−1/2)n+1・・・・(**

)(**)から、連立方程式を解いて、
                 (1)=(1/3)(1−(−1/2)n+1)

(参考文献:渡部隆一 著 確率(共立出版)
        岡安 實 著 確率・統計(旺文社))