重ね合わせの理
重ね合わせの理は、キルヒホッフの法則などを用いて電気回路を計算するときに利用さ
れる手法のひとつである。この重ね合わせの理は連立一次方程式の解法にも応用される。
この事実に興味・関心があり、このページを起こすこととした。
連立一次方程式の解法は原理的には難しくないが、係数が分数(小数)などの場合、数
値計算は非常に大変である。手計算で行う場合、未知数の数が n 倍になると、それを解く
手間は n3 倍にもなるという。
重ね合わせの理を理解するために、次の例から考えてみよう。
例 次の連立方程式を解け。 3x+4y=6 、2x−3y=4
この問題は中学2年生レベルである。中学生だったら次のように解くのだろう。
(解) (第1式)×3+(第2式)×4 より、 17x=34 よって、x=2 、y=0 (終)
これに対して、「重ね合わせの理」を用いた解法は次のようになる。
(解) 2組の連立方程式を考える。
(1) 3x+4y=1 、2x−3y=0
(2) 3x+4y=0 、2x−3y=1
(1)において、 x=3m 、y=2m なので、 17m=1 より、 m=1/17
よって、 x=3/17 、y=2/17
(2)において、 x=4n 、y=−3n なので、 17n=1 より、 n=1/17
よって、 x=4/17 、y=−3/17
このとき、重ね合わせの理により、もとの連立方程式の解は、
x=6(3/17)+4(4/17)=34/17=2 、y=6(2/17)+4(−3/17)=0 (終)
この重ね合わせの理の正当性は次の式変形から理解される。
とおくと、 | なので、連立方程式は、 |
と書ける。よって、
重ね合わせの理は、(6,4)そのものを考えるのではなく、どちらか一方を
0 として(1,0)
や(0,1)を考える点に特徴がある。
複数の電源がある回路で、「どちらか一方を0」とする考え方は、電源を1つずつ考えるこ
とに相当し、それらの結果を足し合わせて電流や電圧が求める方法が「重ね合わせの理」
(principle of superposition)である。
例 次の回路に流れる電流を求めよ。ただし、V1、V2、V3 は各電池の起電力とする。
(解)
左図において、AからBへ流れる電流を x 、AからDへ
流れる電流を y 、BからDへ流れる電流を z とおくと、
キルヒホッフの第一法則により、
BからCへ流れる電流は x−z 、
DからCへ流れる電流は y+z 、
CからEを通ってAへ流れる電流は x+y
となる。
このとき、キルヒホッフの第二法則により、
回路ABCEAについて、 (x+y)+x+(x−z)=V1 すなわち、 3x+y−z=V1
回路ADCBAについて、 y+(y+z)+(−y)+(−x)=V2 すなわち、 −x+y+z=V2
回路BDCBについて、 z+(y+z)+(−x+z)=V2 すなわち、 −x+y+3z=V3
(第1式)+(第2式) より、 2x+2y=V1+V2 すなわち、 x+y=V1/2+V2/2
(第2式)×(−3)+(第2式) より、 2x−2y=−3V2+V3
すなわち、 x−y=−3V2/2+V3/2
したがって、
x=V1/4−V2/2+V3/4 、y=V1/4+V2−V3/4 、z=−V2/2+V3/2 (終)
この問題を、重ね合わせの理を用いて解いてみよう。
(別解) V2=V3=0 のとき、 3x+y−z=V1 、−x+y+z=0 、−x+y+3z=0
z=0 で、 3x+y=V1 、−x+y=0 より、 x=V1/4 、y=V1/4
V1=V3=0 のとき、 3x+y−z=0 、−x+y+z=V2 、−x+y+3z=0
x=z で、 y=V2 、x=−V2/2 、z=−V2/2
V1=V2=0 のとき、 3x+y−z=0 、−x+y+z=0 、−x+y+3z=V3
x=−y 、 z=−2y で、 y=−V3/4 、x=V3/4 、z=V3/2
このとき、重ね合わせの理により、求める x、y、z の値は、
x=(V1/4)+(−V2/2)+(V3/4)=V1/4−V2/2+V3/4
y=(V1/4)+(V2)+(−V3/4)=V1/4+V2−V3/4
z=(0)+(−V2/2)+(V3/2)=−V2/2+V3/2 (終)