3.微分方程式を解く                   戻る

(1) 求積法・・・不定積分を有限回行うことによって一般解を求める方法

 与えられた1階微分方程式のタイプにより、解法には3つのパターンがある。

(イ) 変数分離形・・・Y’=F(X)G(Y)のタイプ

例  Y’=Y/X

 (1/Y)Y’=1/X の形に変形し、両辺の不定積分を求めればよい。
 一般解は、Y=CX (Cは任意定数)

(ロ) 同次形・・・Y’=F(Y/X)のタイプ

例  Y’=Y/X

 Y/X=Zとおくと、Y=XZ  両辺をXで微分して、Y’=Z+XZ’
 よって、Z+XZ’=Zより、XZ’=0  ゆえに、Z’=0
 したがって、Z=C (Cは任意定数)より、一般解は、Y=CX

(ハ) 線形・・・Y’+PY=Q (P、QはXの関数)のタイプ

 一般解は、

 
ただし、e は自然対数の底で、Cは任意定数

(略証) Q=0 として微分方程式を解き、そのときの任意定数をXの関数とみなして、与え
られた微分方程式に代入する。任意定数に関する微分方程式を解き、その解を求めれば、
公式を得ることができる。(このような解法を、定数変化法といい、最初に応用した人は、
Jacques Bernoulli である。)

例 Y’+Y=X

 一般解は、Y=X−1+C−X (Cは任意定数)

 上記のパターン以外に、求積法により解くことができる微分方程式としては、Jean Bernoulli
の微分方程式((ハ)におけるQがQYの形で、Z=Y1−nとおけばよい)、Riccati の微分方程
式(求積法では解けないが、一つの特殊解が求まれば、求積法により解くことができる)、
Clairaut の微分方程式およびその一般化されたLagrange の微分方程式 等々あるが、興味
をもたれた方は、是非専門書にあたられたい。

 高階の微分方程式については、次の例をあげるにとどめる。ニュートンの運動方程式を解
くには十分であろう。

例 Y”=Y

 両辺に、2Y’を掛けることが、定石である。2Y’Y”=2YY’ より (Y’)’=(Y)’から、
Y’=Y+C
両辺の平方根を求め、後は1階の微分方程式の解法に従えばよい。
(以下の解答は省略するが、Y+√(Y+C)=t と置くタイプの置換積分を駆使するなど相当
な計算力を要する。)

 上記の例のような微分方程式では上のように解くということを学んで以来、それ以外の解
答については、あまり深く考えることはなかったが、下記のような驚くべき別解があるので、
紹介したい。非常に技巧的で、惚れ惚れしてしまう(と思う)!

例 Y”=Y

 V=−Y’(-x)+Y(-x) 、W=Y’(-x)−Y(-x)  とおく。
このとき、V’=−Y”(-x)−Y’(-x)+Y’(-x)+Y(-x)=0
 W’=Y”(-x)+Y’(-x)−Y’(-x)−Y(-x)=0
よって、V、Wは定数である。ところで、
 V(-x)+W(-x)=Y(-x)−Y(-x)=4Y
ここで、(V+W)/4=A、(V−W)/4=B とおくと、
 Y=A+B-x  (A、Bは任意定数)
となる。(俣野 博 氏(東京大学)による解答)

(注意) 微分方程式を求積法で解くにあたり、気になる点がある。例えば、微分方程式
 Y’=Y において、両辺をYで割るときである。

 小学校以来、0で割ってはいけないと繰り返し言われてきた人なら、なおさらであろう。Xの
ある瞬間 Yが0になって、そのとき割っていいものか、悩む人は多い。

 これに関して、その悩みを打破するような有名な解答が存在する。

 まず、微分方程式 Y’=Y は、通常、次のように解かれる。

 Y≡0 は解である。
 Y≠0 のときは、求積法により、Y=C (Cは、0と異なる任意定数) である。
ここで、Y≡0 は、C=0 とすればよいから、求める一般解は、
 Y=C (Cは任意定数) となる。
ここで、あるXに対して、Y=0 という場合が起こらないことは、次のようにして納得される。
 微分方程式 Y’=Y の一つの解を Y とし、u=-x とおく。
このとき、明らかに u’=0 なので、u=C (Cは任意定数) となる。
 よって、 Y=C  (Cは任意定数)
 ゆえに、C=0 ならば、Y≡0 であり、C≠0 ならば、あるXで Y=0 ということは起
こりえない。

 ここら辺の議論は、実は解の一意性の議論とも関係していて、難しい面がある。高等学校
程度の、ごく初歩的な段階では、あまり神経質にならないほうが得策かもしれない。


(追記) 令和6年8月8日付け

 実際の大学入試問題で、微分方程式を解く問題を考察しておこう。
(1996年までの学習指導要領にあった「微分方程式」が、1997年〜2005年の学習指導
要領で消滅したが、2006年〜の学習指導要領では若干復活した。ただ、変数分離形程度
に止まり、往年の微分方程式とはほど遠い。理工系にとっては重要な概念なので、学校で教
わらなくても身に付けておきたいところだ。)

 東北大学 理系(1977)で、次の問題が出題された。

第5問  400Lの水が入っている水槽がある。はじめに排水口を閉じたまま、この水槽に
  1Lにつき0.2kgの塩を含む塩水を、毎分10Lの割合で注ぐ。このように塩水を注ぎ続
  けながら、10分後からは排水口をあけて毎分10Lの割合で混合液を流出させる。

 ただし、水槽内の塩水の濃度はつねに一様に保たれており、混合液は水槽からあふれな
いものとする。

(1) 塩水を注ぎはじめてから t 分後の水槽内の塩の量を x kgとする。そのとき塩水の濃
  度(kg/L)を t と x を用いて表せ。
(2) 塩水を注ぎはじめてから1時間後の水槽内の塩の量はいくらか。

(解)(1) 0≦t≦10 のとき、濃度は、 100x/(400+10t) (%)

 t≧10 のとき、濃度は、 100x/500=x/5 (%)

(2) 1時間後の水槽内の塩の量が問題なので、 t≧10 としてよい。

 入ってくる塩の量は、1分あたり、 0.2×10=2(kg)

 出ていく塩の量は、1分当たり、 10×(x/5)÷100=x/50(kg)

このとき、dx/dt=2−x/50=−(x−100)/50 より、 dx/(x−100)=−dt/50 より、

 log|x−100|=−(1/50)t+C

よって、 x−100=±e^C・e^(−(1/50)t)

ここで、 ±e^C を改めてCとおくと、 x=100+Ce^(−(1/50)t)

t=10 のとき、x=20 なので、 20=100+Ce^(−1/5) より、C=−80e^(1/5)

したがって、 x=100−80e^(1/5−(1/50)t) となる。

 このとき、1時間後の水槽内の塩の量は、t=60 を代入して、

 x=100−80e^(−1)=100−80/e  (終)


(コメント) 排水しなければ、1時間後の塩の量は120kgになるのだが、排水したせいで、
    塩の量は70kg程度に収まるんですね!


(追記) 令和6年9月2日付け

 東北大学 理系(1979)で、次の問題が出題された。

第6問  底面の半径 r の直円柱のタンクに、高さ h まで水が入っているとする。今タンク
  の底に亀裂が生じ、水もれが起こったとする。流出する水量の速さは水面の高さに比例
  し、1時間後には全体のα%が流出したとする。t 時間後にタンクに残っている水量はい
  くらか。

(解) t 時間後の水の高さを x とすると、そのときの水量は、 πr2

このとき、流出する水量の速さは、πr2・dx/dt で、題意より、

 πr2・dx/dt=kx (kは定数) とおける。

よって、 πr2・log x =kt+C (Cは任意定数) となる。

t=0 のとき、x=h より、 C=πr2・log h と書けるので、 πr2・log x/h =kt

t=1 のときの水の高さを x0 とすると、題意より、 πr2(h−x0)=πr2h(α/100)

 よって、 x0=(1−α/100)h と書けるので、 k=πr2・log(1−α/100)

以上から、 log x/h =t・log(1−α/100) より、

 x/h=(1−α/100) すなわち、 x=h・(1−α/100)

したがって、t 時間後にタンクに残っている水量は、

 πr2h・(1−α/100)  (終)


(コメント) 1時間後には全体のα%が流出することから、

 1時間後のタンクに残っている水量は、 πr2h・(1−α/100)

 2時間後のタンクに残っている水量は、

 πr2h・(1−α/100)・(1−α/100)=πr2h・(1−α/100)2

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・

 t 時間後のタンクに残っている水量は、 πr2h・(1−α/100)

と考えた方が素直かな?


(追記) 令和6年9月12日付け

 東北大学 理系(1980)で、次の問題が出題された。

第6問  F(x)は、x≧0 で定義された連続関数で、条件
   F(1)=F’(1)=0、F”(x)>0 (x>0)
を満たすとする。曲線 C : y=F(x) 上の点(x ,F(x)) (x>0) におけるCの接線と曲線Cお
よび y 軸とで囲まれる部分の面積が x3 になるという。関数F(x)を求めよ。

(解) 曲線 C : Y=F(X) 上の点(x ,F(x)) におけるCの接線の方程式は、

 Y=F’(x)(X−x)+F(x) である。

 F”(x)>0 (x>0)より、x>0 において、F(x)は下に凸である。

題意より、 x3=∫0x (F(X)−F’(x)(X−x)−F(x))dX

すなわち、 x3=∫0x F(X)dX−F’(x)(x2/2)+x2F’(x)−xF(x)

両辺を x で微分して、

(x3+3x2)e=F(x)−F”(x)(x2/2)−xF’(x)+2xF’(x)+x2F”(x)−F(x)−xF’(x)

すなわち、 (x3+3x2)e=F”(x)(x2/2) より、 F”(x)=(2x+6)e

よって、 F’(x)=(2x+4)e+C (Cは積分定数) において、

 F’(1)=6e+C=0 より、 C=−6e

よって、 F’(x)=(2x+4)e−6e より、

 F(x)=(2x+2)e−6xe+D (Dは積分定数) において、

 F(1)=−2e+D=0 より、 D=2e

以上から、 F(x)=(2x+2)e−6xe+2e=2(x+1)e−2(3x−1)e  (終)


(追記) 令和6年9月22日付け

 次の東北大学 理系(1981)の問題は、まず微分方程式を作って解くというタイプの問題
である。

問題3  放物線 y=x2 上を動く点Pがあって、時刻 t=0 のときの位置は原点である。また、
  時刻 t のとき、Pの速度ベクトルの x 成分は、sin t である。速度ベクトルの y 成分が最
  大となるときのPの位置を求めよ。また、そのときにおけるPの速度ベクトルおよび加速度
  ベクトルを求めよ。

(解) P(x,x2)において、題意より、 dx/dt=sin t より、 x=−cos t +C

 t=0 のとき、x=0 より、 C=1 なので、 x=1−cos t

このとき、速度ベクトルの y 成分は、 2x・dx/dt=2sin t (1−cos t )

よって、 v=2sin t (1−cos t ) とおくと、

 v’=2cos t (1−cos t )+2sin2 t =2cos t −2cos2 t +2−2cos2

 =−4cos2 t +2cos t +2=−2(2cos t +1)(cos t −1)=0 を解くと、

 0≦t≦2π において、 t =2π/3 、4π/3 、0 、2π



増減表より、t=2π/3 で、v は極大かつ最大となる。

このとき、x=3/2 より、P(3/2,9/4) である。

Pの速度ベクトルは、(−/2,3/2) で、

 (sin t )’=cos t =−1/2 、v’=0

から、Pの加速度ベクトルは、(−1/2,0) となる。  (終)


(追記) 令和6年10月1日付け

 次の東北大学 理系(1981)の問題も微分方程式を解く問題である。

問題6  平面上を運動する点Pの座標(x,y)が時刻 t のとき、x=F(t)sin t、y=F(t)cos t で
  表されている。Pは t=0 のとき、(0,1)にあり、t が限りなく大きくなるとき原点 (0,0)に
  近づき、時刻 t における速さは、2F(t)に等しいという。

(1) 関数F(t)を求めよ。
(2) 時刻 0 から時刻 a までの間に、点Pが動く道のりを求めよ。ただし、a>0 とする。

(解)(1) x’=F’(t)sin t+F(t)cos t 、y’=F’(t)cos t−F(t)sin t より、

 (x’)2+(y’)2=(F’(t)sin t+F(t)cos t)2+(F’(t)cos t−F(t)sin t)2=(F’(t))2+(F(t))2

よって、条件より、 (F’(t))2+(F(t))2=4(F(t))2 すなわち、 (F’(t))2=3(F(t))2

 F’(t)=±F(t) から、 F’(t)/F(t)=± なので、 log|F(t)|=±

すなわち、 F(t)=C・e^(±t) となる。

ここで、F(0)=1 なので、 C=1 より、 F(t)=e^(±t)

t が限りなく大きくなるとき原点 (0,0)に近づくので、F(t)=e^(t)は不適。

 以上から、 F(t)=e^(−t)

(2) (x’)2+(y’)2=4e^(−2t) なので、求める道のりは、

0a 2e^(−t)dt=[−(2/)e^(−t)]0a=(2/)(1−e^(−a))  (終)


(追記) 令和6年10月24日付け

 次の東北大学 理系(1983)の問題は、解法のヒントが与えられている。

問題6  P(x,y)は第1象限を y 座標が増加する方向に動く点で、時刻 t のとき、その位置
  は、 x=4−2F(t) 、y=F(t) で与えられ、その速さは xy に等しいという。

(1) F(t)の満たす微分方程式を求めよ。また、G(t)=1/F(t) とおいたとき、G(t)の満た
  す微分方程式を求めよ。
(2) 時刻 t=0 におけるPの座標が(2,1)であるとして、F(t)を求めよ。
(3) (2)において、t → ∞ のとき、Pはどのような点に近づくか。

(解)(1) x’=−2F’(t) 、y’=F’(t) より、 (x’)2+(y’)2=5(F’(t))2

よって、速さは、 F’(t)=(4−2F(t))F(t) となる。

G(t)=1/F(t) より、 G’(t)=−F’(t)/F2(t) なので、 −G’(t)=4G(t)−2

(2) G’(t)/(4G(t)−2)=−1/ より、 (1/4)log|4G(t)−2|=−t/+C

 t=0 のとき、 F(0)=1 なので、 G(0)=1 より、 C=(1/4)log2

よって、 log|2G(t)−1|=−4t/ より、 2G(t)−1=±e^(−4t/

G(0)=1 より、2G(t)−1=e^(−4t/) すなわち、 G(t)=(1+e^(−4t/))/2

以上から、 F(t)=2/(1+e^(−4t/))

(3) t → ∞ のとき、e^(−4t/) → 0 なので、 F(t) → 2

よって、 P → (0,2) に近づく。  (終)



  以下、工事中!