(1)
求積法・・・不定積分を有限回行うことによって一般解を求める方法
与えられた1階微分方程式のタイプにより、解法には3つのパターンがある。
(イ) 変数分離形・・・Y’=F(X)G(Y)のタイプ
例 Y’=Y/X
(1/Y)Y’=1/X の形に変形し、両辺の不定積分を求めればよい。
一般解は、Y=CX (Cは任意定数)
(ロ) 同次形・・・Y’=F(Y/X)のタイプ
例 Y’=Y/X
Y/X=Zとおくと、Y=XZ 両辺をXで微分して、Y’=Z+XZ’
よって、Z+XZ’=Zより、XZ’=0 ゆえに、Z’=0
したがって、Z=C (Cは任意定数)より、一般解は、Y=CX
(ハ) 線形・・・Y’+PY=Q (P、QはXの関数)のタイプ
一般解は、
ただし、e は自然対数の底で、Cは任意定数
(略証) Q=0 として微分方程式を解き、そのときの任意定数をXの関数とみなして
与えられた微分方程式に代入する。任意定数に関する微分方程式を解き、そ
の解を求めれば、公式を得ることができる。(このような解法を、定数変化法と
いい、最初に応用した人は、Jacques Bernoulli である。)
例 Y’+Y=X
一般解は、Y=X−1+C
e−X (Cは任意定数)
上記のパターン以外に、求積法により解くことができる微分方程式としては、
Jean Bernoulli の微分方程式((ハ)におけるQがQY
nの形で、Z=Y
1−nとおけばよい)
Riccati の微分方程式(求積法では解けないが、一つの特殊解が求まれば、求積法に
より解くことができる)
Clairaut の微分方程式およびその一般化されたLagrange の微分方程式 等々
あるが、興味をもたれた方は、是非専門書にあたられたい。
高階の微分方程式については、次の例をあげるにとどめる。ニュートンの運動方程式を解
くには十分であろう。
例 Y”=Y
両辺に、2Y’を掛けることが、定石である。
2Y’Y”=2YY’ より (Y’
2)’=(Y
2)’から、Y’
2=Y
2+C
両辺の平方根を求め、後は1階の微分方程式の解法に従えばよい。
(以下の解答は省略するが、Y+√(Y
2+C)=t と置くタイプの置換積分を駆使
するなど相当な計算力を要する。)
上記の例のような微分方程式では上のように解くということを学んで以来、それ以外の解
答については、あまり深く考えることはなかったが、下記のような驚くべき別解があるので、
紹介したい。非常に技巧的で、惚れ惚れしてしまう(と思う)!
例 Y”=Y
V=−Y’(
ex−
e-x)+Y(
ex+
e-x)
W=Y’(
ex+
e-x)−Y(
ex−
e-x) とおく。
このとき、V’=−Y”(
ex−
e-x)−Y’(
ex+
e-x)+Y’(
ex+
e-x)+Y(
ex−
e-x)=0
W’=Y”(
ex+
e-x)+Y’(
ex−
e-x)−Y’(
ex−
e-x)−Y(
ex+
e-x)=0
よって、V、Wは定数である。ところで、
V(
ex+
e-x)+W(
ex−
e-x)=Y(
ex+
e-x)
2−Y(
ex−
e-x)
2
=4Y
ここで、(V+W)/4=A、(V−W)/4=B とおくと、
Y=A
ex+Be-x (A、Bは任意定数)
となる。(俣野 博 氏(東京大学)による解答)
(注意) 微分方程式を求積法で解くにあたり、気になる点がある。
例えば、微分方程式 Y’=Y において、両辺をYで割るときである。
小学校以来、0で割ってはいけないと繰り返し言われてきた人なら、なおさらであろう。
Xのある瞬間 Yが0になって、そのとき割っていいものか、悩む人は多い。
これに関して、その悩みを打破するような有名な解答が存在する。
まず、微分方程式 Y’=Y は、通常、次のように解かれる。
Y≡0 は解である。
Y≠0 のときは、求積法により、Y=C
ex (Cは、0と異なる任意定数) である。
ここで、Y≡0 は、C=0 とすればよいから、
求める一般解は、
Y=C
ex (Cは任意定数)
となる。
ここで、あるXに対して、Y=0 という場合が起こらないことは、次のようにして納得
される。
微分方程式 Y’=Y の一つの解を Y
1 とし、u=
e-xY
1 とおく。
このとき、明らかに u’=0 なので、u=C (Cは任意定数) となる。
よって、 Y
1=C
ex (Cは任意定数)
ゆえに、C=0 ならば、Y
1≡0 であり、
C≠0 ならば、あるXで Y
1=0 ということは起こりえない。
ここら辺の議論は、実は解の一意性の議論とも関係していて、難しい面がある。高等学校
程度の、ごく初歩的な段階では、あまり神経質にならないほうが得策かもしれない。