近似について
当HPでは、いろいろな値を手計算で求める方法をいくつか紹介してきた。
平方根・立方根を筆算で求める方法について、、手計算が面白い、方程式による開平、
無理数を近似する分数、超越数を手計算で求める、平方根2を求める数列、
高次方程式の解の近似計算、・・・・・・・・・・・・
もちろん上記のような計算は大切であるが、ちょっと不満もあった。それは、手計算といっ
ても結構な計算が必要だということである。
数のおよその値を自力で計算するという趣旨は達成しているが、そのおよその値を即座
に暗算に近い形の簡単な計算で求めたいという希望は叶っていなかった。
そこで、このページでは、暗算のレベルで数のおよその値を求めるというポリシーのもとに、
いくつかの話題をまとめようと思う。
この場合の根底になる定理が、平均値の定理である。
平均値の定理
関数 f (X) が、区間 [ a , b ] で連続で、区間 ( a , b )
で微分可能であるとき、
f (b) = f (a) + ( b − a )f’(c) ( a < c < b )
を満たす c が少なくとも一つ存在する。
この定理は、次のような形に変形して考えると、意味が分かりやすい。
左辺は、2点(a,f(a))、(b,f(b)) を通る 直線の傾きであり、 その傾きに等しい微分係数が存在する ということを平均値の定理は主張している。 |
ところで、「微分可能」という言葉について、当HPがいつもお世話になっている未菜実さん
のHP「数理パズル入門」で話題になっていた。未菜実さんの説明が一番分かりやすいと思
いました。........(ちょっと気になったもので!現在リンク切れで哀しい!)
平均値の定理において、b が十分 a に近いとき、当然 c も十分 a に近い。
このことから、b=a+h として、h≒0 のとき、次のような1次近似式を得る。
f (a+h) ≒ f (a) + hf’(a)
この1次近似式は、少々近似の仕方が粗っぽい印象を受けるが、実は意外にも実用的
には十分すぎる良好な近似を与える。
例 のおよその値を求めよ。
なので、
に注意して、
電卓を用いて、 の値を求めてみれば、1.97435・・・ なので、小数第2位まで信
頼できる。(上記の計算が暗算でできるかどうかは個々人の計算能力によって左右される。)
上記の求め方に対して、次のような求め方(関数式の設定の違い)もある。
また、関数 に対して、
なので、 のとき、
が成り立つ。このとき、
よって、
私個人的には、暗算のレベルで数のおよその値を求めるという趣旨に照らせば、前者の
方が解答として実戦的であると思うのだが、読者の皆さんはどう感じられるであろうか?
(追記) n 乗根の近似計算について、HP : 「高校数学の窓」の中の、林 邦英さんのレポ
ートが大いに参考になった。
レポートによると、 a ≒ 1 のとき、次の近似式
が成り立つという。試しに、 n = 5 、 a=15/16 として、公式を適用してみると、
≒ 2・(6・(15/16)+4)/(4・(15/16)+6)= 77/39≒ 1.97435897435・・・
の値は、1.974350486・・・ なので、小数第5位まで正しく求められている。
この事情をグラフを通して考察してみよう。
2つの関数 と、 | は、点(1,1)において、共通の接線 |
を有する。したがって、 x ≒ 1 のとき、
と |
は、両者とも、 の近似を与えていることが分かる。
しかるに、
の方が、よりよい近似を与えていることが、下図から了解される。
(コメント) 手軽に、精度よく、累乗根の近似値が求められることに、とても感動しました!
林さんに感謝します。)
(追記) 平成19年1月6日付け
上記の話題に関連して、1月5日付けで、HN「電卓男」さんが当HPの掲示板「出会いの泉」
に次のように書き込みをされた。
昔ブルーバックスの本で、電卓でn乗根の近似を求める方法を読んだことがあるのですが、
原理がよくわかりません。たしかにかなり良い近似が得られるのですが、原理がわかる方、教
えてください。
このページで紹介した、林 邦英さんの結果を用いると、「電卓男」さんが求めている原理
が説明できそうである。
すなわち、
が、 | の近似を与えていることを利用して、一般 |
の数 A に対して、その n 乗根の近似値が√機能付きの普通の電卓で求められる。
「電卓男」さんによれば、次のようにやればよいとのことである。
(出典は、講談社のブルーバックス)
<<普通電卓で A の n 乗根を求める手順>>
(1) 電卓で、数 A (たとえば、A=3 )を打ち込む。(→ 「3」 )
(2) 「√」キーを8回押す。(→ この操作で、限りなく 1 に近い値を求める。数 Aがある
程度大きい数の場合は、√キーを押す回数を増やさなけ
ればならない。)
(3) 1 を加えて、メモリに保存(→ 「+」「1」「M+」 )
(4) 数 2 を(3)の値で割って、1 を引く。(→ 「2」「÷」「MR」「−」「1」「=」 )
(5) (計算する n 乗根の n の値を、たとえば、n=7 として)
(4)の値を 7 で割り、1 を加え、(3)のメモリをクリアしてから、メモリに保存。
(→ 「÷」「7」「+」「1」「MC」「M+」 )
(6) 数 2 を(5)の値で割って、1を引く。(→ 「2」「÷」「MR」「−」「1」「=」 )
(7) 「×」キーと「=」キーを 1 セットとして、(2)と同じ回数を押す。
(→ 「×」「=」「×」「=」「×」「=」「×」「=」「×」「=」「×」「=」「×」「=」「×」「=」 )
(補足) 平成19年1月10日付けで「電卓男」さんから、一般的な電卓では、
という計算は、 「2」「+」「3」「÷」「=」「1」「=」 という操作で求められるものが
多いとのご教示をいただいた。
私の愛用する電卓(随分昔に、Texas Instruments 社からのもらい物...)では残念ながら出来な
かったが、最近もらった別な電卓では確かに出来たので、随分電卓も進歩したものだと感心
した。それにしても、私が上記の電卓と同様の機能を持つ卓上計算機(今でも現役!)を購
入した頃は、2〜3万円(当時の金額で!!)と高価な印象があったが、最近は、電卓が無
料でもらえる時代になってしまった!
「2」「+」「3」「÷」「=」「1」「=」 のうち前半の 「2」「+」「3」「÷」「=」 では、
「2+3」の計算結果の逆数「0.2」を計算し、後半の 「1」「=」 では、その計算結果の
「1」倍 を求めるというカラクリになっているようだ。
「電卓男」さんによれば、このカラクリを用いると、上記の(1)〜(7)で行った計算は、実際
に電卓のキーをたたく場合、次のように操作するとのことである。
「3」
「√」「√」「√」「√」「√」「√」「√」「√」 (← √を、8回)
「+」「1」「÷」「=」「2」「=」
「−」「1」
「÷」「7」
「+」「1」「÷」「=」「2」「=」
「−」「1」
「×」「=」「×」「=」「×」「=」「×」「=」「×」「=」「×」「=」「×」「=」「×」「=」 (← 平方の計算を、8回)
実際に、この方法で、3 の 7 乗根の近似値を求めてみると、1.169930537 となり、実
際の値(1.169930813)と比べてもなかなかの精度とのことである。
(コメント) 表計算ソフトを使うと累乗根の値はすぐ求められるので、普通の電卓を使うとい
う発想が今まであまりなかった。多少の煩雑さはあるが、普通の電卓でも簡単に
求められることに感動しました。
また、上記の方法(1)〜(6)を一つの数式にまとめると、分数関数
が得られる。この方法を知ることによって、分数関数の持つ意味が明瞭に認識されました。
このような機会を与えていただいた電卓男さんに感謝いたします。
読者のために、いくつか練習問題をあげておこう。
問題 次の値は、およそいくらといえるか?
(このような問題を考えることは、数的感覚を養うことに対して有効であると信じる。)
(1) | (2) | (3) | (4) | (5) | |||||
(6) |
皆さんは、次のような形で、暗算のレベルで求められたであろうか?
(答) (1) 2−1/32=63/32≒1.96875 (実際の値は、1.96799・・・)
(2) 1−π/90≒0.96509 (実際の値は、0.96569・・・)
(3) 4+1/24=97/24≒4.04167 (実際の値は、4.04124・・・)
(4) 3−1/135=404/135≒2.99259 (実際の値は、2.99255・・・)
(5) (これは、ちょっと暗算では無理かな?)
3−1/1000log10≒2.99957 (実際の値は、2.99869・・・)
(6) (10−1/10)/98=99/980≒0.10102 (実際の値は、0.10101・・・)
ところで、3次方程式 (X−1)(X−2)(X−3)=0 の解が、1 と 2
と 3 になることは、高次
方程式を特に学習していなくても、「何となくそうだね!」と納得できる事実であろう。
それでは、3次方程式 (X−1)(X−2)(X−3)=0.02 の解は、如何ほどであろうか?
1 と 2 と 3 に近い値と予想はできるが、この解を厳密に求めることは難しい。
しかし、解の近似値は容易く求めることができる。左下図から分かるように、
F(X)=(X−1)(X−2)(X−3)−0.02 とおくと、方程式 F(X)=0 は、3つの解 1+α 、2+β 、3+γ を持つ。 F’(1)=2、F’(2)=−1、F’(3)=2 なので、 −0.02+2α ≒0 −0.02−β ≒0 −0.02+2γ ≒0 よって、α ≒0.01、β ≒−0.02、 γ ≒0.01 ゆえに、3つの解の近似値は、 1.01 、 1.98 、 3.01 |
直接的に、方程式 (X−1)(X−2)(X−3)=0.02 を解こうとは思わないが、このように
近似値で解を求めると何故か愛らしく感じられるから不思議だ。
(追記) 平成28年5月12日付け
銀行預金の複利計算、例えば、元金A円を1ヶ月金利0.01%で3ヶ月預けた場合の元利
合計Nは、
N=A(1.0001)3
で与えられる。1次近似式
x≒0 のとき、 (1+x)n≒1+nx
を用いれば、(1.0001)3≒1.0003 ということは分かる。
x=0 におけるマクローリン展開から、近似式が「1+nx」となることは理論的に確かなの
だが、あまりしっくりしないというのが率直な感想である。
最近、このことの理解に自然対数の底「e」が関わることを知ることができた。
ax≒1+x という関係式は、今から300年ほど前から天文や数学だけでなく経済活動の
発展にともない金融関係からも、その重要性が認識されていたという。しかもこの関係式を
満たすaは、ネイピアの数 e と言われる唯一の数である。
次のように計算すると、今までしっくりいかなかった部分がスッキリしたような気分だ。
(1.0001)3=(1+0.0001)3≒(e0.0001)3=e0.0003≒1+0.0003=1.0003
xをn倍するという計算は、結局のところ、指数法則 (ex)n=enx だったんですね!
(追記) 「円周率の近似計算」と題して、当HPがいつもお世話になっているHN「らすかる」さ
んからのご投稿です。(令和2年5月3日付け)
π=4(1-1/3+1/5-1/7+…) は収束が遅いことで有名ですが、うまく使うと、ある程度の桁数
が求められます。
4(1-1/3+1/5-1/7+…-1/999999) を計算するとき、
部分和 4(1-1/3+1/5-1/7+…-1/99999) と 部分和 4(1-1/3+1/5-1/7+…-1/9999)
もとっておきます。これを3つ並べて各桁の数字を多数決で決めると、
3.1413926535917932383626433954795001… ← -1/9999までの和
3.1415726535897952384626423832795041… ← -1/99999までの和
3.1415906535897932404626433832695028… ← -1/999999までの和
3.14159265358979323846264338327950 ← 多数決結果
となり、小数点以下32桁が正しく求まりました。
(コメント) 多数決で決める、というのは斬新な発想ですね!でも、「ゆらぎ」が補正されて
真の値に近づくのかな?