方べきの定理
平面幾何で記憶に残る定理としたら、三平方の定理とこの方べきの定理だろう。他にも、
メネラウスの定理やチェバの定理などいろいろあるが、定理の簡明さを考えたら、この2つ
が筆頭だろうと思う。
方べきの定理
円周上の4点 A、B、C、D に対して、2つの線分 AB、CD が円内の1点 P で交わるとき、 PA・PB=PC・PD が成り立つ。 |
(証明) 右図において、 △PAD∽△PCB なので、 PA:PC=PD:PB より成り立つ。 (証終) |
円周上の4点 A、B、C、D に対して、2つの線分 AB、CD が円外の1点 P で交わるとき、 PA・PB=PC・PD が成り立つ。 |
(証明) 右図において、 △PAC∽△PDB なので、 PA:PC=PD:PB より成り立つ。 (証終) |
円外の1点 Pより、接線PT と、円と A、Bで交わる直線 を引く。このとき、 PA・PB=PT2 が成り立つ。 |
(証明) 右図において、 △PAT∽△PTB なので、 PA:PT=PT:PB より成り立つ。 (証終) |
方べきの定理は、円の持つ美しい性質の結果として得られるが、現行の学習指導要領で
は高校1年で通常学ぶ「数学A」を待たなければいけない。日本の高校生にとって、とても不
幸なことである。
この方べきの定理に酷似した定理が、楕円においても成り立つことを最近知ることが出来
た。
左図のように、長軸が互いに直交し、4点で交 わる2つの楕円がある。 線分 AC、BD の交点を P とおくと、 PA・PC=PB・PD が成り立つ。 ただし、長軸、短軸の長さはともに等しいもの とする。 |
証明は大変そうなので、具体例で追認しておこう。
左図のように、2つの楕円 が、4点 A、B、C、D で交わっている。 線分 AC、BD の交点を P とおく。 A(0,1)を通る直線を、 y=mx+1 とおく。3式を連立することにより、 m=−1 、 が得られる。 |
これらを、直線と楕円の交点の座標(A以外)
に代入して、点 B、C、D の座標をそれぞれ求めると、
よって、直線ACの方程式 : y=−x+1 、直線BDの方程式 : y=x−5/4 から、
P(9/8 , −1/8)
となる。このとき、簡単な計算から、 PA・PC=243/160 、 PB・PD=243/160
なので、 PA・PC=PB・PD の成り立つことが推察される。
(コメント) この証明を掲載した算額は現存しないという。一般的な証明を試みようとしたが
計算が煩雑そうで躊躇してしまった。現時点では、上記の具体例で納得すること
にしよう。一般的な証明に成功された方、ぜひご教示ください。(こちらへ)
(追記) 平成20年7月12日付け
上記の楕円の場合の方べきの定理について、「一般的な証明を試みようとしたが、計算
が煩雑そうで躊躇してしまった」のは、直接的に交点の座標を求めてから何しようとしたた
めである。
この件について、平成20年7月11日付けで、H.K.さんから、
4つの交点は、実は、同一円周上にある
旨のメールを頂いた。
次のように考えると、交点の座標を求めなくても証明されるとのことである。
問題の条件から、2つの楕円の方程式は、 a>b>0 として
b2(x−p)2+a2(y−q)2=a2b2 、 a2(x−r)2+b2(y−s)2=a2b2
としても一般性は失われない。
このとき、上記2つの楕円の交点は、円の方程式
b2(x−p)2+a2(x−r)2+a2(y−q)2+b2(y−s)2=2a2b2
を満たし、4点は同一円周上にある。
よって、円の場合の方べきの定理から、楕円においても成り立つことが分かる。
H.K.さんからの情報によれば、同様のことが、互いに軸が直交する放物線においても
成り立つようだ。
左図のように、軸が互いに直交し、4点で交わる 2つの放物線がある。このとき、 線分 AC、BD の交点を P とおくと、 PA・PC=PB・PD が成り立つ。 |
証明は、上記と同様にして、
2つの放物線の方程式 (x−a)2=4py+b 、 (y−c)2=4qx+d の交点が、
円の方程式 (x−a)2+(y−c)2=4qx+4py+b+d を満たすことから明らかであろう。
(コメント) このような手法の証明を昔やったことを思い出しました。図形と方程式の証明問
題では必須の技法でした。このような証明に気づかせていただいた H.K.さんに
感謝いたします。
当HPがいつもお世話になっているHN「GAI」さんから、上記の話題に関する公式を投稿
して頂いた。別な視点からの方べきの定理の拡張で、大変興味深いものでした。GAI さん
に感謝します。(平成26年7月7日付け)
円では、円とその円内に点Pをとり、点Pを通る2本の割線(円との共有点が2個の直線)と
円との交点を、A、B と C、D とするとき、
PA・PB=PC・PD ⇔ PA・PB : PC・PD=1 : 1
というよく知られた方べきの定理が成立する。そこで、楕円ではいかなることになるのか?
これに対し、楕円の中に任意の二点 P1、P2 をとる。P1 を通る異なる2本の割線をL1、M1
とし、それぞれが楕円と交わる点を A1、B1 と C1、D1 で、それぞれと点P1との長さを、 P1A1=a1、P1B1=b1、P1C1=c1、P1D1=d1 としておく。一方、P2 を通り、先の直線 L1、M1 にそれぞれ平行な直線を L2、M2 とし、これが 楕円と交わる点をそれぞれ A2、B2 と C2、D2 |
|
とし、P2 との長さを、P2A2=a2、P2B2=b2、P2C2=c2、P2D2=d2 とするとき、 a1・b1 : c1・d1=a2・b2 : c2・d2 なる関係式が成立する。 |
今まで、方べきの定理は、円の図形に限定された定理と思い込んでいた世界を、さらなる
広さの世界から見れる視座を与えられた気分でした。
読者のために、方べきの定理を用いる練習問題を残しておこう。
練習問題 下図のように、円と正三角形が左右対称に重なっている。正三角形の1辺の
長さを求めよ。
(解) 方べきの定理より、 x(x+7)=y(y+3)
さらに、正三角形であることから、 x+7=2y+3
連立方程式を解いて、 x=2、y=3 なので、正三角形の1辺の長さは、9 (終)
(コメント) 答えが無理数にならないように、「7」と「3」が選ばれています。答えが一番きれ
いかな?
(追記) 令和4年9月21日付け
何とはなしに数学史の本をパラパラめくっていたら、次のような事実が目に留まった。何と
なく方べきの定理っぽい感じがした。
半径 r の円Oに対して、中心Oを通る直線Lを考える。この直線Lに平行な円Oの接線を引
き、その接点をPとおく。点Pを通り円Oと交わる直線を引き、直線Lとの交点をA、円Oとの交
点をA’とおく。また、直線Lと円Oとの交点を、B、Cとおく。
このとき、 PA・PA’=2r2 が成り立つ。
(証明)
上図において、△PAB∽△PBA’なので、 PA : PB=PB : PA’
よって、 PA・PA’=PB2=2r2 (証終)
方べきの定理を用いても次のように示される。
(別証) 方べきの定理より、 AA’・AP=AB・AC が成り立つ。すなわち、
(PA−PA’)・PA=(AO−r)・(AO+r)=AO2−r2
PA2−PA・PA’=AO2−r2 から、 PA・PA’=PA2−AO2+r2=2r2 (別証終)
(追記) 令和4年12月14日付け
今日は早起きして、W杯「アルゼンチン vs クロアチア」戦をTV観戦した。クロアチアの
モドリッチも凄い選手だが、アルゼンチンは神懸かり的なメッシの動きと絶妙に絡み合い、
3−0で勝利した。15日は「フランス vs モロッコ」戦があり、また、早起きとなりそうだ。
方べきの定理の証明でも分かるように、基本的に「方べきの定理」は相似の問題と同等で
ある。何か、方べきの定理の深遠なる原理はないのだろうか、と思い、検討してみた。
上記で、何れも 「PA×PB=PC×PD」を主張するのが、方べきの定理である。
即ち、 「PA×PBが一定」という性質 と捉えることもできる。
特に、CDが直径に等しい場合を考える。
Pから円の中心までの距離を d 、円の半径を r とすると、その一定値は、
(d−r)(d+r)=d2−r2
となる。これは、点Pと円の中心のみで定まる量である。
2つの円O、O’が交わるとき、その2交点を通る直線上の任意の点Pについて、2つの円
O、O’に関して、
d2−r2
の値は、相等しい。
実際に、方べきの定理から明らかだろう。
このことを一般化すると、3円が交わるとき、2円の交点を通る3直線は1点で交わること
も明らかだろう。
(コメント) 今まで何とはなしに描いてきた3円ですが、2円の交点を通る直線が1点で交わ
るという美しい性質があったんですね!方べきの定理様々です。
(追記) 令和5年7月4日付け
7月4日は、アメリカ合衆国の建国記念日であるが、私的には、トム・クルーズ主演の映画
「7月4日に生まれて」が印象深い。
方べきの定理を利用する問題を解いておこう。
問題 円Oの直径ABに、円周上の点Pより垂線PHを下す。PH=3、HB=4のとき、円O
の半径 r の長さを求めよ。
(解) 次の図に対して、方べきの定理を用いる。
AH・HB=PH・QH より、 4AH=9 よって、AH=9/4
したがって、 2r =9/4+4=25/4 より、 r =25/8 (終)
#AHを経由せず、直接 r を求めてもよい。
実際に、方べきの定理より、 (2r−4)・4=9 なので、 r =25/8
方べきの定理と同義であるが、三角形の相似を用いてもよい。
(別解) 次の図において、
PB=5 で、△APH∽△PBH より、 AH : HP=PH : HB なので、
4AH=9 から、 AH=9/4
したがって、 2r =9/4+4=25/4 より、 r =25/8 (終)
(追記) 令和5年9月2日付け
方べきの定理に気づけば、次の問題は容易だろう。
問題 下図において、共通弦PQと共通接線ABとの交点をMとするとき、AMの長さを求
めよ。
(解) OO’=5 なので、AB=4 である。
方べきの定理より、 AM2=MP・MQ=BM2 なので、 AM=BM
すなわち、Mは線分ABの中点となる。よって、 AM=2 である。 (終)
以下、工事中!