ホルディッチの定理
最近、不思議おもしろ幾何学事典(D.ウェルズ 著 宮崎興二 他訳 (朝倉書店))を何
とはなしに眺めていたら、「ホルディッチの定理」なるものがあることを知った。
ホルディッチの定理(Holditch's Theorem) ・・・ Holditch(1858)
平面上の滑らかな凸閉曲線Cにおいて、ある一定の長さ(=p+q)の弦を、その両
端点が曲線C上にくるようにすべらして動かすとき、弦の長さをpとqに分ける点は新
しい閉曲線C’を描く。
このとき、2つの閉曲線CとC’で囲まれる部分の面積は、πpq で与えられる。
例 原点中心で半径が 2r の円C : x2+y2=4r2 において、長さ 2r の弦を考える。弦の
中点Mの軌跡C’の方程式を求めてみよう。
左図において、 A(2r・cosθ,2r・sinθ) B(2r・cos(θ+π/3),2r・sin(θ+π/3)) とおくと、弦の中点M(x,y)の座標は、 x=(2r・cosθ+2r・cos(θ+π/3))/2 =r・cos(θ+π/6) y=r・sin(θ+π/6) で与えられるので、求める軌跡の方程式は、 C’ : x2+y2=3r2 |
ここで、曲線Cが囲む図形の面積は、4πr2 で、曲線C’が囲む図形の面積は、3πr2 な
ので、曲線CとC’で囲まれる図形の面積は、 4πr2−3πr2=πr2 となる。
ホルディッチの定理によれば、この曲線CとC’で囲まれる図形の面積は、上記では、
p=q=r の場合なので、 π・r・r=πr2 で与えられることを意味する。
(注意) 上記は特別な場合で、求める軌跡C’は、原点中心で半径がOM(=r)の円と
いうことは、上記のように計算しなくても自明だろう。
自明ではない場合についても調べてみよう。
例 原点中心で半径が 2r の円C : x2+y2=4r2 において、長さ 2r の弦を考える。弦AB
を 3:1 に内分する点Pの軌跡C’の方程式を求めてみよう。
A(2r・cosθ,2r・sinθ)、B(2r・cos(θ+π/3),2r・sin(θ+π/3)) とおくと、弦AB
を 3:1 に内分する点P(x,y)の座標は、
x=(2r・cosθ+3・2r・cos(θ+π/3))/4=r(cosθ+3cos(θ+π/3))/2
y=(2r・sinθ+3・2r・sin(θ+π/3))/4=r(sinθ+3sin(θ+π/3))/2
で与えられるので、求める軌跡の方程式は、
4x2+4y2=r2{10+6(cos(θ+π/3)cosθ+sin(θ+π/3)sinθ)}
=r2{10+6cosπ/3}=13r2
より、 C’ : x2+y2=13r2/4
よって、 曲線CとC’で囲まれる図形の面積は、 4πr2−13πr2/4=3πr2/4 となる。
ホルディッチの定理によれば、この曲線CとC’で囲まれる図形の面積は、上記では、
p=3r/2、q=r/2 の場合なので、π・3r/2・r/2=3πr2/4 で与えられる。
(コメント) 上記では面積が計算しやすい場合について調べたが、この性質が一般の凸閉
曲線で常に成り立つとは驚きです!
微分積分の教科書を参考にしながら、証明を考えてみた。
(証明) 滑らかな凸閉曲線をCとし、弦AB(長さL=p+q)を p : q に分ける点Hが描く曲
線をC’とする。分点Hの座標を(x(t),y(t)) (ただし、0≦t≦2π)とする。
また、弦ABが x 軸の正の向きとなす角をθ(t)とする。θ(t)は単調増加とする。
このとき、 A(x(t)−p・cosθ(t),y(t)−p・sinθ(t))
B(x(t)+q・cosθ(t),y(t)+q・sinθ(t))
閉曲線C、C’で囲まれた図形の面積を、S、S’とする。
閉曲線Cが、2つの弧
x=F(y) (a≦y≦b) 、x=G(y) (a≦y≦b) ただし、 F(y)≧G(y)
で描かれているとき、
∫C xdy=∫ab F(y)dy+∫ba G(y)dy=∫ab (F(y)−G(y))=S
である。同様にして、 S’=∫C’ xdy である。
よって、
S=∫C xdy=∫C (x(t)−p・cosθ(t))d(y(t)−p・sinθ(t))
=∫C’ (x(t)dy(t)−p(cosθ(t)dy(t)+x(t)・d(sinθ(t)))+p2・cosθ(t)d(sinθ(t)))
=S’−p∫C’ (cosθ(t)dy(t)+x(t)・d(sinθ(t)))+πp2
ここで、 ∫C’ cosθ(t)d(sinθ(t))=∫02π cos2θdθ=π を用いた。
同様に、
S=∫C xdy=∫C (x(t)+q・cosθ(t))d(y(t)+q・sinθ(t))
=∫C’ (x(t)dy(t)+q(cosθ(t)dy(t)+x(t)・d(sinθ(t)))+q2・cosθ(t)d(sinθ(t)))
=S’+q∫C’ (cosθ(t)dy(t)+x(t)・d(sinθ(t)))+πq2
以上から、 q(S−S’−πp2)+p(S−S’−πq2)=0 により、
(p+q)(S−S’)=πp2q+πpq2=πpq(p+q)
したがって、 S−S’=πpq が成り立つ。 (証終)
(コメント) 厳密な証明とは言い難いが、何となくニュアンスが伝わるかな...。
以下、工事中!