アーベルの総和公式
数学の至る所で、差分という考え方が幅を利かせている。数列においては、階差数列が
その最たるものである。分数関数の積分で多用される部分分数分解も差分の一種だろう。
2次方程式の理論で活躍する判別式(正しくは、2次式の判別式!)も差分である。
このページで紹介するアーベルの総和公式も、差分の考え方に立脚している。
Abel の総和公式
上式を見ても、その意味が掴みきれない方は、次の模式図でご理解ください。
左辺は、左図の緑色の面積、
右辺は、長方形の面積から水色の面積
を引いたもの
と考えれば、その雰囲気は伝わってくる
と思う。
このアーベルの総和公式の考え方は、
問題解決によく利用される。
問題 以下で、文字はすべて実数(ただし、X≧Y≧Z>0 )とする。
aX+bY+cZ>0 が成り立ち、aX≦0、aX+bY≦0 ならば、a+b+c>0
であることを証明せよ。
(解) P=aX、Q=aX+bY、R=aX+bY+cZ とおく。(← 大切なテクニック!)
このとき、a=P/X、b=(Q−P)/Y、c=(R−Q)/Z と書ける。
よって、 a+b+c =P/X+(Q−P)/Y+(R−Q)/Z
=P(1/X−1/Y)+Q(1/Y−1/Z)+R/Z
=P・(Y−X)/XY+Q・(Z−Y)/YZ+R/Z
ここで、条件より、 P≦0 、Q≦0 、Y−X≦0、、Z−Y≦0 なので、
P・(Y−X)≧0 、 Q・(Z−Y)≧0
さらに、 R>0 、X>0 、Y>0 、Z>0 なので、 a+b+c
>0 (終)
(注) アーベルの総和公式を意識すれば、次のように変形される。
a+b+c =aX・(1/X)+bY・(1/Y)+cZ・(1/Z)
=aX(1/X−1/Y)+(aX+bY)(1/Y−1/Z)+(aX+bY+cZ)・(1/Z)
=P(1/X−1/Y)+Q(1/Y−1/Z)+R/Z
以下は、上と同様にして証明される。
(コメント) 式変形が込み入っていそうですが、上図の差分の考え方を当てはめれば、スッ
キリ理解できると思います。
(参考文献:安田 亨 著 入試数学伝説の良問100 (講談社))
(追記) 平成21年8月30日付け
広島工業大学の大川研究室によれば、このアーベルの総和公式を使うと、無限級数に
関するアーベルの収束判定条件が示されるという。
定 理 無限級数 Σ an と数列 { bn } に対して、
(1) 部分和 sn=Σ ak は有界
(2) (ア) n → ∞ のとき、 bn → 0
(イ) Σ| bn − bn-1 | が収束
が成り立つとき、無限級数 Σanbn は収束する。
証明は、大川研究室を参照。
この定理の簡単な適用例として、次の例が直ぐ思いつく。
例 交代級数 Σ(−1/2)n は収束することを示せ。
(数学Vレベルの解答)
部分和 sn=1+(−1/2)+(−1/2)2+・・・+(−1/2)n は、
初項 1、公比 −1/2 、項数 n+1 の等比数列の和なので、
sn=(2+(−1/2)n)/3
なので、 n → ∞ のとき、 sn → 2/3 と収束することより、
交代級数 Σ(−1/2)n は収束する。
(アーベルの定理による解答)
an =(−1)n 、 bn=(1/2)n とすれば、
明らかに、部分和 sn は有界で、条件(2)を満たす。
よって、 Σanbn=Σ(−1/2)n は収束する。