動点の確率問題                              戻る

 当HP読者のHN「DCO」さんからの出題です。(平成26年8月8日付け)

 私が高校時代に書いたものを読みあさっていると、どうやら当時私は動点の確率問題に
ハマっていたようです。

 動点が確率的に動くような問題、たとえば

 正六面体ABCD-EFGHの頂点A上にアリが一匹いる。このときの時刻をt=0[秒]とする。
アリは1秒ごとに、辺をつたってそれぞれ等確率で隣の頂点へと休むことなく移動する。例
えば、t=1[秒]において、頂点A上にアリがいる確率は0、頂点B上にアリがいる確率は1/3
である。nを自然数とする。t=n[秒]において頂点B上にアリがいる確率pを求めよ。


…といった、「辺を這う蟻」が主人公になるような問題は、大学入試でもしばしば取り上げら
れるようです。

 では、蟻がある程度の知能を持って動く、こんな問題はどうでしょう。

 正六面体ABCD-EFGHの頂点A上に蟻が1匹いる。このときの時刻をt=0[秒]とする。蟻は
正六面体の辺を伝い、1秒ごとに休むことなく頂点間を移動する。蟻は頂点に達したとき、
確率αでAD方向の隣の辺に沿って、確率βでAB方向の隣の辺に沿って、確率γでAE方向
の隣の辺に沿って隣の頂点へ移動するものとする。
(ただし、0<α<1、0<β<1、0<γ<1、α+β+γ=1)

 時刻 t=n [秒] (nは自然数)に、蟻が点Aにいる確率をpとする。pを、n、α、β、γを用
いて表せ。


















(答)  DD++さんが考察されました。(平成26年8月8日付け)

 立方体の対称性を考えれば、計算は全く不要で、

=1/8 { (α+β+γ)n+(-α+β+γ)n+(α-β+γ)n+(α+β-γ)n
                    +(-α-β+γ)n+(-α+β-γ)n+(α-β-γ)n+(-α-β-γ)n }
ですね。少し整理すると、

 nが奇数のとき、p=0

 nが偶数のとき、p=1/4 { 1+(-α+β+γ)n+(α-β+γ)n+(α+β-γ)n }


 DCOさんからのコメントです。(平成26年8月11日付け)

 正解です!Pn(X)を、t=n の時点で蟻が点Xにいる確率とおけば、たとえば、

  (α+β+γ)n=Pn(A)+Pn(B)+Pn(C)+Pn(D)+Pn(E)+Pn(F)+Pn(G)+Pn(H)
  (-α+β+γ)n=Pn(A)+Pn(B)-Pn(C)-Pn(D)+Pn(E)+Pn(F)-Pn(G)-Pn(H)
  (α-β-γ)n=Pn(A)-Pn(B)-Pn(C)+Pn(D)-Pn(E)+Pn(F)+Pn(G)-Pn(H)
  (-α-β-γ)n=Pn(A)-Pn(B)+Pn(C)-Pn(D)-Pn(E)+Pn(F)-Pn(G)+Pn(H)

などが成り立つため、

(α+β+γ)n+(-α+β+γ)n+(α-β+γ)n+(α+β-γ)n
                     +(-α-β+γ)n+(-α+β-γ)n+(α-β-γ)n+(-α-β-γ)n

を計算すると、ほとんど打ち消しあって、8Pn(A)のみが出てくる、という考え方でしょうか。

 高校時代はまた少し違う考え方で導出していましたが、上のような方法であれば立方体の
対称性を損なわずに綺麗に解けますね。他にもっとシンプルな解法があれば、ぜひ教えてく
ださい。


 DD++さんからのコメントです。(平成26年8月11日付け)

 そういうことですね。(α+β+γ)n を展開したものが全3n通りの経路とその確率を表すので、
点Aにいる確率を求めたければ、α,β,γすべてについて偶数次になっている項だけを抽出
すればいいわけです。

 多項式f(x)は、{f(x)+f(-x)}/2で偶数次項だけ、{f(x)-f(-x)}/2で奇数次だけ取り出せます。


 DCOさんからのコメントです。(平成26年8月11日付け)

 なるほど!確かにその考え方を使えば、わざわざ確率の話に持ち込む必要もありませんね。
ありがとうございます。同じく、高校時代の自分からの出題です。

 正六面体ABCD-EFGHと、その辺または頂点上を動く蟻が一匹いる。蟻は正六面体の辺を
伝い、1秒ごとに休むことなく頂点間を移動する。蟻は頂点に達したとき、2/5の確率で直前に
自分が進んできた辺を選び(つまり逆戻りする)、それぞれ3/10の確率でほかの辺を選んで移
動する。

 蟻が点B方向から近づいて点Aに到達した瞬間の時刻を t=0 [秒]として、時刻 t=n [秒]
(nは自然数)に、蟻が点Cにいる確率をpとする。pを求めよ。

※少し優柔不断な歩き方をする変わった蟻ですが、実際の蟻にはフェロモンなんてものもあ
 るので、ある意味ランダムに動くより現実的かもしれません。


 DD++さんからのコメントです。(平成26年8月11日付け)

 この解き方しか思いつきませんでした。別の解き方があったらぜひ教えてください。

 n秒後に点Cまたは点Eにいる確率をqとすると、

  q-1=q0=0、qn+2= (2/5)qn + (3/10)(1-qn+1-qn)

 これを解くと、qn= 1/4 - (1/7)(-1/2)n - (3/28)(1/5)n

 nが奇数のとき、n秒後に点Cにいることはなく、nが偶数のとき、n秒後に点Eにいることは
ない

 よって、nが奇数のとき、pn=0 、nが偶数のとき、pn=1/4 - (1/7)(1/2)n - (3/28)(1/5)n


 DCOさんからのコメントです。(平成26年8月11日付け)

 正解です。私の用意した解答よりあざやかな解き方ですね!私の用意したものだと、どう
しても変数を2つ用意しなくてはいけないので…。


 GAI さんからのコメントです。(平成26年8月12日付け)

 こんなスッキリした結果で表せるなんてすごい!具体的変化が知りたかったので少し計算
させてみました。

 頂点Aから t 秒後に再びAへ戻ってこられる確率P[n]を、Aから3方向へ向かう確率を変化
させながら鑑賞してみました。

? P(a,b,c,n)=(1+(-a+b+c)^n+(a-b+c)^n+(a+b-c)^n)/4

1:1:1で次へ
? forstep(n=2,20,2,print(n,"(sec)->",P(1/3,1/3,1/3,n),"=",P(1/3,1/3,1/3,n)+0.))

2(sec)->1/3=0.333333
4(sec)->7/27=0.259259
6(sec)->61/243=0.251029
8(sec)->547/2187=0.250114
10(sec)->4921/19683=0.250013
12(sec)->44287/177147=0.250001
14(sec)->398581/1594323=0.250000
16(sec)->3587227/14348907=0.250000
18(sec)->32285041/129140163=0.250000
20(sec)->290565367/1162261467=0.250000

1:2:3で次へ
? forstep(n=2,20,2,print(n,"(sec)->",P(1/2,1/3,1/6,n),"=",P(1/2,1/3,1/6,n)+0.))

2(sec)->7/18=0.388889
4(sec)->49/162=0.302469
6(sec)->397/1458=0.272291
8(sec)->3409/13122=0.259793
10(sec)->30037/118098=0.254340
12(sec)->267769/1062882=0.251927
14(sec)->2399677/9565938=0.250856
16(sec)->21556129/86093442=0.250381
18(sec)->193841317/774840978=0.250169
20(sec)->1743916489/6973568802=0.250075

1:3:5で次へ
? forstep(n=2,20,2,print(n,"(sec)->",P(1/9,1/3,5/9,n),"=",P(1/9,1/3,5/9,n)+0.))

2(sec)->35/81=0.432099
4(sec)->2261/6561=0.344612
6(sec)->162455/531441=0.305688
8(sec)->12204521/43046721=0.283518
10(sec)->942329675/3486784401=0.270258
12(sec)->74067838781/282429536481=0.262252
14(sec)->5888755077695/22876792454961=0.257412
16(sec)->471563290617041/1853020188851841=0.254484
18(sec)->37930762320582515/150094635296999121=0.252712
20(sec)->3059364432210331301/12157665459056928801=0.251641

 最初の道の選び方に結構偏りがあったとしても、時間の経過と共に結構元に戻ってこられ
る確率は以外に早く等しいものに収束していくものだと思いました。


 らすかるさんからのコメントです。(平成26年8月12日付け)

 1:1:998とかにすると、収束はそれなりに遅くなりますね。


 GAI さんからのコメントです。(平成26年8月13日付け)

 DCOさんの新しい問題の条件:元の頂点に戻る確率が2/5、外の頂点に移動する確率が
それぞれ3/10が不自然(計算が有理数で進めるように調整されたものと推測)に思ったの
で、一般に、元の頂点に戻る確率が1/2、外の頂点に移動する確率がそれぞれ1/4に変更
して調べてみました。

 DD++さんによる鮮やかな解法を辿っていくと、n秒後に点Cまたは点Eにいる確率をq[n]と
すると、
     q[-1]=q[0]=0、 q[n+2]= (1/2)q[n] + (1/4)(1-q[n+1]-q[n])

 これを解くと、 q[n]= (1/4) +(√17/68)(((-1-√17)/8)^(n-1)-((-1+√17)/8)^(n-1))

 また、nが奇数のとき、n秒後に点Cにいることはなく、nが偶数のとき、n秒後に点Eにいる
ことはない。

 よって、n秒後に点Cにいる確率p[n]は、

 nが奇数のとき、 p[n]=0
 nが偶数のとき、 p[n]=(1/4) +(√17/68)(((1-√17)/8)^(n-1)-((1+√17)/8)^(n-1))

 この2パターンも数値的に検証してみると、元の頂点に戻る確率が2/5、外の頂点に移動
する確率がそれぞれ3/10の場合は、

2(sec)-->0.210000
4(sec)-->0.240900
6(sec)-->0.247761
8(sec)-->0.249442
10(sec)-->0.249860
12(sec)-->0.249965
14(sec)-->0.249991
16(sec)-->0.249998
18(sec)-->0.249999
20(sec)-->0.250000
22(sec)-->0.250000
24(sec)-->0.250000
26(sec)-->0.250000
28(sec)-->0.250000
30(sec)-->0.250000
32(sec)-->0.250000
34(sec)-->0.250000
36(sec)-->0.250000
38(sec)-->0.250000
40(sec)-->0.250000
・・・・・・・・・・

 元の頂点に戻る確率が1/2、外の頂点に移動する確率がそれぞれ1/4の場合は、

2(sec)-->3/16=0.1875
4(sec)--> 59/256=0.230469
6(sec)--> 995/4096=0.24292
8(sec)--> 16203/65536=0.247238
10(sec)--> 260979/1048576=0.248889
12(sec)-->4186715/16777216=0.249548
14(sec)--> 67059203/268435456=0.249815
16(sec)--> 1073416299/4294967296=0.249924
18(sec)-->17177734035/68719476736=0.249969
20(sec)--> 274863899003/1099511627776=0.249987
22(sec)-->4397954602019/17592186044416=0.249995
24(sec)--> 70368141122955/281474976710656=0.249998
26(sec)-->1125895949895603/4503599627370496=0.249999
28(sec)-->18014372545834139/72057594037927936=0.25
30(sec)-->288230205790033475/1152921504606846976=0.25
32(sec)-->4611684900590649003/18446744073709551616=0.25
34(sec)-->73786968960094408659/295147905179352825856=0.25
36(sec)-->1180591572590104945595/4722366482869645213696=0.25
38(sec)-->18889465615688724399203/75557863725914323419136=0.25
40(sec)-->302231452831585487301579/1208925819614629174706176=0.25
・・・・・・・・・・・

検証お願いします。


 DCOさんからのコメントです。(平成26年8月13日付け)

 GAIさん、詳しい検証ありがとうございます。α+β+γ=1を用いて一般項を少し変形すると

 nが偶数のとき、 p[n]=(1/4){ 1+(1-2α)n+(1-2β)n+(1-2γ)n } ですから、|1-2α|、|1-2β|
|1-2γ|が大きいほど収束は遅くなると推測されますね。

 実際、α、β、γのうち

・一つが極端に大きいとき:2点間を相互に振動
・一つが極端に小さいとき:同一面上にある4頂点を動き回る

という動きがメインになり、確率が一定値に落ち着きにくいことは直感的にも分かりやすい気
もします。