三角方程式
平成23年1月2日付けで、当HPの掲示板「出会いの泉」に、HN「ぽっぽ」さんからの出題
です。
sin3θ+sin5θ=sin9θ を満たすθを求めよ。
高等数学を使うと簡単なので、初等的(知識的には中学数学レベル)で証明してください。
(答え) 当HPがいつもお世話になっているHN「らすかる」さんが解かれました。
(平成23年1月3日付け)
一辺が1の正五角形ABCDEの内部に正三角形PCD
を描き、B、Pからそれぞれ直線CDに垂線BG、PHを下
ろして長方形AFGHを作れば、θ=6°として、
sin9θ=AF=GH=GC+CH=sin3θ+sin5θ
が成り立つ。
θ=6°のとき、 sin3θ+sin5θ=sin9θ が成り立つことは、上図から理解される
が、攻略法さんが計算で確認された。(平成23年1月4日付け)
sin9θ−sin3θ=sin54°−sin18°
=2cos36°sin18°(←和積公式)
=2cos36°sin18°cos18°/cos18°
=cos36°sin36°/cos18°
=sin72°/(2cos18°)
=cos18°/(2cos18°)
=1/2
=sin30°=sin5θ
よって、θ=6°のとき、 sin3θ+sin5θ=sin9θ が成り立つ。
さらに、らすかるさんは、解析的な方法により、解を全て求められた。
(平成23年1月3日付け)
(所謂「高等数学」を使った解答)
sin3θ+sin5θ=sin9θ (0°<θ<90°)とする。
n 倍角の公式(→参照:らすかるさんのHP「らすかるの家」)により、
sin3θ=−4sin3θ+3sinθ
sin5θ=16sin5θ−20sin3θ+5sinθ
sin9θ=256sin9θ−576sin7θ+432sin5θ−120sin3θ+9sinθ
なので、簡単のため sinθ=x とおいて整理すると、
256x9−576x7+416x5−96x3+x=0
0°<θ<90°より、 x=sinθ≠0 としてよいので、両辺を x で割ると、
256x8−576x6+416x4−96x2+1=0
ここで、F(x)=256x8−576x6+416x4−96x2+1 とおくと、グラフは y 軸に関して対
称で、
F(0)=1>0 、F(1/2)=1−9+26−24+1=−5<0 、
F(3/4)=6561/256−6561/64+1053/8−54+1=445/256>0
F(15/16)=−5549759/16777216<0
F(1)=256−576+416−96+1=1>0
となるので、正の実数解は4個ある。
それぞれの解の近似値をニュートン法で求めると、
0.104528463267653471399834154802…
0.669130606358858213826273330686…
0.913545457642600895502127571985…
0.978147600733805637928566747869…
これらの値から、θ=sin-1x (度数法)を求めると、 約6°、42°、66°、78°
θ=6°のとき、 sin3θ=(−1)/4、sin5θ=1/2、sin9θ=(
+1)/4
θ=42°のとき、 sin3θ=(+1)/4、sin5θ=−1/2、sin9θ=(
−1)/4
θ=66°のとき、 sin3θ=−(−1)/4、sin5θ=−1/2、sin9θ=−(
+1)/4
θ=78°のとき、 sin3θ=−(+1)/4、sin5θ=1/2、sin9θ=−(
−1)/4
となって与式を満たすので、0°<θ<90°の範囲の解は、
θ=6°、42°、66°、78°
である。
(コメント) sinθの1周期分で解を求めると、
θ=6°、42°、66°、78°、102°114°、138°、174°、
186°、222°、246°、258°、282°、294°、318°、354°
これに、θ=0°、180°も加えて、解は全部で、18個かな...。
(ぽっぽさんが「高等数学を使うと簡単」と仰ってますが、それほど簡単ではないような...雰囲気。)
当HPがいつもお世話になっているHN「攻略法」さんが斬新な別解を考えられた。
(平成23年1月3日付け)
(別解) sin3θ+sin5θ=sin9θ (0<θ<π/2)とする。
両辺に、cos3θ(≠0)をかけて、
sin3θcos3θ+sin5θcos3θ=sin9θcos3θ
2倍角の公式、積和公式より、
(1/2)sin6θ+(1/2)(sin8θ+sin2θ)=(1/2)(sin12θ+sin6θ)
すなわち、 sin6θ+sin8θ+sin2θ=sin12θ+sin6θ より、
sin2θ+sin8θ=sin12θ=sin4θcos8θ+cos4θsin8θ
このとき、
sin2θ+sin8θ(1−cos4θ)=sin4θcos8θ=2sin2θcos2θcos8θ
ここで、 1−cos4θ=2sin22θ なので、
sin2θ+2sin8θsin22θ=2sin2θcos2θcos8θ
両辺を、sin2θ(≠0)で割って
1+2sin8θsin2θ=2cos2θcos8θ
よって、 2(cos2θcos8θ−sin8θsin2θ)=1 すなわち、 cos10θ=1/2
0<10θ<5π において、 10θ=π/3、5π/3、7π/3、11π/3、13π/3 より、
θ=π/30、π/6、7π/30、11π/30、13π/30
cos3θ≠0 から、 θ=π/6 は不適。(実際に、θ=π/6 は解になりえない。)
以上から、 θ=π/30、7π/30、11π/30、13π/30 (終)
攻略法さんの別解に対して、らすかるさんの補足です。(平成23年1月4日付け)
いきなりcos3θを両辺にかけるのは思い付かないかも知れませんが、次のような式変形
を考えた場合は、その発想が浮かぶと思います。
sin3θ+sin5θ=sin9θ より、 sin9θ−sin3θ=sin5θ
和積公式より、 2cos6θsin3θ=sin5θ
両辺に、cos3θを掛けて、 2cos6θsin3θcos3θ=sin5θcos3θ
cos6θsin6θ=sin5θcos3θ
(1/2)sin12θ=(1/2)(sin8θ+sin2θ) から、 sin12θ=sin8θ+sin2θ
以下攻略法さんの計算と同じですが、次のようにしても解けます。
sin12θ−sin8θ=sin2θ より、 2cos10θsin2θ=sin2θ
よって、両辺を、sin2θ(≠0)で割って、 cos10θ=1/2
これから、θが求められます。
なお、FNさんによれば、sin3θ+sin5θ=sin9θ を sin12θ=sin8θ+sin2θ
と変形することは、相当大きな進歩である(平成23年1月4日付け)とのことですが、らすか
るさんの調査(平成23年1月4日付け)によれば、上記のような
「移項→和積→cos掛け→sin2倍角と積和→移項→和積」
という手順の式変形は、 sin3kθ+sin5kθ=sin9kθ のタイプのみに有効とのことで
ある。
(コメント) 攻略法さん、らすかるさん、ありがとうございます。華麗な式変形に感動しました!
上記の計算では、sin3θ+sin5θ=sin9θを式変形して、sin8θ+sin2θ=sin12θ
が導かれたわけであるが、この等式に関連して次のような図形の性質が背景にあることを、
FNさんが指摘された。(平成23年1月4日付け)
円に内接する正三角形ABCの弧AC上に点Pがあるとき、
PB=PA+PC
が成り立つ。
証明は簡単ではないが、証明そのものは、とても技巧的
で美しい!
(証明) 右図のように、PCの延長上に、AP=CQ となる 点Qをとる。このとき、 AB=CB 、 AP=CQ で、 四角形ABCPが円に内接することから、 ∠PAB=∠QCB なので、 △ABP≡△CBQ が成り 立ち、 BP=BQ となる。 また、 ∠PBQ=∠PBC+∠CBQ =∠PBC+∠ABP=60° であることから、△PBQは正三角形となる。 よって、 PB=PQ=PC+CQ=PA+PC (証終) |
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上図で、∠PAC=12°にとると、
∠PCA=60°−12°=48° 、 ∠PAB=60°+12°=72°
円の直径を1とすると、正弦定理により、
PA=sin∠PCA=sin48°、PB=sin∠PAB=sin72°、PC=sin∠PAC=sin12°
よって、 sin48°+sin12°=sin72°が成り立ち、θ=6°とすると、
sin8θ+sin2θ=sin12θ
を満たす。
また、
sinA+sinB=sinC (0°<A<B<C<90°)を満たす整数 A、B、C の組は何
通りあるだろうか?数えられる限りでは30ですが、他にもありそうだし、それ以外にな
いことも示せないし…
というぽっぽさんの疑問(平成23年1月4日付け)に対して、らすかるさんによれば、
「30個ですべてのようです。
(A,B,C)=(k,60−k,60+k) が、k=1〜29の29個と
一つだけ特殊な (A,B,C)=(18,30,54)
で計30個でした。」
とのことである。(平成23年1月4日付け)
実際に、 sink=2cos60°sink=sin(60°+k)−sin(60°−k) より、
sink+sin(60°−k)=sin(60°+k)
がkの値に依らず成り立つ。
この(A,B,C)=(k,60−k,60+k) の組合せは、
左図のように直径1の円に内接する正三角形において、
ちょうど、 PC=sin∠PAC=sink
PA=sin∠PBA=sin(60°−k)
PB=sin∠PAB=sin(60°+k)
であることを考えると興味深い。このことを指摘されたFN
さんに感謝したい。(平成23年1月5日付け)
また、FNさんは、次の問題を考えられた。
三角方程式 sinaθ+sinbθ=sincθ が高校数学の範囲で解けるのは、自然
数 a、b、c がどのような数であるときか。
完全な解答を得るのは難しいと思います。a<b で、a、b、c は相異なるものとし、さらに
3数の最大公約数は1は仮定してもいいでしょう。
(a=b は考えてもいいけど、とりあえず考えないとします。)
まず、和積の公式を使ってただちに出るケースを調べてみました。
(1) このまま和積を使う (a+b)/2=c
(2) さらに右辺に倍角を使う (a+b)/2=c/2 より c=a+b
(b−a)/2=c/2 より c=b−a
(3) sinaθ=sincθ−sinbθ として和積を使う a=(c−b)/2 より c=2a+b
同様に、 sinbθ=sincθ−sinaθ より、 c=a+2b
(4) さらに左辺に倍角を使う a/2=(c−b)/2 より c=a+b (既出)
a/2=(b+c)/2
これはない。
aとbを入れ替えても新たなものは出ない。
以上から、 c=b−a、(a+b)/2、a+b、2a+b、a+2b
(これだけでもそこそこあります。)
(a,b)=(1,2) のとき、 c=3、4、5
(a,b)=(1,3) のとき、 c=2、4、5、7
(a,b)=(1,4) のとき、 c=2、3、5、6、9
(a,b)=(2,3) のとき、 c=1、5、7、9 etc
これにない中で、a、b、c が小さいものは、例えば、sinθ+sin2θ=sin6θ とか
sin2θ+sin3θ=sin4θ とかですが、これらは高校数学で解けますか?
また、これら以外に、高校数学で解ける a、b、c の系列はありますか?
(a,b,c)=(3,5,9)の他に特殊な a、b、c はあるでしょうか。
上記に関連して、らすかるさんが考察されました。(平成23年1月6日付け)
sinθ+sin2θ=sin6θ の方は、解の一つ θ=(2/3)π は比較的簡単に出ました。
(計算) sinθ+sin2θ=sin6θ=2sin3θcos3θ
sinθ+2sinθcosθ=2sinθ(2cosθ+1)(2cosθ−1)cos3θ
(2cosθ+1){2(2cosθ−1)cos3θ−1}=0 (ただし、sinθ≠0 とする。)
2cosθ+1=0 から、 θ=(2/3)π
2(2cosθ−1)cos3θ−1=0 から、
2(2cosθ−1)(4cos3θ−3cosθ)−1=0
16cos4θ−8cos3θ−12cos2θ+6cosθ−1=0
ここで、 2cosθ=x とおくと、 t4−t3−3t2+3t−1=0
この四次方程式を解くと残りの2解が出せます。
sin2θ+sin3θ=sin4θ の方は、三次方程式を解けば出ることは出ます。
(計算) sin2θ+sin3θ=sin4θ より、 sin4θ−sin2θ=sin3θ
2cos3θsinθ=sin3θ=sinθ(4cos2θ−1)
2cos3θ−4cos2θ+1=0 (ただし、sinθ≠0 とする。)
よって、 8cos3θ−4cos2θ−6cosθ+1=0
このcosθに関する三次方程式は、実数解を3個持つが、1個は、1より大きいの
で不適。残りの2個は、
{1−2cos(arccos(−
/100)/3)}/6
{1−2sin(arcsin(
/100)/3)}/6
なので、答えは、
arccos({1−2sin(arcsin(
/100)/3)}/6)
=1.41460816385035643177…=81.0510…°
arccos({1−2cos(arccos(−
/100)/3)}/6)
=2.40475493662310641165…=137.7823…°
らすかるさんの考察に対して、FNさんのコメントです。(平成23年1月6日付け)
両方とも逆三角関数を使えば解けるということですね。高校数学の範囲でとなるとやはり
無理ですか。前に書いた系列の a、b、c 以外にはあまりないのかもしれません。でも、もう
すこしはありそうな気もします。今のところでは、3、5、9が孤立した特異なケースということ
になります。
さらに、FNさんからの提言です。(平成23年1月7日付け)
三角方程式 sinaθ+sinbθ=sincθ が高校数学の範囲で解けるのは、自然
数 a、b、c がどのような数であるときか。
について、方法(及び結果)に対する制限より結果に対する制限のほうがいいと思うので、次
のようにしたほうがいいようです。
三角方程式 sinaθ+sinbθ=sincθ の解がすべてπの有理数倍であるのは、
相異なる自然数 a、b、c がどのような数であるときか。
ただし、a<b、とする。(必要に応じて、a、b、c の最大公約数は1とする。)
多少違うかもしれませんが、ほぼ同じかなと思います。
ぽっぽさんが提示された次の問題:
sinA+sinB=sinC (0°<A<B<C<90°)を満たす整数 A、B、C の組は何
通りあるだろうか?
の整数を有理数に変えます。
sinA+sinB=sinC (0°<A<B<C<90°)を満たす有理数
A、B、C が存在
するのはどのような場合か?
弧度法で表記すれば、
sinA+sinB=sinC (0<A<B<C<π/2)を満たす A、B、C
がπの有理数倍
であるのはどのような場合か?
前に、sinaθ+sinbθ=sincθ が簡単に解ける場合として、
c=b−a、(a+b)/2、a+b、2a+b、a+2b
を書きましたが、この中で、上記を満たすA、B、Cを生みだすのは、c=2a+b だけです。
そして、その解は、Aを 0<A<π/6 を満たすπの有理数倍として、
B=π−A 、 C=π+A
です。即ち、前にらすかるさんが書かれた (k,60−k,60+k) のタイプです。今のところ
このタイプ以外は、(A,B,C)=(π/10,π/6,3π/10) だけです。
らすかるさんが、c=2a+b 以外でπの有理数倍になるものを探されました。
(平成23年1月8日付け)
有理数は多いので、分母≦360 の範囲に限定します。その結果、
(A,B,C)=(π/10,π/6,3π/10) だけ
しかありませんでした。
sinaπ+sinbπ=sincπ (0<a<b<c<1/2、c≠2a+b、a、b、cは有理数)の解は
(1/10,1/6,3/10)
のみかも知れませんね。
らすかるさんの考察に対して、FNさんのコメントです。(平成23年1月8日付け)
その可能性はありそうですね。証明できそうな気はしませんが...。
sinaπ+sinbπ=sincπ で有理数 a、b、c の共通分母 n
をとって、
sin(a’/n)π+sin(b’/n)π=sin(c’/n)π と書く。
このことから、1のn乗根 ω=cos(π/n)+i・sin(π/n) とおくと、 ωa’+ωb’−ωc’
が実数になる条件を求めることになる。円分体についての高度な理論を使えばできるかも
しれない。
以下工事中