・オイラーの偉業                         GAI 氏

 オイラーは、人類で初めて、Σn=1~∞ (1/n2)=π2/6 であることを見い出した。

 彼は如何にしてこの認識に至ったのか興味が湧き調べてみた。

 よくこの証明に、sin(x)/x の関数を利用したものを見るが、これはあくまでも、万人を認め
させるための方法であり、始めからこの方針でオイラーは発見したわけではないと思う。そ
の前に、オイラーは数値的にこの値になることを感覚的にまず強く認識できる経験をしてい
ることに違いない。

 そのためには、S(n)=Σk=1~n (1/k2) が具体的にどんな値に近づいて行くのかを誰よりも
詳しく観察することだと思う。(本丸攻め)

 しかし、この形でまともに計算すると、調和級数 Σk=1~n (1/k) と同様、その計算は収束
にはほど遠いところを遅々として進まない。

     S(100)= 1.6349839001848928650771694981803237667・・・
    S(1000)= 1.6439345666815598031390580238222155897・・・
   S(10000)= 1.6448340718480597698060818333103109035・・・
  S(100000)= 1.6449240668982262698057485033126918557・・・

 計算機が無い時代にこれを計算しているだけで人生が終わりそうだ。

 スイスの数学者を多く輩出したベルヌーイ家のヤーコブ・ベルヌーイが、バーゼル大学で著
した「無限級数の扱い」の著書の中で、

”誰かこの値の正確な収束値を発見をして報告してくれたら、私たちはその人に大いに感謝
します”

と大数学者ヤーコブでも敗北を認め、助けを嘆願していた。以降、この問題はバーゼル問
題と呼ばれることになる。

 このテーマを受け、オイラーはまず、limn→∞ S(n) の値を知る画期的な改良を開発する。
(この改良がなければ何に向かって進んでいいのかが掴めない。)

 それがまず、ニュートン・メルカトル級数(オイラーも独自の方法でこの級数を構成している。

  log(1+x)=x-x2/2+x3/3-x4/4+x5/5-・・・

を応用して、次の定積分(どうして積分範囲が[0,1/2]かは後で分かってくる。)を考える。

I=∫[0,1/2]-log(1-t)/tdt=∫[t=0,1/2](1+t/2+t^2/3+t^3/4+・・・)dt
=[t+t^2/4+t^3/9+t^4/16+・・・]01/2=1/2+(1/2)^2/4+(1/2)^3/9+(1/2)^4/16+・・・・(1)

 次に、この積分を z=1-t と置換してみると、

 I=∫[1,1/2]log(z)/(1-z)dz=∫[1,1/2](1+z+z^2+z^3+z^4+・・・)*log(z)dz

 ここで一般に、∫z^n*log(z)dz は部分積分を用いて、

 ∫z^n*log(z)dz=z^(n+1)/(n+1)*log(z)-∫1/z*z^(n+1)/(n+1)dz
         =z^(n+1)/(n+1)*log(z)-z^(n+1)/(n+1)^2+C (C:積分定数)

から、n=0,1,2,3,4,・・・とすることで、定積分 I は、

I=[z*log(z)-z]11/2+[z^2/2*log(z)-z^2/2^2]11/2+[z^3/3*log(z)-z^3/3^2]11/2
+[z^4*log(z)-z^4/4^2]11/2+・・・
=[(z+z^2/2+z^3/3+z^4/4+・・・)*log(z)-(z+z^2/2^2+z^3/3^2+z^4/4^2+・・・)]11/2
=[-log(1-z)*log(z)-(z+z^2/2^2+z^3/3^2+z^4/4^2+・・・)]11/2
=-(log(1/2))^2+log(0)*log(1) - (1/2+(1/2)^2/4+(1/2)^3/9+・・・) + (1+1/2^2+1/3^2+1/4^2+・・・)
=-(log(1/2))^2+log(0)*log(1) - I  + (1+1/2^2+1/3^2+1/4^2+・・・)  ・・・・(2) (何故なら(1)より)

(オイラーは同じものを違う見方で2通りに示す方法をよく使う気がする。)

 よって、 2*I=-(log(1/2))^2+log(0)*log(1) + (1+1/2^2+1/3^2+1/4^2+・・・)

 これから、

1+1/2^2+1/3^2+1/4^2+・・・=Σ[n=1,∞]1/n^2=2*(1/2+(1/2)^2/4+(1/2)^3/9+・・・)-(log(1/2))^2
=2*Σ[n=1,∞]1/(2^n*n^2)-log(2)^2  (何故ならlog(0)*log(1)=0 とみなせる。)・・・・・(3)

 ここで、log(2)の近似値は過去にニュートンの方法による小数点以下50位くらいまで求めら
れていたが、オイラーは新たに、

  log((1+x)/(1-x))=2*(x+x^3/3+x^5/5+x^7/7+・・・)

の展開式を利用して(xが小さい値なら右辺はよい近似を与える。)x=1/3を代入して20項分
を計算することで、

  log(2)=0.6931471805599453094172・・・

と小数点以下20桁まで真の値と一致できる。
(これはニュートンがとった手段より遥かに能率的に手に入れられる。)

 また、第1項は分母に2^nがあるので幾何級数的に収束できる。これも20項分の和を計算
することで結局それまで誰もなしえなかったバーゼル問題に対するはるかに正確な値を手
に入れられた。
(ともに20項の和を用いることで1.644934062865・・・と真の値とは小数点以下8位まで合う。)

 このことから、オイラーはきっともっと項数を増やしてその真の値を知る努力を繰り返したと
思われる。因みにコンピュータでやったら100項分の和では小数点以下33位まで一致する精
度が出せた。

 こうして出した値を既知のものと結びつける努力をする中で、きっとπ2/6と凄い精度で一
致することにまず気付いたと思う。しかし、いくら近いからといって、これを発表しても世間は
認めようとはしないであろうと・・・。数学的には、いちゃもんがつきそうなやり方で出した値を
強くオイラーは信じたからこそ、以下の努力が続いていくことが出来たと思います。

 この計算結果を出していたからこそ、4年後にオイラーは例の

 1-x^2/3!+x^4/5!-x^6/7!+x^8/9!-・・・
=(1-x^2/π^2)*(1-x^2/(4*π^2))*(1-x^2/(9*π^2))*(1-x^2/(16*π^2))*・・・

と目も眩む証明付きのバーゼル問題の結果を発表することになる。
(これはあくまで、他人を納得させるための努力に他ならない。先に極限値がπに関連して
いることを認識してない限りこの発想は生まれないと思う。)

 しかも、zeta(2)以外にも、zeta(4)、zeta(6)、zeta(8)、・・・、zeta(28)までもおまけつき表示で、
これが歴史上の順番であり、何より誰もなしえなかった真の値に限りなく近づける方法を大
胆なテクニックを使いこなすことで成し得たことが成功の最大の要因と思われます。

 元の級数で、S(1000000)=Σ[n=1,1000000]1/n2 と1,000,000個の項を足し合わせたとしても
1.64493306684872643630574849997939185588561654406394113570・・・程度で、

 π2/6= 1.64493406684822643647241516664602518921894990120679843774・・・

で、せいぜい小数点以下5位まで一致させるのがやっとなのだから、誰も真の姿から遠い場
所から見ざるをえなかった。

後日談:オイラーがこの結果を発表した時にはヤーコブ・ベルヌーイはすでにこの世にはい
    なくなっており、弟のヨハン・ベルヌーイはこれを聞いて”さぞや兄が生きていたらどん
    なに驚き、喜んだでしょう”と、それ以降も色々な証明法を編み出し、確固たる正しさ
    を示し続けた。

 改めてオイラーの原野に踏み込んでいく力強さ(しかも切り開くための鉈や鋸などの道具を
自分で作り出す。)と、それを補足する縦横無尽な整備力に感嘆します。



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