・ 微分の効用 S.H氏
2つの数 (0.99)99 と (1.01)-101 を考える。
果たして、どちらの方が大きい数なのだろう?
普通の電卓が手元にあっても、両者の計算は大変だろうが、関数電卓を用いれば、次の
ような値であることが、直ぐ分かる。
(0.99)99=0.3697296376・・・
(1.01)-101=0.3660507052・・・
したがって、(0.99)99 > (1.01)-101 である。
このような解法は、電卓の使い方に慣れている現代の中学・高校生にとって、当然考えら
れるものである。
しかし、この問題は、微分法を用いれば、関数電卓など持ち出さなくても、手計算による解
決が可能である。
F(X)=(1−X)99(1+X)101 とおくと、その導関数 F’(X)は、
F’(X)=2(1−X)98(1+X)100(1−100X)
0<X<0.01 において、F’(X)>0 より、F(X) は単調に増加する。
よって、 F(0.01)>F(0)=1 から、 (0.99)99(1.01)101>1
したがって、(0.99)99>(1.01)-101
微分法と一見無関係とも思える問題なのに、このように鮮やかに微分法が適用されて問
題が解決されることに、映画「セーラー服と機関銃」の薬師丸ひろ子風に言えば、
『快感〜!!』
とでもなるのであろうか?!
(追記) 広島工業大学の大川研究室から、次のような別解もあるというご指摘をいただい
た。
F(X)=X・log X とおく。 真数条件から、X>0 である。このとき、 F’(X)=log X +X・(1/X) =log X +1 F”(X)=1/X >0 であるので、 F(X) は、X>0 において常に下に凸である。 |
このとき、
が成り立つ。
そこで、上式に、X=0.99、Y=1.01 を代入すると、
(0.99log0.99+1.01log1.01)/2>0
両辺を200倍して、99log0.99+101log1.01>0
すなわち、 (0.99)99(1.01)101>1 となる。
したがって、 (0.99)99 > (1.01)-101 が成り立つ。
(注意) 大川研究室によれば、微分を用いない解法もあるとのことであるが、具体的には
示されなかった。勝手に予想すれば、多分、次のような解法だろうと思う。
(0.99)99(1.01)101=(1−0.01)99(1+0.01)101=(1−0.0001)99(1+0.01)2
=(1−0.0001)99×1.0201
ここで、2項定理により、
(1−0.0001)99=1−0.0099+99C2(0.0001)2−・・・−99C99(0.0001)99
2≦k≦98 において、
99Ck(0.0001)k÷99Ck+1(0.0001)k+1=10000(k+1)/(99−k)≧30000/97>1
であるので、2≦k≦98 において、99Ck(0.0001)k−99Ck+1(0.0001)k+1>0
よって、 (1−0.0001)99>1−0.0099>0.99
したがって、(0.99)99(1.01)101>0.99×1.02=1.0098>1 から、
(0.99)99>(1.01)-101
が成り立つ。
(コメント) 微分を使った場合と比べて、やはり計算の冗長さは否めない。「微分」というツ
ールがいかに優れているかを如実に物語っている好例だと思う。
(補遺) このページを書き上げるのと相前後して、大川研究室から次のような別解をいた
だいた。(証明一部補足)
k を自然数とする。このとき、1≦n≦k を満たす自然数 n に対して、
0 < X < 1/(2k) ならば、 1+2nX > (1−X)-n
が成り立つ。実際に、
n=1 のとき、左辺−右辺=1+2X−1/(1−X)=X(1−2X)/(1−X)
0 < X < 1/(2k) ≦1/2 なので、1−2X>0、X>0、1−X>0 より、左辺−右辺>0
となる。よって、n=1 のとき、不等式は成り立つ。
1≦m≦k−1 を満たす自然数 m について、不等式が成立すると仮定する。
すなわち、0 < X < 1/(2k) ならば、 1+2mX > (1−X)-m
このとき、0 < X < 1/(2k) ならば、1+2(m+1)X > (1−X)-(m+1) が成り立つことを示す。
左辺−右辺=1+2(m+1)X−(1−X)-(m+1)>1+2(m+1)X−(1+2mX)/(1−X)
=X(1−2(m+1)X)/(1−X)
m+1≦k 、0 < X < 1/(2k) なので、1−2(m+1)X≧1−2kX>0
さらにまた、X>0、1−X>0 なので、左辺−右辺>0 となり、不等式は成り立つ。
n =1 のとき不等式は成立したので、上の性質を順次適用することにより、
1≦n≦k を満たす自然数 n に対して、
0 < X < 1/(2k) ならば、 1+2nX > (1−X)-n が成り立つことが証明された。
したがって、0 < X < 1/(2k) ならば、 1+2kX > (1−X)-k が成り立つ。
この不等式において、k=99 とおくと、1+2・99・0.0001> (1−0.0001)-99
0 < 0.0001 < 0.001<1/(2・99) であることに注意して、
(1.01)2=1.0201>1.0198=1+2・99・0.0001
> (1−0.0001)-99= (0.99・1.01)-99
したがって、 (0.99)99>(1.01)-101 が成り立つ。
(コメント) とても技巧的ですね。特に、最後の 1−0.0001=0.99×1.01
という
計算には、思わず感嘆のため息をついてしまいました。
平成19年度学習院大学理学部の入試問題として、次のような問題が出題された。
x の方程式 a・cos2x+4sinx−3a+2=0 が解を持つような実数aの範囲を求めよ。
ある程度の素養があれば、解答へのアプローチ、そして、数式処理が可能な問題で、入
試問題としては良問の部類に入るだろうし、どこ彼処の大学で出題されているであろう伝説
(レジェンド)の問題とも言える。
私なら次のように解くだろう。
(解) sinx=t とおくと、−1≦t≦1 で、 a(1−t2)+4t−3a+2=0 より、
a(t2+2)=4t+2 で、 t2+2≠0 より、 a=(4t+2)/(t2+2)
y=(4t+2)/(t2+2) とおくと、 y’=4(t2−2t+2)/(t2+2)2>0
よって、yは、単調に増加し、値域は、 −2/3≦y≦2
したがって、題意を満たすためには、 −2/3≦a≦2 となる。 (終)
多分、上記の解答は、ほとんどの人が行うものと推察される。これに対して、次のような解
答も可能だろう。
(別解) sinx=t とおくと、−1≦t≦1 で、 a(1−t2)+4t−3a+2=0
すなわち、 at2−4t+2a−2=0
a=0 のとき、 −4t−2=0 より、 t=−1/2 で解があるので、a=0 は適。
a≠0 のとき、2次方程式 at2−4t+2a−2=0 が、−1≦t≦1 で解を持つ条件を
求めればよい。
放物線 F(x)=at2−4t+2a−2 の軸の方程式は、 t=2/a
2/a≦−1 すなわち、 2a≦−a2 より、 −2≦a<0 のとき、
F(−1)F(1)≦0 すなわち、 (3a+2)(3a−6)≦0 より、 −2/3≦a≦2
よって、 −2/3≦a<0
2/a≧1 すなわち、 2a≧a2 より、 0<a≦2 のとき、
F(−1)F(1)≦0 すなわち、 (3a+2)(3a−6)≦0 より、 −2/3≦a≦2
よって、 0<a≦2
−1<2/a<1 すなわち、 −a2<2a<a2 より、 a<−2、2<a のとき、
判別式 D/4=4−a(2a−2)=−2(a2−a−2)=−2(a−2)(a+1)<0
なので、解を持つことはない。
以上から、求める範囲は、 −2/3≦a≦2 となる。 (終)
(コメント) もちろん、この別解もありなのだが、本解に比べてその煩雑さは計り知れない。
微分の効用を実感するときであろう。