・ 無理数性の証明                S.H氏

 私自身、昔、高校で背理法の練習問題として、『 は無理数である』ことを証明して以来、
無理数性の証明というものに、なぜかしら、数学の神秘性を感じてきた。単なる「2」という数
に対して、平方根をとるという、言ってみれば、我々人間が行う人為的な操作が、数字が途
切れることなく無限に続くという数の神秘性に通じているという点にである。

 円周率 π や、自然対数の底 が無理数であることを証明するには、かなり高級な数学を
用いないと証明ができないので、それが証明されても、『 は無理数である』ことの証明を
初めて体験したときのような、純粋な感動というものは、どうしても希薄になってしまう。

 私自身の体験からいえば、自分の手持ちの知識で、数学の神秘性につながることを中学
・高校の段階で数多く経験することによって、その後の数学との関わり方も違ってくるように
思う。

 『真数2の常用対数は無理数である』ことを証明することも、高校生レベルで、数学の神秘
さを体験できる、一つの教材だろう。

 対数表を見ると、 =0.3010 となっている。見た目は何となく有限小数かな?と思
われがちで、高校生に、0 のあとに、まだ数字が途切れることなく無限に続くんだよと説明し
ても、(説明する側にとっても)ちょっと説得力にかけるなあというのが実感である。

 そんなとき、次のような説明をして、強引に説得することにしている。

  が有限小数と仮定すると、必ず、分数の形に書ける。分子・分母を目一杯約分して、

          

とする。ただし、m,n は、互いに素な自然数で、0<<1より、n<m である。

 上の式は、対数の定義を用いて、10=2 と書き直せる。n<m なので、両辺を、2
で割ると、
         5=2m−n  (n>0、m−n>0)

となる。このとき、左辺は奇数で、右辺は偶数となり、これは、矛盾である。
 したがって、、 =0.3010 の 0 の後には、無限に循環しない数が続く。


 よおすけさんからのコメントです。(平成26年3月9日付け)

 a、bを自然数とする。a2と2b2の素因数の個数は偶数と奇数により異なる(:正しい)ので、

2≠2b2(が導かれる:正しい) よって、≠a/b (が導かれる:正しい)

・・・ いわゆる、「直接証明」です。

 上記の内容(一部書き換えしています。)は、東京理科大の安部直人教授のサイト「安部
研究室
」に載っていたものです。


(コメント) 証明の体裁は直接証明となっていますが、背後にある考え方は、背理法という
      間接証明がもとになっているような...雰囲気!

  (が無理数でない、即ち、有理数 a/b と仮定すると、=a/b
   よって、 a2=2b2 となるが、左辺、右辺で素因数2の個数が偶数と奇数で異なり、等
  式は成り立たない。よって、矛盾である。以上から、は無理数である。)

 安部先生の説では、正しくない「=a/b」からいくら推論しても無意味とのことですが、見
かけ上正しいか正しくないかが判然としない「=a/b」から式変形して、正しくないことが明
らかな式に到達することが、背理法の真骨頂ではないでしょうか?

 上記の( )内の証明からも分かりますが、直接証明はいつでも簡単に背理法証明に使える
という点は合点がいきます。素人目で、天下り式に突然、「a2=2b2」から証明を始めるよりも、
=a/b」と仮定するよ!と先に言う方が自然に思えます。


 ABCDEFさんからのコメントです。(平成26年3月18日付け)

 「安部研究室」のサイトは以前に見たことはあります。ちらっと見ただけでした。今回もう一
度見てみました。流し読み程度ですが。

 正直言って賛同できません。非常に自然な考え方である背理法を排斥しようとする意図が
わかりません。人と議論するとき、相手の主張を肯定して、「そのことから・・・となり・・・となり
・・・となる。しかしこれは間違ってるだろ。だから君の主張は間違いだ。」ともっていくのはご
く普通のことです。背理法はこれと同じで自然なやり方です。

 p→q を証明するときに、直接証明するなら使えるのはpだけ、対偶を示すなら、使えるの
は、¬qだけ(¬qはqの否定)。背理法なら、使えるのは、pと¬q。普通は、使えることが多い
ほど証明は楽なはず。(もちろん例外はあります。)

 確かに、背理法なんか使わなくて簡単に証明できるのに、背理法を使ってる証明を時々見
ます。なんでこんなことするのかなと思います。不要な背理法を使うのは、見た目が汚いから
やめるべきかもしれないけど、普通は積極的に使っていいと思います。さて、

 a、bを自然数とする。a2と2b2の素因数の個数は偶数と奇数により異なるので、
2≠2b2 よって、≠a/b


という証明が理解できる高校1年生が何人いるでしょうか。a2と2b2の素因数の個数を考え
るのはなぜか。そもそもa2と2b2が突然出てきたのはなぜか。

 が有理数であるとすれば、=a/b、分母を払って、b=a で、両辺を2乗して、
2b2=a2、ここで、2b2とa2を考える理由がわかる。背理法を表に出してないだけで、裏に
は背理法があります。

 考えたことをそのまま証明として書くわけではないから、上のような証明もありうることは確
かだけど、これが背理法を使った証明よりわかりやすいとは思えません。普通の高校生に数
学を教えたことが全くない人でないと、こんな証明がより簡単で分かりやすいなどとは言わな
いと思います。

 素因数分解は中学生でもできる。だから素因数分解の一意性は中学生でもわかるのよう
なことが書いてあります。素因数分解ができることと素因数分解の一意性が理解できること
は大きな差があります。普通の中学生や高校生の多くは、素因数分解の一意性の証明は
理解できないでしょう。そもそも、それが証明がいるということが理解できない場合が多いと
思います。

 素因数分解の一意性というのは、そんなに簡単なことではありません。実質的には、ユー
クリッドが理解していたと言われていますが、きちんとした形で述べて証明したのはガウスだ
と言われています。ユークリッドからガウスまで2000年以上かかっています。


 よおすけさんからのコメントです。(平成26年3月18日付け)

 元々これは「が無理数」の別証明として、ここで紹介しました。良し悪しは別として、「こ
のような証明もあります」という考えで・・・・。


                                             投稿一覧に戻る