・素数の真実                             GAI 氏

 色々な2次体Q[√m]={a+b*√m|a,b∈Q}での見慣れた素数pの分裂の仕方を調べてみまし
た。(→ 一覧)(ただし2≦p≦29での素数に限定)

 原子が素粒子から構成されていく過程の様に、整数世界では分割の基本とされる素数が
世界を変えるとこうも多様に分裂できることが新鮮な驚きです。これらを司っている法則が
イデアルらしいことは本で知るんですが、その本質の理解にはほど遠いところにしかいませ
ん。どなたか、これに纏わる法則や適切な例やイメージを掴みやすい表現等ありましたら、
教えて下さい。

 何通りも分解できたり、できなかったり、特定の体ではそれ特有の素数しか分裂できなかっ
たりと、整数世界からはランダムに出現する素数もどうも役割分担してそれぞれが働いてい
る風に見える。ただ捉え難く、神韻縹渺とした眺めでしかない。


 空舟さんからのコメントです。(平成27年12月13日付け)

 いくつか捉え方は有り得るでしょうが、円分体での分解が法則を支配していると思っていま
す。次のように認識しています。

 有理数体Qに1の原始n乗根ζを付け加えた円分体をLとする。G = (L/Q のガロア群)は、
nを法とする既約乗法群と自然に同一視できます
(ζをζ^k に送る自己同型写像 と kによって代表される剰余類で対応)

 nと互いに素な素数pが属する剰余類が生成する部分群をH (⊂G) とします。Hに対応する
中間体M (Q⊂M⊂L) が存在します。このとき、素イデアル(p)は拡大M/Qでは完全に分解し、
L/Mでは分解しない。

 n=3,4 のときは、円分体がそのまま二次体になります
 n=3 のとき G={1,2} (mod 3)
 p≡1 (mod 3) のとき H={1}, M=L
 p≡2 (mod 3) のとき H=G, M=Q
 3N+1型素数は分解、3N+2型素数は分解しない

 n=8 のときは、円分体Lは次のように二次体を含んでいます
 G={1,3,5,7} (mod 8)
 H1={1,3} に対応する中間体 M1 = Q(√-2)
 H2={1,7} に対応する中間体 M2 = Q(√2)
 8N+1,3型素数は M1/Q で分解
 8N+1,7型素数は M2/Q で分解 します

 実二次体には単数が無限にあることに注意してください。例えば、2+√3∈Q[√3] は単数
(逆数も代数的整数)です。p = (a+b√3)(a-b√3) と分解された時に、

  (a+b√3)(2+√3) = c+d√3 、(a-b√3)(2-√3) = c-d√3

とすれば、p = (c+d√3)(c-d√3) とも分解されますが、これらは同一の分解とみなすのが自
然でしょう。

 M=Q(√-5) は、n=20 の場合の円分体Lの中間体です。L/Qのガロア群を{1,3,7,9,11,13,17,19}
と同一視したときに、{1,3,7,9} という部分群に対応する中間体となります。5N+1,3,7,9型素数は
M/Q で分解・・というわけにはいかないです。Mは上記に現れた例にはない性質があります。
「主イデアル整域ではない」

 p≡1,3,7,9 (mod 20) のとき、素イデアル(p)は確かに分解するのですが、単項イデアルに分
解するとは限らないという所が複雑になります。
(例えばp=3は (1+√-5,3),(1-√-5,3) という2つの非単項イデアルに分解)

 実は、p≡1,9 のときに限って、単項イデアルに分解します。


 GAI さんからのコメントです。(平成27年12月13日付け)

 例えば、素数p=17なら、Q(√-2),Q(√2),Q(i)で分解しますよね。

 17=(3+2√2*i)(3-2√2*i)=(5+2√2)(5-2√2)=(4+i)(4-i)

ここに、円分体Q(z[8]):ただし、z[8]=Cos(2π/8)+i*Sin(2π/8) 
(以降z[8]=z と記す。)
においては、

(3+2√2*i)=(2-z^5)(2-z^7) 、(3-2√2*i)=(2-z)(2-z^3)
(5+2√2)=(2-z^3)(2-z^5) 、(5-2√2)=(2-z)(2-z^7)
(4+i)=(2-z^3)(2-z^7) 、(4-i)=(2-z)(2-z^5)

より、いずれにせよ、 17=(2-z)(2-z^3)(2-z^5)(2^-z^7) で分解できるわ
けですね。

 M=Q(√-5) は、n=20 の場合の円分体Lの中間体です。L/Qのガロア群を{1,3,7,9,11,13,17,19}
と同一視したときに、{1,3,7,9} という部分群に対応する中間体となります。5N+1,3,7,9型素数は
M/Q で分解・・というわけにはいかないです。Mは上記に現れた例にはない性質があります。
「主イデアル整域ではない」

 p≡1,3,7,9 (mod 20) のとき、素イデアル(p)は確かに分解するのですが、単項イデアルに分
解するとは限らないという所が複雑になります。
(例えばp=3は (1+√-5,3),(1-√-5,3) という2つの非単項イデアルに分解)

 実は、p≡1,9 のときに限って、単項イデアルに分解します。


 ここの部分が不思議でした。平方剰余記号(-5/p)=1を満たす奇素数pは p≡1,3,7,9 (mod 20)
ですよね。そこで素数23をQ(√-5)で因数分解しようといくら試みても出来ないのが納得いき
ませんでした。p=29,41,61,89,101,・・・なら上手くQ(√-5)で分かれるんですね。

 今、円分体z[20]での分解を挑戦しているのですが、p=29,41の分解の結果を教えてくれま
せんか?


 なおさんからのコメントです。(平成27年12月13日付け)

 空舟さんがおっしゃっているように、Q(√-5)の整数環Z[√-5]が主イデアル整域(PID)では
ないというのが本質的です。Z(√-5)は素イデアル分解は一意的にできますが、PIDではない
ので素元分解は一意的にできません。

 代数体Kの類数が1⇔Kの整数環はPID⇔Kの整数環は素元分解聖域(UFD)が一般に
成立します。Q(√-5)の類数は2です。

 また、平方剰余記号でわかる事は以下の事です。

 (-5/p)=1 ⇔ p|x^2+5y^2

 したがって、p≡1,3,7,9 (mod 20)の形の素因数を持つ事はわかるものの、p=x^2+5y^2 と
書けるとは限りません。

 これらの背景にあるのは代数体の整数論でキーワードは類数、ガウスの種の理論、ヒル
ベルト類体そして類体論です。この周辺の話題が書いてある本をいくつか挙げるので参考
までに

・『数論入門』山本芳彦著(岩波書店) 入門的な本です

・『数論〈1〉Fermat の夢と類体論』加藤和也、黒川信重, 斎藤毅, 栗原将人著(岩波書店)

・『数論を学ぶ人のための相互法則入門』(牧野書店) 平松豊一 は保型形式のフーリエ級
 数を用いて素数の分解を記述しています。これは類体論を超えた枠組みでも通用する手
 段になります。内容はかなり高度ですが、割と読みやすく書かれた本です。

・洋書でもよければ 『Primes of the Form x^2+ny^2 』David A.Cox がタイトルからも分かる
 通り、これらの質問に全て解答できる本になっています(350ページとかなり多いですが、前
 半の1,2章を読むだけでもかなり得られるものは多いかと思います)


 空舟さんからのコメントです。(平成27年12月13日付け)

 円分体にもn≧5なら無限の単数群があるので、複素数としての分解は一意的ではないこと
に注意します。(素イデアルの分解は一意的になるはずです)

 円分体の単数群についての資料は、たとえばネットではこちらなど。

 例えば、 z=exp(2πi/8), 17=(2-z)(2-z^3)(2-z^5)(2-z^7) に対して (z^3-1)/(z-1) = z^2+z+1
は単数で、(1+z+z^2)*(1+z^3+z^6)*(1+z^5+z^2)*(1+z^7+z^6) = 1 なので、このような因子を
(2-z)(2-z^3)(2-z^5)(2-z^7)に掛ければ、複素数として異なる(が同一視すべき)分解を得ます。

 z=exp(2πi/20) による29,41の分解例

 Π(z^6k+z^5k-z^3k+1) [k=1,3,7,9,11,13,17,19] = 41、 Π(z^9k+z^k+2) [k=1,3,11,13] = 29

resultant(z^8-z^6+z^4-z^2+1,z^6+z^5-z^3+1-y,z)
> y^8-10*y^7+46*y^6-120*y^5+206*y^4-250*y^3+221*y^2-130*y+41
の定数項として計算機で調べることができます。


 GAI さんからのコメントです。(平成27年12月14日付け)

 計算機で2つの等式を確認できました。
(直接この式で試みたので特に41の確認には長時間かかりました。)

29=(3-2√5*i)(3+2√5*i)=(7-2√5)(7+2√5)=(5-2*i)(5+2*i)

41=(6-√5*i)(6+√5*i)=(11-4√5)(11+4√5)=(5-4*i)(5+4*i)

など一見異なる表現もz=exp(2πi/20) を使うことで一つの違う現れに過ぎないことをよくも昔
の人(ガウス?、クンマー?、高木貞治?)は認識できたものだとは驚きです。

 私は41を計算機をやみくもに利用して p≡1 (mod 20)の一部の素数pで、

41=(2±z)(2±z^3)(2±z^7)(2±z^9)(2±z^11)(2±z^13)(2±z^17)(2±z^19)/5
1181=(3±z)(3±z^3)(3±z^7)(3±z^9)(3±z^11)(3±z^13)(3±z^17)(3±z^19)/5
61681=(4±z)(4±z^3)(4±z^7)(4±z^9)(4±z^11)(4±z^13)(4±z^17)(4±z^19)

などで満足していました。勉強してみたい本やテーマが開けてうれしいです。なおさんを含め
情報提供ありがとうございました。



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