高校3年ですが、とある参考書にコラムとして掲載されていたものに興味を抱き、調べてい
た際に浮かんできた際の疑問について質問させていただきます。
質問の内容は、バーゼル問題のオイラーによる解法とされているもの(文献をあまり調べ
ていないので間違いかもしれません)は、sin(x)のマクローリン展開を用いた解法ですが、矛
盾点があると思うのです。以下に、その証明法と矛盾点を書かせていただきます。
(註) バーゼル問題とは、イタリアの数学者 Pietro Mengoli(1626〜1686)によって、1644年
に提起された問題「平方数の逆数を足し合わせていくといくらになるか」である。
一般に、0を解に持たないn次方程式P(x)=0が n個の解 a、b、c、…、m、nを持つならば、
P(x)=(1-x/a)(1-x/b)(1-x/c)…(1-x/n) と因数分解される。この”有限次数の場合に成立す
る因数分解が, 無限次方程式の場合にも可能である”…(1)とする。
sin(x)をマクローリン展開すると、sin(x)=x/(1!)-x3/(3!)+x5/(5!)-x7/(7!)+… となる。
x≠0として、sin(x)/x=1-x2/(3!)+x4/(5!)-x6/(7!)+… …(2)である。
sin(x)/xのすべてのゼロ点は、x=±nπ(n∈N)であるから、(1)より、
sin(x)/x=(1-x/π)(1+x/π)(1-x/(2π))(1+x/(2π))(1-x/(3π))(1+x/(3π))…
=(1-{x/π}2)(1-{x/(2π)}2)(1-{x/(3π)}2)… …(3) と表せる.
(2)と(3)における x2 の係数は、
(2)…-1/(3!)=-1/6
(3)…-{(1/π)2+(1/(2π))2+(1/(3π))2+…}=-(1/π2)Σn=1〜∞ {1/n2}
x2≠0 より、-1/6=-(1/π2)Σn=1〜∞ {1/n2} すなわち、Σn=1〜∞ {1/n2}=π2/6
先の議論では、 sin(x)/xのゼロ点が x=±nπ(n∈N)であることを利用した。ここで、tan(x)
を考えると、sin(x)とゼロ点周期が完全に一致する。
故に、tan(x)/x と sin(x)/x のゼロ点周期は完全に一致するので、(1)より、
tan(x)/x=(1-x/π)(1+x/π)(1-x/(2π))(1+x/(2π))(1-x/(3π))(1+x/(3π))…
と展開できるはずである。今、tanxをマクローリン展開すると、tan(x)=x+x3/3+(2/15)x5+…
であるから、
tan(x)/x=1+x2/3+(2/15)x4+…
sin(x)の場合と同様に、x2 の係数を比較して、 1/3=-(1/π2)Σn=1〜∞ {1/n2} である。
以上より、Σn=1〜∞ {1/n2}=-π2/3 であるが、これは矛盾。
この矛盾は、おそらく(1)という仮定が間違っているからなのだろうと思いますが、そうなら
ばオイラーによる証明もまた間違いではないのか…?と思った次第です。
どなたかこれに関してご教示願えませんでしょうか。よろしくお願いします。
空舟さんからのコメントです。(平成27年9月30日付け)
すぐに考えられる原因として、tan(x) という関数は極を持ちます。簡単な例で、f(x)=x と
g(x)=x/(x+1) はマクローリン展開が異なるように、極を考慮しなければ間違った結果になっ
てしまいます。極を考慮すれば、結局 tan(x) = sin(x)/cos(x) と同様の内容になりそうです。
DD++さんからのコメントです。(平成27年9月30日付け)
なるほど、面白い発想ですね。確かに、tanx/x もゼロ点は全ての ±nπ ですから、草餅さ
んの理論も一見正しそうに見えます。しかし、実際はそうではありません。原因は、マクロー
リン展開が実はそれほど万能ではないことにあります。
マクローリン展開というのは、話を遡るとテイラーの定理から来ています。テイラーの定理
は平均値の定理を一般化したものです。つまり、少なくとも平均値の定理が使えるような状
況でなければマクローリン展開はできません。草餅さんは高校3年生とのことですので、平
均値の定理は理解していますよね。
では問題、以下の主張はもちろん誤りですが、それは一体なぜ?
| f(x) = tan x とする。
| f(0) = 0、f(π) = 0 なので、
| 平均値の定理より、f'(c) = 0 となる実数 c が
| 0 < c < π に存在する(?)
その答えが、tanxのマクローリン展開の"因数分解"で、(1-x/π)が出てくるとしてはいけない
理由そのものです。
もう1つ、マクローリン展開が可能だったとしても、それが元の式と一致するとは限りません。
例えば、こんな関数を考えましょう。
x=0 のとき、f(0) = 0
x≠0 のとき、f(x) = e^{-x-2}
微分可能かどうか自明ではありませんが、
f(x) が微分可能であることを示し、x≠0では公式で微分、x=0では定義に従って微分
f'(x) が微分可能であることを示し、x≠0では公式で微分、x=0では定義に従って微分
f''(x) が微分可能であることを示し、x≠0では公式で微分、x=0では定義に従って微分
と繰り返して、マクローリン展開してみてください。
f(x) とは明らかに異なると一目でわかる関数が出てくるはずです。
(任意の自然数 k について x→0 で x-k・e^{-x-2}→0 です、念のため)
マクローリン展開はほとんどの場合には元の関数と一致しますが、このように稀にそうでな
いこともあるのです。
sinx/x という関数は、
・±π、±2π、±3π、…… がゼロ点である
・無限に広い範囲でマクローリン展開が可能である
・マクローリン展開の結果が元の関数ときちんと一致する
という3つ全ての条件を満たしている、というのがバーゼル問題のオイラーの解答のポイント
です。(この3つで本当に十分かと言われると実はあんまり自信ないですが)
空舟さんからのコメントです。(平成27年10月1日付け)
(無限遠点を含む)複素平面全体の零点と極およびそれらの位数が与えられれば、それを
満たす正則関数は定数倍を除いて、一意的と認識しています。
関数の割り算を考えることで 次に帰着できます。
(無限遠点を含め)零点も極も持たない正則関数は、定数関数に限る。
この状況は コホモロジーが自明 という言葉で描写されるらしいです。
DD++さんからのコメントです。(平成27年10月1日付け)
なるほど、実関数にこだわらず複素関数に拡張してしまえばいいんですね。
草餅さんからのコメントです。(平成27年10月1日付け)
なるほど、テイラー(マクローリン)展開について、思い違いをしていたようです。"テイラー展
開とはある関数を多項式関数として近似するもの"だと考えていましたが、元々は平均値の
定理から来ていたのですね。であれば、sin(x)とゼロ点周期が一致し、かつ無限に広い範囲
で連続で、マクローリン展開と元の関数が一致するような関数ならば、sin(x)の場合とバーゼ
ル問題の値が一致する,ということでしょうか。であれば、f(x)=sin(x)*(2-cos(x))などはどうでしょ
うか。これをマクローリン展開して詳しく調べたわけではないので確証は持てませんが、近似
のn次式の係数を∞に飛ばせば0に収束しますので元の関数と一致しそうですが…。
空舟さんからのコメントです。(平成27年10月1日付け)
マクローリン展開は別としても、
一般に、0を解に持たないn次方程式P(x)=0が n個の解 a、b、c、…、m、nを持つならば、
P(x)=(1-x/a)(1-x/b)(1-x/c)…(1-x/n) と因数分解される。
という有限次数の主張ですら複素数の範囲で考えなければ等号が言えないです。
(ついでに補足すると、定数倍の違いを無視するのと重解でないという仮定が必要です)
そういうわけで、無限次元の場合も当然複素数解を考慮する必要があります。2-cos(z) は
複素関数で考えれば零点を持ちます。(→ 参考:「知恵袋」)
なお、sin(z) は複素関数として考えても実数以外の零点を持たないです。
分かったような書き方をしてましたが、書いてて気がついたことには、sin(z)も無限遠点に位
数を定義できない極つまり真性特異点を持つので、それをうまく考慮しない限り、ez・sin(z) と
区別できないですね。
草餅さんからのコメントです。(平成27年10月1日付け)
なるほど、整式の解としては普通に考えられる複素数解が、"一般の関数にも存在し得る"
ということを完全に失念していました。複素数の範囲内で関数を考えることはまだ私には手
が出せそうにないですね…。
大学で数学を勉強するにつれて、このような未知の問題を解くための手段が増えるのかと
思うと、受験勉強に対するモチベーションもあがってくるというものです。ありがとうございまし
た。