・ 鮮やかな計算 S.H氏
計算問題で、単なる式の変形で求まる問題はつまらないが、式の背後に図形が絡んでくる
と、話は違ってくる。式そのものに俄然輝きが増してくる。
3世紀頃の中国(三国時代)に、劉徽という人がいた。彼は漢の時代にまとめられたとされる
数学書「九章算術」を愛読書とし、その注釈書を書き上げている。
彼は、次のような問題に対して、ユニークな解法を残している。
問題 縦と横の長さが不明な戸口がある。
長さがやはり不明な棒を持った人が、この
戸口を通り抜けようとする。
棒を横にすると、戸口より、2m長く、棒を
縦にすると、戸口より、1m長い。斜めにす
ると、戸口とピッタリだという。(左図参照)
このとき、戸口の縦・横の長さを求めよ。
この問題は、中学3年生レベルの問題で、今
の中学生は次のように解くであろう。
棒の長さを、X m とする。三平方の定理から、
(X−2)2+(X−1)2=X2
これを解いて、 X=1,5
X=1 とすると、
戸口の縦の長さが、0mになってしまうので不適。
よって、X=5 が解となる。このとき、戸口の縦の長さは、4m、横の長さは、3mとなる。
これに対して、劉徽は次のように考えた。
戸口の横の長さを、Xm、縦の長さを、Ymとする。
このとき、三平方の定理から、
一辺が棒の長さ(=X+2=Y+1)の正方形の面
積は、
一辺が戸口の横の長さ(=X)の正方形の面積
と、
一辺が戸口の縦の長さ(=Y)の正方形の面積
の和に等しい。
このとき、左図において、 A=B+C
となる。
よって、A=(X−1)2=2×1+1×2=4 から、
X−1=2 すなわち、X=3
同様にして、A=(Y−2)2=4 から、Y=4
上記計算を一般化すれば、次のようにまとめられる。(九章算術に載っている解法)
(戸口の横の長さ)=戸口の縦・横のはみ出し分の積の2倍を開平し、
戸口の縦のはみ出し分を加える
(戸口の縦の長さ)=戸口の縦・横のはみ出し分の積の2倍を開平し、
戸口の横のはみ出し分を加える
(練習問題) 縦と横の長さが不明な戸口がある。長さがやはり不明な棒を持った人が、この
戸口を通り抜けようとする。棒を横にすると、戸口より、120cm長く、棒を縦にす
ると、戸口より、60cm長い。斜めにすると、戸口とピッタリだという。
このとき、戸口の縦・横の長さを求めよ。
劉徽の方法を会得された方は簡単でしょう。次のように求められる。
(戸口の縦の長さ)=
(戸口の横の長さ)=
いかがでしたか?
(参考文献:山下純一 著 数学史物語(東京図書))