・驚きの着想                        S.H氏

 平成25年11月23日に筑波大付属駒場高校で研究大会があり、中学1年生の授業を見
学する機会があった。

 「数学を自由に考え、楽しむ」という授業の方針のもと、楽しんだ先に、その中から何かを
発見していくという流れで、生徒たちが自ら数学の教育目標を体現していく様を見て非常に
感動した。

 50分という授業の中で与えられた課題は次のようなものであった。

 階段状のマス目に数字をルールに従って書き込み、縦に足して「9999・・・」を作る。

(1) まず、最上段に数字「a」を書き込む。

(2) その数字をb倍したものを次の段に右
   詰で書き込む。

(3) (2)で得られた値をさらにb倍し、次の
   段に右詰で書き込む。

(4) 以下、この手順を繰り返す。

(5) 縦に足してみる。

(6) 「999999・・・」は作れているか?

   上記のような手順で得られる表を、
  (a,b)と書くことにする。




 (a,b)がどのような場合に、「999999・・・」は作れるのだろうか?

 生徒たちは、(9,1)で「999999・・・」が作れることを直ぐ見いだし、(8,2)の作業を始
めた。(8,2)は次のようになる。

  (9,1)が、9+1=10で、(8,2)も
 8+2=10 ということから、a+b=10 で
 ある(a,b)では、「999999・・・」が作れる
 のではないかという声が出始め、実際に、
 (7,3)に挑戦し成功するものも現れた。

  授業はまさに活況を呈し、生徒たちの知的
 好奇心が最高潮に達しているようだった。

  授業担当者の「なぜ、そうなるのだろう?」
 という問いかけに敏感に反応した生徒が何
 人かいた。

  その中の一人が「驚くべき着想」で、答を
 導いた。





(解) (a,b)の表で、段が下がる度に数が右にずれていくので、1列目と2列目の間に小
   数点があるように数をとらえ直す。(← 驚くべき着想!

 1段目=a
 2段目=a×b/10  (← 「/10」という発想は本当に素晴らしいですね!)
 3段目=a×(b/10)2
 4段目=a×(b/10)3
 5段目=a×(b/10)4
  ・・・・・・・・・・・・・・・
(会場からは、「エッ!、中学1年生が無限等比級数を使うの?というどよめきがあった。)

 生徒は、5段目までを加えて、

 a+a×b/10+a×(b/10)2+a×(b/10)3+a×(b/10)4

=a(1+b/10+(b/10)2+(b/10)3+(b/10)4

 ここで、 a+b=10の場合を考えると、 a=10−b なので、

上式=(10−b)(1+b/10+(b/10)2+(b/10)3+(b/10)4

   =(10+b+b2/10+b3/102+b4/103)−(b+b2/10+b3/102+b4/103+b4/104

   =10−b5/104

 「b5/104」は、「0.000・・・」という数なので、この式より、「9.99999・・・」が作れること
が理解される。  (終)

 無限等比級数という言葉を知らなくても、無限等比級数的に物事をとらえ、そして、無限等
比級数的に数式処理しているという驚くべき解答を、中学1年生がわずか50分の時間の中
で到達したことに会場に居合わせた方は皆、驚いていた。

 生徒たちは、a+b=9、8、7、・・・ の場合を考え始め、その一般化に到達した生徒もい
た。そこにはもう生徒たちの知的探求心を止める術はないようだった。

 このように、生徒の発想を大切にする教育がなされている所がまだ日本にあることに素直
に感動し、日本の数学の未来は安泰だと実感した、そんな充実した一日だった。


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