・ 無理数乗の不思議 S.H氏
いま大学入試センター試験といわれるものが、共通一次試験といわれていた昭和59年1月の
本試験で、世の数学教育関係者(予備校も含む)を騒然とさせた問題が出題された。高校数学
の範囲を超えた問題であるとか、数の本質をつく良問であり高校生でも十分対処できるとか、い
ろいろ意見が出された。この種の問題がその後出題されていないことを考えると、相当出題者と
しても冒険だったのだろう。私個人としては、魅力的で好きな問題であったが・・・!?
次の2つの数の大小を比較せよ。 (4) (共通一次 昭和59年)
は直ぐ分かるのだが、問題は すなわち、 の方である。
分数指数は、累乗根という明確な意味付けがあるが、無理数乗は、高校数学では、グラフで誤
魔化し、あまり、はっきりした意味付けを与えていない。
実際に、 の値を求めれば、簡単な対数計算と対数表から、おおよそ2.6651・・・位で
ある。もっとも、共通一次試験で要求されたことは、詳しい値を求めることにあるのではなくて、
単なる大小比較なので、次のように解かれるのが普通である。
1<<1.5 より、2<<<3 よって、
無理数乗は、無理数に収束する数列を考え、そのべき乗の極限値として定義されるので、あ
まりしっくりこないが、値は厳然と存在する。次の無理数乗は特に面白い。
漸化式 で定まる数列 を考える。左辺は、この数列の極限である。
であることから、数学的帰納法により、数列 は上に有界で、単調に増加する数列である。
したがって、収束するので、その極限値を α とおく。 α は、次の方程式を満たす。
この方程式の解は、2 または 4 であるが、上の議論から、極限値 α の値は、2
であること
が分かる。
(参考文献:一松 信 著 の数学(海鳴社))
(追記) HN「GAI」さんから、無理数乗に関連する話題を頂きました。
(平成25年1月2日付け)
無理数の無理数乗は必ずしも無理数ではありません。例を上げて下さい。
らすかるさんが考察されました。(平成25年1月2日付け)
eとlog2は無理数ですが、elog2(=2)は有理数です。
当HP読者のHN「V」さんが考察されました。(平成25年1月2日付け)
{()}(=2) がその例になっていると思いますが、「() が無理数」の証明は、
結構難しいようですね。(初等的な証明をご存知なら教えてください)
(追記) 上記と同じ内容を、GAIさんよりご投稿いただいた。(平成29年6月19日付け)
一般に、(無理数)^(無理数)が有理数の結果になる例をなるだけいろいろなパターン考え
てほしい。
らすかるさんが考察されました。(平成29年6月19日付け)
aを1でない正の有理数、bを有理数でない代数的数 とすると、a^(1/b) は無理数であり、
{a^(1/b)}^b=a で、 (無理数)^(無理数)=(有理数) の例になっている。
DD++さんが考察されました。(平成29年6月19日付け)
a を無理数、b を有理数として、a^(log[a]b) のほとんどのもの、とか...。
(追記) 令和2年3月14日付け
無理数の無理数乗は無理数か?という問いかけは、命題の真偽判定で出そうな問題であ
る。この命題が偽であることを示す問題が横浜市立大学医学部前期(2020)で出題された。
は無理数であることを既知とすれば、x=、y=として、xyが有理数2になる
ことは自明である。問題は、xが無理数であることを示せば終わりであるが、直接的にxが無
理数であることを示せなくても、次のようにすれば、命題が偽であることが分かる。
x=が無理数のとき、無理数y=に対して、 xyが有理数2 となる。
x=が有理数のとき、無理数x=y=に対して、 xyが有理数となる。
以上から、 命題: x、yが無理数のとき、xyは無理数 は、偽である。
別な例としては、上記でDD++さんがあげられているように、
x=、y=log29 のとき、 xy=^log29=2^log23=3
x=が無理数は既知として、y=log29 が無理数であることは次のようにして示される。
log29 が有理数であると仮定すると、 log29=m/n (m、nは互いに素な自然数) と
書ける。
このとき、 2m=9n であるが、 偶数=奇数 となり矛盾。
よって、y=log29 は無理数である。
他の例としては、上記で、らすかるさんにより与えられた例:
e と log2 は無理数ですが、elog2(=2)は有理数
もある。