・数学との付き合い方                hasu 氏

 私は高校二年生で将来は数学の仕事をしようと思っているのですが、最近不安なことが
あります。

 ガロア理論や複素解析の本を読んでいると、高校で教えてもらえることに比べて一つ一つ
がとても大きく感じます。高校では積分は回転体くらいまでしか教えてもらえませんが、実際
には積分だけでも何種類もあって、それぞれが他分野と絡み合っているように見えます。と
てもただの計算だけとは思えません。

 今はあまり時間が取れてないだけなのかもしれませんが、数学の諸分野に大学の3余年
で時間が足りるのか不安です。もしかして大学でも初めのさわりだけをやって、後は自分で
勉強をすることになるのでしょうか?大学に入ればわかるんでしょうが、質問させていただき
ました。(平成24年12月19日付け)


 GAI さんからのコメントです。(平成24年12月19日付け)

 参考になるかどうかわかりませんが、自分の経験を言わせていただきます。私も、数学が
なんとなく好きで、あまり深く考えずに大学は理学部数学科へ進学しました。まさに高校で
問題を解く日々を過ごしてきて、大学の授業で受けたショックは大きかったです。一度も深く
考えたことがない対象に、高度に抽象化された概念の嵐に戸惑うばかりで、そこでの演習
問題は歯が立たず、なにをどう取り組めばいいのか皆目検討がつかない日々が続き、まわ
りの人がとても優秀な人ばかりがいるような気分になり、大学の先生は高校の時の先生と
違ってなんとなく質問がしにくい雰囲気があり、わからないのは自分の不勉強が原因だろう
と思っておりました。

 いろいろな本を読むのですが、抽象的な記号が何を意味するものか掴みがたくまた数学の
分野がこんなにも多岐に渡って、それぞれに深みがありどの分野も一つとしてすらすら理解
できるものがなく、まさに暗澹たる気分から晴れることがない状態でした。かと言って他の分
野(教科)もこれといって積極的に勉強したいという意欲も起こらず、ただ人間はすごい才能
を持った人が存在しているのだな〜とか、過去にすごい人がまったく新しい世界を切り開くき
っかけの発想を思いついたんだな〜とかの、どちらかと言うと、よい本を読んだ後のカタリシ
スというか、自分が何かを成し遂げたというよりも、世界は自分が思っているよりは深くて広
くて、歴史の中の一幕に自分はたまたま出会わしているんだなという印象を強く持ちました。
一般の人から見れば、たかが数学と思える分野の中において、過去にも現在でも世界中の
人々が飽くなき好奇心から、色々な事を調べてみたい、わかってみたいという情熱で関わり
あっているということから、結果としてこんなにも豊穣で、一人の力では決してなし得ない現
在の数学の世界の構築を感じられたことです。もちろんhasuさんもその一翼を担える活躍を
されるのがベストだとは思いますが、これができるのはこの分野を志したほんの一部の方で
あろうと感じられます。
(才能もあるでしょうが、人との出会いや多少の運も左右するかもしれません。)

 現在私が抱く感想は勉強は学校や大学だけに限らず、一生かけて追いかけても追いつか
ない膨大な人間が残した遺産を少しでも感動を持って共感できる作業であろうと思っていま
す。もしhaseさんが少しでも数学が好きであるならば、大学だけで結論を出そうとせず一生
をかけて追い求めるものは何にしてみようかという問いから考えられたらと思います。

 haseさんより多少は長生きしている者としては、老後もゆっくりと知らなかったことが分かっ
たり、新しいことを見つけたりすることが楽しいのです。どうぞ長い目で考えてください。


 hasuさんからコメントを頂きました。(平成24年12月19日付け)

 私の質問にこんなにも長いお返事をしていただきありがとうございました。

 私は中学生の時に数学に興味を持ち、それからはほとんど独学で勉強をしてきました。人
に聞くこともしなかったので、私にとって数学は初めから難解で良くわからないものでした。で
すが、最近になって大学数学に手を出すようになると、今までやってきたのは何だったんだと
いうような数学が待っており、目が回ってしまってしまっています。先生にも相談できず今まで
優しかった本も突然難解なものになってしまい、このサイトでは皆さん優秀で一人取り残され
たような気がしていました。こんな状態で大学の授業はどうなのかと不安になり質問してしま
いました。

 数学を勉強していると人間が作ってきた物の素晴らしさと大きさを感じざるをえません、私
もGAIさんや歴代の数学者のように全てを見て理解してみたいという情熱がありますが、そ
のせいで今のように中途半端にしか手を出せていない状態ではどれをやりたいかを選ぶこ
とができません。大学で教えていただける内容で見つけられるかは分かりませんが、それ
から先も勉強を続け自分が何をやりたいのかを探してみようと思います。


(コメント) hasuさんのような数学を志す若い学徒がおられると知ってとても嬉しいですね!
      私自身も何となく数学が好きで、高校は理数科、大学は理学部数学科、大学院は
      理学研究科数学専攻とどっぷり数学に漬かってきました。GAI さんは「一生かけて
      追いかけて」と熱いメッセージを残されていますが、それはあくまでも数学愛好家向
      けのものだと思います。

       hasuさんが将来研究者を目指すのか教育者を目指すのかで大学・大学院での
      数学との付き合い方は大きく異なると思います。研究者をもし目指すのであれば
      生涯をかけて没頭できる研究テーマを設定し、狭く深い勉強が必要になります。
      大学・大学院で世の中の数学全てを理解することは困難です。数学の中の自分
      の居所を確立し、そこをベースに関連する概念を順次マスターしていく方がよいと
      思います。フィールズ賞を受賞された広中平祐先生もこのような研究スタイルを推
      奨されていました。

       数学の学習は何となくパソコンの学習に似ている。年配者がパソコンを初めて
      学ぶとき、膨大なマニュアルをまずマスターしようと考える。そしてその量に圧倒
      され疲れてしまう。子供たちが初めてパソコンを学ぶとき、まず触って、いろいろ
      反応を見ながら新しい知識を吸収していく。その学び方には無駄もなく、興味・関
      心に引きずられるままどんどん深い理解へと繋がっていく。

       そんな雰囲気で学べたら最高かな?


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