・初等幾何?                       中年A 氏

 東北大学前期理系(2012年) 第5問に下記が出題されました。
                                      (平成24年3月10日付け)

 長さ1の線分ABを直径とする円周C上に点Pをとる。ただし、点Pは点A、Bとは一致

していないとする。線分AB上の点Qを∠BPQ=π/3となるようにとり、線分BPの長さ

を x とし、線分PQの長さを y とする。以下の問いに答えよ。

 (1) y を x を用いて表せ。

 (2) 点Pが2点A、Bを除いた円周C上を動くとき、y が最大となる x を求めよ。

  上記の問題は、基本的には、分数関数(or 三角関
 数)の微積分という問題になろうかと考えるのですが、
 設定から考えると、「初等幾何」でアプローチできるの
 ではないかと思っています。

   東京大学前期理系(2012)の第1問にも共通する
  疑問なのですが...。

  「初等幾何に拘る必要があるか?」と問われました
 なら十分な解は用意できていないのですが、「初等幾
 何は面白い」という素朴な思いから、こうしたことを考
 えたいと...。

 皆さま、ご検討くださいますと嬉しきことです。

(参考) 東京大学前期理系(2012) 第1問

     次の連立不等式で定まる座標平面上の領域Dを考える。

       x2+(y−1)2≦1 、 x≧/3

    直線 l は原点を通り、Dとの共通部分が線分となるものとする。その線分の長さLの
    最大値を求めよ。また、Lが最大値をとるとき、x 軸と l のなす角θ(0<θ<π/2)
    の余弦 cosθ を求めよ。(答え: Lの最大値は、/3 、cosθ=1/


(コメント) 「初等幾何」ではない、すぐ思いつく解法をまず確認しておきたいと思います。

(1) ∠ABP=θ(0<θ<π/2)とおくと、 x=cosθ

 ∠PQB=2π/3−θ なので、正弦定理より、

  y/sinθ=x/sin(2π/3−θ) なので、 y=sinθcosθ/sin(2π/3−θ)

 よって、加法定理より、

  y=sinθcosθ/{(/2)cosθ+(1/2)sinθ}

  =2sinθcosθ/(sinθ+cosθ)

 0<θ<π/2 なので、 sinθ=√(1−x2

 以上から、 y=2x√(1−x2)/{√(1−x2)+x}

(2) y=2sinθcosθ/(sinθ+cosθ) より、

   Y=1/y=(/sinθ+1/cosθ)/2 として、

   dY/dθ=(−cosθ/sin2θ+sinθ/cos2θ)/2

        =(sin3θ−cos3θ)/(2sin2θcos2θ)

   dY/dθ=0 すなわち sin3θ−cos3θ=0 より、 tan3θ= となるθは

  1個存在して、その値をαとすると、Yは、θ=αで極小かつ最小となる。

  すなわち、 y は、θ=αで極大かつ最大となる。

   したがって、 x=cosθ=1/√(1+31/3

(※ 答が随分汚いですね!本番でこんな数字を導いたら、自信が持てません...f(^^;)


 空舟さんからのコメントです。(平成24年3月11日付け)

 さすがに幾何的には厳しいと思ったのですが、なんとかそれっぽい感じにはできました。幾
何的な微分を考える方法で解きました。

 ・「Qと円の中心の距離 = PからABに引いた垂線の足と円の中心の距離」という中間結果
 を得ます。その後は4次方程式が出てきます。

(解) PQの延長と円の交点は定点である。これをZとおく。円周角の定理より、弧ZBは円周

 の3分の1である。直線ZQPとAQBとのなす角をq、直線ZQPとPでの円の接線のなす角を

 pとおく。(なす角は適当にそれっぽい方。)

 線分ZQを、dθ角度だけ動かした時のZQ、ZPの幾何的な微分を考える。
図を描いてZQが微小変化した時のZQ、ZPの長さ変化を考える。※符号が面倒なので、絶対値をつけました!

   左図において、

    |d(ZQ)|=ZQ・dθ/|tan(q)| 、

    |d(ZP)|=ZP・dθ/|tan(p)|

  となります。線分PQが極値を取る時、これらは一致

  する!すなわち、

    ZQ / |tan(q)| =ZP / |tan(p)|

 が成り立つ。


・点Pを通るABに平行な直線を引き円とのもう1つの交点をP’とおく。
(PQが最大の時では、図からして、P’はPよりもA側にあるはず...。)

 接弦定理から∠ZP’P=π−p であり、平行線の同位角で∠ZPP’=q である。

 △ZPP’で正弦定理を適用して、上式を整理すると以下を得ることができる。

  ZQ・ |cos(q)|= ZP’・ |cos(p)|

 すなわち、P’からABに引いた垂線の足は、Qに一致する。

・Qと円の中心の距離を s とおく。P’の定義より台形PP’ABは対称だから、PからABに引い
た垂線の足と円の中心の距離もsとなる。あとは、Zの位置と半径=1/2と三平方の定理を駆
使すれば良い。

 ZQ : QP = /4 : √(1/4-s2)

 これは、ABに引いたZQ、QPの影の比 1/4-s : 2s と一致する。

 よって、方程式 3s2/4=(1/4-s2)(1/4-s)2 を得る。

 整理して因数分解すると、 (4s+1)(16s3-12s2+12s-1)=0 で、

  8s3+12s2+6s+1=3(-8s3+12s2-6s+1) から、(1+2s)3=3(1-2s)3

と変形されるようです。自分でこう変形するのは難しいですが...。ともかく、3次の方の実数解

はコンピュータによれば、 s=(-32/3+31/3+1) /4

 あとは、三平方の定理で、x、y を得ることができて、

  x2=(1/2-s)2+(1/4-s2)=1/2-s=(32/3-31/3+1)/4= 1/(31/3+1)

 よって、 x=1/√(31/3+1)

となり、確かに解答にあったものと一致です。


(コメント) ちょっと計算の追認が大変ですね!ここは、やはり冒頭の解のように素直に計
      算した方が...いいかも


(追記) 平成24年3月11日付け

 空舟さん、有難うございます。このZに着目するのは極めて自然な流れかと。ただ、こうした
ことに多くの受験生の発想が向かうかどうか?素直に、PQを延長できるか、ここです。難関
大学受験生には「常識」なんでしょうか?

 図形量の変化(MAX,min)は、その図形量を関数で捉えた際の極大・極小に関わる。これ
に関連したアプローチに、いわゆる「はみ出しけずり」とされる、東京出版推奨の方法がある
かと思います。

 「最小(or最大)となる図を予測し、そこからの微小な変化を検討して、予測の合理性を確
保する」(おおよその場合、面積を2等分する場面が多い。従って線分比では、1:などが
頻出)

 ここでの空舟さんの解法も共通するのではと考えます。

 「はみ出しけずり」の基本的活用例は、絶対値記号付きの2次関数のグラフと原点通過直
線の交点で作られる部分の面積量の変化の問題でしょうか。放物線以外でも、例えば、本
2012年の大学入試問題からでも、東京大学・文系2番、東工大・3番などで有効な方法だろ
うと。

 個人的には不確かな出典ですが、横浜国大・2010年に出題された平面ベクトルの問題。
最大角120度、3辺が7、5、3の長さの三角形の内心を通過する直線で小さい三角形を作
り、その面積量の変化の問い。ここらあたりにも使える考え方かと。

 それで、この東北大学の問題は、そこが角度の微小な変化に関わるということが、いわゆ
る数学U段階の微分を超えるのだろうかと思っています。

 あるいは、変化する図形量が、2次的(2変数的)がターニングポイントなのか。あるいは、
変化それ自身が相似・拡大・縮小的か、回転的かに依存するのか。

 何か、私自身が「受験数学」の一面的理解の志向のゆえに、ひとり迷っている感もします。
数学の世界では常識以前のレベルなのかと思いつつ...。


 空舟さんからのコメントです。(平成24年3月11日付け)

 微分によれば、同様にして一般に次のようになります。

 円の弦ABをとる。円周上の定点Cを通る直線が、ABと交わる点をQ、円周と再び交わる点
をPとする。PQが最大になるのは、以下の時である。

 PからABに引いた垂線の足Hについて、HとQの中点が円の中心と一致する

 他の場合がこれより短くなることを幾何的に証明するのは可能かもしれません。初等幾何
を楽しむなら考えてみるのも良いかもしれません。

 一応誤解があるといけないので補足します。

 「最小(or最大)となる図を予測し、そこからの微小な変化を検討して、予測の合理性を確保する」

 「はみ出しけずり」の基本的活用例は、絶対値記号付きの2次関数のグラフと原点通過直線の交点で作られる
 部分の面積量の変化の問題でしょうか。

 Sの変化≒r2/2・(θの変化) というような書き方では確かに厳密でないので、合理性の確
保が必要です。

 曲線を極形式で、r=r(θ) と書けば、Sは、r2/2 の定積分、ということを使えば、
dS/dθ=r2/2 を得ます。これは厳密に成り立ちます。こう議論すれば合理性の確保は不
要です。

 今回の例でも、一般の曲線 r=r(θ) の点Pでの接線とOPのなす角αをθの式で表すと、
極限計算で示されますが、α=Arctan(r(θ)/r’(θ))。言いかえると、dr/dθ=r/tanα が
厳密に成り立ちます。したがって、合理性の確保をする必要はないです。「はみ出しけずり」
は有名ですが、この辺りがたぶん有名でないのは残念です...


 S(H)さんからのコメントです。(平成24年3月11日付け)

 「初等幾何」でアプローチと発想を制限せず、飯高先生は、∠QPBが色々な角で解法は
みんなちがって、みんないいからと學生に促されると、或る學生=少女A さんが次のように
レポートした。

 円を、t--->(1/2)(cost,sint)、Q=(X,0) とし、ベクトルPBPQの内積を考え次を得る。

 x=√[(-(1/2) + (cost)/2)2 + (sin2t)/4] 、y=√[(X - (cost)/2)2 + (sin2t)/4]

  (1/2 - (cost)/2)・(X - (cost)/2) + (sin2t)/4

=(1/2)√[(1/2 - (cost)/2)2 + (sin2t)/4]・√[(X - (cost)/2)2 + (sin2t)/4]}

 これから X、t を消去し、

   x2(-4x2+4x4+4xy-4x3y-y2+4x22)(-4x2+4x4-4xy+4x3y-y2+4x22)=0

を得ることを確認を!と、飯高先生。

 このとき、 C : -4x2 + 4x4 - 4xy + 4x3y - y2 + 4x22 = 0

 「-4*x^2 + 4*x^4 + 4*x*y - 4*x^3*y - y^2 + 4*x^2*y^2 」を「Wolfram|Alpha」に挿入して、
NormalVector が(0,1)に線型従属から、

  {x,y,K}={(1/2)√[1 - 31/3+32/3],(1/4)(1-31/3+32/3)3/2,(1/2)32/3(1-31/3+32/3)3/2}

を得て、問題の答えは、 x=(1/2)√[1 - 31/3 + 32/3]

 丁寧な解答だが、他の學生に行間をもう少し埋めなさいと飯高先生が促された。さらに、
∠BPQが他の角の場合に、これを踏襲して為しなさいと別の學生に。そして、自分は未体験
だが、4次代数曲線Cの双対曲線を是非求めてくれと課題を射影幾何と代数曲線 曲面 ...の
受講生に。各學生が初体験の愉悦を感じたいと直ぐ取り組み始めた。

 學生=少女A さんが答えた3秒後に、少女Bさんが、

 {x = Sqrt[T^2/(1 + T^2)^2 + (-(1/2) + (1 - T^2)/(2*(1 + T^2)))^2],
   y = Sqrt[T^2/(1 + T^2)^2 + (-((1 - T^2)/(2*(1 + T^2))) + X)^2],
  T^2/(1 + T^2)^2 + (1/2 - (1 - T^2)/(2*(1 + T^2)))* (-((1 - T^2)/(2*(1 + T^2))) + X)
  = 1/2*Sqrt[T^2/(1 + T^2)^2 + (1/2 - (1 - T^2)/(2*(1 + T^2)))^2]
                             *Sqrt[T^2/(1 + T^2)^2 + (-((1 - T^2)/(2*(1 + T^2))) + X)^2]}


から、{X,T}を消去し、F[x,y]=0 を得、此れは可約代数曲線故、一つの因子を採用し、

 F1[x,y]=0、x=1/2*Sqrt[1 - 3^(1/3) + 3^(2/3)]

ですと。えっ? なんで?なんで??? と、少女A を含む他の學生。

 飯高先生が超越拡大体の講義を為されたとき、自主的に調べ、問題を考察したでしょう。
「コレをつかったのよ」 少女Bさんの説明に「めが点」になり、他の學生が考えはじめた。

 學生諸氏が説明されるまえに、皆さんが説明願います。

 學生=少女Cが帰るや否や清々した表情で黒板にチョーク音も軽やかに書き連ねた。飯高
先生が研究室に入ると、少女Cの上の記載を視て、學生=少女Cの通りに解答用紙に書いた
ら採点していただけるのかしら?

 飯高先生は、學生達の対話を聴きながら、黒板の「I1=I2」を注視されておられた。思考を妨
げてはいけないと學生達。如何なる証明をなされているのか注視していた。

 数分間、静寂が支配したが、飯高先生が振り向いて云われた。「ちょっと一息入れるよ。」

 イデアルが等しいは理論のなかで使わぬときはないが、背景も理論上は知悉だが、此処
まで具体化したのを學生が為したのを視るのは初体験です。

 學生達から、その数分後、熱い要望が連名で出された。次回の講義からは、イデアル論を
抽象代数學と云わず、今回の學生=少女Cさんのように、具現化した形でお願いします!(講
座名は非抽象代数學として!)

 此処を訪れられる世界の皆様へのお願い:

 解答を味読され、行間を埋め、此処に解説して下さい。また、このような解答例を見かけら
れたら是非ご教示下さい。更に、お願い。このような問題を提示され、イデアルを用いて解い
て此処に提示して下さい。

 飯高先生がどうしても云わないではいられないと、最後の代数曲線が可約なのはよいが、
使わぬ余分なCj が在る。それをむざむざ捨て去る強固な理由を論じなさいと。


(追記) 平成24年3月13日付け

 空舟さん、S(H)さん、いつも御教示ありがとうございます。

 空舟さんの解法。極形式、角度での微分あたりは、小生全く未知なんです。決して理由に
なりませぬが、小生が高校生であったころは、いわゆる「範囲外」だったかと。年齢層が特
定できそうですが。そんなことは、それこそ「問題外」。自身で学べばいいのですが、未だ手
つかずです。自らの身の丈にあったアプローチで考えたいと思います。

 この東北大学の問題の「解」の構図が、

  PからABに引いた垂線の足Hについて、HとQの中点が円の中心と一致する

非常に興味深いです。もう少し、私なりの「初等幾何」で考えたいと思います。

 いわゆる「はみ出しけずり」のことについても、「厳密な議論」「合理性の確保」を企図する
なら、空舟さんのご指摘は、どのような問題にも通じるのではないかとも。ここらあたりも本
年の東大・文系2番などを素材に考えたいと思います。

 S(H)さんの「みんなちがっていい」ということ。まさしくです。vector、内積から出発して、4
次方程式に帰着。それは「射影幾何」の世界に連なる道筋・・・。そんな風に投稿を拝読し
ました。「射影幾何」、これまた小生には言葉のみの世界でして・・・。ただ、vectorで考える
ということには興味あります。(矛盾した表現でしょうか?)

 改めて、皆さんの投稿を読ませていただくと、専門性の高い議論を展開されているのだろ
うと想像します。(ツンドクに終わっています、小平邦彦著『幾何への誘い』のページをめくろ
うかと思ったりするこのころです)



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