・ 小学校でのかけ算 S.H氏
朝日新聞の投書コーナーの「声」欄で、次のようなかけ算が話題になった。小学2年生の
問題だろうか?
「4人の班で、一人5枚ずつ紙を配る。全部で何枚必要か?」
普通だったら、 4×5 を計算して、20 から、 20枚と答えればいいように思う。私の
教え子にこの問題をやってもらったら、ほとんどが、 4×5=20 と答えたから、これが
自然な計算なのだろう。しかし、現在の小学校では、これではいけないらしい。
合計枚数の計算では、
(1人当たりの枚数)×(人数)
という順に計算するように指導しているとのことで、 4×5 は誤った考えとされ、 5×4
とするのが正しい考えとのことだ。
果たして、これは本当に正しい考えなのだろうか?
確かに、学習指導要領によれば、この単位当たりの量の考えは、小学2年生での乗法
の導入の際に用いられ、「ある量の何倍かに当たる量を求めるときに、かけ算を用いるこ
とが有効である」ことを児童に理解させている。
小学1年生では、その前座として、「10個のまとまりを2つ集めた合計は20個である」と
いったように、ひとまとまりの数とひとまとまりの数の個数から物の総数を求めるなどの具
体的な活動を通して、乗法の素地的なところを経験させている。
このように発達段階に応じて論理的に物事を考え積み重ねていくのだという観点からす
れば、先の計算で、「4×5=20」という計算は到底容認されない計算なのだろう。
ただ、かけ算においては、「被乗数と乗数を人れ換えても積は変わらない」ということも
大切で、当然、小学校で教えられなければならない事実と思う。
先の計算では、この視点が欠けてはいないだろうか?いつまでも、5×4型の計算に固
執せず、4×5型の計算が許容できる人の方が実はかけ算の真実を会得している人では
ないだろうか?
今の生徒の計算力は非常に乏しく遅い。この原因が上記のような固執した教え方にある
ような気がしてならない。
その一例として、「方程式 x+3=2x+1 を解け。」という問題に対して、生徒の解答は
決まって次のようなものである。
x−2x=1−3 から −x=−2 よって、 x=2
この解答をどうして、「 2x−x=3−1 より、 x=2 」としないのか、いつも不思議に思
う。きっと定型的な解答の型があって、それに当てはめるだけの指導がなされてきたツケ
なのだろう!と推測している。
(追記) 朝日新聞11月26日朝刊の「声」欄に、「算数の教え方 楽しく考えて」という投稿
が掲載された。
その投稿によると、「4×5=20」という計算も、考え方の可能性としてはあるのだそうだ。
次のように考えるらしい。
トランプでカードを配るとき、一人に5枚をいっぺんに配ることは普通しない。一人に1枚ず
つ順繰りに配っていく。この操作を5回繰り返すわけだから、
(1回当たりに配る枚数) × (回数)
というお馴染みの計算公式に当てはめれば、 4×5=20(枚) となる。
(コメント) なるほど!このように考えれば、あながち「4×5=20」という考えも誤った考え
とは言えないですね。何かスッキリした気分です。
S(H)さんからのコメントです。(平成25年1月12日付け)
下記の文章に遭遇し、眠れない人も存在しそうと忖度し就寝....。
これをどのように読まれるだろうか。
「3人に2個ずつリンゴを配ります。リンゴは何個必要ですか?」に対して、式「3×2=6」は誤
りで、「2×3=6」でなければならない、というのが今の多くの小学校の指導だそうである。それ
に対して、「掛け算の順序など枝葉」の問題だと黒木助教はいわれる。枝葉の問題なのだろ
うか?
「3×2=6」は誤りで、「2×3=6」が正しい、つまり、量の言い方でいえば、
『1あたり量』×『いくら量』
が正しい、とするのは、「1あたりいくらのものがいくつあれば、全体でいくらか」と聞く日本語
の語順も関係しているように思う。こちらが本来の言い方で、「3人に2個ずつリンゴを配りま
す」は「1人に2個配るとき、3人ではいくらいるか」と読みなおせといっている。しかし、英語世
界ではむしろ3人を先に言うので、言葉の感覚では、「3×2=6」が正しいとされるのではない
か?
実のところ、これはかけ算の順序の問題ではない。また枝葉の問題でもない。「3人に2個
ずつリンゴを配る」ときに必要な個数と、「2人に3個ずつリンゴを配る」ときに必要な個数が
一致するのはなぜか、という数学の問題なのだ。時速3Kmで5時間歩くのと時速5Kmで3時
間歩くのでは移動距離は同じである。なぜか?
ここをまず大人がしっかりと説明できなければならない。「数の世界では3×2=2×3だから」
というのは何も言ったことにならない。数をそのように定めただけのことである。量として一致
するのはなぜか、これが明確でないことが、混乱の本当の理由である。そのうえで小学2年生
にどのように教えるのかという問題が生まれる。それらをふまえて計算としては、3×2=2×3
なので、式はいずれでもよい、としなければならない。式を量の計算式とする方が小学生には
分かりやすい。しかし、計算式は数の世界の中での演算である。
その量も、数があってはじめてつかめる。量としての「3個」はすでに数の助けがあってはじめ
て言い表せている。数は存在を量として分節してつかむ言葉である。ここをふくめて問題はその
大人の側のつかみ方である。今このあたりを考えている。今夜関電前にいって「再稼働反対!」
と声はあげても、頭の中はこの問題で一杯だ。
(→ 参考:原文 (当HP読者のHN「★」さんに検索して頂きました))
(追記) 平成25年1月26日付け
平成25年1月25日付けの朝日新聞朝刊 コラム「ニュースQ3」に小学校におけるかけ算
の話題が掲載された。
その中で「正しい順序」の根拠が焦点になり、文部科学省が教育内容の基準を示す学習
指導要領の解説に「10×4は、10が4つ」などと書かれているからだという。しかし、当の文
部科学省によれば、「国として、『正しい順序』は決めていない」とのこと。ということは、児童
にとって、(1つ分の数)×(いくつ分)と順序を固定した方がかけ算の意味を習得しやすいだ
ろうという教科書会社の親心を受けて、学校での一般的な指導になったというのが真相だろ
うか?