・ 正方形を彫る                   S.H氏 

   木の板に、左図のような正方形の溝を彫る必要が
  最近起こった。彫刻刀を使ったのだが、なかなか上
  手く彫れない。

   数学に、定幅曲線というのがあり、この曲線の形を
  したドリルを使うと簡単に出来るらしい。

   回転しながら正方形の形が彫れるわけで、とても
  感動的だ!

 定幅曲線とは、凸図形(図形上の2点を結ぶ線分も図形に含まれる)を任意方向の平行
線ではさみこんだとき、常にその間の距離が一定な場合を言う。

 定幅曲線の最も簡単な例は、円である。半径を r とすれば、幅 2r の定幅曲線となる。

 先ほどのドリルは、次の定幅曲線をもとにして作られる。

          


 この図形は、正三角形の各頂点で、円弧を描くことにより得られる。ルーローの三角形と
も言われ、ロータリーエンジンにも使われているらしい。

 定幅曲線であることは、簡単に確かめられる。すなわち、平行線をどのように引いても、
必ず頂点の何れかを通り、かつ、その頂点に対する弧に接する。

 正三角形の一辺の長さを、a とすると、ルーローの三角形の周の長さは、明らかに、

      3×(1/6)×2πa = πa

となる。

 一般に、定幅曲線の周の長さに関して、次の定理が知られている。

定理(バルビエ)  幅 h の定幅曲線の周の長さは、πh である


(参考文献:リュステルニク 著 筒井孝胤・北村辰雄 訳 凸図形と凸多面体(東京図書))


(追記) 平成17年3月5日(土)、「世界一受けたい授業」(日本テレビ系 19:57〜20:54)
    に秋山 仁 先生が登場された。先生は、いろいろな小道具を用いて、難しい数学
    の話を視覚的に分かりやすく紹介してくれる。今回は、「ルーローの三角形」に関す
    る話題であった。

     「マンホールは何故円形か?」の話から始まって、定幅曲線を説明し、その一つの
    応用例として「ルーローの三角形」を取り上げ、それを用いて、四角形(四隅が多少
    丸みを帯びているのが気になったが...)が彫られることを実演されていた。

     そこで、私自身一番興味を持ったのは、ルーローの5角形、7角形、9角形、・・・
    の存在である。ルーローの三角形で四角形が彫られるように、ルーローの n 角形で
    n+1 角形が彫られるという!
    (実際の作り方は、HP:未菜実の数理パズル入門の中のこちらを参照)

 この番組を見て、定幅曲線に関する上記のバルビエの定理がすごく気になってきた。微
分幾何学の初等的知識で証明可能なようなので、このページでその証明のアウトラインを
押さえようと思う。

 高校で曲線というと、 y=F(x) という形の方程式を思い浮かべる方がほとんどだろう。
数学C を学んでいれば、媒介変数表示の x=x(t) 、y=y(t) の形をイメージされるかも
しれない。

 何れにしろ、平面における曲線は、なにがしかの x と y の関係式で与えられる。代数幾
何学では、 F( x ,y )=0 という表し方が便利だが、これから考える微分幾何学では、曲
線の方程式として、媒介変数表示(パラメータ表示)

          x=x(t) 、y=y(t)  ( t は実数)

の形の方が便利である。また、ベクトルの表現で、

       p=p(t)   ただし、 p(t)=( x(t) , y(t) )

と書くと、簡単で便利である。

 微分幾何学においては、x(t) 、y(t) が連続関数であることはもちろん、2〜3回程度は微
分可能であることを仮定する。

 t で微分して、  dp/dt=( dx/dt , dy/dt )

 さらに、t で微分して、  d2p/dt2=( d2x/dt2 , d2y/dt2

 t を時間、p を位置の関数とすれば、 dp/dt は速度ベクトル、d2p/dt2 は加速度ベク
トルを表す。

 また、時間 0 から時間 t の間に点が動いた距離 s は、

            

により与えられる。

 距離(道のり) s が 時間 t の単調増加関数であるとき、時間 t は距離(道のり) s の関数
とも理解され、距離(道のり) s を媒介変数(パラメータ)として、曲線の表示を

       p=p(s)   ただし、 p(s)=( x(s) , y(s) )

とすることができる。このとき、

            |dp/ds|=1

が成り立ち、曲線上を動く点の速さは、常に一定値 1 となる。

       dp/ds=( dx/ds , dy/ds )

において、 e1=( dx/ds , dy/ds ) とおくと、e1 は、接線方向の単位ベクトルとなる。

また、e1 を+90°回転したベクトルを、e2 とおく。

 e1 と e1 の内積 e1・e1=1 であることから、両辺を s で微分して、 2e1’・e1=0

 よって、 e1’ と e2 は平行になるので、  e1’ = κ・e2 と書ける。

 この κ=κ(s) は、曲線 p=p(s) の曲率といわれる。曲率は、合同変換により不変である。

 この曲率の値により、曲線の曲がり具合が分かる。曲率の値が大きければ大きいほど、
曲がり方は急である。

例 曲率が恒常的に 0 な曲線は、直線に限る。

例 円の曲率は一定で、その値は半径の逆数である。(→曲率の逆数を曲率半径という。)

  実際に、円の媒介変数表示は、 x=rcos t 、y=rsin t  ( t は実数) で、s=rt
      よって、 x=rcos(s/r) 、y=rsin(s/r)
      このとき、 e1=( −sin(s/r) , cos(s/r) )
             e2=( −cos(s/r) , −sin(s/r) ) なので、
         e1’=(1/r)( −cos(s/r) , −sin(s/r) )=(1/r)e2
      よって、  曲率 κ=1/r となる。

 逆に、曲率が定数 κ>0 ならば、その曲線は半径 1/κ の円になる。

 曲線上の各点 p において定まる e2 を平行移動して、始点が常に原点であるようにする。
このとき、曲線上の点 p に、単位円周上の点 e2 を対応させる。この対応は通常 g と表さ
れ、Gaussの表示という。

      

 点 p が曲線上を速さ 1 で動くとき、g(p)は、単位円周上を速さ κ で動く。

 平面上において、曲線 p(s) (a≦s≦b)が

     p(a)=p(b)  かつ  p(s1)≠p(s2) (a≦s1<s2≦b)

を満たすとき、単純閉曲線であるといわれる。

 単純閉曲線により、平面は2つの領域(内部・外部)に分けられる。(Jordanの定理

 単純閉曲線上のどの2点を結ぶ線分も曲線の外部に出ないとき、曲線は、凸閉曲線
呼ばれる。

 さらに、凸閉曲線の性質から、媒介変数 t (0≦ t <2π)に対して、

       e2=( cos t , sin t )

となるような曲線上の点 p がただ一つ存在する。

    

 t=0 から t までの弧の長さを、s とすると、s は単調増加関数である。

よって、上記の媒介変数 t は、s の関数とみなすことができる。

  e2=( cos t , sin t ) より、 e1=( sin t , −cos t ) なので、

         e1’=(de1/dt)・(dt/ds)=e2・(dt/ds)

  e1’ = κ・e2 より、 κ=dt/ds であることが分かる。

 この媒介変数 t を用いると、凸閉曲線の幅 W(t) が次のように定義される。

        

       W(t)=−p(t)・e2(t)−p(t+π)・e2(t+π)

 これは、ベクトル p(t) の e2(t)方向の正射影の長さが、内積 p(t)・e2(t) により得られる
ことから明らかであろう。(→ 参考:正射影・空間の必須手法

 このとき、凸閉曲線の長さ L は、
                       

により与えられる。 実際に、

      

特に、幅が t によらず一定値 W のとき、定幅曲線と呼ばれ、そのときの曲線の長さは、

         L=πW

となる。(Barbier の定理(バルビエ) 1860年)

(コメント:3月5日に番組を見て興味を持って以来、解決するまで約2ヶ月、忙しかったと
      はいえ、何とか形になり、ホッとしている...f(^_^;)

(参考文献:小林昭七 著 曲線と曲面の微分幾何 (裳華房))


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