・大学入学共通テスト                      S.H 氏

 初めての大学入学共通テストが令和3年1月16日・17日の両日行われた。大雪で会場
全体が延期になったり、試験時間を間違えて会場ごと延期になったりと、これらは例年起こ
りえる事例ではあったが、今年は会場内でマスクをずらして鼻を出していた受験生が再三の
警告を無視したとかで失格となったのはコロナ禍らしい出来事であった。別室に隔離すれば
済む話で失格はいくらなんでも厳しすぎないだろうか?ともあれテストは無事終了した。

 今、数学T・Aの問題を眺めていて、だいぶ問題の出題傾向が変わったなというのが率直
な感想である。

 その中で、面白そうな問題が次の問題である。問題が長文なので、一部省略です。

第4問  円周上に15個の点P0、P1、・・・、P14が反時計回りに順に並んでいる。最初、
     点P0に石がある。

 さいころを投げて偶数の目が出たら石を反時計回りに5個先の点に移動させ、奇数の目
が出たら石を時計回りに3個先の点に移動させる。この操作を繰り返す。
#(1)は省略します。

 偶数の目が出る回数をx、奇数の目が出る回数をyとおく。(2)(3)は解答です。

(2)(3) 点P0にある石を点P8に移動させるのに、時計回りだと、5x-3y=8 を解いて、
  x=4、y=4 なので、さいころを 4+4=8(回)投げる必要があるが、反時計回りだと、
  5x-3y=-7を解いて、x=1、y=4 なので、さいころを1+4=5(回)投げればよい。

 ここで、注意書き(*)が問題文で示されている。

  石を反時計回りまたは時計回りに15個先の点に移動させると元の点に戻る

 したがって、点P0にある石を点P8に移動させるのに投げるさいころの回数の最小値は、
5回となる。

 以上を踏まえて、問題です。

(4) P1、・・・、P14のうちから点を一つ選び、点P0にある石を、さいころを何回か投げてそ
  の点に移動させる。

 さいころを投げる最小回数が最も大きいのは、どの点に移動させる場合だろうか。

(解) 基本的には、不定方程式の解法となる。

0→P1
(反時計回り) 5x−3y=1 を解いて、 x=2、y=3 より、さいころを投げる回数は、
         2+3=5回
(時計回り) 5x−3y=−14 を解いて、 x=2、y=8 より、さいころを投げる回数は、
       2+3=10回
 よって、さいころを投げる最小回数は、 5回

0→P2
(反時計回り) 5x−3y=2 を解いて、 x=1、y=1 より、さいころを投げる回数は、
         1+1=2回
(時計回り) 5x−3y=−13 を解いて、 x=1、y=6 より、さいころを投げる回数は、
       1+6=7回
 よって、さいころを投げる最小回数は、 2回

0→P3
(反時計回り) 5x−3y=3 を解いて、 x=3、y=4 より、さいころを投げる回数は、
         3+4=7回
(時計回り) 5x−3y=−12 を解いて、 x=0、y=4 より、さいころを投げる回数は、
       0+4=4回
 よって、さいころを投げる最小回数は、 4回

0→P4
(反時計回り) 5x−3y=4 を解いて、 x=2、y=2 より、さいころを投げる回数は、
         2+2=4回
(時計回り) 5x−3y=−11 を解いて、 x=2、y=7 より、さいころを投げる回数は、
       2+7=9回
 よって、さいころを投げる最小回数は、 4回

0→P5
(反時計回り) 5x−3y=5 を解いて、 x=1、y=0 より、さいころを投げる回数は、
         1+0=1回
(時計回り) 5x−3y=−10 を解いて、 x=1、y=5 より、さいころを投げる回数は、
       1+5=6回
 よって、さいころを投げる最小回数は、 1回

0→P6
(反時計回り) 5x−3y=6 を解いて、 x=3、y=3 より、さいころを投げる回数は、
         3+3=6回
(時計回り) 5x−3y=−9 を解いて、 x=0、y=3 より、さいころを投げる回数は、
       0+3=3回
 よって、さいころを投げる最小回数は、 3回

0→P7
(反時計回り) 5x−3y=7 を解いて、 x=2、y=1 より、さいころを投げる回数は、
         2+1=3回
(時計回り) 5x−3y=−8 を解いて、 x=2、y=6 より、さいころを投げる回数は、
       2+6=8回
 よって、さいころを投げる最小回数は、 3回

0→P8
(反時計回り) 5x−3y=8 を解いて、 x=4、y=4 より、さいころを投げる回数は、
         4+4=8回
(時計回り) 5x−3y=−7 を解いて、 x=1、y=4 より、さいころを投げる回数は、
       1+4=5回
 よって、さいころを投げる最小回数は、 5回

0→P9
(反時計回り) 5x−3y=9 を解いて、 x=3、y=2 より、さいころを投げる回数は、
         3+2=5回
(時計回り) 5x−3y=−6 を解いて、 x=0、y=2 より、さいころを投げる回数は、
       0+2=2回
 よって、さいころを投げる最小回数は、 2回

0→P10
(反時計回り) 5x−3y=10 を解いて、 x=2、y=0 より、さいころを投げる回数は、
         2+0=2回
(時計回り) 5x−3y=−5 を解いて、 x=2、y=5 より、さいころを投げる回数は、
       2+5=7回
 よって、さいころを投げる最小回数は、 2回

0→P11
(反時計回り) 5x−3y=11 を解いて、 x=4、y=3 より、さいころを投げる回数は、
         4+3=7回
(時計回り) 5x−3y=−4 を解いて、 x=1、y=3 より、さいころを投げる回数は、
       1+3=4回
 よって、さいころを投げる最小回数は、 4回

0→P12
(反時計回り) 5x−3y=12 を解いて、 x=3、y=1 より、さいころを投げる回数は、
         3+1=4回
(時計回り) 5x−3y=−3 を解いて、 x=0、y=1 より、さいころを投げる回数は、
       0+1=1回
 よって、さいころを投げる最小回数は、 1回

0→P13
(反時計回り) 5x−3y=13 を解いて、 x=5、y=4 より、さいころを投げる回数は、
         5+4=9回
(時計回り) 5x−3y=−2 を解いて、 x=2、y=4 より、さいころを投げる回数は、
       2+4=6回
 よって、さいころを投げる最小回数は、 6回

0→P14
(反時計回り) 5x−3y=14を解いて、 x=4、y=2 より、さいころを投げる回数は、
         4+2=6回
(時計回り) 5x−3y=−1 を解いて、 x=1、y=2 より、さいころを投げる回数は、
       1+2=3回
 よって、さいころを投げる最小回数は、 3回

 以上から、さいころを投げる最小回数が最も大きいのは、P0→P13の場合で、そのときの
最小回数は6回である。  (終)


(コメント) こんなに(4)の計算が手間取っても配点はわずかに「5点」。どことなく理不尽さ
      を感じる。それとも、もっとエレガントな解法があるのだろうか?もっとも問題の方
      は、「P1、・・・、P14のうち」としながら、「P10、・・・、P14」からの5択になっているの
      で、計算量削減の親心で、これしか解法がないのかもしれない。
       因みに、(1)の配点は2点、(2)の配点は8点、(3)の配点は5点でした。


 DD++さんからのコメントです。(令和3年1月19日付け)

 問題の文章をちゃんと読むと、(3) で 5 回と答えさせるときに、「5 個先の点に移動するの
を 4 回やるって、それ 1 回でいいよね」という考え方で、8-3 という式を誘導しています。

 これをちゃんと読んで誘導に従った人は、(4) において各点への最小回数は多くとも
2+4 = 6 回であること、そして、6 回になる可能性がある点は、5*2+(-3)*2 = -2 より P13 し
かないことに気付けると思います。

 そうすれば、あとは、P13 への最小回数が本当に 6 回なのか確認するだけ……というより、
P8 の 5 回が最大値じゃない時点で、問題を信じて「P13」と「6」をマークしちゃって問題ない
んだと思います。

 全体的に、センター試験よりも「前の問題でやった計算にどういう意味があったのかをちゃ
んと理解しながら進める」ということが重要視されていて、ほとんどの大問が「よくわからない
けど計算はできた」というだけの受験生は後半の枠で詰まるような構造になっていた印象で
す。

 弊害で管理人さんのように誘導を無視して枠を埋めた場合も続きで詰むことには賛否ある
と思いますが、来年以降は問題が何をさせたいのか汲み取る必要があるという認識も広まっ
ていくことでしょう。


(コメント) DD++さんのコメントを拝読して、注意書きの(*)の真意が分かりました。
     5×=15 や −3×=−15 から、xについては、3の倍数分、yについては
    5の倍数分差し引けるということですか...。

 だから、さいころを投げる回数は、4+4=8(回)が最小ではなく、(4−3)+4=5(回)が
最小になるわけですね!

 そうすると、x の取り得る可能性は、0、1、2 で、y の取り得る可能性は、0、1、2、3、4
となるので、さいころを投げる回数は、最大でも 2+4=6(回) ということになる。

 このとき、5×2−3×4=−2 より、P0 から時計回りに2だけ進んだ点P13 がすぐ見つ
かるところに感動しますね。

 上記の膨大な計算は無用だったことに愕然としました。出題者の方は、そこのところをよく
考えて作問されたわけで、出題者の親心(注意書きの(*))に痺れました。そして、DD++さん
に感謝します。


 引き続いて目についたのが第5問の問題です。何となく懐かしい趣の問題ですね。

第5問  △ABCにおいて、AB=3、BC=4、AC=5とする。∠BACの二等分線と辺BC
     との交点をDとする。

(1) BD、ADを求めよ。

 また、∠BACの二等分線と△ABCの外接円Oとの交点で点Aとは異なる点をEとする。

(2) △AECに着目して、AEを求めよ。

 △ABCの2辺ABとACの両方に接し、外接円Oに内接する円の中心をPとする。円Pの半
径を r とする。さらに、円Pと外接円の接点をFとし、直線PFと外接円Oとの交点で点Fとは
異なる点をGとする。

(3) AP、PGを求め、方べきの定理を用いて、r を求めよ。

 △ABCの内心をQとする。

(4) 内接円Qの半径、AQを求めよ。

 また、円Pと辺ABとの接点をHとする。

(5) AHを求めよ。

(6) 以上から、点Hに関する次の(a)、(b)の正誤を判断せよ。
  (a) 点Hは3点B、D、Qを通る円の周上にある。
  (b) 点Hは3点B、E、Qを通る円の周上にある。

(解) 上記の図を描くのも大変そうで、手書きでは混乱すること間違いなし。条件に忠実に
   図を描くと、下図のようになる。この図を見ながら、解いていきましょう。

 (1) BD=4×(3/8)=3/2

  AD2=32+(3/2)2=45/4 より、AD=3/2

 (2) △AEC∽△ABD より、

  3 : 3/2=AE : 5 なので、 AE=2

 (3) △AHP∽△ABD より、r :3/2=AP :3/2

 なので、 AP=r また、 PG=5−r は明らか。

 方べきの定理より、 r・(5−r)=r・(2−r) 

 よって、5r−r2=10r−5r2 より、 4r2=5r なので、 r=5/4 となる。

(4) 内接円Qの半径を x とおくと、接線の長さは等しいので、

   4−(5−(3−x))=x より、 x=1

 △AIQ∽△ABD より、 2 : 3=AQ : 3/2 なので、 AQ=

(5) △AHP∽△ABD より、 AH : 3=AP : 3/2=(5/4) : 3/2=5 : 6

 なので、 AH=5/2

(6) △AIQ∽△QIH より、 ∠AQI=∠QHI なので、 ∠QHI=∠QDB

   円に内接する四角形の逆より、 四角形BDQHは円に内接するので、(a)は正しい。

 また、明らかに、∠QHI≠∠QEB なので、点Hが3点B、E、Qを通る円の周上にあるこ
とはないので、(b)は誤りである。  (終)


(追記) 令和3年2月1日付け

 今度は、数学U・Bの問題を眺めてみよう。何となく問題が数学I・Aに比べて易しそうに感
じられる。その中で、解いてみようと思った問題が次の問題である。この問題は選択問題の
一つで、多分多くの受験生は避けるであろう問題と思う。
(問題が長文なので、一部省略です。)

第3問  ある高校で生徒全員を対象に直前1週間の読書時間について調査を行った。
     100人の生徒を無作為に抽出し調査したところ、全く読書をしなかった生徒が36
     人おり、読書時間の平均値は204分であった。高校全体の読書時間の母平均を
     m、母標準偏差を150とする。

(1)全く読書をしなかった生徒の母比率を0.5とする。このとき、100人の無作為標本のう
  ちで全く読書をしなかった生徒の数をXとすると、Xは(   )に従う。
  また、Xの平均(期待値)は(   )、標準偏差は、(   )である。

(解) 題意より、 P(X=k)=100K(0.5)(0.5)100-k なので、確率変数Xは2項分布
   B(100,0,5)に従い、E(X)=100×0.5=50

   V(X)=100×0.5×0.5=25  よって、σ(X)=√25=5

(2) 標本の大きさ100は十分に大きいので、100人のうち全く読書をしなかった生徒の数
  は近似的に正規分布に従う。全く読書をしなかった生徒の母比率を0.5とするとき、全く
  読書をしなかった生徒が36人以下となる確率をP5とおく。P5の近似値を求めよ。
   また、全く読書をしなかった生徒の母比率を0.4とするとき、全く読書をしなかった生徒
  が36人以下となる確率をP4とおく。P4とP5の大小を定めよ。

(解) 中心極限定理より、Xは正規分布N(50,5)に従う。求める確率は、P5=P(X≦36)

   標準化 Z=(X−50)/5を行って、 P5=P(Z≦−2.8) を求めればよい。

   P5=0.5−0.4974=0.0026 となり、近似値は、0.003に近い。

 母比率が0.4に下がると、36人の全体における割合が逆に高まるので、明らかに、

  P4>P5 である。


(コメント) 問題ではP5の近似値を答えることになっているが、これは、半整数補正を意識し
      てのことだろう。半整数補正を行うと、求める確率は、P5=P(X<36.5)
      標準化 Z=(X−50)/5を行って、 P5=P(Z<−2.7) を求めれば、
      P5=0.5−0.4965=0.0036 となる。


(3) 母平均mに対する信頼度95%の信頼区間を C1≦m≦C2 とする。標本の大きさ100
  は十分大きいことと、1週間の読書時間の標本平均が204、母標準偏差が150であるこ
  とを用いる。このとき、C1+C2、C2−C1の値を求めよ。

 また、母平均mとC1、C2について、信頼区間の意味を考えれば、

 (C1≦mもm≦C2も成り立つとは限らない)

となる。

(解) 母平均m、母標準偏差150なので、標本平均について、

          E()=m 、σ()=150/√100=15

が成り立ち、標本平均は、標本の大きさが十分大きいので、正規分布N(m,225)に従
うものと見なせる。

 このとき、信頼度95%の信頼区間は、[204−1.96×15,204+1.96×15]

すなわち、[174.6,233.4] であるので、 C1=174.6、C2=233.4 より、

 C1+C2=408 、 C2−C1=58.8

(4) 上記の調査とは独立に同様の調査を行った。その調査における、全く読書をしなかっ
  た生徒の数をnとする。nと36の大小関係は( 分からない  )

(5) 独自調査による母平均mに対する信頼度95%の信頼区間をD1≦m≦D2とする。
  このとき、正しいものはどれとどれか。

1.C1=D1、C2=D2が必ず成り立つ。
2.C1<D2またはD1<C2のどちらか一方のみが必ず成り立つ。
3.D2<C1またはC2<D1となる場合もある。
4.C2−C1>D2−D1が必ず成り立つ。
5.C2−C1=D2−D1が必ず成り立つ。
6.C2−C1<D2−D1が必ず成り立つ。

(解) 信頼区間の意味を考えて、 3.と5.


第4問  初項3、公差pの等差数列を{a}とし、初項3、公比rの等比数列を{b}とする。
     ただし、p≠0かつr≠0とする。さらに、これらの数列が次を満たすとする。

 an+1−2an+1+3bn+1=0 (n=1、2、3、・・・) ・・・@

(1) pとrの値を求め、a、bを定めよ。

(解) @の両辺をbで割って、 r・a−2an+1+3r=0 すなわち、 2an+1=r(a+3)

=3+(n−1)・p 、b=3・rn-1 を代入して、 2(3+np))=r・(6+(n−1)・p) より、

 6+2np=6r+rnp−rp すなわち、 (r−2)np=r(p−6)+6

 すべてのnで成り立つことと、p≠0 より、 r=2 を得る。さらに、2(p−6)+6=0 から、

p=3 を得る。


(コメント) 誘導に従わず、次のように解いてもよい。

n=1 のとき、@は、 a12−2a21+3b2=0 なので、 3・3r−2・3(3+p)+3・3r=0

   すなわち、 3r=3+p

 n=2 のとき、@は、 a23−2a32+3b3=0 なので、

 (3+p)・3r2−2(3+2p)・3r+3・3r2=0 すなわち、 rp+6r−6−4p=0

 p=3r−3 を代入して、 3r2−3r+6r−6−12r+12=0 より、 3r2−9r+6=0

 3(r−1)(r−2)=0 から、 r=1、2

 r=1 のとき、 p=0 となり不適

 r=2 のとき、 p=3 となり、 a=3+(n−1)・3=3n 、b=3・2n-1


(2) {a}、{b}の初項から第n項までの和を、それぞれ求めよ。

(解) Σa=Σ(3k)=3n(n+1)/2 、Σb=Σ3・2k-1=3(2−1)


(3) 数列{a}に対して、初項3の数列{c}が次を満たすとする。

   an+1−4an+1+3cn+1=0 (n=1、2、3、・・・) ・・・A

  aが正であることから、Aを変形して、 (a+3)cn+1=4an+1 より、

    cn+1=(4an+1/(a+3))c

 ここで、 an+1=a+3 から、 cn+1=4c となり、数列{c}は、公比4の等比数列
となる。

(4) q、uは定数で、q≠0とする。数列{b}に対して、初項3の数列{d}が次を満たすと
  する。

   dn+1−qdn+1+ubn+1=0 (n=1、2、3、・・・) ・・・B

 r=2 であることから、 2d−qdn+1+2u=0 より、 dn+1=(2/q)(d+u)

 したがって、数列{d}が、公比が0より大きく1より小さい等比数列となるための必要十分
条件は、
      q>2 かつ u=0



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