・逆双曲線関数の導関数               mamama 氏

 逆双曲線関数 arsinh x と artanh x の2020次導関数を求めたいです。どなたかわかる方
いらっしゃいますか?

 機械に任せて出てくるようなものではなくて、少ない紙面にかけるようなn次導関数の一般
形が知りたいです。


(コメント) 逆双曲線関数に触れるのは、大学初年級で学んだ微分積分以来ですね。懐か
     しい気持ちです。ここで、記号の確認です。

 sin-1θ=arcsinθ のarc は弧を意味し、sinh-1θ=arsinhθの ar はarea(面積)を意味
する。

 y=arsinh x とおくと、x=sinh y=(e−e-y)/2 なので、逆関数の微分の公式から、

 dy/dx=1/(dx/dy)=1/cosh y=1/√(1+sinh2 y)=1/√(1+x2

 すなわち、 (arsinh x)’=1/√(1+x2

 同様にして、 (artanh x)’=1/(1−x2

 あと2019回微分して、2020次導関数を求めたいということですね。

 似たような計算は数学IIIでも経験しましたね。

 例えば、y=sin x に対して、n次導関数を求めよ、とか...。

 計算すると、 y(n)=sin(x+nπ/2) と簡明に表されるんでした。


 GAIさんからのコメントです。(令和2年5月16日付け)

 一般に、F(x)=arsinh(x) を一回微分すると、 F’(x)=1/√(x^2+1)=(x^2+1)^(-1/2) なので、

上記の式を次々に微分していけばよい。

 勿論、これを手計算していくのは困難なので、PARI/GP という代数計算を得意とする計算
ソフトで処理すれば、F(x)をn回微分した時の形DiffF(n)が

 DiffF(n)=print(n";"diffop(F(x),[x],[1],n-1))

で実行してくれます。

gp > DiffF(1)
1;1 - 1/2*x^2 + 3/8*x^4 - 5/16*x^6 + 35/128*x^8 - 63/256*x^10 + 231/1024*x^12
  - 429/2048*x^14 + 6435/32768*x^16 - 12155/65536*x^18 + 46189/262144*x^20
  - 88179/524288*x^22 + 676039/4194304*x^24 - 1300075/8388608*x^26
  + 5014575/33554432*x^28 + O(x^30)

gp > DiffF(2)
2;-x + 3/2*x^3 - 15/8*x^5 + 35/16*x^7 - 315/128*x^9 + 693/256*x^11 - 3003/1024*x^13
  + 6435/2048*x^15 - 109395/32768*x^17 + 230945/65536*x^19 - 969969/262144*x^21
  + 2028117/524288*x^23 - 16900975/4194304*x^25 + 35102025/8388608*x^27 + O(x^29)

gp > DiffF(3)
3;-1 + 9/2*x^2 - 75/8*x^4 + 245/16*x^6 - 2835/128*x^8 + 7623/256*x^10 - 39039/1024*x^12
 + 96525/2048*x^14 - 1859715/32768*x^16 + 4387955/65536*x^18 - 20369349/262144*x^20
 + 46646691/524288*x^22 - 422524375/4194304*x^24 + 947754675/8388608*x^26 + O(x^28)

 従って、2020回微分した時の形では、DiffF(2020) で見つけることができます。因みに、実
行しても莫大な値の列が並ぶだけで、こんなのを求めて何にするの?という印象です。しかし
どうしてもその形が知りたいなら、コンピュータのソフトを活用することで可能にはなります。

 また、F1(x)=artanh(x) なら、その一回微分は、F1’(x)=(1-x^2)^(-1) となるから、

 DiffF1(n)=print(n";"diffop(F1(x),[x],[1],n-1))

で定義し、

gp > DiffF1(1)
1;1/(-x^2 + 1)

gp > DiffF1(2)
2;2*x/(x^4 - 2*x^2 + 1)

gp > DiffF1(3)
3;(-6*x^2 - 2)/(x^6 - 3*x^4 + 3*x^2 - 1)

gp > DiffF1(4)
4;(24*x^3 + 24*x)/(x^8 - 4*x^6 + 6*x^4 - 4*x^2 + 1)

gp > DiffF1(5)
5;(-120*x^4 - 240*x^2 - 24)/(x^10 - 5*x^8 + 10*x^6 - 10*x^4 + 5*x^2 - 1)

なる式を打ち出してくれます。


 らすかるさんからのコメントです。(令和2年5月16日付け)

 上記のGAIさんの計算は、

  {(n-1)!Σ[k=0〜n-1](nCk)(1-(-1)^(n-k))x^k}/{2(1-x^2)^n}

とまとめられますので、artanh(x)の2020階導関数は、

  {2019!Σ[k=0〜2019](2020Ck)(1-(-1)^(2020-k))x^k}/{2(1-x^2)^2020}

と書けますね。


 mamamaさんからのコメントです。(令和2年5月16日付け)

 高校数学で数列の一般項を求めるみたいに、それと同じような感じで、きちんとまとめた形
で表したいです。


 GAIさんからのコメントです。(令和2年5月16日付け)

 更に整理してやると、

 ATANH(n)=(n-1)!/2*((-1)^(n-1)/(1+x)^n+1/(1-x)^n)

で行けそうです。

gp > for(n=1,5,print(n";"ATANH(n)))
1;1/(-x^2 + 1)
2;2*x/(x^4 - 2*x^2 + 1)
3;(6*x^2 + 2)/(-x^6 + 3*x^4 - 3*x^2 + 1)
4;(24*x^3 + 24*x)/(x^8 - 4*x^6 + 6*x^4 - 4*x^2 + 1)
5;(120*x^4 + 240*x^2 + 24)/(-x^10 + 5*x^8 - 10*x^6 + 10*x^4 - 5*x^2 + 1)

 y=arsinh(x) では、こんなスッキリ型をとれるのだろうか?


 atさんからのコメントです。(令和2年5月16日付け)

 (x^2+1)^(-1/2)の(2*n+1)階導関数は、

納p=0〜n](2*n+1)!*((-1)^(n+1+p))*2^(2*p+1)*(2*(n+1+p))!*x^(2*p+1)*(1+x^2)^(-(2*(n+1+p)+1)/2)
      /((2*p+1)!*(n-p)!*(4^(n+1+p)*(n+1+p)!))

と書くことができるようです。(→ 参考文献


 GAIさんからのコメントです。(令和2年5月16日付け)

 こんな式で構成可能なんですね。私のDiffF(n)で確かめてみると、DiffF(2),DiffF(4),・・・,DiffF(14)
までをチェックしたらピタリと一致しました。

 また、これを元に(x^2+1)^(-1/2)の(2*n)階導関数を求めようと、この式を弄っていたんです
が、長い式のあちこちを変更してみたんですが、なかなか目的の式を生み出せないでいます。
偶数時ならどこをどの様に変更したらいいのですか?


 atさんからのコメントです。(令和2年5月17日付け)

 (x^2+1)^(-1/2)の(2*n)階導関数は、

納p=0〜n](2*n)!*(4*n-2*p)!*((-1)^p)*(x^(2*n-2*p))*((1+x^2)^(-(4*n-2*p+1)/2))
      /(p!*(2*n-p)!*(2*n-2*p)!*4^n)

となります。

 一般に、(x^2+1)^(-1/2)の N 階導関数は、

 納a+2*b=N,a≧0,b≧0]N!*([diff(u^(-1/2),a+b)]u=1+x^2)*((2*x)^(a))/(a!*b!)

で計算できます。上記の、[diff(u^(-1/2),a+b)]u=1+x^2 は、uの関数 u^(-1/2) を uで(a+b)回
微分した関数のuに1+x^2を代入したものです。


 GAIさんからのコメントです。(令和2年5月17日付け)

 合成関数でやってみました。

 y=1/sqrt(1+x^2) を複数回微分するとき、

 f(x)=1/sqrt(1+x) 、g(x)=x^2

と置けば、y=f(g(x)) の合成関数ととれる。

#なお、f(x)=1/sqrt(x) 、g(x)=1+x^2 としても可能であるが、f(x)を微分するときコンピュータ
 が反応してくれないため、この取り方をしています。

 紹介してもらったサイトでのベル多項式なる手を用いて、この合成関数の微分へ応用して
みました。

 n=4とn=5でのベル多項式Bell(n)は、

Bell(4)=X1^4+6*X1^2*X2+4*X1*X3+3*X2^2+X4
Bell(5)=X1^5+10*X1^3*X2+10*X1^2*X3+15*X1*X2^2+5*X1*X4+10*X2*X3+X5

が導け、ここに、X1=g’(x)、X2=g”(x)、X3=g'''(x)、X4=g''''(x)、X5=g'''''(x)の読み替えをすると、
g'''(x)以上は0となることから、この場合は上の式は実質

Bell(4)=X1^4+6*X1^2+3*X2^2
Bell(5)=X1^5+10*X1^3*X2+15*X1*X2^2

で構成すればよい。

 Bell(4)では、この項にそれぞれ f''''(g(x))、f'''(g(x))、f''(g(x)) の関数を乗じて、

gp > f''''(g(x))*g'(x)^4+6*f'''(g(x))*g''(x)*g'(x)^2+3*f''(g(x))*g''(x)^2

を処理すれば、

%17 = -90*x^2 + 420*x^4 - 4725/4*x^6 + 10395/4*x^8 - 315315/64*x^10
                        + 135135/16*x^12 - 6891885/512*x^14 + O(x^16)

と、yの4次導関数が導ける。

 Bell(5)では、f'''''(g(x))、f''''(g(x))、f'''(g(x)) の関数を乗じて、

gp > f'''''(g(x))*g'(x)^5+10*f''''(g(x))*g''(x)*g'(x)^3+15*f'''(g(x))*g'(x)*g''(x)^2

で処理してみると、

%20 = -225*x + 3675/2*x^3 - 59535/8*x^5 + 343035/16*x^7
        - 6441435/128*x^9 + 26351325/256*x^11 - 195270075/1024*x^13 + O(x^15)

となり、yの5次導関数がとれる。

 従って、大概複雑な関数も2つの関数の合成関数とみなして、このベル多項式を導関数の
応用として利用すれば上手く行くわけですね。う〜ん面白い!!


 atさんからのコメントです。(令和2年5月20日付け)

 藤原松三郎 著 「微分積分學 第一卷」の第二章において、arcsin(x)のn階導関数を求める
例題があります。

 著者は、(arcsin(x)のn階導関数) = P[n](x)*(1-x^2)^(-n+1/2)  (P[n](x)は(n-1)次の整式)

としたときのP[n](x)の具体的な形を、漸化式を使って求めています。その手法の真似をして、

逆双曲線関数 arsinh(x) のn階導関数を求めてみました。以下に結果だけを書きます。

n≧1のとき、

(arsinh(x)の(2*n)階導関数)
= ((1+x^2)^(-2*n+1/2))*Σ[k=0〜n-1](((2*n)!/(n*(2^(n-k))*(n-1-k)!))^2)*((-1)^(n-k))*(x^(2*k+1))/(2*k+1)!

n≧0のとき、

(arsinh(x)の(2*n+1)階導関数)
= ((1+x^2)^(-2*n-1/2))*Σ[k=0〜n](((2*n)!/((2^(n-k))*(n-k)!))^2)*((-1)^(n-k))*(x^(2*k))/(2*k)!


 GAIさんからのコメントです。(令和2年5月20日付け)

 調べると、上記の初版は、1929年。日本は急激に近代化の道を邁進していった様子を伺
い知れますね。



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