□前書き
この3ヤギ問題はモンティ・ホール問題にヒネリを加えた問題です。モンティ・ホール問題を
先におさらいして頂きまして、その上でこの3ヤギ問題をお楽しみください。
(参考) モンティ・ホール問題
※以下の問題では上のオリジナルの問題をふまえています。説明に不足がありましたらオ
リジナルをご覧ください。
□3ヤギ問題
ある日のこと。いつものようにショーの準備をしていたモンティとスタッフたちだったがトラ
ブルが発生した。なんと、例の3つのドアのゲームの商品の新車がまだ届いていないという。
モンティは少し考えた後にスタッフに問う。「ヤギは何頭いる?」
スタッフが答える。「4頭です。元気ですよ、4頭とも。みんなまるまると太っています。」
モンティは重ねて問う。「体重を量ってみてくれ。」
ややあってスタッフが答える。「体重は4頭とも違いますね。でも僅差です。みかけからでは
体重の大小はわかりません。」
モンティは頷く。「オッケー。なんとかなるぞ。」
万が一、ヤギが体調不良になったりしても大丈夫なようにバックアップが用意されていたの
だ。
モンティはひとりごとを言った。「今後は新車にもバックアップをつけておくべきだな。」
モンティはスタッフたちに指示を飛ばした。「3つのドアのゲームを今日も行う。各々のドア
の後ろに1頭づつヤギを配置する。新車は置けないから、勝利条件を改め、お客様が勝っ
たら新車の引換券を別途手渡すとしよう。小道具さん、大至急でっかくてみてくれの良い引
換券を用意してくれ。それと大道具さん、皆さんの目前でヤギの体重を量ることにするから、
精度のよい体重計に飾りをつけて格好いいのを仕立ててくれたまえ。お客様の勝利条件は
次のようなものにする。3つのドアのうち、いつもの通りに俺が開けたドアは考慮外とし、残
り2つのドアの後ろの2頭のヤギのうち体重が重いほうを選んだらお客様の勝ちとしよう。」
かくしてバタバタと準備が進みショーが始まった。
□問題1 ゲームのルールを以下のものとする。
(1) 3つのドア (A, B, C) に(ヤギ、ヤギ、ヤギ)がランダムに入っている。
(2) プレーヤーはドアを1つ選ぶ。
(3) モンティは残りのドアのうち1つを必ず開ける。
(但し、残りのドアの2頭のヤギのうち、体重が軽いほうのドアを開けるものとする。モンティ
は事前に各ヤギの体重を知っていることとする。)
(4) モンティの開けるドアは、必ずヤギの入っているドアである。
(これはオリジナルのモンティホール問題では新車が配置されているドアがあったことの名残。)
(5) モンティはプレーヤーにドアを選びなおしてよいと必ず言う。
問われるのは以下。
プレイヤーはドアを選びなおしたほうが得であろうか。ゲームのルールについてプレイヤー
はよく理解しているものとする。
□問題2 ゲームのルールを変更して(3)を以下のものとする。すなわち。
(3) モンティは残りのドアのうち1つを必ず開ける。
(残りのドアのうち完全にランダムにひとつ選ぶこととする。)
問われるのは以下。
プレイヤーはドアを選びなおしたほうが得であろうか。ゲームのルールについてプレイヤー
はよく理解しているものとする。
□問題3 ゲームのルールを以下のものとする。(3)については問題2同様にランダムとする。
(5)を以下のように変更する。すなわち、
(5) モンティはプレーヤーにドアを選びなおしてよいと必ず言う。その際に、ドアの後ろに配置
された3頭とは別にいたもう1頭のヤギをプレイヤーの前に連れてきてこう言う。
「このヤギと、あなたが(1)で選んだヤギとで体重の重いほうを教えます。それは○です。」
但し、4頭のヤギのうち、ドアの後ろに配置されたヤギはランダムに選ばれたものとする。
問われるのは以下。
モンティが(5)で、新たに連れてきたヤギのほうが重いとヒントを出してきた。プレイヤーは
ドアを選びなおしたほうが得であろうか。ゲームのルールについてプレイヤーはよく理解して
いるものとする。
===
この「問題3」は私のお気に入りです。既にどこかで見かけていたとしたならば申し訳あり
ませんでした。
DD++さんからのコメントです。(平成31年1月24日付け)
ヒントをもらった段階で、選択したヤギが最も軽いヤギである確率が (1/4)/(1/2)=1/2 で、
それが最も軽くなくても失敗になる可能性はあるので、変えた方が得ですね。
ちゃんと計算すると、変えたときに成功する確率は2/3かな?
ハンニバル・フォーチュンさんからのコメントです。(平成31年1月25日付け)
まさしくおっしゃる通りです。(*´∀`)♪ 私なりに問題3の面白い点を申します。
3つのドア (A, B, C)の背後に配置されたヤギのあいだの体重の大小がテーマのゲームな
のに、(5)の段階でゲームとは全く関係ないヤギの体重と(1)から選んだヤギとの大小を知
ったところでどうしようもない、ゲームと無関係な情報を与えられたところで事後確率に変動
はない…と直感する人も少なくないのです。
そうした方々の気持ちを代弁して例えていうと……、問題2の設定でゲームをしている最中
に、ゲームにチャレンジしている客が、「おいおい、君が最初に選んだヤギよりも、うちにいる
ヤギのほうが体重が重いようだぞ、間違いない」と知人に耳打ちされると、(5)で選ぶべきド
アの(確率的)戦略が変わってしまう…そんなことがあっていいのか?知人の飼いヤギなどこ
のゲームに関係ないじゃないかっ……というわけです。
実際には影響が出るのですよね。
なお、問題3 は、「マハラジャの新しい賭け遊び‖パズルの国のアリス」から着想を頂いた
ものです。ゲーム中に自分に与えられた情報の数値と、ゲームに無関係な数値とを比較する
ことでゲームの勝率(ないしは期待値)をあげてしまうという…。
DD++さんからのコメントです。(平成31年1月25日付け)
これ、4頭のヤギが見かけで重さが判断できないことを挑戦者が知っているかどうかも重要
ですね。知らなければ戦略に影響が出ますが、知っている場合は戦略に特に影響しない……。
ハンニバル・フォーチュンさんからのコメントです。(平成31年1月26日付け)
うーん、私は頭が固いせいでしょうか、よくのみこめませんです。
3頭のヤギならぬ3つの財布のゲームに変更した場合に、財布が膨らんでいれば中身は
たくさんお金がはいっていることをプレイヤーは知っている、各財布のふくらみ具合はどうみ
ても異なる、こうした状況下だと何か変わってくるのでしょうか。
(ヤギも財布も基本的にはドアの背後に置かれているとしてです。)
あるいは、「財布のなかのお金」ではなく「封筒のなかの小切手」だとすると、また状況が変
わるのでしょうか。
※モンティのスタッフが用意したヤギが丸々と太っている設定にしたことを後悔しはじめてお
ります。
DD++さんからのコメントです。(平成31年1月26日付け)
この問題において、最初にランダムで開けられた扉のヤギは本質的でないので置いておき
ましょう。すると、状況はこうなります。
「同条件で無作為に選ばれたヤギAとヤギBのうちどちらが重いかを当てる。ただし、挑戦
者はどちらのヤギも見ることはできない」
どうやったって確率 1/2 の賭けでしかなさそうに見えますが、さにあらず。無関係な別のヤ
ギCを用意して、AとCの重さを比較した情報を得ることで、当たる確率を 1/2 より高めること
ができます、というのがこの話ですね。
その方法は、「ヤギCが3頭の中央値であると決めつけて答える」です。
もし、その決めつけが正しければ確実に当てられますし、仮に決めつけが外れていても確
率 1/2 で当たります。つまり、ヤギCが本当に3頭の中央値である確率が p である場合、こ
の作戦を用いて (1+p)/2 の確率で当てられるわけです。
実際、今回出題された問題では p=1/3 なので、当てられる確率 2/3 という結果になってい
ます。
さて、では、「おいおい、君が最初に選んだヤギよりも、うちにいるヤギのほうが体重が重
いようだぞ、間違いない」と知人に耳打ちされた場合を考えましょう。
「最初に選んだヤギ」がヤギAで、別のドアの後ろのヤギがB、「うちにいるヤギ」がヤギC
です。この知人の情報だけだとヤギCが中央値である確率は多少ありそうなので、そう決め
つけて「Bが重い」に変えるのがいいでしょう。しかし、「用意されたヤギAとBは見た目で重さ
の判断がつかない」という情報が合わせてあると、「だったらヤギBも同じくらい間違いなくヤ
ギCより軽い」ということになるので、ヤギCが中央値である確率は0。つまり中央値だと決め
つけて答えたところで当たる確率は 1/2 から変わらず、知人の情報は何の参考にもならな
いということになるわけです。
ハンニバル・フォーチュンさんからのコメントです。(平成31年1月26日付け)
□問題1の想定回答
ゲームにチャレンジした人が最初に選んだドアの背後にいるヤギをP、モンティが選んだド
アの背後にいるヤギをM、残りのドアの背後にいるヤギをCとします。
ヤギは軽いものから重いものまで順に背番号をつけます。今回は1から3までです。
まずモンティがMを選ぶさいの条件を一切考えずに、PMCと123の一対一対応させた全
ての可能性をつくした一覧表を作ります。これを表1とします。
PMC
123
132
213
231
312
321
問題1の設定では、必ず「M<C」でなければなりませんから、表1から不適なものを排除
して、以下を得ます。
PMC
123
213
312
これらは同様に確からしく発生する事象でして、プレイヤーに与えられた根元事象です。ド
アを変更したほうが得になる、すなわち、P<Cとる事象の確率は、 2/3 となります。
□問題2の想定回答
表1(再掲)
PMC
123
132
213
231
312
321
問題2の設定では、モンティはランダムにドアを選びますから、表1を根元事象としてプレ
イヤーは確率を考えることとなります。
ドアを変更した場合に勝つ確率、すなわち、P<Cとる事象の確率は、 3/6 = 1/2 となり
ます。
□問題3の想定回答
PMCのヤギの他にもう1頭のヤギがいますから、これをRとします。ヤギは軽いものから
重いものまで順に背番号をつけます。今回は1から4までです。
根元事象の一覧表を作成します。(同様に確からしく発生するケースの一覧です。)
PMCR
1234
1243
1324
1342
1423
1432
2134
2143
2314
2341
2413
2431
3124
3142
3214
3241
3412
3421
4123
4132
4213
4231
4312
4321
さて、ゲームの終盤で、モンティは、プレイヤーに以下の情報を耳打ちします。すなわち、
P<R
この情報をもとに、事後確率を求めるわけですから、さきの表で不適なものを取り除きます。
PMCR
1234
1243
1324
1342
1423
1432
2134
2143
2314
2413
3124
3214
このもとで、「P<C」となる事象が発生する確率は、8/12 = 2/3 です。
プレイヤーはドアの選択をあらためたほうが得になります。
※ベイズの定理を顕には使わない回答にしてみました。
ハンニバル・フォーチュンさんからのコメントです。(平成31年1月27日付け)
時間がかかりましたが、やっと理解いたしました。ご教示をまことに有り難うございます!